誓いの花 STAGE17
「捨て身タックル!!!」
「破壊光線…!」
どんっ!!
文字通り、捨て身の攻撃だった。 破壊光線をオーバーヒートで拡散させながら、突っ込んでいくタフトのギャロップ。
それによって生じた衝撃波は、ポポッコを浮かび上がらせ、ソーラービームをチャージするのには良すぎる熱量だった。
「これで決める!ダン、ソーラービーム!!!」
Flower of an oath〜誓いの花〜 STAGE16
どさどさっ!
「はぁ、はあ………ちっ、おっさんにここまで苦戦するとは思わなかった……」
ふらつきながらも起き上がるギャロップと、横たわるギャロップ。 ソーラービームの連射をうけて墜落するビブラーバ。
勝敗は、明らかだった。
「タフト、お前の勝ちだ。だが………一体、どこからこれほどまでの力が出せた?」
「ミスミ。貴様は決死の覚悟がどれほど強く影響するか、知らないだろう。………それよりも、いくつか聞きたいことがある。」
がっ!
負けを認める発言をするミスミの胸倉を掴むタフト。 しかしクロスは止めようともしなかった。
「そもそも、喧嘩吹っ掛けたてめーが悪い。自業自得って奴だろ。」
とのことで。
「答えろ。いつから、俺の過去………いや、リアトリスのしたことを知っていた?」
「お前がここに来た時から、知っていたと言ったら?」
負けは認めつつも、態度を改めるつもりはないらしい。 それは気にせず、タフトはもう1つの疑問をぶつける。
「…そうか。なら、質問を変える。俺は利用されていたと思っていいんだな?」
「まあ、そうだな」
「だったら…………………」
ばしっ!!!
ミスミの反応に何かを言いかけたところで、思いっきり平手打ちを喰らわせていた。 少し赤くなった自らの手に構うことなく、タフトは続ける。
「痛いだろう?だが、覚えておけ。俺の心の痛みは、そんなもんじゃあ足りないってことを………!!」
そのまま、タフトはミスミを放置して上の階へ向かおうとした。 だが、それよりも先にミスミが口を開いていた。
「お前のようなタイプだったら、事実を知った時点で行動を起こしてもおかしくないはずだ。今、動いたのは何故だ?」
「スターチスさんの混乱に乗じたのもある。だがそれ以上に、俺に事実を教えてくれた人への想いがあったからだ。………それだけだ。」
ミスミの方は見ずに、素っ気なく語るタフト。 同時に、ふと自分で言った言葉が蘇る。
「(『言わなければ伝わらない』………伝えなければいけないのは、俺もだったな……)」
最も、それをミスミに言うことはないわけで。 今度こそタフトは歩み出した。
それに続くように、クロスも興味が失せたという体で、その場を去る。
しばらく通路を歩いた後、不意にタフトが立ち止まる。
先程のダメージが残っているのだろうか、壁に背中を預けながら呟いていた。
「さっきは、その、助かった………」
「いえいえ。………いります?」
そんなタフトを気遣いながら、ビンに入ったジュースらしきものを差し出す。 1口だけ口に含んだかと思うと、タフトは残りをギャロップに与えていた。
「この際だからミックスオレを持っていたことは気にしない…が、助かる…」
「後は、そのギャロップだけでしょう?だったら少しでも回復させた方がいいですし。」
「…………ああ。…………ついでだ、少し聞いてくれないか?」
空になったビンを適当に床に転がしてから、タフトは1つの懐中時計を取り出していた。 それは、クロスも目にはしていた。
「それ、さっきバトル前に出していた奴……?」
「そうだ。妹からの誕生日………いや、妹の形見でな。ハルが持っていた。」
ハルが持っていたということや、ミスミとタフトの会話から、クロスはすぐに理解した。
「炎が苦手なのは、アスベルの人だから……?」
「………だが、俺はあの日その場にはいなかった。真相を知ったのも、つい最近だ。」
そこまで言うと、壁から体を離して息を整えてからゆっくりと言葉を選ぶようにして語り始める。
「あいつがそうだったとしても、少なからず恩は感じている。だから、何もできなかった。というより……俺に真相を伝えてくれた人に、気持ちを押しつけたくなかったのも、ある」
「好きな人の傍にいたい。嫌われたくない……そんな気持ちは、俺にもわかります。関係が変わるのが怖かったから、自覚していても告白なんてできなかった。少し前までは」
「何だそれは。彼女持ちの自慢にしか聞こえないぞ」
「そんな気はありません」
「俺にはそうとしか聞こえなかったが」
なんというか、不毛なやりとりである。 それでも、やがて気を取り直したタフトがクロスの手を取っていた。
「ともかく、行くぞ。話ならいつでもできるだろ」
「ま、それもそうか。急ぎましょう!」
しゅっ!かんっ!
しゅぱっ!ぱしん!
「どうする?ロゼ、剣、使う?」
「だな。全部弾かれるんじゃ、厳しいものがある!」
じゃきんっ!!
弓矢を構えていたロゼが、一旦仕舞い、剣に手をかける。 一気に抜き去ったそれで反撃しようとするが、リジアは冷静に呟いていた。
「変えてくる……?だけど、当たらない」
がんっ!
器用に槍で斬撃を受け止めたかと思うと、即座に切り返しロゼの頬に傷をつける。
「ロゼ!」
「相手は、リジアだけじゃないってお忘れかな?」
「くっ!!」
一瞬だけロゼに気を取られたハルが真横から聞こえてきた声に反応して大剣で受け止める。 耐久力が高めな大剣で受け止めたにも関わらず、強い痛みがその腕にかかる。
「リアトリス………(これが、本気?騎士隊の頃とは比べ物にならない…!攻撃力も強いし……!)」
「リジア!」
どうするものかとハルが思案していると、リアトリスがリジアに呼びかける。
たんっ!! かしゃーん……
身軽な動きで、ロゼからハルに狙いを変え、双つの剣の片方を叩き落とす!
「(しまった、剣を!)だけど、さっ!!」
拾うよりも速く、残っている大剣を振りかざす。 同時に、先端に電気エネルギーを生みだしていた。
「やっ……!!」
ハルが二刀流の剣士であり、片方をなくせば即座に取るものだろうと思っていたリジアは切り返しの速い攻撃に焦る。 その結果、直撃はしていないものの、槍に添えていた左腕に鋭い痛みを受けてしまった。
僅かにリアトリスの目が心配そうなものを宿したが、それも一瞬だけ。 すぐにそれが何か思い当たり、問いかけていた。
「魔術…か?」
「これでも、まだ弱めだよ。今数発やりあっただけで分かった。出し惜しみするわけにはいかないってね!」
「(ハルの言う通り………中途半端な力だと、勝ち目が薄い!)ま、出し惜しみする気は最初から俺はないが」
「オレガノ。君はどうして………」
ロゼ&ハル、リアトリス&リジアの攻防が始まると同時に、スターチスはオレガノに問いかけていた。 だが、それを遮るかのようにオレガノはポケモンを呼び出す。
「私はっ………!ううん、やるわ。ラグラージ!」
その様子を見て考えるのは諦めたのであろう、スターチスも1つのモンスターボールを開いていた。
「例え相手がオレガノでも手は抜かない。今までみたいには!」
スターチスの正面に現れるのは、ミノマダム。 たったそれだけのことなのだが、纏う空気がオレガノの知っているスターチスではなかった。
「(駄目、きっと私じゃ……でも!)地震!」
迷いを振り切るかのような、オレガノが指示する地震。 鋼タイプには大きなダメージが期待できる地面タイプの技なのだが……
「マリナ!」
スターチスは名前を呼んだだけだ。 それだけで指示になっていたのだろうか。宙に浮かびあがり、強烈な一撃を逆に当てていた。
「嘘っ!……ラグラージ!?」
ずうん!
そして、オレガノがその行動を視認したかと思えばラグラージが倒れていた。 いつの間に入れ替えたのだろうか、スターチスの前にはミノマダムの姿はなく、チルタリスの姿があった。
「もしかして、ミノマダムの技は破壊光線…?」
強烈な一撃。 その直後の即座の入れ替え。 このようなことが必要となる技はそれほど多くはない。なので自然に絞れたのであろう。 オレガノが呟くと、スターチスが口を開いていた。
「そうだ。だけど、同時にサイコキネシスも使っていた。だが、破壊光線という技は……」
「セラヴィーにすぐに入れ替えて、攻撃させた………?」
「そういうこと。オレガノ。今からでも、止めることはできる」
暗にこのバトルが不本意だと示すようなスターチスの言葉。 だが、オレガノは…
「………ピヨピヨパンチ」
ミミロップを新たに出すと攻撃をぶつける。
「セラヴィー、熱風…!」
「炎のパンチ。受け止めて!」
スターチスが咄嗟に指示した熱風だが、ミミロップは炎のパンチで熱を受け止めて威力を上げて拳を叩きつけた。
「ミミロップもう一度!」
「戻れっ!リフル!」
追撃が来るのに気付くと同時にスターチスはセラヴィーを戻していた。 入れ替わりで出てきたボスゴドラは指示なしに攻撃を弾いていた。
「また、鋼タイプ…!あんた、一体手持ちに何匹鋼タイプ入れてるの!?」
思わず漏れたであろうオレガノの声。 彼女の声にくすりと笑みながらスターチスは答えた。
「セラヴィー以外はみんな、だよ。意外に思う?」
「鋼使い…確かに意外だわ」
どちらかというと、スターチスは鋼の冷たい印象より、炎のような温かさの印象がオレガノにはあった。 だからこそ、素直な言葉なのだろう。
そうだろうな、と思いつつも彼は呟いていた。
「だけど、ただの鋼使いじゃない!アクアテール!」
「(いきなり!?)き、きあいだま!」
威力としてはややきあいだまが強い程度か。
「バースト……」
しかし、スターチスのこの声をきっかけにして、きあいだまを越える爆発的な衝撃波が生まれた…!
「ミミロップ!………だったら!ハイドロポンプ!」
ミミロップが戻される刹那には次なる攻撃。 微かにスターチスの顔が曇るが対応も素早かった。
「10万ボルトを使うんだ!!」
ばちばちばち!!
強烈な水力に負けじと放たれた電流。
しかし、メタルバーストという反射技を使うためにわざと弱点の属性の技を受けたために、少なからず体力を減らしていたボスゴドラには耐えれなかったようだ。
ずぅぅうん!
鈍い音を立てて倒れるボスゴドラ。 それを見てようやくオレガノは息をつく。
「1匹倒すのにこれだけ疲れるなんて…!」
だがスターチスは冷静にシャワーズを見つめていた。
「(恐らく…あのシャワーズ…。こっちは一度戻したことで回復したし、今なら…)………ゴッドバード!」
再び姿を見せるのはセラヴィー。 出てくるや否や、綿鳥は光を集め始めた。
「シャワーズ、オーロラ…シャワーズ!?」
大技を防ごうとオレガノはシャワーズに指示をしようとした。 だがシャワーズはその場にうずくまっていた。
先程の10万ボルトの影響で痺れたのだろうと彼女が気付いた時にはもう遅い。
「るーりりいぃぃーーー!!」
どがっ!!
エネルギーを溜め終えたチルタリスが正確にシャワーズを捉え、吹っ飛ばしていたからだ。
「…っ!」
反撃の切っ先を向けようとしていたハルが、その手を止める。
瞬間、ぐったりとしたシャワーズが目の前に飛び込んでくる。
思わず戦闘中なのも構わず飛んで来たであろう方向に顔を向けると、ちょうどチルタリスがスターチスの頭上に舞い戻っていた。 最も、その場を見たのはハルだけではなかったが…。
「これでも鋼のエキスパート、鋼峰に就いている!そう簡単には倒れない!………とはいえ、リフルが倒されたのも事実か。ちなみに、手を抜いていない状態で倒されたのはこっちではオレガノ。君が初めてだよ。」
臨戦体勢を崩さぬままに、スターチスが宣言する。 威風堂々としたその雰囲気は実力者のそれだった。
幼馴染みの初めて見せる表情に酷く驚いていたオレガノだったが、たった今気付いたように、慌ててシャワーズを戻す。
「まだ、残ってる。最後まで戦うわよ!」
次なるモンスターボールを手に取るオレガノを見るスターチスの視線は、彼自身が驚くほどに冷たい眼差しをしていた…。
「どうやら、スターチスをかなり見くびっていたみたいだよ。あんなに強いとは思わなかった。」
「僕も、初めて見た時は驚いたよ。っと!!」
呟きながら攻撃の手を緩めないリアトリスと、回避と防御に徹するハル。
「させないっ!」
「ぐっ…、ホントあんた、あいつには近づけさせてくれないんだな。隙がねえ」
一方のロゼも、ハルが引きつけている間にリアトリスを狙おうとしているのだが、リジアがその隙を完全に封じている。
それの繰り返しだと、どちらが不利だと明白だろう。
何度目のことだっただろうか。
「わっ………まずっ!」
「(しまった、体勢が!!)」
ほぼ同時に、ハルとロゼの体勢が崩れる。
当然なのだが、リアトリス、そしてリジアの追撃は速く、避けきるのは困難だった。 大打撃を覚悟しかけた2人だったが、それは杞憂に終わる。
たんっ!!
きぃぃぃぃん!!
「間に合……ったな…!」
「間一髪って奴か?」
重い一撃をそれぞれの武器で受け止めている青年が2人。
彼らに寄り添うように、ギャロップもいた。 どうやら、2人はこの背から飛び降りたようだった。
「タフトさん!?」
「クロス!!」
位置的に、ハルの前にはタフト、ロゼの前にはクロスが立つ。
それぞれを呼び掛けるよりも速く、2人は笑んだ。
「リアトリスっ……………俺は、あんたと戦うことを選ばせてもらう……!」
それは、反撃のきっかけになりえるかもしれない合流…。
■後書き■ 満身創痍になりながらも、ミスミに辛くも勝利したタフト。 ちなみにミスミをしばいたとこは個人的に気にいってたりね。 あの時点である程度、気持ちの整理はついてます。 冷めた目でミスミを見たり、天然惚気発言(タフト曰く)をしたりするクロスは楽しかったです(ぇ) その一方で始まった決戦では状況が分かれています。 リアトリスとリジアに苦戦するロゼとハル。 余裕のあるバトルを展開し本気で戦いオレガノを圧倒するスターチス。 そのスターチスに驚きの視線が集まる中、ロゼとハルが一瞬の隙をつかれそうに。 間一髪のところでギャロップを駆ってタフト・クロスが合流。
後2話で終える予定ですが、どうなることやら……?
No.66 日乃 水葉 2009年12月21日 (月) 00時48分
RE: 誓いの花 STAGE17
駆けつけたクロスとタフト。いよいよ役者はそろい、決着が見えてきました。
さておき、スターチスの強さが見て取れましたね。
んで、ミックスオレを最近小説で見なかったので、新鮮に感じました。
しかし、一番は……ミスミさんいいなーミスミさんいいなー(ェ)
No.67 HIRO´´ 2009年12月21日 (月) 19時12分
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