――ガシュッ。
「あ、おかえり〜」
「お帰りなさいませ、博士」
「ただいま。何か変わったことは?」
「新たに惨殺と拒絶の二人が覚醒いたしましたわ。あ、コーヒーでもお淹れしましょうか?」
「あぁ、頼む。そうか、これでまだ覚醒していないのは、S.I.を含めて残り6人か」
「にしても、なかなか肝心なところが目覚めてくれないね〜」
「世の中とはそういうものだ。そうそう上手く回ってはくれんよ」
「そんなもんなのかなぁ……あ、ついでに私の分もよろしく〜」
「なんで私が、貴女の分までやらなきゃならないの? 自分の分くらい、自分でお作りなさい」
「あ、ちょっ……」
――ガシュッ
「このドケチー! ……はぁ。おじいちゃんの言う通り、上手く回らないね」
「ははは、頼む前から結果は見えてただろうに」
「まぁ、そうだけどさぁ……ねぇ、おじいちゃん」
「何だ?」
「……私たち、なんでこんな事してるのかな」
「……」
「いきなり他人をあんな世界に放り込んだ挙げ句、必に生きている皆を、私たちはこっち側からのうのうと観察するだけ……時々思うんだ。私たちって、なんて冷たいんだろう……って」
「……仕方のないことだ。我々の今していることも、誰かがやらねばならないことなんだ」
「わかってる。わかってはいるんだよ? それでも、私はこんなこと……」
「……したくないか?」
「……」
――コクッ。
「そうか……なら、無理をすることはない。苦しいのなら、いつ離れてもいいんだぞ」
「……」
「……」
「……それは、もっとイヤ」
「何故だ?」
「他の皆だって、きっとおんなじだもん。私だけ、この苦しみから逃げるようなこと、したくないよ」
「……お前らしいな」
「おじいちゃんの方こそ、そういうこと考えたりしないの?」
「……嫌になったことがないと言えば、嘘になるかもしれんな。いや、むしろ嫌にならないことの方が少ないだろう」
「おじいちゃんも?」
「誰だってそうさ。こんな狂った悪夢のような世界に誰かを落とし、冷徹にその動向を観察する。心の奥底では、誰もそんなことしたくないに決まっている」
「……」
「しかし、さっきも言ったように、これは誰かがやらねばならないことなんだ。そして、その任に適しているのは、第三者でいることに苦痛と懺悔を覚えられるような、心優しい人間だと私は考えている。そして、私は確信している。お前は、そういう優しさを持った人間だと」
「……」
「……だが、どうしても苦しいと言うのなら、もちろん強制はしない。今すぐ外れたって、誰も責めは……」
「さっきも言ったでしょ? それは、絶対にごめんだって。それに、私が最近考えてるのは、それだけじゃないんだよ」
「どういうことだ?」
「私たちが今していること……本当に必要なことなのかな?」
「……」
「……」
「……そうだ」
「……そっか」
「……」
「……」
――ガシャッ。
「博士、コーヒーお淹れしました……あら? どうかなされたんですか?」
「ううん、別に何でもないよ〜……って、あれ? 何でカップが二つも?」
「自分の分もよろしくと頼んだのは貴女でしょう」
「じゃあ、これ私の分?」
「オマケですわ。ちょうどインスタントコーヒーが一つだけ余ってしまいましたので。ですから、くれぐれも勘違いなさらないように」
「そんな恥ずかしがることないじゃな〜い。素直に私の為に淹れてあげたって言えばいいのに……あ、そうか。これが昨今巷を賑わせている、ツンデレってやつね。なるほどなるほど」
「……気が変わりましたわ。やっぱり、貴女の分は無しです」
「じゃあ、それ誰が飲むの? 確かあんた、コーヒー嫌いじゃなかったっけ?」
「もう少ししたら彼も戻ってくるでしょうから、その分にあてますわ」
――ガシャッ。
「ほら、噂をすれば」
「ただいま戻りました」
「お帰りなさい。疲れたでしょう? コーヒーでもいかが?」
「あ、いいんですか? 是非いただきま……」
「ダメー!」
「わっ!? な、何なんですかいきなり!?」
「そーれーはーわーたーしーのーぶーんー!」
「ちょっ、ま、待って下さいよ! 分かりました! 分かりましたから、そんなに揺らさないで下さい! 溢れちゃいますってば!」
「……」
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