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O.L.作品置き場

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タイトル:決着~After Story~ アクション

――破壊したSIS本部と連結する生物兵器施設。だが、マンチェスターの動物園地下に続く施設は、今尚破壊されることなく残されている。これを放置しておく訳にはいかない。日本国民の為にも、そして何より彼女の為に……。残されたマンチェスターの施設内に乗り込む嘉治とスラッグ。その奥で彼らが目にしたものとは……。これをもって、O.L.長編第一部完結にございまする。まだまだ続けるつもりなので、第二部以降にも乞うご期待ということでどうか一つ(´・ω・)ノ

月夜 2010年07月10日 (土) 00時42分(201)
1.決着~After Story~(第一章)
2.決着~After Story~(第二章)
3.決着~After Story~(第三章)
4.決着~After Story~(第四章)
5.決着~After Story~(第五章)
6.決着~After Story~(第六章)
7.決着~After Story~(第七章)
8.決着~After Story~(第八章)
9.決着~After Story~(あとがき)
題名:決着~After Story~(第一章)

――英国、SIS本部前、7/29、現地時間05:00――


――只今、一件の伝言をお預かりしています。新しい伝言一件目、昨日の夜11時の伝言です。

――おじいちゃん? 私、絢音だよ。お仕事頑張ってる?

「……」
耳元から聞こえてくる、いつも通りの……いや、いつも通りを装った絢音の声。
電子音を介してのものだったが、いつも聞き慣れているあいつの声だ。
声色のささやかな違いでも、私が聞き間違いなどするはずはない。

――私もおばあちゃんもいないからって、油っこいものばっかり食べてない? 昔っから元気だけど、おじいちゃんだってもう年なんだから、体は労らなきゃダメだからね? ……。

「……」
しばらく訪れる無言の時。
小さなノイズだけが、絶え間なく鼓膜を刺激する。

――……おじいちゃん……大丈夫、だよね? ちゃんと……帰ってきてくれるよね……?

そんな沈黙を裂いて聞こえてきたのは、今にも泣き出しそうな絢音の声だった。

――……ご、ごめんね、何か変なこと言っちゃってるね、私! そ、それじゃあ、体に気をつけて、お仕事頑張ってね! バイバイ!

――プツッ、ツーッ、ツーッ、ツーッ……。

「……」
言葉もなかった。
最後、無理をして明るく振る舞ったあいつの声が、全て聞き終えた今も胸に痛々しい。
携帯を閉じ、少し考え込んだ後、私は再びそれを開いた。
着信履歴の中から、一番上のあいつの番号を選び、通話ボタンを押す。

――プルルルルルル、プルルルルルル……

もし出なかったら、何か言伝を残しておくか。
そんなことを考えていた、その矢先だった。

――プルルル、ピッ。

――おじいちゃん!?

コール音が途切れるなり、間髪を置かずに絢音の大声が耳に飛び込んできた。
「うぉっ……あ、絢音……声が大きい……」

――おじいちゃん、大丈夫なの!? 体、壊してない!? 怪我とか、病気とかしてない!?

私の言葉などまるで届いていないかのように、絢音は張り上げる声を弱めることなく、矢継ぎ早に私に問いを投げかける。
「あぁ、大丈夫だ。体も壊してないし、怪我も病気もしてない。だから、とりあえず落ち着け」

――うん……うんっ……!

涙声で頷く絢音。
電話越しにでも、目の端に涙を浮かべたあいつの姿が見えるようだった。
「すまん……心配かけたな」

――本当だよ……どれだけ心配したと思ってるのさ……。

「悪かったよ……許してくれ」

――ダメ……帰ってきてくれるまで……許さないもん……。

「……分かった。ちゃんと帰るから。そしたら許してくれるか?」

――……お土産は忘れないでよ?

「あぁ、ちゃんと買って帰ってやるよ」

――……なら、許したげる~。

絢音の声に、ようやくいつもの明るい響きが戻った。
やはり、こいつはこうじゃないとな。

――ところでおじいちゃん、いつ頃帰ってくるの? 予定だと、今日明日くらいって話だったけど……。

「……」
返す言葉に詰まる。
確かに、事件は解決した。
しかし、それはあくまで表面上。
まだ、大事な後始末が残っている。

――……おじいちゃん?

「多分、明後日か明明後日くらいだな。ちょっと問題が起きてしまってな」

――そう……なんだ……。

聞いて取れる、絢音の明らかな落胆。
そんな声を聞くと、今すぐにでも帰ってやりたくなるところなのだが……今回ばかりはそうもいかない。
「大丈夫。今度はちゃんと約束は守るから。大人しく待っててくれ」

――……うん、分かった! おばあちゃんにもそう伝えとくね!

「あぁ、頼むよ。それじゃ、お土産楽しみにしてなさい」

――は~い! じゃあお仕事頑張ってね! バイバイ!

――プツッ、ツーッ、ツーッ、ツーッ……。

通話が切れたのを確認してから、静かに携帯を閉じ、スーツの胸ポケットにそれをしまう。
最後、別れ際に聞こえてきた絢音の声は、普段から耳に慣れ親しんだ、あいつ本来の元気な声だった。
安堵に胸を撫で下ろす。
肩の荷を一つ、ようやく下ろせた気分だ。
だが、真の意味で肩から力を抜けるのは、全てを片付け終えてから。
……とは言うものの、事件はひとまず解決の様相を呈するまでにはなった。
ここから先は、そう焦る必要もない。
それに、全身を襲う疲労のせいで、お世辞にも万全のコンディションには程遠い。
絢音の声を直に聞くのは、まだ少し先になりそうだ。
遠く、空の彼方から昇り行く朝日。
長かった夜が明け、また新しい一日が始まる。
「……とりあえず、これ以上あいつの機嫌を損ねない為にも、早めに土産選びをしておくか」
誰に言うともなくそう呟き、私は歩みをロンドン都市部へと向けた。

月夜 2010年07月10日 (土) 00時44分(202)
題名:決着~After Story~(第二章)

――英国、ヒースロー空港、7/31、現地時間17:30――

「さて、と。そろそろ時間ね」
そう呟き、水亜が静かに椅子から腰を上げる。
「世話になったわね、ボブ」
「まったくだ。てめぇの厄介事に、俺まで巻き込んでんじゃねぇよ」
「ボブ、今日まで色々とありがとう」
「良いよ良いよ。紗弥ちゃんだったら、いつでも歓迎して上げるから」
「……ちょっと。私と紗弥に対する態度、最後の最後まで違い過ぎない?」
「今更何を……お前みたいな凶悪凶暴女と、紗弥ちゃんみたいな純真華麗な少女とで、対応が同じになる訳ねぇだろ」
「ほほぅ? あんた、本当に最後の最後まで言ってくれるじゃない?」
「逆に考えてもみろ。お前、俺に優しい言葉を掛けられて嬉しいか?」
「ううん。怖気が走る」
「だろ? 俺もおんなじだ。だから、これで構わねぇんだよ」
「……納得いったような、いかないような……何とも釈然としない感じね……」

――ビーッ!

不意に、空港内に鳴り響いたアラーム音。

――オランダ航空302便、ロンドン・ヒースロー空港18時発、アムステルダム経由、日本、成田空港行きに搭乗予定のお客様は、お急ぎください。

「っと、もう時間ないみたいね。それじゃ、今度こそ失礼するわ」
「あぁ。もう来るんじゃねぇぞ」
「それじゃ、またね、ボブ」
「またね、紗弥ちゃん。イギリスに来ることがあったら、いつでもおいで」
「……」
「クスクス……さ、行きましょう、姉さん」
「……覚えてなさいよ」
膨れっ面でそんな捨て台詞を残す水亜の手を、紗弥がからかうような笑みと共に引いていく。
去り行く二人の背中が、ゲートを越えて少しずつ小さくなる。
「……それじゃ、俺もそろそろ行くかな」
その後ろ姿が見えなくなったことを確認してから、スラッグは踵を返した。
駐車場へと向かう途中、自販機で缶コーヒーを一つ買い、車に乗り込む。
キーを捻ってエンジンを吹かし、スラッグの乗る車は空港を後にした。
夕刻迫り来るロンドンは、薄雲の間から射す夕日の光によって、赤く染め上げられている。
後一時間もすれば、太陽はその姿を地平線下に沈め、夜が訪れるだろう。
そんな時間帯の街は、学校帰りの学生や、帰宅途中と見受けられるサラリーマン、それに観光客と思しき人々の姿で溢れ返っていた。
車の往来は激しく、苛立ちからか、所々に信号無視して通行している車両も見える。
日常的に見る夕刻の街並み。
その中を、スラッグは一人、険しい表情でロンドン郊外へと車を走らせていた。
車内に響くヒップホップ系の音楽を聞きながら、缶コーヒーを口元に運び、一口含んで直ぐに備え付けのストッカーへと戻す。

――カチャン。

缶とプラスチック製のストッカーとかぶつかり、乾いた音が狭い車内に響く。
「……」
辺りにせわしなく目を配りながら、アクセルを踏む足に力を込めるスラッグ。
その脳裏には、二日前、まだ例の件が解決する前の記憶が蘇っていた。


「あ、そうだ、ボブ」
「ん? なんだい紗弥ちゃん?」
「SIS本部の見取り図を探してる時、名前のないおかしなファイルを見つけたんだけど、全部英語で全然読めなくてさ。代わりに読んでくれない?」
そう言って、紗弥はノートパソコンの画面をスラッグの方へと向けた。
「どれどれ……」
その場に腰を屈め、スラッグが液晶を覗き込む。
せわしなく右へ左へと瞳だけを動かしながら、マウスを上下にスライドさせていく。
「……どうやら、生物兵器に関する簡易資料みたいだな」
「ふ~ん。姉さんに教えてあげなきゃいけないような情報ってある?」
「どうだろうな。多分、特にないんじゃ……!?」
と、そこで不意に、スラッグの言葉が途切れた。
画面に表示されている文字列を、黙したまま凝視する。
何が記されていたのだろう。
大きく見開かれた瞳孔が、その驚愕の程を物語っていた。
「? どうしたの?」
「いや、何でもないよ。精々生物兵器研究の簡単な進行度合いくらいしか書かれていないから、特に必要ないな」
だが、その動揺はほんの数秒。
紗弥が不思議に思って声を掛けた頃には、もう既に平静を取り戻していた。
「そうなんだ。じゃあ、消去しちゃった方が良いかな」
「……そうだな。邪魔なだけだし、消しても問題ないよ」
「分かった。それじゃ削除……っと」
名前の無いファイルのアイコンが、フォルダから消去される。
「紗弥ちゃん。他にはこんなファイルはなかったかい?」
「うん。英文だらけのファイルは他にもたくさんあったけど、名前が無いファイルはこれだけだったよ」
「そうか……」
顎に手を添え、考え込む素振りを見せるスラッグ。
「他にも色々とファイルがあるにはあるけど……」
「いや、いいよ。そんなことより紗弥ちゃん、何か飲み物はいるかい?」
「あ、お茶……じゃなくて、コーヒーお願い。無糖ミルク有りで」
「無糖ミルクだけのコーヒーだなんて、あいつみたいだな。でも、大丈夫かい? 無糖のコーヒーは苦いよ?」
「子ども扱いしないでよ! 砂糖無しのコーヒーぐらい、私だって飲めるんだから!」
「はははっ、はいはい、分かったよ。ちょっと待っててね」


「……」
信号が変わる前から踏み始めていたアクセルを、青に変わると同時に強く踏み込む。
あのファイルに書かれていたことは、一言一句と違わず……とまではいかないが、その内容はしっかりと覚えていた。
窓の外、過ぎ行く景色を横目にスラッグは思う。

今回の事件は、あいつの担当した事件。
そして、それは一応の解決を見せ、あいつは笑顔でこの国を去った。
だが、その実全てが解決した訳ではないことを、あいつは知らない。
今から俺がやろうとしていることは、いわばその後始末。
義務ではない。
だが、代行してやる義理はある。

――もう来るんじゃねぇぞ。

さっき、俺があいつに向けて放った言葉。
あんなことを言った手前、最後の後片付けくらいはしてやらないと、カッコがつかない。

「……ま、こいつはサービスにしといてやるさ」
口の端に笑みを浮かべ、スラッグはアクセルを踏み込む足により一層の力を込めた。
目的地は……旧マンチェスター動物園。

月夜 2010年07月10日 (土) 00時45分(203)
題名:決着~After Story~(第三章)

――英国、マンチェスター動物園跡地、7/31、現地時間23:00――

夜の暗闇に抱かれた、旧マンチェスター動物園。
今は廃墟でしかないその施設内部の園長室に、嘉治の姿はあった。
例のカラクリ、奥に地下へと続く階段の隠された壁の前に立つ嘉治は、懐から四角い物体を取り出す。
前回、この地下施設を訪れた際に見つけたレコーダーだ。
内部まで血が染み込んで使い物にならなくなっているのかと思ったが、先日調べてもらったところ、どうやら血でバッテリー部分が壊れているだけとのことだった。
今はその部分だけを新品に取り替え、使用可能な状態にしてある。
嘉治は中央の赤い再生ボタンを押し、レコーダーを耳元にあてがった。

――ザザッ……きしょう!! ザッ……んで……事にっ……!! ザッ、ザザザッ……。

酷いノイズと共に、誰かの悪態をつくような声が聞こえてくる。

――ザザッ……逃げ……やくっ!! ザザザッ……見る……っ! ザッ、ザザッ……化け物……目を……っ!!

口調と当時の状況から察するに、最初の“見る……”は、見るなと言おうとして、途切れてしまったのだろう。
恐らくは、“逃げろ! あの化け物の目は見るな!”と、そんな感じか。

――くそっ! あいつ……ザザッ……う、ダメだ!! ザザッ……前は、奥へ……ザザッ……ぐあっ!!

不意に上がった悲痛な悲鳴。

――ザザッ……丈夫か!?

別の誰かの声と、慌てて駆け寄る靴音が聞こえた。

――来るな……!! ザザザッ……。

それを、悲鳴の主は大声で制する。

――ザザッ……お前は……ザザザッ、ザザッ……娘に……から、生き……ザザザッ……っ! ぐあああああああ――

その断末魔の叫びは途中で途切れ、後は聞くに絶えない耳障りな雑音が鳴り響くのみだった。
停止ボタンを押し、嘉治はレコーダーを懐にしまった。
「……」
無言のまま、しかし表情には苦々しさを浮かべ、壁を回してその向こう側へと通り抜ける。
胸ポケットから取り出したペンライトの細い光を頼りに、いつかの時と同じように、嘉治は地下施設へと伸びる長い階段を下り始めた。
下りながら、嘉治は考える。
今から進む先、出くわすことになるであろう、化け物のことを。
ノイズだらけでほとんど聞き取ることはできなかったが、レコーダーに残された化け物の目を見るなという言葉。
そのワードから、嘉治はロンドンの生物兵器施設で読んだ“G.M. Fascinate Lilith”の内容を思い出していた。
目から発する光で、対象を魅了し、強制的に隷属させる……実際に、身をもって一度、その力を体験している嘉治にとって、それがどれ程の脅威であるかは、理解に難くないものだった。
相手の言葉に対して、絶対に逆らえなくなる。
状況が状況であった為、幸運にもと命令されることはなかったが、もしそう言われていたら、きっと何の躊躇いもなく命を絶っていただろう。
恐ろしい力だ。

――カツッ、カツッ、カツッ……。

暗い階段に、乾いた靴音が幾度も跳ね返って響き鳴る。
目を見るな。
その言葉だけなら、これ以上のことは考えなかっただろう。
だが、嘉治は前回ここを訪れた際に、電力制御室で息絶えていた研究者が、に際に遺したと思われるダイイングメッセージを見ている。

“Don't see it”

それを見るな、というなんとも漠然とした遺言だ。
最初、今回の生物兵器に関する何の込み入った知識も無かった時の嘉治には、理解できるものではなかった。
今でさえ、それが指し示すものが何で、もし見たらどうなるのか、正確なところは分からない。
だが、想像はできた。
レコーダーに録音されていた、目を見るなという言葉。
そして、壁に記されたそれを見るなという血文字。
恐らく、両者が示すものは同じだろうと、嘉治は考えていた。
異なる点は、その規模だ。
“G.M.保管室”と記されていた部屋。
数多ある檻の中でもがいていた、無数の目を持つこの世ならざる命たち。
そんな彼らのことが、今嘉治の脳裏に蘇っていた。
まだ可能性という段階であり、確定ではないが、まず間違いはないだろう。
問題は、その目がどういう力を有しているのかということ。
それに関する情報は一切ないが、見るなと叫び散らすほどなのだ。
致命的と考えて動くのが吉だろう。

――カツッ、カツッ、カツッ……。

こだます靴音。
そして嘉治の思考は、レコーダーから聞こえてきた娘という言葉へ移った。
仲間の悲鳴に駆け寄る男を、負傷した本人が来るなと制する。
いつの日か、生き別れた娘にまた会う為に、お前は生きろ。
そんな仲間の最期の言葉に、背後から聞こえてくる断末魔の声に、彼は一体何を思ったのか。
すまない……そんな謝罪の思いだろうか。
ありがとう……そんな感謝の思いだろうか。
そんな中、避けられぬを前に、心臓に刃を突き立てる決意をした彼は、写真に写る彼女に対し、最期に何と言い残したのだろう。
今となっては、誰にも分からない。
だが、敢えて想像するとすれば……いや、止めておこう。
彼の想いは、彼にしか知り得ないもの。
そんな思いの丈の込められた言葉を、第三者が想像しようなどと……これ程野暮なこともない。

――カツッ。

意識を現実に戻す。
階段を下りきり、目の前は壁。
左右へと伸びる廊下の至るところには、血染めの衣服やアクセサリーが。
以前来た時から大分時間が経っていることもあり、血はもう渇ききって、ひび割れの目立つ黒ずんだ固形物と化していた。
先ず何より先に為すべきは、現状暗黒に限りなく近いこの施設内に、光を灯すこと。
そのためには、彼の亡骸のある電力制御室へと向かう必要がある。
肩に下げたホルスターからベレッタを引き抜き、そちらへと歩みを進める。
前回、ここに潜入した際には、制御室への道中、何者かの攻撃を受けることは疎か、何者かの気配を感じることさえもなかった。
だからと言って、今回もそうなるとは限らない。
戦場において安全とは、どれ程金を払っても、どれ程警戒心を強く保っても、得ることは叶わないもの。
僅かな隙さえもに直結する世界。
そんな場所で、一体いかな精神をもてば、今の彼のような平静な心を保てるのか……常人には、到底理解できないだろう。
呼吸、脈拍、体温……全てに渡り正常で、異常は何一つと見受けられない。
そのくせ鋭い眼差しは、まるで獲物を見つけた時の猛禽類の如く鋭利で、一分の隙さえ見当たらない。
今の彼ならば、どれ程突然に敵が現れようと、極めて冷静な対処を取ることができるだろう。それが例え――

――ガシュッ。

――扉を開けた瞬間の奇襲だとしても!
「……」
さして驚く様子も見せず、嘉治は身を低く屈め、その何者かの脇をすり抜けるようにして室内に飛び込んだ。
ペンライトの光とベレッタの銃口を、同時にそいつへと向ける。
それは、赤黒く蠢く、人の姿をした何かだった。
目も鼻も耳も口さえもなく、酷く緩慢な動きで嘉治へと向かうその様は、まるで亡者かゾンビのよう。
そこに敵意や殺意はなく、ただ義務的、機械的に動くだけの体の悪い操り人形。
人の形状をしておきながら、元々は人だったのかどうか、それすら定かでない。
「……」

――ガガン!

無言のまま、立て続けに二度、嘉治はベレッタの引き金を引いた。
頭部から黒い血肉を悲惨させたそれは、背面方向に力なく倒れた。
周囲へと張り巡らす警戒の糸は微塵と緩めず、倒れて動かぬ体躯を見つめる。
その間、ベレッタの照準はその心臓部を捉え続けていた。
「……」
しばらくの後、そいつが動かぬ骸と化したことを確認してから、嘉治は静かに構えていたベレッタを下ろした。
踵を返し、再度目的地へと足を向ける。
その足取りに迷いはなく、怯えもなく、毅然とした歩調が乱れることはなかった。

月夜 2010年07月10日 (土) 00時46分(204)
題名:決着~After Story~(第四章)

――英国、マンチェスター地下施設、7/31、現地時間22:30――


――ピン。

勢い良く張られる糸の短く甲高い音と共に、黒いヒトガタの頭と胴体が離れる。
床に落ちる頭に続いて、その体が膝から崩れ落ちた。
「これでもう何体目だよ……ったく、気味の悪ぃ奴らだぜ」
ブレスレットから伸びるピアノ線を巻き取りながら、その不気味なヒトガタの成れの果てを見下ろし、スラッグが嫌悪を露わに呟く。
一昨日、紗弥に見せてもらったファイルに記されていた、ロンドンSIS本部と繋がる生物兵器施設とは別の、もう一つの施設。
それがマンチェスターにあることを知った瞬間、彼はある閃きを覚えていた。
一時期ニュースを賑わせていた、マンチェスターのとある動物園の閉鎖報道。
変わった動物が大量に見られるということもあり、そこまで大都市とは言えないマンチェスターにおいて、あの動物園は一大観光名所だった。
地元の人々に加え、観光客の大半が訪れるのだ。
それが、業績不振による経営難で廃園?
あり得ない。
どう考えたって不自然だ。
しかも、一度ニュースで報じられて以降、特に取り沙汰されることはなかった。
何かしら、大きな力が働き、情報統制が行われていたであろうことは明らか。
その大きな力とは、中途半端なものではない。
英国そのものを動かせるほどの、とてつもない権力……それこそ首相クラスの力だ。
生物兵器施設とSISが繋がっていたことから考えるに、そこでの研究内容に関して、海外との外交があったと思われる。
ならば、英国政府上層部とのパイプは、必ず存在する。
そして実際、そんなスラッグの予想を裏付けるように、動物園地下には生物兵器施設が広がっていた。
どうにもこいつはキナ臭い。
英国内部だけで解決する問題ではなさそうだ。
どのくらい研究が進んでいて、どこまでその成果が世界各国に拡散、浸透しているのか。
それさえ不明瞭な現状では何とも言えないが……他の諸外国でも似たような、または同じ研究が、水面下で行われている可能性は大いにある。
とは言え、今最優先すべきは、この施設の完全破壊。
他のことは、また落ち着いてから、ソファーにもたれ掛かって、紅茶を片手に考えればいい。
そう考え、暗視ゴーグルを頼りに、暗闇の中歩みを進める。
施設の構造は、道中で見つけた見取り図のおかげで、粗方把握できている。
目的地は、目の前にある扉の向こう側。
ここも、電力が通っていない以上、今まで同様に手動で開けるしかなさそうだ。
「ちっ……面倒ったらありゃしないぜ」
舌打ち混じりにバルブに手を伸ばす。
ガタッという音と共に、扉と壁の境にズレが生じた。

――ダァン!

勢い良く、それこそ壊さんばかりの力で、扉を蹴り開いた。
「……」
しばしの間、一切の身動きを止めて室内の気配を探る。
……だが、特に反応はない。
ここはもぬけの殻のようだ。
扉をくぐり、辺りを見回す。
ここも、今までに通ってきた部屋と相違なく、辺りに固形化した血溜まりが形成されている。
そのくせ、死体はただの一体も転がっておらず、代わりに衣類やアクセサリーといった装飾品は、何故かその多くが無傷のまま転がっていた。
無傷とは言っても、それはあくまで傷ついていないだけで、大量に血を吸って赤黒く変色したそれらは、到底着られる代物ではない。
床に倒れている、血の跡が残る手術台。
他にも、点滴台や脳波計を含む様々な医療器具が、横倒しになって辺りに散乱している。
ここで何が為されていたのか、今となっては知る術はない。
知る術はないが、その用途が医療用だったとは思えない。
何かしらの実験、計測用に用いられていたと考えて、ほぼ間違いないだろう。
本来の機能を完全に失い、今やただの障害物へと成り下がったそれらを跨ぎ越しながら、部屋の隅へと向かうスラッグ。
そこで、彼は肩から提げていた小さめのボストンバッグを下ろした。
ファスナーを開け、その中から緩衝材に包まれた四角い物体を取り出す。
テープで止められた緩衝材を丁寧に取り外され、むき出しになる黒い塊。
それを壁面に取り付け、スイッチを入れる。
同時に、その上部にあったランプが、赤く明滅し始めた。
「……こいつはこれでよし、と」
小声で呟き、スラッグは閉じたボストンバッグを担ぎながら、その場に立ち上がった。
「さて、それじゃ次に向かうとするか」
踵を返し、今来た方へと歩みを戻す。
先ほどスラッグが設置した物体は、彼手作りの爆弾だ。
手作りとは言っても、工業用の爆薬を連結させ、その雷管をリモコン式に改良したくらいのものだが。
ヘキサニトロヘキサアザイソウルチタン……何とも長く小難しい名前だが、これがこの爆薬を構成する物質名だ。
実用化、大量生産されている爆薬としては、最大の破壊力を誇る。
その威力は、およそTNT爆薬の倍……と表記しても、どの程度なのか、普通の人には想像もつかないだろう。
水亜がSIS本部へ侵入する際使用した、プラスチック爆薬。
それを構成する物質名をペンスリットと言い、爆発力を決めるニトロ基が4つ連なっている。
一方、ヘキサニトロヘキサアザイソウルチタンが保有するニトロ基は6つ。
ほんの一握り程度のプラスチック爆薬でさえ、分厚い扉を粉々に砕ける力があるのだ。
それよりも威力の高い爆薬を、あろうことか連結させているのだから、その破壊力が凄まじいことだけは、誰の目にも明らかだろう。
そんな連結された爆薬が、スラッグの鞄の中にはまだ後3つ、己の炸裂すべき場所を求めて眠っていた。
頭の中に施設内の見取り図を思い描きながら、スラッグは爆薬の仕掛け場所の位置関係を考える。

――4つあれば十分過ぎるだろうと思ってたが……結構ギリギリだな。

次の目的地へと足早に歩みを進めながら、そんなことを思う。
思っていたより内部は広く、適当に配置したのでは、完全に爆破することは難しそうだった。
とはいえ、ここは地中深くの地下施設。
多少最適配置からズレたとしても、流れ込む土砂が補助となってくれるだろう。

――ジジッ。

と、不意に、切れかけの蛍光灯に通電したような微かな音が、スラッグの耳に届く。
その秒の後には、辺り一面を目映いばかりの光が照らしていた。
「っ……」
暗視ゴーグル越しに見る視界が、白色の光で埋め尽くされる。
素早くゴーグルを取り外し、乱雑にボストンバッグの中へとしまいこんだ。
眉をひそめ、目を細め、手で光を遮り、明所に瞳が慣れるのをじっと待つ。
「……」
……数秒の時を経て、ようやくスラッグの目が光に順応する。
「……ったく。誰だか知らねぇが、いきなり電気点けやがって……」
鬱陶しそうに呟く。
だが、この事実が示す意味は、そんな下らないことではない。
今まで彼は、ここには自分以外誰もいないと思っていた。
無人となった生物兵器施設。
内部を見る限り、何らかのバイオハザードが起きたことは明白だ。
それ故見捨てられ、もう今更誰も戻って来ることもないだろう。
そう考えていた。
しかし、そんな彼の予想を裏切って、何者かがこの施設内に侵入し、電力を復旧したのだ。
では、一体誰が、何の目的でここを訪れたのか。
一番起こり得るのは、この施設にまだ何らかの有用性を見出だした、政府上層部の人間の命により、軍の人間がここを制圧すべく動いているという可能性。
これは、確率として高いと言うより、これ以外の可能性が思い付かない。
だとすれば、時間的猶予はもうほとんどない。
出来る限り迅速に行動しなければ、自分自身にまで身の危険が及ぶ。
そのようなことに、スラッグ程戦場に場慣れした人間が、気付かないはずはない。
「ちっ……面倒なことになりやがったぜ」
舌打ち混じりに毒付きながら、スラッグは早足から駆け足へと速度を変え、無人の通路を駆け抜けた。

月夜 2010年07月10日 (土) 00時47分(205)
題名:決着~After Story~(第五章)

――英国、マンチェスター地下施設、7/31、現地時間23:00――


明かりの点った施設は、動きやすさもさることながら、見通しも良く、先ほどまでとは比べ物にならないほどに迅速な動きが可能になっていた。

――ガァン!

何体目かの黒いヒトガタの頭を吹き飛ばし、血で薄汚れた廊下を駆け抜ける。
来た道を戻り、地上へと続く長い階段の手前まで引き返した私は、その階段を挟んで反対側の扉へと足を向けた。
前回ここに潜入した時、通ることが出来なかった扉だ。
壁に背を張り付け、備え付けられたカードリーダーに、トラン・ウェイド博士のカードを通す。
ピッという短い電子音の後、解錠された扉が彼を迎え入れるように開いた。
ここから先は未踏の地。
いつ、どんなタイミングで、例の化け物が姿を現すかわからない。
肉眼でその姿を直視できない以上、何かしらの媒介が必要だ。
いささか不便な感は否めないが……仕方あるまい。
これまた常日頃から携帯している、デジタルカメラを懐より取り出す。
これを通して、先の映像を確かめながら進むしかないだろう。
手から先だけを覗かせ、先の様子を伺う。
前後左右に一つずつある扉と、その直ぐ横、人の目線の高さくらいの場所に設置されたモニターが目を引く以外、これといって気がかりなものはないただの部屋。
相変わらず無傷な衣類と装飾品の類、そして血溜まりこそあるものの、人の姿はその生死を問わず存在しておらず、今までに遭遇した黒いヒトガタも、化け物の姿も見当たらない。
危険はなさそうだ。
そのことを確認した後、扉をくぐり、先に進もうと足を踏み出す。

――ガシュッ。

「っ!?」
背面方向、少し遠くから聞こえてきた扉の開く音。
ベレッタを構えつつ、素早く背後を振り返る。
視線の先に立っていたのは、両手にショットガンを持ち、銃口をこちらへと向けている、ガッシリとした体格の男性だった。
隙のない鋭い眼差しに、全身から漂うただならぬ威圧感。
肌を刺す先鋭な殺気は、見る者に否応なしに死を予感させる。
並大抵の輩ではない。
「……何者だ?」
「俺はスラッグ・O・ヴァルカン。ロンドンの便利屋だ」
「スラッグ……?」
聞き覚えのある名だった。
あれは、明神君……いや、水亜が提出した、いつかの公務の報告書。
そこにあった協力者の名前が、確か……。
「……一つ、お尋ねしてもよろしいか?」
「……何だ?」
「スラッグ氏。貴方は、明神水亜という女性をご存知か?」
「っ!?」
私の問いに、スラッグと名乗った男性の目が、驚きに大きく見開かれる。
彼女のことを知らぬ人間の反応ではない。
やはりそうか。
「あんた、何故その名前を……」
「申し遅れた。私の名は高礼嘉治。彼女の直属の上司だ」
「水亜の上司……」
訝しむような眼差しを向けてくるスラッグ。
まだ信じきってはいないようだが、先ほどまでの張り詰めた殺気は幾分か和らいでいた。
「……この施設の電力を回復させたのは、あんたの仕業か?」
「そうだ」
「……」
ショットガンを構えたまま、依然変わらぬ刺すような目付きで、こちらを真っ直ぐに見据える。
「……まぁいい。どうやら、あんたは敵じゃなさそうだ」
しばらくの時を経て、彼は私を敵ではないと認めたのか、静かに銃口を下げた。
それを受けて、私も構えていたベレッタをホルスターにしまう。
「ところで、あんたは何故こんな所に?」
こちらへと歩み寄りながら、スラッグが問う。
「この施設を破壊するためだ」
「破壊って……あんた、ここを爆破する為の爆薬の類いは持ってきてるのか?」
「そんなものは必要ない。こういった生物兵器施設は、バイオハザードの際、その災害が外に漏れぬよう、施設を自壊させるシステムが備わっているものだ」
「そうは言うが、実際に災害が起きた上で、この施設は放置されたままだ。本当に自爆システムがあるかどうかも定かじゃない。それに、あったとしても既に使用された上で、動作不良を起こしている可能性だってある」
「動作不良程度なら、その場で修復すれば良い。もし、万が一それさえ出来ないというのなら、施設内全てを駆けずり回ってでも、データを全て破壊する」
「何とも非効率的だな。そんなことしてたら、いくら時間があっても足りないぜ?」
「いくら時間が掛かろうと構いはしない。ここにある全ての情報を抹消できるならな」
「……」
そう、ここに残されているデータは、何としても破壊し尽くさなければならない。
その為ならば、どれだけ時間が掛かろうと、この身にどんな災難が降り掛かろうと、何の事はない。
全て乗り越え、目的を果たしてやろう。
次に会った時、笑ってあいつを迎えてやる為に……。
「……あんたが何故、そうまでこの施設のデータ破壊に執着するのかは知らないが、それについては俺に任せてくれないか?」
「……何?」
スラッグの提案に、思わず眉間にシワが寄る。
「俺も、目的はこの施設の爆破でね。今、こいつをあちこちに仕掛けて回っているところだ」
そう言って、彼は肩から下げていたボストンバッグを開け、その中身を私に見せた。
緩衝材にくるまれた、黒く四角い物体。
それが爆弾であることは、わざわざ言われずとも直ぐに分かった。
「次がラスト一つだ」
「……そいつは、この施設を爆破できるだけの破壊力があるのか?」
「その点は心配いらない。もし破壊し損ねたとしても、ここは幸いにして地中。土砂が押し潰してくれる」
「……」
思考する。
彼の言葉が、信頼に足るものかどうか。
あいつが協力者として名を挙げる程の人物だ。
その実力や素性に、疑うべき箇所はないだろう。
それに、彼の言うことも一理ある。
ならば、ここは手を組んで行動を共にした方が、効果的且つ効率的。
「……よし、分かった。私も協力しよう。最後の設置場所はどこだ?」
「この先の扉を抜けて、その更に向こう側だ」
そう言って、スラッグは向かう先を指差した。
その指の示す延長線上にある扉の奥は、当然まだ足を踏み入れていない場所。。
……例の化け物がいる可能性は、大いにある。
「……スラッグとやら」
「何だ?」
「ここから先へ向かう前に、こいつを聞いておけ」
私は懐からレコーダーを取り出し、スラッグに手渡した。
「これは?」
「聞いてみればわかる」
スラッグは怪訝そうな眼差しを向けながらも、私の言葉に従い再生ボタンを押した。
雑音にまみれた途切れ途切れの怒号が、静寂を切り裂いて辺りに響き渡る。
それはしばらく続いた後、男性の途絶した悲鳴を最後に、ただのノイズと化した。
「……つまり、ここで言ってるバケモンが、この先に居るかもしれないと?」
「そういうことだ」
投げ返されるレコーダーを受け取り、懐にしまう。
「早い話が、目を見ずに殺れば良いんだろ? 不意を突かれさえしなければ、大したことはない」
「いや、そう単純な話ではないかもしれん」
「どういうことだ?」
「ここで言う化け物は、全身に無数の目があるかもしれないってことだ」
「……あんた、この化け物を知ってるのか」
「いや、知らない。だが、心当たりはある」
ロンドンの生物兵器施設内で見た、“G.M.保管室”と銘打たれた部屋の中で、檻に囚われ蠢く、数多の目を持った黒い生物の姿が、頭の中に蘇る。
「だとしたら、これからどう動くつもりだ? もし本当にそんなバケモンが居座ってるって言うんなら、相手にならねぇぞ」
「こいつで先の安全を確かめながら、少しずつ進んでいく」
左手に持っているデジカメを軽く掲げる。
「なんとも面倒な話だな」
「だが仕方なかろう。浅はかな行為の末命を落とすことほど、愚かしいことはない」
「そりゃそうだ」
スラッグが、苦笑で口の端を微かに歪める。
「とにかく、やるべきことは決まったんだ。とっとと終わらせて、こんな薄気味悪いところとは早々にオサラバしようぜ」
「そうだな」
先々進み出すスラッグを追って、室内へと足を踏み入れる。
左右には目もくれず、目的地である前方の扉付近まで歩み寄り、壁に背を密着させる。
どうやら、これもカードリーダーで開く仕組みのようだ。
顔の直ぐ近くにあるモニターは、カメラのシステムが機能していないのか、それとも破壊されてしまったのかはわからないが、黒い画面のまま何も映し出してはいなかった。
予めデジカメのレンズを扉の向こうへ向けながら、カードをリーダーの読み取り部にあてがう。

月夜 2010年07月10日 (土) 00時48分(206)
題名:決着~After Story~(第六章)

「準備はいいか?」
「いつでもいいぜ」
その返事を待って、私は勢い良くカードを通した。
認証を知らせる短い電子音。
それから遅れること数秒、扉が開かれた。
液晶に映し出される光景。
「っ……!」
その中心に映るモノの姿を見た刹那、背筋を戦慄が走り抜ける。
黒く巨大な半液状の物体。
至るところに散りばめられた幾多の眼が、一斉にこちらを睨みつける。
自分でも気付かぬ内に、引きつった表情をしていたのだろう。
「……居たか?」
そんな私を見て、スラッグの目尻がより一層鋭さを増す。
形式は問いかけだったが、その実この問いは問いかけに非ず。
低く暗いその口調からは、臨戦時の張り詰めた緊張がひしひしと感じられた。
「……あぁ」
液晶部を半回転させ、映し出される光景を彼にも見せる。
「っ……!」
目を見張ると同時に、言葉を失うスラッグ。
当然の反応だ。
この光景を予期していた私でさえ、身の毛のよだつ思いをしたのだ。
初見の人間が、あんな人智の枠を逸脱した化け物を見て、心が揺るがないはずはない。
……だが、そんな動揺はものの数秒。
「……あれが例のバケモンか」
次に口を開いた時、既に彼は平静を取り戻していた。
瞳に宿る光にも、闘争心こそあれ、恐怖や怯えといった弱気な感情はまるで見受けられない。
なかなかのものだ。
あいつが自ら協力者として名を挙げるのも頷ける。
「あぁ、そうだろうな」
「どうする?」
「どうするも何もないだろう」
改めて、液晶を自分の方へと向ける。
一本道の通路の最奥に居座る巨体。
奴を避けて、目的地に達することは出来ないだろう。
第一、今ここで奴に背を向ければ、後々危険がついて回ることになる。
ならば、取るべき選択肢は一つ。
「……排除するしかあるまい」
そう呟き、ホルスターからベレッタを引き抜く。
「賛成だ。だが、あの相手にベレッタ如きじゃあ、どう考えても火力不足じゃないか?」
「あいにく、これ以上の武器は手榴弾数発しか携行していないのでね。とりあえず、ものは試しだ」
「敵の元生物兵器施設に乗り込むにしては、随分と軽装だな。ほらよ」
呆れたような表情を浮かべながら、スラッグが両手に持っていたショットガンの一丁を、私へと差し出す。
「どうせこの状況じゃあ、二丁持ってたって何の意味もねぇ。今だけ貸しといてやるよ」
「なら、お言葉に甘えさせていただこうか」
ベレッタをホルスターにしまい、その手でショットガンを受け取る。
AA12……連射が可能なショットガンか。
「弾薬は何を使っているんだ?」
「こっちはミニグレネード、そっちは俺の名前と同じやつさ」
同じ名前……つまり、スラッグ弾ということか。
破壊力という点では申し分ないな。
「替えの弾倉は?」
「弾薬はいくつか持ってきてるが、予備の弾倉となると一つだけだな。しかし、そんなに必要になるか?」
「念のためだ。ショットガンの弱点がリロードにあることくらい、知っているだろう?」
「……」
普通、ショットガンには弾倉というものが無く、銃筒部分に弾薬を直接装填するのだが、このAA12にはドラムマガジンが備わっている為、その弾倉を取り換えるだけでリロードが可能なのだ。
無論、空になったドラムマガジン内に弾薬を装弾することも可能であり、その方が一般的であるが、当然装弾完了するまでにかかる時間は非常に長い。
万が一火急を要する事態に陥った時、そんな悠長な時間はないだろう。
「……そうだな。それじゃあ、もし弾切れになったらこいつを使え」
ボストンバッグの中からドラムマガジンを取り外し、それをこちらへと放り投げる。
「こいつが弾だ。まず大丈夫だろうが、万が一切れたら、手動で装弾し直してくれ」
立て続けに、細長く連なった己と同じ名を持つ弾薬の束を、鞭をしならせるようにしてこちらへ送りつける。
「分かった」
それらを受け止め、簡単に形状の確認。
この銃を使うのは初めてだが、旧作に当たるAS12なら、昔実戦で使ったこともある。
問題はないだろう。
「作戦だが、相手はあの巨体だ。散弾、しかもグレネードとなれば、適当に撃っても問題なく当たるだろう。スラッグは銃身を地面と平行に保ったまま、真っ直ぐ射撃を続けてくれ。指示は私が出そう」
「……任せて良いんだな?」
厳しい目付きでこちらを見据えるスラッグ。
その心は、恐らく見ず知らずの私の実力に対する不信感だろう。
「あぁ、問題ない」
平然と答え、AA12の引き金に指をかける。
この程度の重責に怖じ気付いていたのでは、どうして彼の信頼を得られようか。
第一、そのようなノミの心臓では、この場にいる資格さえない。
戦場に立つことが許される者は、決して自身を見失うことなく、臆病風に吹かれず、だからと言って勇気と蛮勇を取り違えない、常に冷静でいられる人物であると、古来より相場は決まっている。
「分かった。今はあんたの指揮下に甘んじよう」
そう答え、スラッグも指先を引き金に添える。
私に対する不信感が、今の一瞬で拭い去れた訳ではないだろうが、少なくとも信じるに足ると判断したのだろう。
なら、その信頼には答えないとな。
「よし。それじゃ、合図と同時に射撃開始だ」
「あぁ」
「行くぞ……3、2、1、GO!」

――ガァン! ドゴォン!

巻き起こる射撃の轟音と、グレネードの炸裂する爆発音。

――グオオオオオォォ!

液晶越しに見る景色の中、黒く巨大な化け物は、雄叫びを上げながら、自身を構成する肉片を辺りに撒き散らしていた。
一射毎に、全身に小さな榴弾を受け、赤黒い体液と共に弾け飛ぶ、それと同じ色をした肉体。
……だが、どうにも様子がおかしい。
見る限り、こちらへと近寄ってくる気配もなければ、反撃をしようという意思も見えない。
ただただ、撃たれるがままその身に銃弾を浴び続けるのみ。
このままでは、ものの一分とかからず、全身バラバラの肉塊だ。
一体どういう……!?
「なっ……!」
突然起きた異変に、私は思わず息を呑んだ。
千切れ飛んだ肉片の一つ一つが、突如として蠢き出した。
それは急速にその体積を増していき、あるものはヒトガタを、またあるものは虎や熊を模した猛獣の姿へと変貌していく。
それら全てを、生まれた先から榴弾が破壊する。
しかし、そのせいで奥の本体にまで届く弾の数は激減していた。
このペースでは、いくら撃っても埒があかない。
況してや、最初に装填されている12発程度では、奴を消し飛ばすなど不可能だ。
「スラッグ! 射撃を止めてリロードをしろ!」
「了解!」
叫びながら、スラッグに代わりAA12の銃身を覗かせ、引き金を引く。

――ガァン!

銃声と共に、腕を通じて肩口へと走る強い衝撃。

――くっ……。

苦悶の声は押し殺し、反動で腕ごと後ろに弾き飛ばされそうになる我が身を、立て膝の体勢でしっかりと固定する。
スラッグがリロードを完了させるまでの間、私が奴らの進攻を防ぎつつその数を減らし、弾除けがなくなった所を再び榴弾で攻める。
シンプルだが、現状最も効果的な戦法だろう。
襲い来る黒い獣の頭部を吹き飛ばし、さ迷う亡者の如きヒトガタの五体を撃ち抜く。
デジカメ越しの映像を頼りに銃撃戦など、未だかつてない体験だ。
散弾を用いているおかげで、誤射や撃ち損じという問題は発生していないが……もしベレッタで挑んでいたら、今頃撤退を余儀なくされていたかもしれないな。
「リロード完了!」
スラッグの威勢のよい声が、銃声轟く空間にもはっきりとこだまする。
映像に映る獣、及びヒトガタの姿は疎ら。
今ならいける。
「よし、直ぐに射撃を開始してくれ! 撃ち尽くしたら直ぐに再リロードだ!」
「了解!」
スラッグと交代し、今度はこちらが弾薬の補充を行う。
徐々に、だが確実に体積を失う化け物と、それと反比例して生まれ行く黒い塊とを、レンズの内側に捉えながら、弾薬を一発ずつ、慎重かつ迅速にドラムマガジンの中に装填する。
その間気を払うべきことは、デジカメの映像と、スラッグの銃口が火を噴いた回数だ。
その残弾は、残り……5、4、3、2、1、0!
「っ……!」
再び銃身を黒い群れへと向け、そいつらを殲滅すべく散弾を撃ち込む。

月夜 2010年07月10日 (土) 01時04分(207)
題名:決着~After Story~(第七章)

分かってはいたことだが、弾を消費する速度の方が、補充する速度より倍近く早い。
このペースで絶え間なく弾幕を張っていれば、いずれ間に合わなくなるのは明白だ。
「スラッグ! 残弾数は!?」
「残り30だ!」
30か……維持できるかどうか、微妙なところだな。
無制限的に飛散しては湧き出る化け物を、その進攻の度合いに応じて随時射殺してゆくことで、弾薬の無駄な浪費を極力抑える。
それでもやはりこの数だ。
あまり悠長に身構えている余裕はない。
最後の一発を撃つなり、直ぐ様ドラムマガジンを入れ替えにかかる。
予備の弾倉を掴み、素早く取り替え、即座に銃口を戻す。
「準備出来たぞ!」
引き金を引くこと4回、スラッグがリロードの完了を告げる。
「交代だ!」
腕を引き、スラッグの射撃の間に、先ほど取り外した空の弾倉に再度弾薬を込める。
やはり、先ほどの予測通り、私が全弾装填するまでにかかる時間は、スラッグが全弾撃ち尽くす時間の倍だ。
予備の弾倉に六発目の弾を叩き込んだところで、ちょうどタイムアップ。
リロードを始めるスラッグに代わり、再度射撃役へ。
液晶越しに見えるのは、いつしか全面を蠢く黒に覆い尽くされた、この上なくグロテスクな光景。
幾度となく戦場という名の地獄に身を置いてきたが、これほどまでに怖気の走るものは初めてだ。
少しでも押し止める弾幕を緩めれば、一瞬の内に黒い雪崩の中に埋もれることになるのは間違いない。
しかし、それもあと僅か。
最奥に見える、この混沌の根源たる化け物の体は、当初のそれとは比較にならないほど小さく、矮小になっていた。
これなら、次で跡形もなく吹き飛ばせるだろう。
弾倉内の残弾全てを撃ち尽くし、先ほど同様マガジンを入れ替えながら声を荒げる。
「スラッグ! リロードが終わり次第、直ぐに迎撃してくれ!」
「OK!」
そう答える頃には既に、スラッグはリロードの完了したAA12を化け物の群れへと向けていた。
一斉に射撃を開始する。
重なる銃声がより一層の轟音を生み、轟く爆音がその上に覆い被さる。
「何も考えるな! 後の事は任せて、とにかく撃て!」
「了解!」
先に全弾撃ちきった私は、もはやただのハリボテと化したAA12をその場に放り捨てた。
懐から二つまとめて手榴弾を取り出し、ピンを歯で固定して同時に引き抜く。
大きく腕を振りかぶり、通路の奥まで届くよう力いっぱい放り投げた。
「スラッグ!」
「分かってる!」
お互い、同時に身を退いて扉両脇の壁に身を隠す。

――ドオオォン!

二発の手榴弾が同時に炸裂し、今までにない爆発音が辺りを揺るがした。
黒くドロドロとした、血と肉の混じりあった塊が、扉を越えてこちら側へと飛び込んでくる。
遅れて聞こえてくるのは、ビチャッ、グチャッという耳障りな濁音。
それが収まった後、周囲を支配するのは無音の時間だった。
ホルスターからベレッタを引き抜き、警戒心を緩めることなく通路奥へとデジカメのレンズを向ける。
そこに動くものは一切存在せず、あるのは廊下を覆い尽くす、黒いアメーバ状の血肉のみ。
「……終わったか?」
「あぁ……恐らくな」
スラッグの問いに、恐らくの部分を強調して答える。
本当に殲滅できたのかどうか、この段階で確信を抱くのは時期尚早というもの。
まだ安全かどうか定かでない以上、不必要に緊張の糸を緩めるのは得策とは言えない。
慎重に、左手を上下左右へと傾けて、隈無く全方位に注意を向ける。
それでも尚、動くもの、蠢くものの存在は見当たらなかった。
「さて、そろそろ進むぜ。いつまでもこんなとこで待機し続ける訳にもいかねぇだろ?」
いつの間にか、私が放り捨てたAA12を拾い上げ、リロードまで済ませたスラッグが、肩にボストンバッグを掛けながら問う。
「……そうだな。だが決して油断はするな」
「分かってるさ」
先を行くスラッグの背を私が追う形で、遂に廊下へと足を踏み入れた。
一歩足を踏み出す度に、気味の悪い水音がこだます。
足がやけに重たく感じるのは、足下の物体の粘性のせいなのか、それとも全く別の、精神的なものに起因するのか。
扉の直ぐ手前、私が先ほど手榴弾を投げ込んだ場所は、その爆風でぽっかりと穴が開いているようだった。
扉横のカードリーダーにカードを通す。
壊れてしまっていないかと不安だったが、そんな私の心配をよそに、目の前の扉は何の抵抗も見せることなく開け放たれた。
その先に広がる景色は、薄暗く細長い、通路のような部屋だった。
両脇に立ち並ぶのは、円柱形の背の高いカプセル。
内部は薄い緑色の液体で満たされており、絶え間なく下から上へと泡が立ち上っている。
その内には、一つの例外もなく、ある物が内包されていた。
それは……
「……」
……人間。
それも、そのほとんどが年端もいかない、ほんの少女ばかりだった。
酸素マスクを着けられ、無数のコードに繋がれたまま、目を閉じて液中に浮かぶその姿は、見るに耐えない。
中には、生まれて数ヶ月程度と思しき幼児や、まだ雌雄の区別さえ曖昧なくらいの胎児の姿さえ見える。
当然、そんな彼女たちにも、数え切れない程のコードが繋がれていた。
痛々しくて見ていられない。
「くっ……」
スラッグが小さく苦悶の声を上げる。
彼も、抱く気持ちは私と大差ないらしい。
言葉に出来ない心情を、ギリギリと鳴る歯軋りが雄弁に表していた。
カプセルの近くへと歩み寄り、その周囲に備え付けられている装置に目を向ける。
液晶部に表示されている波形は、脳波や脈拍、血圧に呼吸のリズムといった、素人目にも分かるデータもあれば、何を示しているのか予測もつかない、奇妙で不規則な波線もあった。
“Genetic”という文字から、何かしら遺伝子に関連するデータを示しているのであろうことは予想できたが、その程度が関の山。
詳しいことまでは、とてもじゃないが理解できなかった。
各種ボタンに関しても同じだ。
言葉の意味は分かっても、具体的にどういった機能があるのかまでは分からない。
……ただ一つ、それらのボタンの中で最も離れた箇所にある、プラスチックで蓋をされた物を除いて。
その下には、赤い文字で“Disposal(廃棄)”とだけ書かれていた。
「……」
心に芽生える迷いを胸に、カプセル内部の少女へと目を向ける。
依然として変わらぬ、無感情極まりない横顔。
その表情は、眠っていると言うより、まるでんでいるようだった。
「……」
無言のまま、プラスチックの蓋を開け、そのボタンを押す。
瞬間、少女の体から全てのコードが外れ、カプセルの底が抜けた。
流れ落ちる液体と共に下方へと落下し、その姿は直ぐに消えて見えなくなる。
「なっ……お前……」
何かを言おうとするスラッグ。
「……」
だが、そこから先を口にすることはなかった。
言いたいことは分かる。
言いたい気持ちも分かる。
しかし、こうする他ないのだ。
そのことを、スラッグ自身理解しているからこそ、口をつぐまざるを得なかったのだろう。
「……スラッグ。そっちの列を頼む」
「……あぁ」
力なく答える。
さっきまで、銃を握っていた時とは、似ても似つかぬ弱々しい声だった。
今から行う内容を考えれば、それも無理はない。
殺人者と後ろ指を差されようと、否定はできないかもしれない。
だからといって、何もしない訳にはいかないのだ。
生きとし生ける者として、この光景を許してはいけない。
今、我々の目の前にあるのはモノ。
人ではなく、人の手によって生み出された、罪深い人工物。
だから壊す。
そう、自分に言って聞かせないと、罪悪感に押し潰されてしまいそうだ。
可能な限り淡々と、機械的にボタンを押し、出来るだけカプセル内には視線を送らない。
そうやって、次から次へとボタンを押していく内に、やがて最後の一つを迎える。
今までやってきたのと同じように、私はボタンを押した。
……否、押そうとした。
しかしそんな私の行為は、突然カプセル内で起きた異変によって、未然に防がれてしまった。
反射的に、そちらへと目を向けてしまう。
カプセル内部を満たしていた液体がゆっくりと排出され、それに伴って一本、また一本と外れていくコード。
液体が無くなり、全てのコードが外されたところで、カプセル外縁のガラスが下部へと収納される。
短く艶やかな黒髪を持つ少女の体が、あらゆる拘束から解き放たれ、私の方へと倒れ込んできた。
「……」
無言のまま、私はベレッタの銃口を少女に向けた。
引き金に掛けた指に、ゆっくりと力を込める。
……何故だか、引き金が重い。
いくら力を入れようとしても、指は小刻みに震えるだけ。
まるで、指先だけが局部的に麻痺してしまったかのようだ。
「……」
そんな私を、ずぶ濡れの少女が見上げる。
「……クスッ」
そして、彼女は小さく笑みを溢した。
無邪気なようで、その実妖艶さを孕んだ妖しい微笑。
それは、到底少女の浮かべられる笑みではない。
この事実が証明するのは、今、私の足元にいる少女が、ただの少女とは明らかに一線を画する存在であるということだ。
……生かしておくわけにはいかない。
「すまない……」
小声で謝罪の言葉を述べる。
謝って済む話でないことは、私とて理解している。
しかし、それしか掛ける言葉は見当たらなかった。
「……すまない」
もう一度小さく呟き、私は引き金を引いた。

月夜 2010年07月10日 (土) 01時05分(208)
題名:決着~After Story~(第八章)

――英国、マンチェスター動物園跡地、8/1、現地時間00:00


地下施設を後にした嘉治とスラッグは、地上へと上がり、無人無生物と化した旧動物園の敷地内を、悠然とした足取りで歩いていた。
外はまだ暗く、街灯の光さえ届かぬこの場所は、雲間から射し込む僅かな月明かりだけが頼りだ。
そんな中でも、二人の歩みに迷いはなく、踏み出す足はしっかりと地を掴んでいた。
砂利を踏みしめる足音からも、おぼつかなさは感じられない。
辺りを吹き抜けるのは、乾燥した冷たいそよ風。
夜の英国ということもあり、日本のそれのように湿ってはおらず、まだ熱の残る二人の体を心地よく包む。
「嘉治さんよ」
「何だ?」
「ほら」
暗闇の中、スラッグが何かを嘉治に向けて放った。
難なく片手でそれを受け取る。
何気ない行為ではあるが、常人ならまず間違いなく、視認さえ出来ずに落としてしまっていたであろう。
手を開き、その何かへと目線を落とす。
そこにあったのは、黒く平べったい、長方形の物体だった。
その中央部、僅かにへこんだ箇所には、何やら丸いスイッチが見える。
「これは?」
「あの施設に仕掛けた爆弾の起爆装置だ。あんたが押しな」
「……」
その言葉に、嘉治は黙り込んで、再度装置へと目を落とした。
静かに瞼を閉じる。
それはまるで、死者へ黙祷を捧げているかのよう。
しばらくの後、ゆっくりと目を開き、そして――。

「……」

――強く、そのスイッチを押し込んだ。
振り返る先から聞こえてくる、くぐもった爆発音と、地震のような激しい振動。
それは数秒間に渡って続き、フェードアウトするようにして消え失せた。
あの施設がどうなったのか、ここからでは正確に知る術はない。
「……終わったな。これで、本当に……」
にもかかわらず、嘉治は感慨深い声音で、そう呟いた。
「……あぁ、そうだな」
そんな彼の言葉に、相槌を打つスラッグ。
その声色の節々から感じられるのは、疲労混じりの達成感といったところだろうか。
「……」
「……」
両者共に、向ける眼差しは一人一様。
その瞳の奥に宿る光は、えもいわれぬ悲壮感を漂わせていた。
「……それよりも、だ」
不意に、嘉治は目線をスラッグへと向けると、こう切り出した。
「そいつ、どうするつもりなんだ?」
そう尋ねる嘉治の目は、正確にはスラッグではなく、彼の腕の中へと向けられていた。
そこには、毛布にくるまれ、安らかに寝息を立てている少女の姿があった。
「どうするも何も、道中言った通りだ。俺がしっかりと育ててやるよ。……ちゃんと、人としてな」
スラッグはそう呟き、少女の小さな頭を、その大きな手でいとおしむように撫でる。
少女を見つめる優しく暖かい眼差しに、柔和で穏やかな表情。
それは、まるで親が愛し子に対するかのような、慈愛溢れる姿だった。
「……そうか」
ただ一言、そうとだけ返し、嘉治は止めていた歩みを進め出す。
そんな嘉治と肩を並べるように、スラッグも歩き始めた
「あんた、これからどうするんだ?」
「日本に帰るさ」
「だが、まだこの時間だ。空港が開くまでには、大分時間があるぜ?」
「そうだな」
左腕に巻いた腕時計に目をやる。
そこに示される時刻は、深夜一時過ぎ。
確かに、フライト開始時間までは、まだまだ遠い。
「そこで提案だ。家に来ねぇか? 紅茶くらいなら用意してやるぜ?」
「私は紅茶よりコーヒー派なんだがな。まぁ、それで我慢しよう」
「ご馳走してもらう側が、やけに強気じゃねぇか。いらねぇなら別にいいんだぜ?」
「冗談だ。ご馳走になるよ」
他愛もない会話を交わす嘉治とスラッグ。
両者の口元に浮かぶ、月明かりに照らされた微かな笑みは、微笑んでいるようにも、また憂いを帯びているようにも見えた。

月夜 2010年07月10日 (土) 01時06分(209)
題名:決着~After Story~(あとがき)














ウボァー!!(゜Д゜)






現在PC版アトリエに、今まで書いた小説を移行するという作業中。
めんどくさいであろうことは予想済みでしたが、まさかこれ程とは……(´・ω・`)

このままでは俺の怒りが有頂天に達したが最後、この怒りはしばらく収まることを知らず、最終的には裏世界でひっそりと幕を閉じることは確定的に明らか(´・ω・`)


……あれだけやって、現状まだ半分とちょっととか……(´;ω;)














なんていう嘆きの声は置いといて、これにてO.L.は無事第一部完といった感じです。
正直、ちょっと蛇足な感は否めませんが、最後の後始末としてマンチェスターの生物兵器施設は、さすがに放置できないと思って作りました。

……まぁ、社長に何とかして活躍の場をあげたかったというのもあったりなかったり(´・ω・`)

あ、後月夜に吠えろからメールを下さった方、本当にありがとうございました~(´・ω・`)b

敢えて名前は出しませんが、返信アドレスなかったんでお返事出来ませんでしたので、この場を借りてお礼を言わせていただきますm(_ _)m


……それにしてもあの化け物っ娘、人気高すぎやしませんか?
感想とかアンケートとかメールとか、色んなところにあの娘に対する好意的な発言が満ち溢れてるんですけど。
主役の水亜姉さんを差し置いて、人気キャラトップほぼ間違いなしなんですけど。
……姉さん涙目(´・ω・`)


まぁ、私も当然嫌いじゃないですけどね。
しかし、水亜姉さん一番は揺るがぬ不文律。
ロリッ娘より姉でしょ、やっぱ(´・ω・`)


さて、とりあえずあとがきはこの辺で終わりにしておきましょうか。
長々と続いたO.L.も、これをもって堂々の第一部完結!
だけど、まだこれからもこの作品はつらつらと書いていきたいので、今後ともよろしくということでどうか一つ(´・ω・`)b

今回の作品に対する感想等ございましたら「小説感想アンケート板」または「小説感想掲示板」、「月夜に吠えろ」まで、ホント何時なんどきどこからでも送ってやってくださいませ(´・ω・`)ノ

それでは、また次回作でお会いしましょう。

ここまでは、病気療養中だった私の好きな実況者さんの、最近になってようやくの復活に

イヤッホォウ!(゜∀゜)

とハイテンションになっている私こと、月夜がお送りしました。















ダガシヤさんという名で、ウィザードリィの実況をしている方なので、気が向いたら是非一度ご覧になってはいかがでしょうか(´・ω・`)b

月夜 2010年07月10日 (土) 01時08分(210)


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