[97] やわらかな朝【BIS×WIZ】 |
- いづる - 2009年05月14日 (木) 22時09分
好きだと気づいたのはいつの事だったろう。 一人、砦のように黙々とパーティーを守る背中を、支えたいと思ったのはいつからだったろう。 またひとつ、スキルをマスターするたび、自分のことのように喜んでくれる笑顔が嬉しかった。
−やわらかな朝−
ふわ、と、唐突に意識は浮上した。 落ち着いた色のカーテン越しに、室内に滑り込むあたたかな陽の光。 小鳥たちの軽やかなさえずりが聞こえている。
とろんと瞼はまだ重い。 やわらかなまどろみ。
見上げるとすぐそばに彼の顔があった。すー、すー、と規則的な寝息。安心しきった寝顔。
――ああ。
愛しさが零れた。思わず顔に笑みが広がる。 ウィルフを抱きしめたままの腕。そっと胸に頭を預けると、とくん、とくんと鼓動が聞こえる。それに途方もなく安心してしまう。 触れ合った素肌が、互いの温度を直接伝えてくる。 途端にかあぁっと頬が熱くなった。昨夜の出来事を思い出したからだ。 恥ずかしくなって、シエルの胸に顔をうずめた。案外激しいんだな、なんて。
温かいベッド。汗とコーヒーの匂いが混じった、彼のにおい。 それがいっぱいにウィルフを包む。猫っ毛のWIZの髪がくすぐったいのか、
「んー…」
シエルは一瞬眉根を寄せ、甘えるようなしぐさで更にぎゅうっとウィルフを抱きしめる。 少し苦しいのに、それがちっとも嫌じゃない。
「……ふ、」
顔がほころんだ。そっと手を伸ばし、ほどいた銀髪をすぅっとすいた。 いつもは後ろできつく、無造作に縛られているその髪は、触れてみると思っていたより少し硬い。 さわさわと撫でたところで、シエルのまつげが震えた。
「……ん…ウィル、フ?」 「…うん。ごめん、起こした…?」 「いや……」
半分寝ぼけた声で否定して、そのまま言葉が続かない。薄く開いた赤い目はまだとろんとして、焦点が定まっていない。眠いのだろう。
少し頭をもたげて、また枕に落とす。 反射的に退こうとしていたウィルフの手を、シエルが捕まえた。 大きな手に包まれると、骨ばって細いウィルフの手はまるで女みたいだ。 手のひらが、熱い。
ふとシエルの目がウィルフを捉えた。 閉じかけの瞳、薄く開いた唇が、まるでキスをする直前のようで。 ウィルフは固まる。 その手を、シエルは自分の頭の上に戻す。そうしておいて、自分はウィルフの手を掴んでいたその手でウィルフの頭を撫でる。 ど、ど、と鼓動が跳ね上がり、甘い緊張に呼吸が乱れる。ウィルフがぎこちなくシエルの頭を撫でると、眠たげな顔に薄く笑みが浮かんだ。 互いの熱さと、鼓動と、吐息を感じながら、さらさらと髪に触れる。 それは永遠の時のように思えた。さらさらとした、ベッドの布ざわり。枕代わりにした彼の腕。 急にどうしようもなく、淡い衝動が湧き上がってくる。けど、「ちゅーしたい」なんて恥ずかしくて、とても言えやしない。 その代わりにじっとシエルを見つめる。 そんなウィルフの衝動をよそに、シエルの瞼はどんどん焦点を失っていく。 しばらくすると、段々とシエルの手の動きが遅くなり、やがて力が抜けてウィルフの首元に滑り落ちた。 瞳は完全に閉じ、すー、すー、と規則正しい寝息がまた聞こえてくる。 まるで肩透かしを食らったみたいだ。期待が外れたウィルフはつまらなそうに唇を突き出した。
まるで、子供みたい。
くす。ウィルフは微笑んだ。 のんきなこの人の、何もかもが愛しい。そういえば、前にもこんなことがあった。 まだ、ウィルフとシエルが同じギルドではなかった頃の話だ。 同じレベル帯だった二人は、頻繁にパーティーで一緒になった。飛び出していく火力に手を焼きながら、必死に祈り続けるその背中。 あるとき一人の火力が、炎に焼かれて死んだ。パーティーメンバーは誰も彼を責めはしなかったけれど、ウィルフは聞いてしまった。 パーティーを抜けたあと、悄然と肩を落とした彼の小さなため息を。 気が付いたら手が伸びていた。座り込んだ、ひどく小さく見えるその背中越し、頭をそっと撫でていた。
――あのときのシエルの、ひどく驚いた顔。
次の瞬間、泣きそうに表情が崩れて、ギリギリで無理に笑って見せた、彼。
支えたいと思ったのはいつからだったろう。 強がりの彼を抱きしめたいと思ったのはいつからだったろう。
「……泣いて、いいんだよ」
俺の前でくらい。 抱きしめる腕に力がこもったと思ったのは、きっと気のせい。 再び布団にもぐりこむと、ウィルフはまた、やわらかな眠りに落ちていく。
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あとがき ほどよい甘さをイメージしてみた…(´・ω・`) 好きな人と一夜を共にした後の朝って、すごく幸せだなぁって 本人は剣士が大好きですが(RSにおける剣士の中身はともかくとして) CPならやっぱりBIS×WIZが好きです。 もっと表現力が欲しい・・・w
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