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新世界作品置き場

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タイトル:新世界9 SF

――己の中に巣くう、アナンタという名の殺人嗜好的な神憑。このままでは、自分の知らない内に、この手が誰かを殺めてしまうかもしれない。だからといって、自ら命を絶つのは怖い。そんな二律背反的な思考の板挟みに合う鏡架が導き出す結論とは……。そして、覚醒する蒼空の神憑。彼が夢奏に向けた発言の真意とは、いかなるものなのか。 だんだんと話が進むにつれて、コメディ要素を失いつつある新世界! シリアス一辺倒になる日の近さを想像させる、新世界第H作目!

月夜 2010年07月09日 (金) 15時05分(117)
 
題名:新世界9(第一章)

――ガシュッ。

「あ、おかえり〜」

「お帰りなさいませ、博士」

「ただいま。何か変わったことは?」

「新たに惨殺と拒絶の二人が覚醒いたしましたわ。あ、コーヒーでもお淹れしましょうか?」

「あぁ、頼む。そうか、これでまだ覚醒していないのは、S.I.を含めて残り6人か」

「にしても、なかなか肝心なところが目覚めてくれないね〜」

「世の中とはそういうものだ。そうそう上手く回ってはくれんよ」

「そんなもんなのかなぁ……あ、ついでに私の分もよろしく〜」

「なんで私が、貴女の分までやらなきゃならないの? 自分の分くらい、自分でお作りなさい」

「あ、ちょっ……」

――ガシュッ

「このドケチー! ……はぁ。おじいちゃんの言う通り、上手く回らないね」

「ははは、頼む前から結果は見えてただろうに」

「まぁ、そうだけどさぁ……ねぇ、おじいちゃん」

「何だ?」

「……私たち、なんでこんな事してるのかな」

「……」

「いきなり他人をあんな世界に放り込んだ挙げ句、必に生きている皆を、私たちはこっち側からのうのうと観察するだけ……時々思うんだ。私たちって、なんて冷たいんだろう……って」

「……仕方のないことだ。我々の今していることも、誰かがやらねばならないことなんだ」

「わかってる。わかってはいるんだよ? それでも、私はこんなこと……」

「……したくないか?」

「……」

――コクッ。

「そうか……なら、無理をすることはない。苦しいのなら、いつ離れてもいいんだぞ」

「……」

「……」

「……それは、もっとイヤ」

「何故だ?」

「他の皆だって、きっとおんなじだもん。私だけ、この苦しみから逃げるようなこと、したくないよ」

「……お前らしいな」

「おじいちゃんの方こそ、そういうこと考えたりしないの?」

「……嫌になったことがないと言えば、嘘になるかもしれんな。いや、むしろ嫌にならないことの方が少ないだろう」

「おじいちゃんも?」

「誰だってそうさ。こんな狂った悪夢のような世界に誰かを落とし、冷徹にその動向を観察する。心の奥底では、誰もそんなことしたくないに決まっている」

「……」

「しかし、さっきも言ったように、これは誰かがやらねばならないことなんだ。そして、その任に適しているのは、第三者でいることに苦痛と懺悔を覚えられるような、心優しい人間だと私は考えている。そして、私は確信している。お前は、そういう優しさを持った人間だと」

「……」

「……だが、どうしても苦しいと言うのなら、もちろん強制はしない。今すぐ外れたって、誰も責めは……」

「さっきも言ったでしょ? それは、絶対にごめんだって。それに、私が最近考えてるのは、それだけじゃないんだよ」

「どういうことだ?」

「私たちが今していること……本当に必要なことなのかな?」

「……」

「……」

「……そうだ」

「……そっか」

「……」

「……」

――ガシャッ。

「博士、コーヒーお淹れしました……あら? どうかなされたんですか?」

「ううん、別に何でもないよ〜……って、あれ? 何でカップが二つも?」

「自分の分もよろしくと頼んだのは貴女でしょう」

「じゃあ、これ私の分?」

「オマケですわ。ちょうどインスタントコーヒーが一つだけ余ってしまいましたので。ですから、くれぐれも勘違いなさらないように」

「そんな恥ずかしがることないじゃな〜い。素直に私の為に淹れてあげたって言えばいいのに……あ、そうか。これが昨今巷を賑わせている、ツンデレってやつね。なるほどなるほど」

「……気が変わりましたわ。やっぱり、貴女の分は無しです」

「じゃあ、それ誰が飲むの? 確かあんた、コーヒー嫌いじゃなかったっけ?」

「もう少ししたら彼も戻ってくるでしょうから、その分にあてますわ」

――ガシャッ。

「ほら、噂をすれば」

「ただいま戻りました」

「お帰りなさい。疲れたでしょう? コーヒーでもいかが?」

「あ、いいんですか? 是非いただきま……」

「ダメー!」

「わっ!? な、何なんですかいきなり!?」

「そーれーはーわーたーしーのーぶーんー!」

「ちょっ、ま、待って下さいよ! 分かりました! 分かりましたから、そんなに揺らさないで下さい! 溢れちゃいますってば!」

「……」

月夜 2010年07月09日 (金) 15時06分(118)
題名:新世界9(第二章)

「……」
目の前に立つ、血の赤に染まった少女。
その赤は自らの血ではなく、全てがその手で殺めた第三者の返り血。
残酷な薄ら笑いを口元に浮かべ、手に付着した血を舌で舐め取りながら、輝きのない瞳でこちらを見据える。
一見無防備。
だが、その実まるで隙などないことを、私は自身の過去の経験から知っている。
かといって、見に回っているだけでは意味がなく、相手に攻められて一度守に転じれば、その瞬間から勝機はない。
ならば、取るべき手段は一つ……専攻一徹、殺られる前に殺る!
「はっ!」
両脇にそびえ立つ木に手を触れ、力を流し込んだ。
急速に成長する枝が、先鋭たる刃となって、仇為す者を刺突せんとする。
しかし、そんな単純な攻めでどうにかできる相手ではない。
迫り来る槍撃の隙間を縫うようにして、そのまま一気にこちらへと駆けてきた。
だが、これは予想の範疇であり、対応策もある。
「そこっ!」
再度、今度はより一層の力を両木に送った。
伸びた枝の至るところから、更に幾本もの鋭い刺突が放たれる。
両サイドからの不規則な攻撃。
そのどれもが、並大抵の輩では反応すらできない速度だ。
常人なら今頃全身を串刺しにされて、瞬時の内に絶命している。
「クスッ……」
にもかかわらず、私の目の前にいるそいつは、笑いながらその攻撃をかわしていた。
あるものは避け、あるものは手刀で切り裂き、ただの一つも掠りさえしない。
その上、徐々にではあるものの、確実に距離は詰められてゆく。
接近を許してはいけない。
この相手に対し、間近まで肉薄されることだけは、何としても避けなければならない。
とは言え、これ以上攻めの手を増やすことは不可能だ。
考え得る手段としては……今すぐこの木から手を離し、力を送る場を大地へと変える。
眼前に土壁を形成して身を守ると同時に、今度は足下から土の槍を生み出しての攻撃。
これが、取るべき手段として最も効率的。
機を見て一気に……、

――今だっ!

……動く!
素早くその場に屈み、大地へと掌を叩き付けた。
……否、叩き付けようとした。
その行為が未遂に終わってしまったことを、私はしばらく理解出来ずにいた。
そのことを、最初に教えてくれたのは、肘付近を境に感じた違和感。
確信を得たのは、そこに視線を落とした時だった。
キレイに切り落とされた両腕と、そこから壊れた蛇口のように噴き出す血液。
「クスクス」
そして、そんな私のすぐ目の前には、愉悦の笑みを浮かべた少女が、まるで楽しそうな玩具を見つけた子どものような眼差しで、私を見下ろしていた。
「……」
言葉もない。
こうなってしまっては、もう死の定めより逃れる術はない。
私は諦観の念と共に、瞳を閉じた。

月夜 2010年07月09日 (金) 15時07分(119)
題名:新世界9(第三章)

ティラ「……」

――ダンッ!

ティラ「くそっ……!」

???「随分と荒れてるな」

ティラ「エ……春さん……」

春「こんな夜中に木を殴り付けたりなんかして、どうしたんだ?」

ティラ「え、えっと……あ、あはは……ちょっと眠れなくて、イライラしてたもので……」

春「イライラしてた、ねぇ……にしては、盛大に暴れてたみたいじゃないか」

ティラ「そ、それは……」

春「アナンタ戦を想定してのイメージトレーニングか?」

ティラ「……」

春「隠さなくたっていいだろう。それくらいわかるさ」

ティラ「……そう、ですね……」

春「ま、その様子だと、あまり良い結果にはならなかったみたいだな」

ティラ「……えぇ」

春「当然だろうな。神憑としての格は奴の方が上なんだ。その上、お前には以前、奴に殺されたという苦い過去がある」

ティラ「……そんなこと、良く覚えてましたね。私にとってはつい最近のことでも、貴方にとってはもう遥か昔のことでしょうに」

春「記憶力には自信があるんでな」

ティラ「自分の過去の汚点は直ぐに忘れるくせに、他人のことは良く覚えてるんですね」

春「……あの話はもう二度とするんじゃないぞ」

ティラ「そう睨まないで下さいよ。黙ってて欲しいなら、秘密にしといてあげますから」

春「喋っても構わないが、それ相応の仕打ちは覚悟しろよ」

ティラ「おぉ、怖い怖い」

春「……」

ティラ「……」

春「……ティラ」

ティラ「何です?」

春「……お前、あの時なんであんな嘘を吐いたんだ?」

ティラ「えっ?」

春「昼間の話だよ。鏡架の手首から下を切るって話をしてた時だ。お前言っただろ? アナンタの力を本当に無力化しようと思ったら、肩口から切り落とさないとダメだって」

ティラ「あぁ、そのことですか」

春「あの場は何も言わなかったが、アナンタの力は指を含めてその延長線上に不可視の刃を生み出すものだ。手首からなどと言わずとも、指を落とせばそれで解決すること」

ティラ「あら? そうでしたっけ?」

春「しらばっくれるんじゃない。実際に戦ったお前が、そんな下らない勘違いをするはずないだろう」

ティラ「……」

春「別に責めているわけじゃない。鏡架を守るために言ったのだろう? お前らしいっちゃあお前らしいさ」

ティラ「私らしい……ですか」

春「あぁ。神憑でありながら非好戦的で他人に甘いお前らしいよ」

ティラ「何だか嫌な言い方ですね。どうせなら、慈悲深く優しいって言ってくれません?」

春「こんな狂った世界でさえなければ、そう言ってやることもできただろうが、ここではそうもいかないな。お前だって、良く分かっているはずだ」

ティラ「……」

春「欺瞞、猜疑、嫉妬、憤怒、憎悪、悔恨……この世界に渦巻く負の想念は、そのどれもがそれぞれの神憑の本能に基づき、抑えようのない殺意へと直結する。故に、互いに殺し合うことは止められない。それは、この世界においては必然だ」

ティラ「……」

春「……だから、実を言うとあの時、俺はちょっと嬉しかったんだ」

ティラ「え……?」

春「こんな狂った世界で、本能的な殺意の衝動に駆られながらも、お前はずっとお前のままだ。他人を慈しむ心を忘れはしない」

ティラ「……そうでもないですよ。私だって、人を殺めたことはあります」

春「それは、そうせざるを得ない状況だったのだろう?」

ティラ「誰かを殺したことのある者は、一人の例外もなく殺人者。数の大小、その時の状況云々は関係ありません」

春「だとしてもだ。お前は好き好んで他者の命を奪おうとはしない。何事にも最期のその時まで決して屈せず、覆しようのない運命を前にして尚抗い続ける……そんなお前が、俺にとっては救いだ」

ティラ「エナ……」

春「……」

ティラ「……怒らないんですか?」

春「今くらいは良いだろう。呼び名如きで暗い過去に縛られていては、前になど進めん」

ティラ「そうですね……」

春「……」

ティラ「……エナ」

春「……何だ?」

ティラ「貴方は、一つだけ勘違いをしているわ」

春「?」

ティラ「私は、覆しようのない運命に対して抗ってるわけじゃないわ。そんなの、ただの醜い悪あがき。私は、定められた運命を覆したいからこそ抗っている。絶対不変の運命なんて、この世に存在しないわ」

春「……そうだな、その通りだ」

ティラ「エナ……終わらせましょう! 今度こそ、この狂った世界を!」

春「……あぁ!」

月夜 2010年07月09日 (金) 15時08分(120)
題名:新世界9(第四章)

月夜「すか〜……くか〜……」

白月「全く……まだ寝てるんですか、このお天気小娘は」

朱蒼「あら、いつものことじゃない。貴女もいい加減慣れたでしょう?」

白月「……それでも、やっぱり呆れ返りはしますね。もう日も昇りきって完全にお昼時なんですよ?」

マヤ「ま、そこも含めていつものことだな」

春「あぁ。今更呆れることでもない」

メカ「そうそう。このズボラさも、月夜の個性の一つと割り切らなきゃ」

グリッジ「なんじゃ、月夜ちゃんはいつもそんなに起きるのが遅いのか?」

白月「遅いなんてものじゃありません。この娘なら、下手をすると睡眠だけで一日二日くらいなら平気でワープしかねません」

蒼焔「そ、それはさすがに言い過ぎなんじゃ……」

朱蒼「う〜ん……あながちそうとも言い切れないのが、この娘の恐ろしいところよね」

蒼焔「そ、そうなんですか……」

朱蒼「蒼焔ちゃんは朝強い? ちゃんと一人で起きられる?」

蒼焔「こ、子供扱いしないで下さい! それくらいできるに決まってます!」

朱蒼「あら、残念。それじゃあ、蒼焔ちゃんの可愛い寝顔を見れる機会は少なそうねぇ」

蒼焔「な、ななな……っ!?」

グリッジ「あぁ、こいつの涎垂らしただらしない寝顔なんぞ見ても、可愛らしくもなんともないじゃろう」

蒼焔「でたらめ言うなっ!」

――ブンッ!

グリッジ「フォッフォッフォッ。当たらん、当たらんなぁ」

艦隊「……ああいうのが趣味なのか?」

朱蒼「なんでも味見はしてみないと。食わず嫌いは損だからね。貴方も相手して欲しいのかしら?」

艦隊「そ、そんなことは……」

朱蒼「そうねぇ……今ここで跪いて、私は貴女の下僕ですって言ったら、相手してあげなくもないわよ?」

艦隊「なっ……だ、誰がそんな屈辱的なことを……!」

マヤ「おい、跪くな跪くな」

メカ「お前、言ってることとやってることが真逆だぞ。屈辱的なんじゃないのか」

艦隊「我々の業界ではご褒美です」

春紫苑「……救えぬアホだな」

ユスティス《初めて意見が一致したな》

春紫苑「ふん……」

マヤ「そんなことより……」

ギスラウ「ぐが〜……ぐご〜……」

マヤ「俺はあの不可思議な生命体のことの方が気になるんだが」

メカ「同感だ。イビキをかく鳥なんて聞いたこともない」

春「それを言うなら、人間の言葉を解するだけでなく用いているなど、現物を見ても未だに信じられん」

朱蒼「あれで身動きせずイビキもかかずだったら、小さい抱き枕に見えなくもないんだけどねぇ」

艦隊「むしろあれ、抱かれてる本人は苦しくないのか?」

月夜「んぅ……」

――ゴロン。ガスッ!

ギスラウ「へぶしっ!?」

月夜「ふにゅぅ……」

――ゴロン。グシャッ!

ギスラウ「ぎゅふぇぱぁっ!?」

月夜「すぅ……すぅ……」

ギスラウ「へ、へへへ……くか〜……」

艦隊「……いずれ死ぬんじゃないか、あいつ」

白月「……別に良いんじゃない? 幸せそうだし」

朱蒼「そうね。彼女の胸の中で腹上死出来るんなら、アレにとっても本望でしょう」

鏡架「いや、これ腹上死って言わないんじゃ……」

朱蒼「言葉の意味じゃなく、文字の羅列的な意味で解釈したら、これだって立派な腹上死よ……ん?」

鏡架「?」

朱蒼「き、鏡架さん!?」

鏡架「きゃっ!? し、朱蒼さん、いきなりどうしたんですか!?」

朱蒼「い、いえ、ずっと寝ているものだとばかり思ってたから、ちょっと驚いただけよ。ごめんなさい」

鏡架「そ、そうですか……」

マヤ「おはよう。気分はどうだい?」

鏡架「マヤさん……正直言って、あまり良くないです……」

朱蒼「大丈夫? どこか悪いんなら、診てあげましょうか?」

鏡架「いえ、平気です。少し気分が悪いくらいで、他はどこも大丈夫ですから」

春「起きる前と後で、何か違和感はないか?」

鏡架「違和感……ですか?」

艦隊「例えば、頭の中で誰かの声がするとか」

鏡架「誰かの声……!? そういえば昨夜、寝つけなくて外の空気を吸いに行った時、聞き覚えのない声がしたような……あれ? そう言えば私、いつの間に寝ちゃったんでしょう……?」

グリッジ「何も覚えておらんのか?」

鏡架「はい……誰かの声が聞こえたところまでは覚えてるんですけど、そこから先は何も……」

春紫苑「そうか。なら教えてやるさ。お前が何をしでかしたのかをな」

鏡架「……」

朱蒼「ちょっと貴方、何を言うつもりかは知らないけど、少しは言い方ってものを考えて……」

鏡架「……いいんです」

朱蒼「鏡架さん?」

鏡架「いいんです……私、自分では何も覚えていないんですけど、とんでもない過ちを犯したんですよね?」

朱蒼「それは……」

春紫苑「あぁ、そうだ」

朱蒼「っ!? 貴方……!」

鏡架「いいんです、朱蒼さん」

朱蒼「でも……」

鏡架「知らない、分からない、覚えていない。このままじゃいずれ、私は何も知らないまま、取り返しのつかない過ちを犯してしまう。そしてその過ちは、きっと私自身だけじゃなく、他の皆さんにも被害をもたらしてしまう。……私はそれが、何より怖いんです」

朱蒼「鏡架さん……」

鏡架「ですから……教えて下さい!」

春紫苑「……良い度胸だ」

朱蒼「鏡架さ……」

――ガッ。

メカ「それくらいにしておけ」

朱蒼「メカさん……」

メカ「お前のその優しさは、鏡架の為にならない。そのくらい、お前だって分かっているはずだ」

朱蒼「……」

グリッジ「そうじゃな。自らが傷付くことを恐れず、他者を傷付けてしまうことを怖れる彼女の強い気持ちを、その優しさで無下にしてしまうのは、果たして本当に彼女の為なのかのぅ」

朱蒼「……そう……ですね」

春「鏡架は、お前が思っているより強い。お前も、彼女のことを信頼してやるんだな」

朱蒼「……はい」

月夜 2010年07月09日 (金) 15時08分(121)
題名:新世界9(第五章)

――ガチャッ、ガチャガチャッ。

蒼竜「……」

――お前程度を相手に、道具の力を借りる必要があるのか?

蒼竜《あの野郎……次会った時は、必ず殺してやる……!》

――ガチャガチャ。

蒼竜《……とは言え、あの反応速度だ。銃はあまり効果が期待できない。なら、こうやって銃の手入れをしたところで、意味はないか?》

伽藍「……」

――ガチャガチャ。

蒼竜《かといって、肉弾戦でやり合ったとなれば……戦えなくもないだろうが、恐らく俺の方が僅かに不利。だが、退くなんてことは俺のプライドが許さねぇ》

伽藍「……」

――ガチャガチャ。

蒼竜《……今、この場でいくら考えたところで、しょうがないか。出たとこ勝負、その場で臨機応変に考えるのが一番。ならば、戦闘の最中に銃を使うという判断に至った時、問題なく使えるよう整備を怠らないこと。これが、今の俺に出来る全てだ!》

――ガチッ!

蒼竜「……よし」

伽藍「……あの」

蒼竜「ん? 何だ?」

伽藍「あ……えと……な、何でも、ない……」

蒼竜「? どうしたんだよ。何でもなくはないだろ?」

伽藍「……」

蒼竜「今更遠慮か? ほら、言ってみろよ」

伽藍「何か……怖い……」

蒼竜「怖いって……何が?」

伽藍「蒼竜さんが……」

蒼竜「俺が?」

伽藍「……」

――コクッ。

蒼竜「どうして?」

伽藍「……」

蒼竜「その程度で怒ったりしないから、言ってくれよ」

伽藍「目が……怒ってた……」

蒼竜「目が?」

伽藍「……銃を見てる目が……怖かった……」

蒼竜「……あぁ」

蒼竜《確かに、さっき銃を弄ってた時、あの野郎のことばっかり考えてたからな。自然と強張った表情になってたのか》

伽藍「……」

蒼竜「大丈夫大丈夫。ちょっと考え事をしてただけさ。怒ってなんかいないから、そんなに怖がらないでくれよ」

伽藍「……違う」

蒼竜「違う?」

伽藍「怖がってるのは……蒼竜さんも同じ……」

蒼竜「何……?」

伽藍「私だけじゃない……蒼竜さんも……怖がってる……」

蒼竜「俺が……怖がってるだと?」

――コクッ。

蒼竜「……」

伽藍「……」

蒼竜「……くっくっく」

伽藍「?」

蒼竜「ははははっ!」

伽藍「そ、蒼竜……さん……?」

蒼竜「はははっ、俺が怖がってるだって? そいつは傑作だ! あっはははは!」

伽藍「……」

蒼竜「……伽藍、心配するな」

伽藍「えっ……?」

蒼竜「俺があんな奴にビビってるはずないだろ。第一、俺が怖がってちゃ、誰がお前を守るって言うんだ?」

伽藍「……」

蒼竜「お前は、俺が絶対守ってやる。だから安心しろ」

伽藍「……うん」

蒼竜「良い子だ」

伽藍「……」

月夜 2010年07月09日 (金) 15時10分(122)
題名:新世界9(第六章)

夢奏「……」

蒼空「そーっとだぞ、そーっと」

夢奏「はい……そーっと……そーっと……」

蒼空「……」

夢奏「……」

蒼空「今だっ!」

夢奏「ていっ!」

――バシャッ!

夢奏「……」

蒼空「……」

夢奏「うぅ……逃げられちゃいましたわ」

蒼空「ははは、まぁ、魚を素手で取るなんて、口で言うほど簡単なことじゃないし、仕方ないさ」

夢奏「でも、蒼空は五匹も捕まえてるじゃありませんか。なのに、私ったらもう何十回と挑戦しておきながら、まだ一匹も捕まえられないんですよ?」

蒼空「そりゃ、そんな動きにくい服装じゃあ、余計難易度も上がるよ」

夢奏「むぅ……やっぱり、こんなの脱いじゃおうかしら……」

蒼空「ぶっ!?」

夢奏「どうかいたしましたか?」

蒼空「ぬ、脱ぐって……その下に服とか着てるのか?」

夢奏「いえ、せいぜい下着程度ですけど?」

蒼空「ダメダメダメ! そんなの絶対ダメだって!」

夢奏「どうして?」

蒼空「ど、どうしてって……第一、夢奏は恥ずかしくないのか?」

夢奏「いえ、別に。人間誰しも生まれた時は裸なんですし、特に恥ずかしがることでもないでしょう?」

蒼空「そ、それはそうかもしれないけど……と、とにかく、ダメなものはダメ!」

夢奏「……どうしても?」

蒼空「どうしても!」

夢奏「ぶ〜……」

紗女「坊っちゃん、どうかなさいましたか? 随分と大声を張り上げていたようですけど」

夢奏「あ、紗女さん。聞いて下さいよ。蒼空が、漁獲量で私に負けたくないからって、私に魚を捕らせてくれないんです」

紗女「あら、坊っちゃんってば、そんなみみっちい人だったんですか」

蒼空「違う! 主に向かってみみっちいとか、お前も少しは言葉を選べ!」

紗女「でしたら、なんで彼女に魚を捕らせてあげようとしないんですか?」

蒼空「べ、別に、俺はそんなことはしてないぞ! ただ、和服だと動きにくいからって、服を脱ぐとか言い出したから、それを止めただけで……」

夢奏「別に良いじゃないですか。ねぇ?」

紗女「そこは本人の自由じゃないですかね〜。彼女が脱ぎたいって言うんなら、良いんじゃないですか?」

蒼空「お、おい、紗女!」

紗女「まぁ、これがもし、坊っちゃんが男としての本能と欲望の赴くまま、性欲の捌け口として彼女の衣服をひんむいて、いかがわしい行為に及ぼうとしていたんだとしても、私は全力を以てそのお手伝いしていましたけど」

蒼空「手伝うのかよ! ……ってそうじゃなくて、お前は普段から俺のことをどんな目で見てるんだ!」

紗女「そりゃあ、坊っちゃんだってもう年頃の男の子。あんな本を隠し持つくらいなんですから、性欲をもて余していても不思議はな……」

蒼空「わー! わー! わーっ!!」

紗女「ふぁひふるんへふは(何するんですか)?」

蒼空「……お前、そのことは二度と口にするな」

紗女「あらあら? それが人に物を頼む時の態度ですか?」

蒼空「……黙っていて下さい、お願いします」

紗女「はい、わかりました♪ でも、彼女が脱ぐ脱がないはどっちでもいいんじゃないですか? むしろ、坊っちゃんとしては脱いでくれた方が嬉しいでしょう?」

蒼空「なっ……そ、そんなわけ……」

夢奏「……そうなの?」

蒼空「え……あ、いや、その……」

紗女「ふふっ、盛り上がってきましたね〜」

蒼空「勝手に盛り上がるな!」

紗女「……まぁ、盛り上がってきたところで悪いんですけど、どうやら迅速にここを離れた方が良さそうですね」

蒼空「えっ?」

紗女「ほら、あっち」

――ザッザッザッ。

夢奏「あれは……え、えぇっ!?」

蒼空「そんなに驚いてどうし……なっ、何だあれっ!?」

紗女「聞くまでもなく、小型の恐竜ってやつでしょうね」

蒼空「な、何だってあんなのが、この時代に生き残ってるんだよ!?」

紗女「坊っちゃん、ここは元々私たちがいた世界とは完全に別の世界なんです。何がいたっておかしくはありませんよ」

蒼空「だ、だとしても、あれはさすがに……」

――グオオォッ!

紗女「お喋りは後にして、ここはとりあえず逃げましょう。モタモタしてると、食べられちゃいますよ?」

蒼空「夢奏! 走るぞ!」

夢奏「は、はい!」

月夜 2010年07月09日 (金) 15時11分(123)
題名:新世界9(第七章)

鏡架「……」

春紫苑「……僕が聞いた限りでは、それが全てだ。詳しいことは、実際に当時のお前を目の当たりにしたマヤに聞くんだな」

鏡架「本当……なんですか……?」

マヤ「そうだな。間違ったことは言ってない」

鏡架「そんな……私……私、なんてことを……っ!」

朱蒼「鏡架さん……」

マヤ「気にするな……ってのは無理な話だろうが、今回の傷を負わせたことに関しては、気に病むことはないぞ? この通り完治してるからな」

鏡架「でも……でも、私っ……!」

グリッジ「傷つけられた本人がそう言ってるんじゃ。あまり過去の出来事に縛られちゃいかん。それより大事なのは、これからの話じゃろう」

鏡架「これから……?」

春「率直に聞こう。お前は、この罪を背に、まだ生きることを望むか?」

鏡架「……」

メカ「早い話が、生きたいか死にたいかってことだ」

白月「……」

鏡架「私は……」

白月「……」

鏡架「私は、私を守ってくれた人を、傷付けてしまいました。今回は、幸いにも誰かを殺めたりはしませんでしたが、次もそうとは限りません……」

白月「……」

鏡架「今度こそ、誰かの命を奪ってしまうかもしれない……そんなことになるくらいなら、いっそ……」

白月「……いっそ、今ここで死ぬの?」

鏡架「……」

白月「どうなの? 答えなさいよ」

鏡架「……はい」

白月「っ!!」

――パァンッ!

鏡架「っ!?」

朱蒼「ちょっ、白月さ……」

――ガッ。

朱蒼「えっ?」

蒼焔「……」

朱蒼「……そう、よね……わかったわ、ありがとう……」

蒼焔「いえ……」

白月「……貴女、今自分が何を言ったか、分かってる? 死にたいって言ったのよ? 自ら命を絶ちたいって、そう言ったのよ?」

鏡架「……」

白月「……分かってるのって聞いてんのよ! 何とか言いなさいよ!」

鏡架「……分かってます」

白月「分かってない! 貴女は、死ぬということを、何一つとして理解していない!」

鏡架「……」

白月「人が死ぬっていうことは、死んでしまった当人だけの問題じゃない! その人が生前築いていた関係全てに及ぶ! 家族、親戚、友人、恋人……周りにいる多くの人が悲しむの! そのことを本当に理解している人は、自分から死ぬだなんて絶対に言わない! 絶対に!」

鏡架「じゃあ、どうしたら良いんですか!? このままじゃ、私はまた私でないまま、知らない内に誰かを傷付けてしまうかもしれない! 今度こそ、殺してしまうかもしれない! そんなの嫌っ! そんなの耐えられないっ!」

白月「……だから、誰かを傷付ける前に死ぬの?」

鏡架「そうです! それ以外に、どんな方法があるんですか!? あるって言うんなら、教えて下さいよ! ねぇ! ねぇっ!!」

白月「……」

鏡架「……結局、答えられないんじゃないですか」

白月「えぇ、今の私は、その答えを持ち合わせてはいませんから。ですが、これだけは言わせてもらいます」

鏡架「……何ですか?」

白月「周りを良く見なさい」

鏡架「えっ……?」

春「……」

マヤ「……」

メカ「……」

艦隊「……」

春紫苑「……」

グリッジ「……」

蒼焔「……」

朱蒼「……」

白月「……誰か一人でも、貴女に冷たい眼差しを向ける人はいましたか?」

鏡架「っ!」

白月「今の貴女は、周りがまるで見えていない。自分のことを、自分一人だけで抱え込もうとしている。ですが、そんな必要はありません。答えが見つからないのなら、探せばいい。貴女には、その答えを一緒に探してくれる人が、こんなにいるんだから」

鏡架「でも……でも、私……」

――ギュッ。

鏡架「えっ?」

ティラ「鏡架さん。そんなに一人で苦しまないで」

鏡架「ティラさん……?」

ティラ「貴女の苦しみは、私たち皆の苦しみです。無理して全部背負おうとしないで、私たちにもその重みを分かち合わせて下さい。そうじゃないと、こうして皆で一緒にいる意味がないでしょう? ねぇ?」

春「……一理あるな」

マヤ「そうだな。その通りだ」

メカ「“人”という漢字は、人と人とが寄り添って出来てるって言うくらいだしな」

艦隊「そうそう、何事もポジティブシンキングが一番やで! どんな嫌なことだって、一晩寝て起きたら忘れるくらいがちょうど良いって」

春紫苑「貴様のそれは、能天気とか大雑把と言うんだ。だが、まぁ……どうしても重たいと言うんなら、少しくらいは持ってやってもいい」

グリッジ「ふっはっは、この鍛えぬかれたマッソーボディに、背負えぬものなどないわい!」

蒼焔「あ、その……お、俺で良ければ……」

鏡架「皆さん……」

朱蒼「鏡架さん」

鏡架「朱蒼さん……」

朱蒼「貴女は幸せよ。周りに、こんなにも貴女のことを思ってくれている人たちがいるんだから。そんな私たちを残して、死んじゃうだなんて言わないで」

鏡架「……」

朱蒼「……お願い」

鏡架「っく……ひっ……皆さん……私……私……!」

マヤ「泣くな泣くな。せっかくの美人が台無しだぜ?」

艦隊「いや、でもこうして泣いてる姿も、なんかこうそそるっていうか……」

メカ「じゃあ、ドMのお前は、泣いている女性に足蹴にされたいってことか」

艦隊「……いや、なんかそれは違くね?」

白月「あら、ちょうどいいじゃない。そこに跪いて私を蹴たぐり回して下さいってお願いしたら、やってくれるかもよ?」

艦隊「なっ……誰がそんなふざけたこと……」

マヤ「跪くな跪くな」

艦隊「我々の業界ではご褒美です」

鏡架「ぃっく……ふふっ……」

朱蒼「そうそう、貴女はそうやって笑っているのが一番似合うわ」

艦隊「そうやな。やっぱり何だかんだ言っても、女性は笑顔が一番やな」

春紫苑「なら、高圧的な薄ら笑いを浮かべながら、汚物を蔑むように上から見下しつつ、頭を踏んで下さいってお願いしてみな」

艦隊「な、何だって俺がそんなこと……」

マヤ「跪くな跪くな」

艦隊「我々の業界ではご褒美です」

春「お前の業界ではどこまでご褒美なんだよ」

艦隊「守備範囲の広さに定評のある私です」

メカ「それは守備範囲が広いと言うより、アウトローのボール球しかストライクにならないだけだろ」

艦隊「そうとも言えなくもない」

春紫苑「そうとしか言えないだろ」

朱蒼「それじゃあ、どこまでがストライクゾーンなのか、試してみようかしら?」

艦隊「どうぞ、その美しいおみ足で私めをお踏み下さい」

白月「うわ……」

マヤ「こいつ、もうダメだ……」

ティラ「何とかしてやって下さいよ、そこの看護婦さん」

朱蒼「匙投げさせてもらうわ」

艦隊「即答!?」

鏡架「……ぷっ……」

朱蒼「……?」

鏡架「あっはははは!」

朱蒼「鏡架さん……」

マヤ「良かったな、笑ってもらえたぞ」

艦隊「……いや、なんかこれ、俺の求める笑いと違うっていうか……」

白月「あら、貴方ならてっきりこういう嘲りもご褒美です、って言うかと思ったのに」

メカ「あぁ。むしろ、もっと蔑んで下さいとお願いするのかと」

艦隊「あのなぁ……お前ら、一体俺を何だと……」

春紫苑「ド変態だろ」

マヤ「ド変態だな」

朱蒼「えぇ、ド変態ね」

艦隊「……ここまで一斉に言われると、もはや清々しいぜ……」

鏡架「あはっ、あっははははは!」

一同『あはははは』

月夜 2010年07月09日 (金) 15時11分(124)
題名:新世界9(第八章)

蒼空「はぁっ……っは……」

夢奏「はぁ……はぁ……」

紗女「……」

――グオオオォッ!

蒼空「はぁ……はぁ……くそっ! まだ付いてくるのか! しつこい奴だな!」

紗女「ホントですね。しつこい男は嫌われると相場が決まってるのに……坊っちゃん、間違ってもあんな風になっちゃダメですよ?」

蒼空「あ、あのなぁ……そんな冗談言ってる場合かよ……」

紗女「ごもっともで」

夢奏「はっ……はっ……」

蒼空「……夢奏、大丈夫か?」

夢奏「はっ、はい……ま、まだ何とか……」

紗女《……不味いわね。夢奏さんの体力はもう限界が近いし、坊っちゃんも大分きつそう……早急に何とかしないと……》

――グアアアァッ!

紗女「っ!?」

蒼空「なっ……は、反対側にも……!?」

夢奏「はぁ……うっ……」

蒼空「夢奏!? 大丈夫か!? しっかりしろ」

夢奏「う……は、はい……」

紗女「……坊っちゃん。私が合図したら、彼女を連れて、あっちの方向へ全力で走って下さい」

蒼空「……その間、お前が囮になるって言うのか?」

紗女「さすが坊っちゃん。話が分かりますね」

蒼空「却下だ」

紗女「あらら、何故ですか?」

蒼空「いくらお前が強くても、恐竜二頭を相手に戦えるはずないだろう」

紗女「でも、逃げ回って時間を稼ぐくらいなら出来ますよ。それに、もうそれくらいしか手はないでしょう。このままじゃ、皆まとめて奴らの餌ですよ?」

蒼空「だが……」

紗女「……彼女、死なせたくはないでしょう?」

夢奏「はぁ……はぁ……」

蒼空「夢奏……」

紗女「私の心配はいりませんよ。ひとしきりかき回したら、私も逃げますから。待ち合わせ場所は、いつも寝泊まりしてるあそこにしましょう」

蒼空「……分かった」

紗女「よーし、それじゃ……」

蒼空「紗女」

紗女「はい?」

蒼空「……待ってるからな」

紗女「……はい。じゃあ、いきますよ。1、2の……」

蒼空「……」

紗女「……3っ!」

――グオオオォッ!

蒼空「夢奏! 来いっ!」

夢奏「っ……はっ、はい……」

月夜 2010年07月09日 (金) 15時12分(125)
題名:新世界9(第九章)

「くっ……!」
その場から大きく前方へと跳び込み、前転の要領で衝撃を和らげながら、背後を振り返りつつ素早く立ち上がる。

――グオオオォッ!

――グアアアァッ!

直ぐ眼前にてけたたましい咆哮を上げる、二頭の恐竜。
その目と食欲に根付く殺意は、真っ直ぐに私だけを見据えている。
……参ったわ。
一頭だけならともかく、二頭となるとさすがに避けるだけでいっぱいいっぱいね。
油断したら、腕や足の一本や二本、直ぐ食いちぎられかねないわ。
かといって、こんなに素早い恐竜二頭を相手に、背を向けて逃げるってのも楽じゃなさそうだし……さて、どうしたものかしら。

――グオオアアァッ!

「ちっ……」
せっかちな奴ね。
少しは考える時間と休む時間をちょうだいよ。
飛び掛かる恐竜の鋭い爪を、横に跳んでかわす。
直ぐ様、時間差で飛び掛かってくるもう一頭の恐竜による噛みつき。
それを、後方に体を展開して避ける。
次いで襲いくる、下から掬い上げるような爪撃。
その軌道上から、身を後ろに反らしてなんとか逃げ延びる……刹那。
「っ!?」
不意に、視界の端に映り込んだ、急速な勢いでこちらへと近付きつつある何か。
尻尾による薙ぎ払い!?
脳がそれを認識した頃には、もう時既に遅し。
避ける手立てはない。
反射的に腕を立て、何とか防御を試みる。

――ミシッ。

「ぐっ……!」
鈍く湿った耳障りな音が、頭の芯に不気味に響く。

――ドンッ!

「くぁっ……!」
背中から木に激突し、一瞬呼吸が止まる。
肺から全ての空気を絞り出されるような感覚。
視界が揺らぎ、激しい嘔吐感が込み上げてくる。
ともすれば膝を付き、その場にうずくまってしまいそうになる己を叱咤し、震える足で横っ飛びに大きく跳躍する。
受け身なんて取る余裕はない。
跳躍した勢いそのままに、地面を無様に転がる。

――バキッ!

何かの砕ける音がした。
そう認識した時には既に、先ほど私が叩き付けられた木が、メキメキという気味の悪い音を立てて、倒れ始めていた。

――ドオォン。

木の倒れる音を聞きながら、ふらつく足取りで何とか立ち上がる。
くっ……さすがにこの状況は、ちょっとヤバ過ぎる……。
腕は……痛っ!?
やっぱ、使い物にならないか。
さっきまでならともかく、片腕オシャカにされちゃったら、もう逃げるしかないわね。
到底逃げ切れるとは思えないけど……。

――グオオオォッ!

――グアアアァッ!

……やるしかないっ!

――ガァンッ!

――グギャアアァッ!

「えっ……?」
何が起こったのか、一瞬分からなかった。
何か大きな音が辺りに響いたと思ったら、次の瞬間、恐竜の内一頭が悲鳴を上げて悶え始めた。
大きな音……あれは……銃声……?
「ざまぁねぇな、お前」
「えっ?」
頭上から掛けられた声に、私は反射的に視線を上げた。
ガサッという葉の揺れる音と共に、木の上から一人の女性が飛び下りてくる。
「貴女は……」
「俺のことなんざどうでもいい。そんなことより、今はあいつらをどうにかするべきなんじゃないのか?」
そう言って彼女は、腰辺りまで伸びる青い髪を軽くたなびかせ、油断なく鋭い眼差しで二頭の恐竜の方へと視線を流した。
「……そうですね、仰る通りです」
その視線を追うようにして、私もそちらへと向きを直す。

――グオオオアアアァァッ!!

より一層激しさを増した怒号の雄叫びを上げる奴らの目から感じる殺意は、明らかに先ほど以上。
もう、逃げるなどと悠長なことを言ってはいられなさそうだ。
「お前、まだやれるか?」
「私も甘く見られたものですね。この程度で音を上げるほどヤワじゃありません」
「なら、あの片目潰した方は任せても良さそうだな」
「あら、わざわざ弱ってる方を回して下さるんですか?」
「弱った獲物に興味はないんでな。今のお前でも、あれくらいならなんとかできるだろ」
「当然です。貴女こそ、そんな大口叩いておきながら、無様晒さないで下さいよ?」
「上等だよ。それじゃ……いくぜ!」
「はい!」
彼女の合図を口切りに、私は傷を負った方の恐竜へと駆け出した。

月夜 2010年07月09日 (金) 15時17分(126)
題名:新世界9(第十章)

蒼空「はぁ……はぁっ……!」

夢奏「っ……はっ……」

蒼空「くっ……夢奏、大丈夫か?」

夢奏「はぁ……は、はい……まだ、なんとか……」

蒼空「はぁ……はぁ……ここまできたら、大丈夫かな……夢奏、少し休もうか」

夢奏「はぁ……はぁ……す、すいません……私のせいで……」

蒼空「いや、気にすることないよ。俺もそろそろ足が動かなくなりそうだったから」

夢奏「そ、そう言っていただけると、助かります……」

蒼空「そうだな……辺りには何も見当たらないし、とりあえず呼吸が落ち着くまで休憩しよう」

夢奏「あ、ありがとうございます……」

蒼空「いいよいいよ。それにしても、いきなり恐竜が出てくるだなんて、びっくりしたなぁ」

夢奏「えぇ……本当に、ここは一体どうなってるんでしょうね……」

蒼空「分からないことだらけな世界だからな。何が起きても対処できるよう、常に心構えをしておかないとダメってことさ」

夢奏「……そう、ですね」

蒼空「あぁ」

夢奏「……」

蒼空「……」

夢奏「……蒼空」

蒼空「何?」

夢奏「心配じゃ……ないんですか?」

蒼空「心配って、紗女のことか?」

夢奏「……はい。私が足を引っ張ってしまったせいで、彼女を危険な目に合わせることになってしまったにもかかわらず、そんな私がこんなことを言うのも不謹慎かもしれませんが……」

蒼空「夢奏のせいじゃない。例え俺と紗女の二人だけだったとしても、最終的には同じことになっていただろう」

夢奏「でも……」

蒼空「それに、紗女のことなら何も心配いらないさ」

夢奏「えっ?」

蒼空「あいつ、ああ見えて恐ろしく強いから。それに、約束したしな」

夢奏「約束……?」

蒼空「待ってるぞという俺の言葉に、あいつは“はい”と確かに答えた。大雑把でズボラで面倒くさがりで、おまけに主に対して敬いの態度を欠片と見せない適当な奴だが、俺との約束を反故にしたことだけは、ただの一度もないんだ。だから、俺たちは何とか逃げ延びて、あの場所に帰ることだけを考える。それでいいんだ」

夢奏「……信じているんですね、彼女のこと」

蒼空「当然だろ。あいつは俺の従者なんだ。俺が信じなくて、誰があいつを信じると言うんだ」

夢奏「そうですか……何だか、羨ましいです」

蒼空「羨ましい?」

夢奏「はい。そんなにも誰かを信用できる蒼空さんも、誰かに信用してもらえる紗女さんも、とても羨ましい……」

蒼空「夢奏にはいないのか、そういう人は」

夢奏「私を信じてくれる人なんて……誰もいませんから……」

蒼空「そんなことないぞ。誰からも信じてもらえない人間なんて、この世に一人といないさ」

夢奏「そう、でしょうか……?」

蒼空「あぁ。だから、夢奏を信じている人も絶対にいるよ。……た、例えば、今直ぐ隣にいる誰かとか……」

夢奏「蒼空……」

蒼空「……も、もう十分休んだだろ? そろそろ行こう……ん?」

夢奏「? どうしました?」

蒼空「っ!? 夢奏っ!!」

――バッ!

夢奏「えっ!? な、何……っ!?」

――グオオオォォッ!

蒼空「くっ……!」

夢奏「キャアアアァァッ!!」

月夜 2010年07月09日 (金) 15時18分(127)
題名:新世界9(第十一章)

……何だろう、この感覚。
今までに味わったことのない、奇妙な感じが全身を包む。
無理に例えるなら……そう、水面に大の字で浮かんでいるはずなのに、知らず知らずの内にゆっくりと海底へ沈み込んでいるような、そんな感覚。
目を開けてみても、周囲を満たす暗闇が視界を断つ。
何一つ視認できないが故に、自分自身が認識できない。
一体、ここはどこなんだろう……。
《ここは、てめぇの心の中だよ》
「えっ……?」
不意に響いた声に、慌てて周囲を見渡す。
しかし、その声の主を見付けることは能わなかった。
何も見えないのだから、それも当然だ。
「お前は……誰だ?」
《俺か? 俺はルドゥ。てめぇの神憑だよ》
「神憑……」
確か、この世界に迷い込んだ人間が、不思議な力に覚醒すると同時にその人間に宿る神格だったか。
《正確には、目覚めた力を元来所有していた神格が人間に宿ることを、神憑と言うんだがな》
「そうか……っ! そうだ、夢奏は!?」
《お前のすぐ側にいる女のことか? ……ってか、お前見えてないのか?》
「見えてないと言うか……辺り一面真っ暗で何も見えないんだが……」
《ふ〜ん……まぁ、覚醒してすぐだとそんなもんなのかねぇ》
「俺のことなんかどうでもいいんだよ! それより夢奏は!? 無事なのか!?」
《騒がしい奴だな。無事だから、少し黙ってろ》
ルドゥの鬱陶しそうな声が、暗闇の中で幾重にも重なり合って反響する。
しかし、どうやら無事なようだ。
「そうか……良かった」
《しかし、こいつはそんなに大事な女なのか?》
「お、お前にそんなこと関係ないだろ!」
《もうヤったのか?》
「なっ……そ、そんなわけないだろう! いきなり何聞いてるんだ!?」
《ふ〜ん……ま、俺にゃ関係ねぇけどな》
「ったく……あ、あれ……?」
な、なんだ……き、急に……眠気が…… 。
《疲れたか? 眠たいなら寝てろ。後は俺に任せてな》
「あ、あぁ……」
急速に襲い来る睡魔。
薄れゆく意識の中、考えることさえ億劫になった俺は、奴の提案に頷き、意識の瞼を閉じた。
《……クックッ》
最後……何か聞こえた気がしたが、もう俺に反応する気力はなかった……。

月夜 2010年07月09日 (金) 15時18分(128)
題名:新世界9(第十二章)

紗女「はぁ……はぁ……」

――グオォォ……。

蒼竜「へぇ……どうやら口だけじゃないみたいだな」

紗女「すぅ……はぁ……だから言ったでしょう? 私も甘く見られたものですって」

蒼竜「ふん。だが、いよいよもってただのメイドとは思えなくなったな、お前」

紗女「それを言えば、貴女だって同じでしょう。そもそも、あんな恐竜相手に生身で戦えている時点で、明らかに普通の人間とは一線を画していますよ」

蒼竜「そうか? あれほど本能的に攻めてくるんだ。タイマンなら行動を読むことくらい容易いだろう」

紗女「普通の人間はそんなことできませんし、気が回りません。万が一できたとしても、行動に移せませんよ」

蒼竜「ま、普通の人間はまずこんな場面に遭遇しないだろうしな。しかし、さっきのお前の口振りだと、まるで自分は普通の人間じゃないと言ってるようだったが?」

紗女「それは……」

蒼竜「……まぁ、んなこたぁどうでもいいさ。それより、今日はあの時寝てた坊やは一緒じゃないのか?」

紗女「坊っちゃんは私が囮になって逃がしました。ああ見えて体力は人並みかそれ以上にはあるんで、もうそろそろ待ち合わせ場所に先に着いて待ってる頃でしょう」

蒼竜「ふぅん。ただの甘ちゃん坊やかと思ってたが、そんなこともないみたいだな」

紗女「他人の主人を小馬鹿にしないでもらえませんかね。貴女こそ、この前一緒にいた子はどうしたんです?」

蒼竜「あぁ、あいつならあそこにいるよ」

紗女「あそこって……木の上ですか?」

蒼竜「あぁ。伽藍、もう下りてきていいぞ」

伽藍「……」

――タッ。

紗女「初めまして、伽藍ちゃん。私は紗女。よろしくお願いしますね」

伽藍「……」

紗女「ありゃ、嫌われちゃいましたかね?」

蒼竜「悪いな。こいつ、基本誰に対してもこんなんなんだ」

伽藍「……」

紗女「そうなんですか。にしては、貴女にだけやけになついてるんですね。まるで親子みたい」

伽藍「☆●£◇¥!!?」

蒼竜「またどこかで聞いたようなセリフを……」

紗女「え?」

蒼竜「いや、何でもない。そんな事よりお前、いつまでもこんなとこでのんびりしてていいのか?」

紗女「ふむ……それもそうですね。じゃあ、私はこれで……」

――グオオオォォッ!

紗女「っ!?」

蒼竜「まだいるのか。ったく……まぁ、まだ遠いみたいだから、放っておけばいいか」

紗女《確か、あっちは坊っちゃんが走って行った方角……》

紗女「くっ……!」

――ダッ!

蒼竜「って、おい! お前、そっちは……!」

――ダダダッ……。

蒼竜「……どうしたんだ? あいつ」

伽藍「……」

月夜 2010年07月09日 (金) 15時19分(129)
題名:新世界9(第十三章)

――ドオォン!

???「はっ、口ほどにもねぇな。恐竜とかいっても所詮はただでかいだけのトカゲか」

夢奏「蒼……空……?」

???「あいつなら、俺の中で寝てるぜ」

夢奏「じゃあ、貴方は……」

ルドゥ「俺はルドゥ。お前は、夢奏……だったか? ふぅん……」

夢奏「な、何ですか……」

ルドゥ「あいつがあれほど惚れ込むだけあって、見た目には良い女だな、お前」

――ガッ!

夢奏「な、何をっ……!?」

ルドゥ「……」

夢奏「ん、んん〜っ!!」

――ドンッ!

ルドゥ「っと。いきなり突き飛ばすだなんて、酷いな」

夢奏「くっ……っはぁ……それはこちらのセリフです! いきなり何をするんですか!?」

ルドゥ「こんなことでそんなに取り乱してちゃ、今からヤること知ったら発狂しちまうんじゃねぇか?」

夢奏「な、何をするつもりなの……」

ルドゥ「分からないのか? この状況、男と女ですることなんか、一つしかないと思うがな」

夢奏「な、なんで……」

ルドゥ「理由なんざねぇよ。強いて言うなら、ヤりたいからヤる。それだけだな」

夢奏「……」

ルドゥ「大人しくなったな。抵抗したければしてもいいんだぜ? 暴れる女を無理矢理犯すのも、悪くない」

夢奏「……最低」

ルドゥ「そんな最低な奴に、今にも犯されそうになっている気分はどうだ?」

夢奏「あまり頭に乗らないで頂けるかしら? 貴方のような下衆に、黙って犯されるつもりはありませんわ」

ルドゥ「……目が変わったな」

夢奏「……」

ルドゥ「お前、何が狙いなんだ?」

夢奏「えっ……?」

ルドゥ「無知なフリして近づいて、可愛らしく振る舞ってこいつの気を引いて、一体何が目的なんだ?」

夢奏「……」

ルドゥ「……言いたくないか? ま、構わねぇけどな。その気になれば、喋らせることくらい造作もない」

夢奏「……」

ルドゥ「とりあえず、今は楽しめることを楽しむ……」

紗女「坊っちゃーん!」

ルドゥ「……ってワケにもいかないか。空気読まないねぇ、あの女」

紗女「坊っちゃーん! どこにいるんですかー!」

ルドゥ「……はぁ、仕方ねぇ。お前を女にしてやるのはまた次の機会だな。俺は寝る。後は適当にやってくれ」

夢奏「……」

紗女「坊っちゃ……あっ! 坊っちゃん!」

夢奏「紗女さん……」

紗女「夢奏さん、お怪我はありませんか?」

夢奏「はい、私なら大丈夫です……ですが……」

紗女「坊っちゃん……」

夢奏「あ、彼も大丈夫です。今は眠ってるだけみたいです」

紗女「そうですか……それにしても、これは一体……」

夢奏「それに関しては、私からお話させていただきます。とにかく、一刻も早くここを離れましょう」

紗女「……そうですね。そうしましょう」

夢奏「……」

月夜 2010年07月09日 (金) 15時20分(130)
題名:新世界9(第十四章)

月夜「すぅ……ふひゅぅ……」

白月「ったく、もう……相変わらず世話の焼ける娘ね……」

月夜「ん……んぅ……?」

白月「あ、起こしちゃったかしら?」

月夜「あれぇ……お姉ちゃん……?」

白月「えっ……?」

月夜「そっかぁ……私……また居眠りしちゃってたんだぁ……」

白月「……えぇ、そうよ……いつまで経ってもしかたのない娘ね」

月夜「うん……そうだね……えへへ……」

白月「? 何で笑ってるの?」

月夜「だってぇ……お姉ちゃんに抱っこされるの……久しぶりなんだもん……」

白月「……」

月夜「昔は……良く……こうしてくれたよね……」

白月「……そうだったかしらね」

月夜「うん……夜も……一緒に寝てくれたし……」

白月「そんなこともあったかしら?」

月夜「そうだよぉ……腕枕してくれたり……頭撫でてくれたり……気持ち良かったなぁ……」

白月「……そう」

月夜「なのに……なんで……いなくなっちゃったの……?」

白月「え……」

月夜「うっ……いっく……どうして……いなくなっちゃったのぉ……?」

白月「……」

月夜「ひっく……置いて……いかないでよぉ……ずっと……傍にいてよぉ……」

白月「……大丈夫。私はどこにもいかないわ」

月夜「ぇっく……ホントに……?」

白月「ホントよ。だから、安心してお休みなさい」

月夜「うん……じゃあ……頭……撫でて……」

白月「えぇ、いいわよ」

月夜「えへへ……ありがと……お姉……ちゃん……」

白月「……」

月夜「すぅ……すぅ……」

白月「……ゆっくりお休みなさい、月夜……ん?」

――ギュッ。

月夜「ん……お姉ちゃん……」

白月「……はぁ、仕方ないわね」

月夜「すぅ……はふぅ……」

白月「……」

朱蒼「すっかりお姉ちゃんになっちゃったわね」

白月「っ!!? あ、貴女、いつからそこに!?」

朱蒼「結構前からよ。そんなに驚かなくてもいいじゃない」

白月「か、勘違いしないで下さい! 私はただ、眠りこけて動かないこの馬鹿娘が風邪を引かないようここまで連れてきただけなのに、こいつが寝たまま私の手を握って離さないから、仕方なくこうしてるだけであって……」

朱蒼「しっ。そんなに大声出したら起きちゃうわよ?」

月夜「んぅ……」

白月「あっ……す、すいません……」

月夜「えへ……お姉ちゃぁん……」

朱蒼「ふふっ、こうして見てると、どこからどう見ても仲の良い姉妹ね」

白月「だ、誰がこんな馬鹿娘と……」

朱蒼「そう? それにしては、さっきまでの貴女は、とっても良い顔をしてたけど」

白月「た、ただの見間違いじゃありませんか?」

朱蒼「そんなことないわ。まるで愛し子を見つめるかのような、優しい眼差しだったわよ」

白月「う……」

朱蒼「そんなに照れなくても良いじゃない。何も恥ずかしいことなんてしてないんだから」

白月「……ま、まぁ、馬鹿な子ほど可愛いとは、良く言いますしね」

朱蒼「相変わらず素直じゃないんだから」

白月「よ、余計なお世話です!」

朱蒼「……」

白月「……」

朱蒼「……ねぇ、白月さん。一つ、聞いてもいいかしら?」

白月「は、はい? 何でしょう?」

朱蒼「今朝のことなんだけどね。貴女、鏡架さんに対して、らしくないほど怒りを露わにしてたじゃない。どうしてあんなに怒ったの?」

白月「……」

朱蒼「今朝に限ったことじゃないわ。貴女は“死”というワードが絡むと、いつも決まって様子がおかしくなる……昔、何か辛いことでもあったの?」

白月「……」

朱蒼「……」

白月「……」

朱蒼「……ごめんなさい、野暮な質問だったわね。今のは忘れて」

白月「……いえ」

朱蒼「それじゃ、お休みなさい」

白月「……」

月夜「ふぅ……くぅ……」

白月「……昔の話です。私には、好きな人がいました」

朱蒼「……」

白月「彼はとても明るくて、楽しくて、積極的で、いつも皆の中心にいる人でした。……そう、ちょうどこの娘のように」

朱蒼「……そう」

白月「ある日、私はその彼と花火大会に行くことになりました。その提案をしたのは彼でしたが、地元の花火大会ということもあって、何度も行ったことのある私は、内心あまり行きたいとは思っていませんでした。でも、彼の好意を無下にしたくなくて、結局私は楽しみなフリをして首を縦に振りました」

朱蒼「……うん」

白月「当日、慣れない浴衣姿の私は、彼に引き連れられて花火大会に行きました。そして、花火が打ち上がる少し前、喉渇いたからジュース買ってきてよと言って、彼は私に500円玉を握らせました。一人自販機に向かい、缶ジュースを2つ買って、小走りで彼の元へと戻った私の目に飛び込んできたのは、横転して火を上げるトラックと、悲鳴を上げて逃げ惑う大勢の人々でした」

朱蒼「……」

白月「……その時を境に、私が彼の声を聞くことは、二度と叶いませんでした」

朱蒼「……もういいわ、白月さん……」

白月「あの時……私が素直に行きたくないって言っていれば、あんなことには……」

朱蒼「……白月さん」

白月「……わかってます。こんなこと、いくら後悔したってキリがない。どれだけ願っても、現実に起きてしまった以上、その事実を変えることはできない。そんなこと、私だってわかってる。だけど……!」

朱蒼「……」

白月「……」

朱蒼「……幸せな人ね、その彼」

白月「えっ……」

朱蒼「今なお、貴女にこんなにも想ってもらえているんだもの。幸せじゃないはずがないわ」

白月「……ふざけたこと言わないで下さい。怒りますよ」

朱蒼「ふざけてなんかないわ。人はいずれ必ず死ぬ。どれ程名を馳せようと、どれ程財を築こうと、どれ程栄華を極めようと、人である以上死は免れない。……人の価値って言うのはね、死ぬまでにどれだけ誰かの心に残れるかだと、私は思うの」

白月「……そんなのきれいごとです。死んでしまったらそこまで……それで、もう終わりなんです」

朱蒼「そんなことない。人が本当に死ぬのは、心音が止まった時じゃない。全ての人に忘れられてしまった時よ。だから、貴女が彼を忘れない限り、彼はずっと貴女の傍にいるわ」

白月「……」

朱蒼「……ちょっと喋り過ぎちゃったかしらね。私はもう寝るわ。邪魔してごめんなさい」

白月「いえ……お休みなさい」

朱蒼「えぇ、お休みなさい」

白月「……」

月夜「ふひゅぅ……はふぅ……」

白月「……きれいごとよ……そんなの……」

月夜 2010年07月09日 (金) 15時20分(131)
題名:新世界9(あとがき)





俺の指が真っ赤に燃える!
(摩擦的な意味で)







ボタンを叩けと轟き叫ぶ!
(筐体的な意味で)







シャアイニィングフィンガアアアアアアァァァァァァァァァ!!










ババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババ!!!○(`・ω・´)


















too bad>(゜∀゜)
















……(´・ω・`)
















筐体でレベル30後半とかムリっす……(´;ω;`)















はい、月夜です。
密かに音ゲー好きな私、結構前からpop'n musicなるものをやっていて、しばらくご無沙汰だったんですが、最近また手を出してしまい、このpop'n熱の加速はしばらく収まることを知らない
……ですが、何故かなかなか上手くいかないという……(´・ω・`)


くそっ……ちくしょうっ……!
何でなんだよ……くそっ!
専コンなら叩けてるレベル……何も危険はない……楽にクリアし、問題はハイスコアか否か……ただそれだけ……。
それが……筐体だとbad50オーバーだと……!?
絶望的……これじゃ、レベル40越えなんて絶望的……!
……そうか。
わかった……今、はっきりと目が覚めた……気付いた……俺に足りないもの……。
それは……経験でもなければ、反応速度でもない。
況してやブランクなどという……玄人気取りの凡人が使う言い訳でなど、あるはずもない。
ただ一つ……そう、俺に足りないものはただ一つ……しかし、それがあまりに圧倒的……!
専コンと筐体とのボタンの違い……それは大きさであり、固さであり、ボタン同士の間隔……それらに対する感覚の相違……いわゆる慣れってやつだ。
なら、その慣れを得るためにはどうすれば良い?
至極簡単なこと……慣れるまで叩けば良い。
そんな簡単な解。
だが、その解をなぞるには、欠かすことのできない条件がある。
……そう、慣れるまでゲーセンでpop'nを叩けるだけの金……それが必要不可欠……。
結局、とどのつまりは金……己を置いて他に頼れるものなど、最後には金……金なんだ!
ゲーセン側がタダでpop'nをプレイさせてくれるなんてこと……そんなイベント待ちなど……あまりに他人任せ……あまりに他力本願……楽観的……非現実的……!
負けない為だけなら、金などなくとも可能……だが、勝つ為には金が必須……それこそ、勝ちの舞台に上がる最低条件……!
俺には……それが足りない……!
まるで問題外……勝利の土俵外……話にもならない……くそっ……くそっ、くそっ……!!
……だが、嘆くな……!
弱者は直ぐに嘆く……己の不幸に涙し、他人の同情を買おうとする……。
俺から言わせれば……そんなものこそ、何より不要……!
良く考えろ……己を蔑み……自己を卑下し……その価値を貶めてまで……それは、買う価値のあるものか!?
目を覚ませ……!
……俺なら……同情を買う為に自己を売るくらいなら……
















金を買う為に自己を売る!!
















福本さん、下手なマネしてホントすいませんでした(´・ω・`)

ま、何が言いたいかって言うと、金がないってことだ。

ない……金がない……。





フフ……フハハハ……!












最っ高にNA☆Iってやつだ!!(゜∀゜)















……(´・ω・`)


誰か、恵まれない私の為に募金活動を……。


……え?

あとがき長い?

さっさと反省して終われバーロー?


……(´・ω・`)


さーせんっしたー(´・ω・`)














さて、今回の新世界、今度は蒼空君が覚醒しましたが……初対面の女の子をいきなり襲おうとするとか、凄まじい鬼畜ドSっぷり。
しかし、夢奏の心を見透かしたかのような発言は、まるで何でもお見通しと言わんばかり。
なんともはや……一筋縄ではいきそうにないですね、はい。

それ以外にも、冒頭でのやり取りに見える葛藤。
死んで楽になる道を棄て、苦しい生の道を進むことを決めた、鏡架の悲壮なまでの決意。
明かされる白月の辛い過去。
そして遂に暴露される、艦隊の危険な性癖。

……最後のはどうでもいいね、うん(´・ω・`)

展開的にそこまで大きく進んではいないものの、ゆっくりとですが進展はあり、なかなか良い感じかと。

まぁ、慌てて無理に急展開させて、話の筋道狂うくらいなら、少しずつしっかりと話を進めた方が良いよね、うん。

それじゃ、今回はここまでにしておきましょうか。
この作品に対する感想やら何やらございましたら、下の「小説感想アンケート板」または「小説感想掲示板」、「月夜に吠えろ」の方まで、ドシドシ書き込みにきてやって下さい。
月夜がとても喜びますのでドゾよろしく(´・ω・`)

ここまでは、最近初めて東京に行って、嬉々として秋葉原を散策してきた月夜がお送りしました。






















ソフマップ多すぎワロタww

月夜 2010年07月09日 (金) 15時22分(132)


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