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[106] 君をつなぐ鎖・1【WIZ×シフ】
いづる - 2009年06月28日 (日) 02時06分

※うっかり更新ボタンをクリックしたら戻れなくなりました。あめさん、うたさん、キュアさんゴメンナサイ。

   * * * * *

 シュンにとって、氷月は世界の全てだった。
言葉も地理も分からないこの街で、シュンを孤独の淵からすくい上げたのは氷月だ。
毎日与えられるたくさんの言いつけを守るのも、シュンにとっては何の苦痛でもなかった。
氷月が着ろと言ったものを纏い、氷月が行けと言った場所で戦い、氷月が食べろと言ったものをたいらげた。
今いるこのギルドの人たちは皆親切だ。けれど、そのギルドにしても氷月がいるから入ったに過ぎない。どんなに名残惜しくても、氷月が一言「移籍する」と言えばシュンはついていくのだ。

 氷月の隣にいるだけで、心がポカポカと温かくなる。
この不思議な感情が「恋」なのだと、シュンは他人から指摘されて初めて気がついた。
恋。同じ男相手に。――――なんて、気色悪い。
自分がこんな感情を持っている事を知ったら、きっと氷月は嫌がる。気持ち悪がられて、嫌われてしまうに違いない。
そうしたらもう氷月の隣にはいられない。そんなのには耐えられない。
シュンが自分の感情を隠したのはごく自然なことだ。

 違う。そんなんじゃない。恋なんかじゃ。これは―――
家族愛。兄弟愛。師弟愛。
何度も他のもっとささやかな感情に置き換えようとした。恋なんかじゃない。そう思い込もうとするたび、シュンの努力は高鳴る胸に打ち壊される。途方もなく苦しかった。

 けれど、それでもシュンは氷月のそばを離れられなかった。氷月はもう生活の一部だ。氷月がいない世界なんて、シュンには考えられない。
 あの日、あの川辺で、氷月に差し伸べられた手を取った瞬間から、もうシュンの運命は決まっていたのだ。

 思わせぶりな氷月の言動に、シュンがだんだんと重く沈むようになって、数週間。
 氷月さん、氷月さん。ひよこのように氷月の名を呼び、その後をついていく。そんなシュンに決定的な事件が起こったのは、あまりに不憫なほど唐突だった。

    *

 それは、昼過ぎのギルドホールで起こった。
つい最近発表されて話題を呼んだ新しいクエストを終わらせた二人がホールに帰ってきたとき、既にホールはギルドメンバーで騒然としていた。

「なんだ…?」

 氷月が顔をしかめて呟く。ギルド戦の後でもないのに、こんな真昼間からホールに人だかりが出来るのは異常としか思えない。
厳しい表情のまま氷月は中心へ――ギルドメンバーが遠巻きに眺めているそこへ、足を踏み出した。ギルド一厳しい鬼の副マスの登場に雑踏が割れた。シュンはそのあとをついていく。いつものことだ。

 まるで闘技場のようにぐるりと人に囲まれ、ぽっかりと取り残されたその中心に氷月とシュンがたどり着いたとき、シュンが最初に見たのはギルドマスターであるアーチャーの背中だ。

「おいアイリス、」

 呼びかけた氷月の声にマスターの背中がびくっと跳ねた。
天真爛漫で強気なアーチャー。そんな普段の彼女からは想像も出来ない反応だ。そこで初めて氷月の表情が怪訝なものに変わった。
マスターは困惑した表情で振り返り、ひどく発音しずらそうに「…氷月…」と呟いた。
 
 マスターはシュンに見向きもしなかった。
ただ氷月を見つめて一言、迷った声音で名前を呼んだだけだ。
その声はどうしようもない状況に困惑して揺れていた。
あくまで一般メンバーであるシュンがこの場に居るから、困っているのではない。
氷月がこの場にいるからこそ、まずい状況なのだ―――


……どうして?

そこまで思考して、すがる様に見上げた氷月の表情にシュンの顔が凍った。
氷月はシュンを見ていなかった。ただまっすぐ、マスターのさらに向こうを。――正しくは、そこに佇む一人の天使を。


「……アレグロ…」


 見開いた目。絶望と、悲しみと、不信と、怒りと、
――そして、シュンにしか分からない、途方もない懐かしさと、思慕に満ちた目で――…。
氷月は、その天使を見ていた。呆然と立ち尽くす。目もそらせないというように。


「…氷月?」

 呟いた声があまりに虚しく響いて、シュンはゾッとした。
氷月は身勝手で、自分中心で、毒舌で気まぐれ。
だけどシュンの言葉はいつだってきちんと聞いてくれた。
なのに。それなのに。


どうして僕は、こんなにも不安なのだろう。
氷月に、僕の声が、届いてないなんてそんなはずないのに。


 * * * * *

天使はエロい人。続きます。

前に投稿したキャラ設定から。
シフの名前がシェリフ⇒シュンに変わっています。
シュン君ちょっとヤンデレくさいw



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