[107] 【引退記念(?)】星の舞台で【リトル優遇自重】 |
- いづる - 2009年08月03日 (月) 18時09分
実はつい先日引退してきたいづるです。 メイン好きすぎてごめんなさい。3連投稿になってごめんなさい。 なんかもう色々ごめんなさい。
* * * *
まだ駆け出しの初心者だった頃、僕らの前には未来しか見えてなかった。
目に映る全てのものが奇跡、奇跡、奇跡。
どきどきしながら必死に戦った始めてのパーティー狩り。 パーティーメンバーの後ろをついて歩くので必死だった秘密PT。 無駄なスキルを沢山とって、無駄なステータスに沢山振って 馬鹿やって笑い明かしたあの日の夜と夜明け。
色とりどりに光る友達リストは宝箱のようで ギルドの仲間は温かくて きらきらと輝く何かを追いかけて走ってきたはずなのに 世界を知った分だけ、あの日の笑顔から遠ざかる。
ぼくらは、一体どこまで来たんだろう。 ぼくらは、一体どこまで行くんだろう。
*
「…本当に、行くのか」 「うん」
背中からかかった問いかけに、ユーリは短く答えた。 夕暮れのアリアン銀行は、傾いた太陽の光が注いで赤い。 まばゆいような、懐かしいような光が、ざわめく行内を満たす。 ユーリは自分の倉庫を開いて、中身を片っ端から鞄の中に詰め込んでいた。 大した価値もない雑貨に混じって、高価な武器や装備品がその中に見て取れる。これから、それらは全て処分されるのだ。彼女がそれを身につけ、戦い抜いてきた間の思い出と共に。
「なぁ、」 「うん?」 「本当に、それ全部、売るのか?」 「うん。使うなら、あげるよ」
そういうことじゃない。 拳を握り締めても、背中を向ける少女に届かないのはわかっていた。 昔から変わってない。へらへらと笑っている癖に、こうと決めたら譲らないのだ。
「メインの装備も?」
つい昨日までいつもと変わらず楽しそうにお喋りしていた歌姫は、返事も振り向きもしなかった。 装備を部位とオプションで律儀に整理していく。背中を向けたままの少女は、ふと思い立ったようにその鞄ごと銀行に預けた。
何も言えずに黙って見ている間に、白かったドレスが華やかなピンクに変わった。金色に輝く王冠、振り返ったあどけない顔は、いつもと変わらぬ柔らかい笑みをたたえていた。
「ちょっと、狩りにでも行こうか」 「え、……露店は、いいのか」 「うん。ちょっとだけ」
ふわ、と軽く地を蹴ると、華やかな姫君は歌姫に変わる。 目をひく真っ赤な長い髪は、そのドレスの時だけの特別仕様だ。 昔から変わらない。 ああ、そうだ、こいつは知り合った頃からずっと、リトルウィッチだった。
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「ここにしようか」と狩場を決めた少女の蒼い目に、強い光が宿る。 腹の底から歌い上げる力強い声―――バトルマーチ。 その声に鼓舞されて武器を手に取った。選曲は彼女にしては珍しいロックで、そういえば、昔このバンドが好きだと教えたことがあったっけ、と思う。 音の波は止まることがない。休息は姫に戻る一瞬だけだ。その体力に改めて感嘆した。そういえば昔そう褒めたら、「リトルだもん」と返されたことがあったっけ。
こんなに楽しそうに歌うのに。 あんなに楽しそうに星を落とし、踊り、跳ねるのに。
君も、ここを去るのか。
狩りの終わり、夜更け。空は満点の星空。
「疲れた?」 「ううん、大丈夫だよ」
モンスターに見つからない安全な茂みにかくれて。 二人並んで空を見上げていた。 こうやって、幾度夜を明かしただろう。 こうやって、何度笑いあっただろう。
「歌うのは今も好き。けど」 「うん」 「歌う理由が、分からなくなっちゃったから」
そう息をついた彼女は少し笑っていた。 やっぱりこっちを見てはいなかった。
ひとつ、またひとつ、灯した火がひっそりと消えていく。 色とりどりに光っていた、あの頃の友達リストは、いまは灰色。 出会いが、思いが、僕らが過ごした年月は、 こうしていとも簡単に消えてしまうのだ。
赤い髪のユーリは膝を抱えてうずくまった。 僕はそれをただ眺めているしかなかった。声を、かけることなんて。 顔をうずめて、声を殺して、下手くそな寝たふりをする歌姫に、下手くそな慰めなんて言えやしなかった。
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「ごめんね」と最後にユーリは呟いた。 いつもの癖だ。 「いや、…ありがとう」 いつもの返事だ。 蒼い目を見つめてそう言ったら、歌姫は最後の最後に、あの頃の笑顔で笑った気がした。
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彼女は今、露店を開いてこんこんと眠っていた。 需要のある品ばかりなのに、相場を無視した価格が彼女らしい。 薄利多売の精神も、あの頃から全然変わってない。 子犬のように眠る姫君が風邪を引かないように、そっと肩にストールをかけた。出来ることなんてもう、それぐらいしかなかった。
そして、その日の夕方。 友達リストからまた一つ、宝石が色を失った。
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走り続けて、どこまでも走り続けて 僕らはどこまで行くんだろう。 世界は色褪せるばかりなのに、僅かな温度にすがるようにして。 君はどこへ行こうとしてるんだろう。 優しい世界を捨てて、僕の知らない君の日常に帰るのだろうか。
そうやってひっそりと、灯した火は消えていくのだ。 そうやってひっそりと、僕もまた消えていくのだ。
-------------------------- 終わり。
メインがリトルなんですスミマセン。 どんどんお友達が引退していっちゃうっていう体験、みなさんもないですか? RSの過疎化ひどくなってきてる気がします…。 未完結の話は、続けられそうになかったら、削除します。
ではまたどこかで|ω・`)ノシ
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