【広告】楽天市場にて お買い物マラソン5月9日開催予定

新世界作品置き場

ホームページへ戻る

書き込む
タイトル:新世界10 SF

――次々と目覚めゆく神憑たち。次いで目覚めたのは、白月の中に宿る神憑、ルナン。幼く感じる口調に自分勝手でわがままな態度ながらも、その瞳の奥にたたえられた憂いは、一体彼女のどんな過去を示しているのか。そんな中、突如として三鎚に生じた異変。それは、彼自身の存在を蝕み、侵食する第三者の悪意に満ちた声。必死に抗う彼の前に姿を現したのは、いつかの雪辱に身を震わすあの人物だった。ここまでシリアス展開なんだから、もうコメディは無理だろう? いやいや、シリアス要素を含ませなきゃいけないなら、シリアルな展開にすれば良いじゃない。やっぱり笑いの要素は抹消しきれなかった今回の作品は、記念すべき新世界第十作目!

月夜 2010年08月13日 (金) 20時50分(133)
 
題名:新世界10(第一章)


「よっこら……せっと!」

――ボスッ!

「全く……うたた寝してるだけかと思って放っておいたら、そのまま爆睡するだなんて……一体どういう神経をしてたら、デスクに突っ伏したままこうも寝入れるのかしら……」

「すか〜……くか〜……」

「相も変わらず間抜けな寝顔しちゃって……えっと、毛布はどこに……あ、あったあった」

――ファサッ。

「本当に世話のかかる娘ね……」

「ふひゅ〜……す〜……」

「……ふふっ、まぁいいわ。起きたらみっちり働いてもらうから、覚悟してなさい」

「はふぅ……ふぁ〜い……」

「……良い返事ね。それじゃあ、ゆっくりお休みなさい」

――ガシュッ。

「さて、今日はもうやることもありませんし、私も少し仮眠を……」

「……です……はい」

「……ん?」

――何かしら?

「はい……えぇ、順調です。……はい……それはもちろん。既出のものであれば、いつでも」

――電話? こんな時間に、一体誰と?

「……そうですね。それぞれ能力に個性がありますから、一概にどれが有用とは言いかねますが、お望みの力に近いものは存在するかと。何でしたら、リストをお送りしましょうか?」

――能力? リスト? 何の話をしてるのかしら?

「はい……はい……分かりました。では、また後日、答えはその時にということで。……はい……えぇ、ご期待に添えられるよう、尽力させていただきます。……はい、それではこの辺りで。失礼いたします」

――ピッ。

「これで良しっと。じゃ、俺も寝るかな」

――ガシュッ。

――……結局、誰と何の話をしていたんだろう?

「……何だか、嫌な予感がしますわ……」

月夜 2010年08月13日 (金) 20時51分(134)
題名:新世界10(第二章)

蒼焔「ふあぁ……んぅ……」

夢奏「蒼焔? どうなさいましたか?」

蒼焔「見て分からないか? 眠たいんだよ。こんな早朝とも深夜ともつかないような時間に起きなきゃならないんだから、当然だろう」

グリッジ「何じゃ、だらしのない奴じゃのう。早寝早起きは大人の常識じゃぞ?」

蒼焔「グリ爺はもう歳だから、早く眠たくなって早く目が覚めるってだけだろ。俺はまだまだ若いんだよ」

夢奏「あら? 私もまだまだ若いてすけど、グリ爺に負けず劣らず早寝早起きですわよ?」

蒼焔「夢奏が特殊なんだ。毎朝日も昇らない内から、ふらふらと出歩くような放浪癖持ちじゃないんだよ、俺は」

夢奏「あら、心外ですわね。朝の散歩というのも良いものですよ? 普段見ている景色の別の一面が見れて、結構楽しいんですから」

蒼焔「俺は惰眠を貪る方がずっと楽しいけどな」

グリッジ「まだまだお子様じゃのう、蒼焔は」

蒼焔「うるさいな〜」

三鎚「朝も早くから集まってもらって、すまないな。とりあえず、目新しい情報があれば、教えてもらえるか?」

蒼焔「あ、はい。こちらでは新たに一名、覚醒者が現れました」

三鎚「ほう。誰だ?」

グリッジ「鏡架という名の淑やかな女性じゃ。夢ちゃんが大きくなったら、ちょうど彼女みたいな女性になるんじゃろうな」

夢奏「まぁ、グリ爺ったら……」

三鎚《淑やかな女性……ねぇ》

蒼焔《……こんなサディスティックな淑やかがあってたまるかよ……》

三鎚「……で、その能力は?」

蒼焔「実際に相対した訳ではないので分かりませんが、話に聞く限りでは、近接格闘を得意とする能力みたいで、かなりのものみたいです」

グリッジ「しかし、それよりも危険なのは、その思考パターンじゃろうな。好戦的と言えばまだ聞こえは良いが、あれはもはや精神疾患の快楽主義者じゃよ」

夢奏「へぇ……それは、私と比べてどうですか?」

蒼焔「夢奏はただサディスティックなだけの拷問嗜好者だろ? 理解には苦しむができなくもない。だが、あいつは自分が殺されそうになっても、狂ったように笑ってたらしいからな。狂ってる度合いで言えば、お前より遥かに上だよ」

夢奏「そうですか……それは一度、是非ともお目にかかってみたいものですわね……」

三鎚「……夢奏、分かってるとは思うが……」

夢奏「ご安心ください。変な気は起こしませんわ」

三鎚「なら構わんが……夢奏の方は、何か変わったことはなかったのか?」

夢奏「私の方では、蒼空が覚醒いたしましたわ」

蒼焔「そっちもか。で、どんな能力だったんだ?」

夢奏「能力に関しては、使わなかったので分かりませんでした。ただ、単純な格闘技能だけで、小型の恐竜を容易く仕留めてみせたところを見る限り、神憑としての格は低くないと思います」

三鎚「そうか……」

夢奏「……三鎚さん? いかがかいたしましたか?」

三鎚「いや……当初、俺たちがここにやって来た時に比べて、随分と覚醒者が増えてしまったと思ってな。こうなると、邪魔者を消すのもそう易々とはいかない」

蒼焔「なら、いっそのこと全員が覚醒するまで待って、共倒れしてもらえば良いんじゃないですか?」

三鎚「そうすると、もし万が一、S.I.保持者が俺たち以外の何者かに、覚醒して直ぐあっさり殺されでもしたら、目的が達せられなくなるだろう」

蒼焔「……確かに」

グリッジ「じゃからと言って、彼女が覚醒する前に周りの邪魔者を消すなんてことは、どう考えてもリスクが高過ぎやせんか?」

三鎚「それもまたもっともな意見だ。さて、どうしたものか……」

夢奏「……何もそこまで悩むことでしょうか?」

三鎚「何?」

夢奏「蒼焔もグリ爺も、あの集団の懐には、違和感なくもぐり込めているのでしょう?」

蒼焔「あぁ……多分な」

夢奏「なら、簡単な話じゃないですか。寝込みを襲って、一人ずつ狩っていけばいい。違いますか?」

蒼焔「なっ……」

三鎚「……」

夢奏「何も驚くことではないでしょう? 寝ている時ほど無防備な状態はないんですから、当然のことじゃありませんか?」

蒼焔「それは……」

グリッジ「夢ちゃんや。それがそうもいかんのじゃ」

夢奏「どういうことですか?」

グリッジ「彼らは9人全員で寝る訳じゃなく、役割分担で見張り役を立てているんじゃよ。妙なことをすれば、直ぐに気付かれて全員起きてしまうわい。のぅ? 蒼焔?」

蒼焔「あ、あぁ……」

夢奏「……だとしても、寝ている人間が無防備なことは変わりありません。瞬時の内に全員に致命傷を与えることは出来ずとも、お二人の力であれば、四人くらいは仕留められるんじゃありませんか? 現状覚醒している神憑は五人で、内戦闘向きなのはたったの二人。一番格の低い神憑以外全員を瞬殺すれば、残りの始末なんて容易いはずですけど?」

三鎚「……それは止めた方が良いな」

夢奏「あら? 何故ですか? 三鎚さんなら、てっきり賛同してくれるかと思ったんですが」

三鎚「神憑が覚醒する一番の要因は、器の人間の危機だ。そんなことをすれば、残りの連中の神憑が、一斉に目覚めてしまうかもしれん」

夢奏「むしろ好都合じゃないですか。それでS.I.保持者が覚醒してくれれば、後はそいつを私たちの手で殺せば良いだけなのでしょう?」

三鎚「あぁ。だが、蒼焔やグリッジの命は間違いなく危険に晒される。行動としては些か短絡的だな」

蒼焔「兄上……」

グリッジ「……」

三鎚「S.I.保持者も、覚醒の予兆を見せることなく、瞬時の内に目覚めることはないだろう。現状このまま様子を見よう」

夢奏「……三鎚さんがそう仰るのでしたら、仕方がありませんわね。そう致しましょう」

三鎚「何か異変が起きたら、些細なことでも直ぐに連絡をくれ」

蒼焔「わかりました」

グリッジ「了解じゃ」

夢奏「……えぇ」

三鎚「よし。それじゃ解散だ。各自持ち場に戻ってくれ」

夢奏「……わかりましたわ」

グリッジ「さて、ワシらも戻るとするか」

蒼焔「あ、あぁ……」

三鎚「……はぁ。どうしたものか……」

月夜 2010年08月13日 (金) 20時51分(135)
題名:新世界10(第三章)

???「……つき……白月……!」

ん……んぅ……?
……何だろう……今、誰かに呼ばれたような……。

???「白月! 白月ってば!!」

やっぱりだ。
誰かが、私を呼んでる。
でも、誰の声だろう?
こんなガキっぽい声と呼び方をするのなんて、あのバカくらいしか思い付かないけど……それにしては、声色がちょっと違うしなぁ。

???「誰がガキっぽい声さ! 失礼しちゃうわね!」

だって本当のことなんだから、仕方ないじゃない。
……って、あれ?
私、今声に出したっけ?

???「声に出さなくたって聞こえるに決まってるじゃない。あんたの思ったことは、心の声として届くんだもん」

……心の声?
不思議に思いながら、重い瞼を開く。

???「あ、やっと見てくれたね、ルナンのこと」

そう言って満面の笑みを浮かべるのは、見たこともない少女だった。
……さっきも思ったけど、無性にあのバカを連想させるわね。

ルナン「あのバカって、月夜のこと?」

あら?
あいつのこと知ってるんだ?

ルナン「そりゃそうだよ。あんたの見てる世界は、ルナンの見てる世界でもあるんだから」

……さっきといい、今の発言といい、意味不明なことばっかり言うわね。

ルナン「意味不明って……何が?」

何がって……私の見てる世界=あんたの見てる世界だとか、私が思ったことは心の声として聞こえるとか、理解できないことばっかり言ってるじゃない。

ルナン「それのどこが意味不明なの? ルナンと白月は同じ体を共有してるんだから、そんなの当然じゃない」

はぁ?
何言ってんのよ、こいつ。
私の思ったことは私だけのものだし、私の見てる光景だって私だけのものよ。
私以外の誰かに覗かれてたまるものか。
第一、体を共有してるってどういうことよ。
この体だって当然私だけのもの。
それを、こんな得体の知れないガキンチョと共有だなんて、冗談じゃないわ。

ルナン「ちょっとちょっと! いくらなんでも、そんなめたくそ言わなくてもいいんじゃない!?」

めたくそ言って何が悪いってのよ。
私の体ん中に不法侵入した挙げ句、見てる景色から考えていることまで覗き見るだなんて、常識的に考えて許されることじゃないわ。

ルナン「そんなの仕方ないじゃん! ルナンだって、好き好んであんたに憑いた訳じゃないんだしさ〜」

なら、さっさと出ていってくれない?
ものすっごい迷惑だから。

ルナン「出ていけたらいいんだけど、一回憑いちゃったらもう出れないの。そういう仕様なの」

何よその無責任極まりない仕様は。
そんなの誰が決めたのよ。

ルナン「さぁ? 誰なんだろうね?」

とにかく!
鬱陶しいことこの上ないから、即刻私の中から消えなさい。

ルナン「だーかーら! 一回憑いたが最後、ルナンの意思で出入り自由とはいかないんだって、何度言ったら分かってくれるのさ!」

そんなの、何度言われたって知らないわよ!
いい!?
この体は私のものなの!
見ず知らずの誰かと、分割所有できるものじゃないの!
だから、直ちにここから出ていきなさい!

ルナン「……」

……。

ルナン「グスッ……ひっく……」

……え?

ルナン「えっく……出ていかなきゃ……ダメ?」

……あ、当たり前よ!
こ、これは私の体なんだから、私以外の誰かになんて……。

ルナン「……どうしても?」

うっ……。
な、何よ……さっきまであんなに悪ガキ全開だったくせに、急にしおらしくなったりして……調子狂うじゃないのよ……。

ルナン「ねぇ……迷惑かけないから……グスッ……ちゃんと……言うこと聞くから……っく……だから……ここに居させてよぉ……」

……な、泣き落としなんて、私には通用しないんだから!
そんな不毛なことするくらいなら、いっそ不平不満で毒づきなさいよね!

ルナン「ぇっく……お願い……だからぁ……」

うぅっ……。

ルナン「ひっく……えぐっ……」

……あ〜っ!
もう、分かったわよ!
居てもいい!
居てもいいから、そんなに泣かないのっ!

ルナン「……いいの?」

もういいわよ!
私が何言ったところで、どうせ出ていけないんでしょ!?
それなら、今更文句言ったってどうしようもないじゃない!
それに、目の前でそんなに泣かれる方が、よっぽど迷惑だわ!

ルナン「……ニヤリ」

……え?

ルナン「やったね♪ ありがとう白月! これからよろしくね!」

え、えぇ……。
……今、何だか妙な間があったような……。

――き……つき……白月……。

……あれ?
今度は誰の声だろう?
何だか、やけに遠くから聞こえてくるけど……。

ルナン「誰かが起こしに来てるんじゃない?」

起こしにって……私を?

ルナン「当たり前じゃん。他に誰がいるってのよ」

いや、だって、私起きてるし。

ルナン「……」

……何よ、その顔は。

ルナン「いや……白月って、意外と鈍いんだな〜って思ってね」

どういう意味よ?

ルナン「白月。今、ルナンと話してるここは、あんたの心の中。分かりやすく言えば、夢の世界みたいなものなの」

……夢?
これが?

ルナン「そうだよ」

……ははっ、何をバカな。
こんなに意識がはっきりとしてる夢なんて、あるはずない。

ルナン「ん〜……まぁ、夢って言っちゃうと、多少語弊はあるんだけどね。こうやってルナンと白月が話してるのは、夢幻って訳じゃないし。でも、良く考えてもみなよ。あんた、こんな所に来たことあるの?」

え?
こんな所って?

ルナン「周り、良く見てごらんよ」

周りって……別に、何もないじゃない。

ルナン「そう、何もないの。あんた、こんなどこが壁かも分からないような真っ白な場所、見たことあんの?」

……そういえばそうだ。
言われるまでまるで気付かなかったけど、ここはどこだろう?
私が寝てた場所は、あの洞窟の中だったはず……。

――月……白月……!

聞こえてくる声がだんだんとはっきりしてくる。
……あれ?
何だろう……声がはっきりするにつれて……何だか……私の方が、眠たく……。

ルナン「あ、そろそろ目覚めそうね。それじゃ、また今度」

あっ……ま、待って……。

ルナン「何?」

あんた……一体、何者……なの……?

ルナン「ルナンはルナンだよ。この世界を司る神様なんだってさ」

この世界を……司る……?

ルナン「うん。とは言っても、あたし自身も良くは知らないんだけどね。詳しいことは、春さんにでも聞きなよ」

あ……待っ……まだ……話は……。

ルナン「そんじゃ、まったね〜」

――白月! しーらーつーきーっ!

終わって……な、い……。

月夜 2010年08月13日 (金) 20時52分(136)
題名:新世界10(第四章)


月夜「白月! しーらーつーきーっ!」

白月「ん……うぅ……」

月夜「なかなか起きない……となれば、ここはあれしかないわね……!」

――ザッザッザッ。

月夜《助走はこんなものでいいかな》

ティラ《……月夜》

月夜《なぁに、ティラ?》

ティラ《……やっぱり、よした方が良いですよ》

月夜《そんなこと言ったって、起きないんだから仕方ないじゃない》

ティラ《だからって、貴女が今やろうとしてることは、いくらなんでも少々やり過ぎてやしませんか?》

月夜《いーのいーの。んなもん起きない方が悪いんだって。私は起こしてあげる側で、白月は起こしてもらう側。寝ぼすけに文句を言う資格なんてないよ》

ティラ《……またこの娘は、自分の事を棚に上げて……》

月夜《……何か言った?》

ティラ《いいえ、何も。もうお好きになさい……》

月夜「よしきた。それじゃ……」

――ダッ!

月夜「いっせーのー……」

――ダダダッ!

白月「ん……んぅ……?」

月夜「でっ!?」

――ズザザザーッ!

白月「んん……うっさいわねぇ……あら、月夜?」

月夜「あ、あはは……お、おはよう、白月」

白月《……今、なんかすごい砂利を擦ったような音が聞こえた気がしたけど……気のせいかしら……?》

月夜《セ、セーフ……よし、バレてないバレてない……》

ティラ《……はぁ》

白月「おはよう……ふあぁ〜……」

月夜「おっきな欠伸しちゃって。みっともない」

白月「いっつもこれ以上に大きな欠伸しているような奴には、言われたくはないわね。それに寝起きなんだから、欠伸の一つや二つは仕方ないわよ」

月夜「とは言っても、とっくにお天道様昇っちゃってるよ? 皆もう起きて、白月が最後なんだから」

白月「あ、そうなの?」

月夜「そうだよ。いつまで経っても起きてこないから、私が起こしに来てあげたんだから」

白月「そうだったの……ありがとう」

月夜「どういたしまして〜♪」

白月「……」

白月《……ルナン……か》

月夜「……ん? どうかしたの?」

白月「え?」

月夜「急にボーッとして、私の顔見つめ出して……なんか付いてる?」

白月「あ、ううん、なんでもないの。気にしないで」

月夜「そう? 気分が悪いとかだったら、朱蒼さん呼んでくるけど……」

白月「本当に平気よ。心配要らないわ」

月夜「そう……ならいいけど……」

白月「そんなことより貴女、今日はえらく早いお目覚めじゃない。いつもなら、私が起こしにいくまで、ずっと眠りこけてるのに」

月夜「私だって、朝はいっつも爆睡してる訳じゃないもん。たまには早く起きるよ」

白月「へぇ〜。珍しいこともあるもんね」

鏡架「あ、白月さん。お目覚めになられたんですね」

白月「あぁ、鏡架さん。おはようございます」

鏡架「おはようございます。今朝は随分と深くお眠りになられていたみたいですね」

白月「お恥ずかしながら。ちょっと疲れていたのかもしれません」

鏡架「大丈夫ですか? もし体調が悪いと言うなら、朱蒼さんを呼んできますけど……」

白月「ふふっ。この娘と同じようなことを言うのね。でも本当に大丈夫だから」

鏡架「そうですか? ならいいんですけど、無理はしないでくださいね」

白月「えぇ。わかってるわ」

鏡架「そういえば月夜さん」

月夜「ん〜?」

鏡架「まさかとは思いますけど……アレ、やったんですか?」

白月「……アレ?」

月夜「ち、ちょっと!」

白月「アレって、何の話ですか?」

鏡架 「いえ……彼女が、日頃いっつもガミガミ怒鳴られてばっかりだから、そのお返しをしてやるって、かなり息巻いていたものですから……」

白月「……ほほぅ?」

月夜「……あ、えっと……あ、あはは〜。で、でも、実際には何にもしてないんだし、問題なしってことで一つ……」

白月「でも、やる直前まではいったのよね? そうじゃなきゃ、あんなすごい砂利の音、聞こえてくるはずないものね?」

月夜「き、気付いてたの!?」

白月「……やっぱり」

月夜「……あ゛」

ティラ《……本当にこの娘は……》

白月「さて、覚悟はいいかしら?」

月夜「えと……その……て、撤退します!」

白月「待ちなさい! この悪ガキ!」

鏡架「あはは……余計なこと、言っちゃったかしら、私……」

月夜 2010年08月13日 (金) 20時53分(137)
題名:新世界10(第五章)

――ダダダダダッ!!

白月「待ちなさいって言ってるでしょう!」

月夜「そんな形相で待てって言われて、一体誰が待つってのさ! 第一、未遂で終わったんだから、そんなに怒ることないじゃない!」

白月「黙らっしゃい!」

マヤ「おーおー、やっぱり騒がしいことになってるな〜」

春「まさかとは思ったが、あいつ本当に何かしでかしたのか」

春紫苑「……つくづくバカな奴だ」

月夜「はぁっ……はぁっ……おっ!? ギッちゃ〜ん!」

ギスラウ「おぉ、どうしたんだいマイハニー? そんな可愛らしい声で名を呼ばれちゃあ、俺の心が愛しさと切なさと心強さではち切れて……」

――ガシッ!

ギスラウ「おっ?」

――ババッ!

月夜「ギッちゃんシールド!」

白月「しゃらくさい!!」

――ドグシャァッ!!

ギスラウ&月夜『ぶべらっ!?』

艦隊「決まったーっ! 白月選手の美しいまでの右ストレート!」

――ズサーッ!

艦隊「月夜選手吹っ飛んだーっ!」

ギスラウ&月夜『ぐはっ……』

――パタッ。

艦隊「月夜選手ダウーン! カウントに入ります! ワン! ツー! スリー!」

ルア《……馬鹿丸出しだな、お前》

艦隊《馬鹿で結構。少しくらい馬鹿な方が、人生楽しいんだぜ? あ、何ならお前もやってみるか?》

ルア《やらねぇよ》

蒼焔「……楽しそうですね、彼」

朱蒼「月夜ちゃんに並ぶ、ウチのメンバーのバカ代表兼賑やか担当だからね。蒼焔ちゃんは、あんな風になっちゃダメよ?」

蒼焔「なりませんよ!」

グリッジ「心配せずとも、この人見知りなネガティブ小僧に、あんなマネはできんよ」

蒼焔「人見知りって言うな! ネガティブとも言うな!」

――ブン!

グリッジ「ふぁっふぁっふぁ。当たらんの〜、当たらんの〜」

艦隊「フォー! ファーイブ! シーックス!」

月夜「ぬ……ぬぬぬ……」

艦隊「カウントシックス! 月夜選手立ち上がったーっ!」

月夜「ふ、ふふふ……この私を一撃でダウンさせるだなんて……なかなか良いパンチ持ってるじゃない……」

艦隊「ふらつく足は、立っているのもやっとだ! しかし、口元に浮かぶ不敵な笑みは、一体何を物語っているのか!?」

白月「あれで寝てたら楽だったものを、また立ち上がってくるだなんて、貴女もなかなかにマゾいわね」

月夜「ふっふっふ……見くびってもらっちゃあ困るわね。この私が、何の勝算もなく戦いを挑むとでも?」

白月「戦い? 何勘違いしてるの? これは、私から貴女へと向けた一方的制裁よ」

――ブンッ!

月夜「ギッちゃんシールド!」

――ゴスッ!

ギスラウ「ぐふぉあっ!?」

――ヒュー……キラッ☆

艦隊「ギッちゃん吹っ飛んだーっ! やはり所詮は非常食! 白月の肉を抉るようなアッパーの前に、お星様となってしまったーっ!」

白月「さぁ、次は貴女の番よ。覚悟はできたかしら?」

月夜「ふっ……覚悟するのはどちらかしらね? ギッちゃんが最後に身を呈してくれたおかげで……見えたわ、貴女の弱点が!」

ティラ《貴女が勝手に盾扱いしただけでしょうに……》

月夜《いーのいーの。こういうのは雰囲気が大事なんだから》

白月「へぇ? それは楽しみね。何が見えたのか知らないけど……」

――ヒュー……ドサッ!

ギスラウ「……」

白月「直ぐに、あそこの手羽先と同じ目に合わせてあげるわ」

艦隊「白月選手、ギッちゃんに対してまさかの手羽先発言! これで今日の夕飯一品目は決定だー!」

メカ「変態翼竜の手羽先か。料理の仕方によっては食べれなくもない」

春紫苑「僕は食べたくないぞ。お前が食べろ」

メカ「俺、機械だから」

春紫苑「ちっ……」

白月「さて、そろそろいくわよ? 三途の川の渡し賃くらいはこっちで用意してあげるから、残念なく逝きなさい」

月夜「悪いけど、残念なく逝くのはあんたの方よ。疑ってるんなら、かかってきなさい」

白月「そう。それじゃ……っ!!」

艦隊「白月選手、大きく腕を振りかぶったー! これは先ほど月夜選手を一撃の元に粉砕した伝家の宝刀、右ストレートだーっ!」

――ブォンッ!

月夜《今だっ!》

月夜「うおおおぉぉっ!!」

――ブンッ!

艦隊「それに合わせて、月夜選手も左ストレートを放つ! こ、これは……ジョー矢吹直伝のクロスカウンターだーっ!」

――ゴシャッ!

月夜「……」

艦隊「白月選手の右が、月夜選手の顔面に直撃ー! 一方、月夜選手の放った渾身のカウンターは……」

白月「……」

艦隊「あーっ! 届いていなーい! 伸ばした拳は、白月選手の眼前で空をさ迷っているー!」

月夜「……ぐふっ」

――ドサッ。

艦隊「月夜選手ダウーン! ワン! ツー! スリー!」

ティラ《本当、バカな娘……》

メカ「形だけなら美しいクロスカウンターだったんだが……惜しいな」

春紫苑「別に惜しくもないだろう。なるべくしてなった結果だ」

マヤ「むしろここは、あそこで咄嗟にジョーが出てくる、艦隊の引き出しの多さを誉めてやるべきだろう」

ユスティス《俺も、マヤの意見に同意だな》

春紫苑《……お前は一生寝てろ》

ユスティス《そう邪険にするなって》

春紫苑《……ふん》

艦隊「……ナイーン! テーン! 月夜選手、圧倒的リーチ差の前に哀れノックアウトー! 見事栄冠を手にした白月選手、今のお気持ちは!?」

白月「別に? 愚か者にそれ相応の天罰が下っただけよ」

艦隊「天罰! それ則ち神の怒り! 我を崇めよ、我を讃えよ、愚民共よ、我が前にひれ伏せと言わんばかりの発言だー!」

白月「いや、そこまで言わないけど……」

艦隊「と思いきや、一転謙虚な態度! いや、これは策略! 控えめな素振りを見せ、のぼせ上がった輩を奈落へ叩き落とす為の謂わば布石! なんという鬼畜! なんというドS! だがそれがいい!」

白月「……さっきから黙って聞いてりゃ、人のことを鬼畜やらドSやら好き放題言ってくれちゃって……そろそろ口を閉じないと、あんたもそこで寝てるバカの二の舞になるわよ?」

艦隊「おーっと!? ここで、勝利者インタビューにもかかわらず怒り全開だー! しかし、私にその程度の脅しは効きません! 何故なら私は……」

白月「……私は?」

春「生粋のドMだからだろ?」

艦隊「正解! ……って何でやね……」

白月「っ!!」

――ドゲシャッ!

艦隊「んぶふぁっりがとうございますぅっ!!」

――ドシャアッ!

朱蒼「見事なご褒美が炸裂したわね」

マヤ「なんという変態だ」

春紫苑「……誰だ、こんな変態を連れてきたのは」

グリッジ「じゃが、変態もここまでくると、もはや清々しささえ覚えるのぅ」

蒼焔「……変態はどこまでいっても変態だと思うけど……」

ルア《……俺、何でこんな変態に憑いちまったんだろう……》

春「しかし、ノリツッコミが終わる直前に拳を入れてくるとは、あいつもなかなか笑いのツボを心得てるな」

メカ「相変わらず、お前は何を分析してるんだよ」

鏡架「はぁ……はぁ……ふ、二人共、そんな走っていかなくても……って、あれ?」

メカ「よう。お帰り」

鏡架「はぁ……はぁ……た、ただいま……あの、二人は?」

グリッジ「あっちじゃ」

鏡架「……あ、やっぱり……」

マヤ「当事者以外にも二人ほど、昏倒している奴がいるが、それについては触れないんだな」

メカ「正確には、一人と一羽だがな」

鏡架「まぁ……いつものことですし」

春「ははっ、もう驚くほどのことじゃないか。もっともだ」

白月「……春さん」

春「ん? 何だ?」

白月「あの……聞きたいことがあるんですけど……」

春「俺に?」

白月「はい……あ、でも、その……ここではちょっと……」

春「……分かった」

――ザッ。

マヤ「? どうした?」

春「少し離れる。直ぐ戻るとは思うが、それまで頼む」

メカ「了解」

白月「……」

月夜 2010年08月13日 (金) 20時54分(138)
題名:新世界10(第六章)

蒼空「……」

紗女「……」

紗女《遂に、坊っちゃんの神憑も覚醒してしまった……これで、私たちもこの世界と無関係を決め込むことはできなくなったわね》

蒼空「……」

紗女《問題は、これからどうすべきか……昨日のようなことで、坊っちゃんの身を危険に晒したくはない。その考えに基づくなら、あの集団と行動を共にするべきなんだろうけど……そうすると、全ての神憑が目覚めた後、きっと坊っちゃんは……》

――ザッ。

紗女「……」

夢奏「……もう、起きてたんですか」

紗女「えぇ。昨日の今日で、呑気に長々と寝てもいられないでしょう? 貴女こそ、今朝も早くから例の“お散歩”ですか?」

夢奏「はい……その……毎日習慣的に行ってることなので、やらないと落ち着かないというか……」

紗女「そうですか。まぁ、貴女が何処で何をしていようと、私には関係のないことですけどね」

夢奏「あの……えっと……ご、ごめんなさい……」

紗女「何故謝るのですか? 別にいけないことをしている訳じゃないのでしょう? それとも、何か私たちに謝らねばならないようなことでも?」

夢奏「い、いえ、そういう訳じゃ……」

紗女「なら、別に構いません。ただ、予めこれだけは言っておきます。もし、坊っちゃんに危害を加えるような素振り、兆候が僅かにでも見えたら……その時は容赦しませんからね?」

夢奏「そ、そんな……私は……」

蒼空「う、んん……」

紗女「あ、坊っちゃん。お目覚めですか?」

蒼空「う……あぁ……っ! そうだ! 夢奏は……」

夢奏「蒼空……」

蒼空「夢奏……無事だったんだな。良かった……」

夢奏「貴方の……蒼空のおかげです。ありがとう……」

蒼空「そんな……俺は何もしてないよ。夢奏が助かったのは、あいつのおかげだよ」

紗女「あいつとは、ルドゥとかいう坊っちゃんの中にいる神憑のことですね」

蒼空「あぁ」

紗女「彼がどんな性質の神憑で、どのような能力を有しているか分かりますか?」

蒼空「いや、そこまでは……夢現な感じで少し話しただけだから、そこまで良くは分からなかったな。ただ……」

紗女「ただ……?」

蒼空「口は悪かったな。きっと良い性格はしてないと思うぞ。夢奏はあいつと少しくらい話したんじゃないのか?」

夢奏「え、えぇ……ほんの少しですけど……」

蒼空「あいつ、言葉遣いがなってなかったろ?」

夢奏「た、多少は……」

蒼空「……何か返事がぎこちないな。……まさかとは思うけど、あいつに何か変なことされたりしたとか……」

夢奏「い、いえ、そんな変なことされたりした訳じゃ……」

蒼空「……それなら良いんだけど……」

紗女「そうですよね。彼女に変なことをするのは、坊っちゃんが最初って決まってるんですもんね」

蒼空「なっ! ふ、ふざけたことを言うんじゃない!」

紗女「これは図星の反応ですね〜。夢奏さん、坊っちゃんに寝込みを襲われないよう、寝るときは十分に気を付けて下さいね」

蒼空「んなことするかっ!」

――ブンッ!

紗女「おっと。甘いですよ、坊っちゃん」

蒼空「待てっ! このっ!」

夢奏「……」

紗女「……もっとも」

夢奏「えっ……?」

紗女「……襲うのは坊っちゃんだけとは限りませんけど、ね」

夢奏「……」

蒼空「待てと言ってるだろう、このバカメイド!」

紗女「そんなこと言われて、待つ人なんていませんよーだ」

蒼空「主人の言うことは絶対だーっ!」

紗女「きゃー、こわーい♪」

夢奏「……」

月夜 2010年08月13日 (金) 20時55分(139)
題名:新世界10(第七章)


伽藍「……」

蒼竜「伽藍? どうかしたか?」

伽藍「……ううん」

蒼竜「そうか。ならいい」

伽藍「……」

蒼竜「……なんて言うとでも思ったか?」

伽藍「え……?」

蒼竜「お前が今考えてること、当ててやるよ。先ず一つ目。紗女とかいう女のことが心配だ。んでから二つ目。例のあいつが、いつどこから現れるか心配だ。……だろう?」

伽藍「……」

蒼竜「ま、何も言わなくたって構わねぇよ。お前の場合、態度で言いたいことは大体分かるしな。ほら、良く言うだろ? 顔は口ほどに物を言うってな」

伽藍「……目」

蒼竜「え?」

伽藍「それ……顔じゃなくて……目」

蒼竜「あー、そうだったっけか? まぁ、目だって顔の一部だ。大して変わんねぇよ」

伽藍「……」

蒼竜「そんな顔するなよ。俺はそういう諺は苦手なんだ」

伽藍「じゃあ……私が教えたげる……」

蒼竜「お、そりゃありがたいな。俺が間違った使い方したら、フォローよろしく」

伽藍「……うん」

蒼竜「……」

伽藍「……」

蒼竜「……はぁ。暗い顔は変わらずか」

伽藍「……」

蒼竜「俺は、そんなに頼りないか?」

伽藍「っ!? そ、そんなことない!」

蒼竜「だったら、お前はどうしてそれほどまでに不安そうな顔をしてるんだ? 自分じゃ気付いてないのかもしれないが、放っておいたら、今にも泣き出しかねないような顔をしてるぜ?」

伽藍「……」

蒼竜「前にも言ったろ? お前は、俺が絶対に守ってやるって。な? だから、もっと安心してくれよ」

モト《……僕も……頑張る……》

蒼竜《……あぁ、期待してるぜ》

モト《……うん》

蒼竜「モトも、頑張るってさ」

伽藍「……モト……?」

蒼竜「俺の中にいる神憑のことさ。伽藍知らなかったっけ? あいつの名前」

伽藍「うん……あの子……喋ってくれなかったから……」

蒼竜「あぁ、そういやそうだったな。でも、あいつは喋らないんじゃなくて、喋れないんだよ」

伽藍「え……」

蒼竜「失語症ってやつだろうな、多分。だから、あんまり気を悪くしないでやってくれ」

伽藍「……うん」

蒼竜「……そういや今ふと思ったんだが、伽藍はまだ神憑が目覚めたりしてないんだよな」

伽藍「え、あ……う、うん……」

蒼竜「伽藍の神憑か……どんな奴なんだろうな。俺の神憑が無口な奴だから、反対に伽藍はお喋りな神憑かもしれないな。口数の多い伽藍か……何か想像付かねぇぜ」

伽藍「そ、そう……?」

蒼竜「まぁ、俺としてはそんな伽藍を一度、見てみたい気持ちはあるけどな」

伽藍「……」

蒼竜「……伽藍? どうし……」

――グキュルルル〜。

伽藍「あ……」

蒼竜「……」

伽藍「あ、え、えっと、い、今のは、その、あの……」

蒼竜「……ぷっ、あっははははは!」

伽藍「っ!? そっ、そんなに笑わなくてもいいじゃないですか!」

蒼竜「はははっ、いや、悪い悪い。でも、伽藍がこんなに慌ててるのを見るのが、随分久しぶりな気がして、ついな」

伽藍「だ、だからって……うぅ……」

蒼竜「……やっとらしくなったじゃないか、伽藍」

伽藍「えっ……」

蒼竜「最近ずっと暗い顔してばっかりで、笑顔を見せることは疎か、安心して寝ることもできてなかったみたいだからな」

伽藍「っ!? な、何で……」

蒼竜「分かるに決まってんだろ。自分では意識してないのかもしれないけど、普段なら寝ているであろう時間帯に、あれだけ不自然な寝返りを何度も打ってれば、分からない方がおかしいぜ」

伽藍「……」

蒼竜「お前は、俺が守ってやる。だから、無用な心配はするな……分かったな?」

伽藍「……うん」

蒼竜「よし。それじゃ、また伽藍の腹の虫が鳴き出す前に、食料調達にでも行くとするか」

伽藍「……///」

月夜 2010年08月13日 (金) 20時56分(140)
題名:新世界10(第八章)

白月「……っという訳なんです」

春「……なるほど。お前の神憑はルナンというわけか」

白月「はい、確かにそう名乗っていました。彼女、一体何者なんですか?」

春「世界の維持と存続を司る神だ」

白月「ヒンドゥー教で言うヴィシュヌみたいなものですね」

春「まぁ、似たようなものだな。ただ大きく違うところは、ルナン自身にその自覚が全くないことだ」

白月「どういうことですか?」

春「あいつの場合、存在しているだけでその役目を全うできるんだ。自ら何かをする必要はないから、自分の役割のなんたるかを、具体的に理解、自覚してないのさ」

白月「そうなんですか」

白月《……あぁ、そういえば、何か自分でも良く分からないとか言ってたかしら》

ルナン《そういうこと〜♪》

白月「うわっ!?」

春「っ!? ど、どうした!?」

白月「あ……い、いえ、な、何でもありませ……」

――ドン。

白月《……え?》

ルナン「はぁ〜い♪ お久しぶり〜、エナ」

春「……」

ルナン「……およ? どったの、エナ?」

春「……今の俺は春だ。その名で呼ぶな」

ルナン「んもぉ〜、相変わらず無愛想なんだから〜」

白月《え……えっ? な、何これ……?》

ルナン《あ、白月、体使わせてもらってるよ》

白月《体使わせてもらってるって……え? これ……どういうこと?》

ルナン《体の主導権を、今はルナンが貰ってるってことよ。早い話が交代よ、交代》

白月《こ、交代ってあんた……》

ルナン《……ん? どったの、白つ……》

白月《何勝手なことしてんのよーっ!!》

ルナン「わひゃっ!?」

春「……今度は何だ」

ルナン「あぁ、いきなり白月が大声出したもんだから、驚いちゃっただけ」

ルナン《もぅ……突然大声上げないでよ。びっくりするじゃん》

白月《あんた、勝手に私の体使わないでくれない!? 今すぐ主導権を私に返しなさい!》

ルナン《何でさ〜。久しぶりに実体持てたんだから、ちょっとくらい動かさせてくれてもいいじゃない》

白月《そんなの知らないわよ! 私の体は私の物だって、今朝も言ったでしょ!》

ルナン《やーだよーだ。そんなに言うんなら、実力行使で取り返してごらんよ》

白月《実力行使って言われても……どうすれば良いってのよ?》

ルナン《さ〜ね〜? 自分で考えれば? その間、この体はルナンのものってことで、よろしく》

白月《ふざけんなーっ!》

ルナン「……ってことで、改めてお久しぶり」

白月《無視すんなーっ!》

春「あぁ、久しぶりだな……良くは分からんが、話はまとまったのか?」

ルナン「うん。まぁ、何か良く分かんないけど、取り付く島もない感じだったから、放置プレイよろしくに放っておいたけど」

春「……だろうな」

白月《くぅっ……体を取り返すって言っても、どうすれば良いのかさっぱりだわ……》

ルナン《はっはっはー。足掻け足掻け〜。ま、気が向いたら返したげるから、それまで待ってなよ》

白月《ぬぐぐ……》

春「……でだ。わざわざ出てきたのは、何が目的だ? 俺に挨拶をするためだけじゃないだろう?」

ルナン「いんや。久しぶり〜って挨拶プラス、体を動かすっていう感覚を味わいたいな〜と思っただけだよ」

春「そうなのか? 俺はてっきり、あの時の問いの答えを知りたくて出てきたのかと思ったんだがな」

ルナン「……」

白月《あの時の……?》

ルナン「……さすがに鋭いね」

白月《……ルナン?》

ルナン《……》

春「まぁ、な」

ルナン「……だけど、その答えはいいよ。自分でも、大体分かってるし……」

春「……そうか」

ルナン「うん……でもね? やっぱり納得いかないんだよ……」

春「……」

ルナン「……何で? どうして、ルナンじゃダメなの?」

春「えっ……?」

ルナン「ルナンは……ルナンは、こんなに貴方のことが好きなのに……」

白月《え……えっ……?》

春「ル、ルナン……?」

ルナン「……やっぱり、エナはあいつのことが好きなの? あの、ティラとかいう奴のことが……」

白月《え、ちょ、えぇっ!?》

春「お、おい……お前、何を言って……」

ルナン「あんな奴の、一体どこがいいのさ!? 容姿は大して映えてないし、性格だって普通と、あんなのどこにでもいそうじゃない! それより、ルナンの方がずっと魅力的だと思わない!?」

白月《嘘……春さんって、ああいうのが趣味だったの……?》

春「ち、ちょっと待て! お前、何の話をしてるんだ!?」

ルナン「何のって……切り出したのはそっちじゃない。あの時の答えがどーたらこーたらって」

春「違う! そのことじゃない! 俺が言ってるのは、お前の力に関することだ!」

ルナン「ルナンの……力?」

春「そうだ! お前、言ってただろ? 自分の力は、この世界を維持する力。じゃあ、もし私がんだら、この世界はどうなるんだろう? そもそもこんな世界、維持して欲しいなんて誰も思ってないんじゃないのかな……って」

ルナン「あーあー、そう言えば、そんなことも言ったっけ?」

春「……お前、あの時見せた切なげな顔は何だったんだ」

ルナン「そんな顔したっけ? あははー、良く覚えてないや」

白月《……あんた、そんな大事なこと忘れてたの?》

ルナン《いや〜、忘れてたって言うか、今もまだはっきりとは思い出せてないって言うか……》

白月《……はぁ》

春「……はぁ」

ルナン「むっ! 何さ、二人してそんな人を小バカにしたような溜め息ついちゃって!」

春「そりゃ、白月も溜め息しか出ないさ」

ルナン「でもさ、ほら、良く言うじゃない。悲観は諦観、しかし楽観は意思だって」

白月《あんたのそれは、楽観とは言わないわ。ただの能天気って言うのよ》

ルナン「誰が能天気よ! 相も変わらず口が悪いわね、あんた!」

春「いや、白月の言う通りだな。お気楽極楽能天気。まさにお前のことじゃないか」

ルナン「なぬをーっ!? エナ、あんただって……」

――ポカッ!

ルナン「痛っ!? いきなり何すんのさ!」

春「……今の俺は春だと、さっき言わなかったか?」

ルナン「言ったけどさ〜。だからって、いきなり叩かなくてもいいじゃん?」

春「口でいくら言ったところで、お前は直ぐに忘れるだろう? 叩いて教えるのが一番だ」

ルナン「ぶー。暴力はんた〜い。虐待はんた〜い。DVはんた〜い」

春「……お前、DVの意味わかって……いや、それ以前に、DVが何の略か知って言ってるか?」

ルナン「えっと……ドラマティックバイオレンス?」

春「……響きだけなら惜しいな」

白月《……バイオレンスにドラマティックもくそもないでしょ》

ルナン《じゃあ、何だったっけ?》

白月《ドメスティックよ。ドメスティックバイオレンス》

ルナン「そうそう、それだ! ドメスティックバイオレンス!」

春「……で、ドメスティックの意味は?」

ルナン「えっ……とぉ……」

ルナン《白月〜。どういう意味?》

白月《さぁ? 自分で考えて、せいぜい恥をかきなさい》

ルナン《このドケチーッ!》

白月《あ、体返すって言うんなら、教えてあげてもいいけど?》

ルナン《ぬぬぬ……人の弱みにつけ込むとは、あんた良い性格してるじゃない……》

白月《誉め言葉として受け取っておくわ。で、どうなの? 返すの、返さないの?》

ルナン《ぐぎぎ……返したら、ちゃんと教えなさいよ?》

白月《えぇ、約束は守るわ》

――ドン。

白月「……っと。あ、戻った」

ルナン《ま、いっか。教えてもらったら、また奪い取れば良いだけだし》

白月《……》

春「今度は白月か」

白月「はい。バカがご迷惑をお掛けしました」

ルナン《勝手に人のこと馬鹿呼ばわりしないでよね! とにかく、さっさとドメスティックの意味教えてよ》

白月《えぇ、教えてあげるわよ。後でね》

ルナン《ちょ、何よそれ! 約束が違うじゃん!》

白月《何を言ってるの? 私は確かに教えてあげるとは言ったけど、今すぐにとか後でとか、時間の指定はしなかったはずよ?》

ルナン《な、なんたる屁理屈……》

白月《理屈には敵ってるわ。第一、今教えたらあんた、また直ぐにこの体を乗っ取ろうとするんでしょ?》

月夜 2010年08月13日 (金) 20時56分(141)
題名:新世界10(第九章)

ルナン《なっ……何故バレた……》

白月《お互いに考えてることは筒抜けだって言ったの、あんたでしょ》

ルナン《うぐっ……あれ? でもあんた、さっき教えるのは後にしようとか考えてたっけ?》

白月《いいえ。あんたの今さっきの心の声を聞いて、そうしようって思っただけ》

ルナン《な、なんという卑怯な手口……》

白月《あんたの考え方の方が卑怯よ。とにかく、恨むんなら己の浅はかさを恨みなさい》

ルナン《白月のオニー! アクマー! ヒトデナシー!》

白月《はいはい……》

春「……話はついたのか?」

白月「あ、はい。大丈夫です」

ルナン《何が大丈夫なもんか……ふんっだ!》

白月「……子どもみたいに拗ねてますけどね」

春「あぁ、それくらいならむしろいつも通りだ。」

白月「でしょうね」

ルナン《納得しないでよ!》

白月《納得するわよ》

白月「そんなことより、春さん」

春「何だ?」

白月「さっき言ってた答えって、何なんですか?」

春「……」

ルナン《……》

白月「あ、いえ、ちょっと気になっただけですから……その……言いたくないのなら、言わなくても……」

春「……ルナンの力は、この世界を維持、存続させる力だ。その力が消え失せれば、世界は創造と同時に崩壊する。存続無しに繁栄する世界はない」

白月「はい……」

春「以前の世界で、あいつは殺された。だが、その影響で、この世界から存続の力が消え去ることはなかった。……まぁ、今のこの世界があるんだから、それくらいは分かるよな」

白月「えぇ……」

春「恐らく、ルナンの力はぬなないの問題じゃないのだろう。神憑として存在していれば、それだけで良い……そういう類いの力なんだ」

白月「神憑として存在していれば良いって?」

春「あぁ、神憑というのは、この世界に迷い込んだ人間に宿る神格だっていうのは、前に話したよな?」

白月「はい」

春「だからと言って、神憑の宿り主がんでも、神憑が消えることはない。その存在は、また新しい宿主が現れるまで、眠りに就く。その期間、神憑として存在はしているものの、生きているとは言い難い。そういうことだ」

白月「なるほど……」

ルナン《……白月》

白月《うん?》

ルナン《……ゴメン。先に謝っとくね》

白月《えっ? それってどういう……》

――ドン。

ルナン「それは分かったよ。だけど、もう一つの問いに対しての答えは?」

春「……」

ルナン「こんな世界……こんな、ただ戦って殺し合うだけの世界、存続して欲しいなんて一体誰が願ってるの?」

白月《ルナン……》

春「……」

ルナン「もし、誰も望んでないなら……こんな世界、今すぐにでも無くなって欲しいって皆が思ってるなら、ルナンは……ルナンは……!」

白月《っ! そんなこと……》

春「そんなことはない」

ルナン「えっ……?」

春「確かにお前の言うことももっともだ。神憑同士が殺し合う末路を歩む世界は、誰も望んではいない。だが、ここをそんな世界にしているのは、他ならぬ神憑そのものだ。お前一人のせいじゃない」

ルナン「……でも」

春「世界というのは、ただそこに在ればいい。その世界を彩るのは、そこに住む者たちだ。例えその世界が悲しみに溢れ、行き着く果てが悲劇であろうと、その責も罪も、お前一人が負うものではない」

ルナン「……」

白月《春さん……》

春「だから、自分は生きていてもいいのか。いっそ、自分なんて消えてしまった方が良いんじゃないか……そんなことは、もう二度と考えるな」

ルナン「……」

白月《……春さんの言う通りよ。この世界がどうなってしまったとしても、それは貴女の責任ではないわ》

ルナン《……》

白月《そもそも、始まりすらしない世界じゃ、何一つと生まれないでしょう? そんな世界こそ誰も望まないわ。だから、自分をそんな責めないの。ね?》

ルナン《白月……》

春「……分かったな?」

ルナン「うん……うん……!」

春「……それじゃあ戻るぞ。いつまでもこんなところに居る訳にもいくまい」

ルナン「うん!」

白月《……ってちょっとルナン! あんた何普通に戻ろうとしてんの!? 早く体返しなさいよ!》

ルナン《や〜だよ〜だ! 取り返したきゃ実力行使で取り返してごらん》

白月《こ、この悪ガキが……さっきはあんな事言って損したわ……》

ルナン《あ、そうそう。結局ドメスティックってどういう意味なの?》

白月《教えて欲しいなら、さっさと体返しなさい!》

ルナン《んー、別にいいけどさー》

白月《……何よ?》

ルナン《教えてくれてもくれなくても、直ぐにまた体貰っちゃうよ?》

白月《それじゃ意味ないじゃない!》

ルナン《そう、意味ないの。だから教えてよ》

白月《何よそれ! 交渉がいつの間にか要求に変わってるじゃない!》

ルナン《ま、教えてくれないならくれないで、誰か他の人に聞くから》

白月《ぐっ……こいつ、ホントに可愛くないわね……》

春「ルナン? 何してるんだ、置いていく……っ!?」

ルナン「あ、はいはいただいま〜。……って、どしたの、エナ?」

春「あ、いや……何でもない。そんなことより、俺は春だと何度言って聞かせれば、お前は理解してくれるんだ?」

ルナン「エナはエナだもん。別にいいじゃん」

春「駄目だ。ただでさえ人数が多いんだ。呼び名が複数あったらややこしい」

ルナン「ぶ〜。ケーチー」

春「ケチで結構だ。さ、早く戻るぞ」

ルナン「は〜い」

春「……」

月夜 2010年08月13日 (金) 20時57分(142)
題名:新世界10(第十章)

「うっ……」
突然の立ち眩み。
フラッシュバックしたように白む目の前の景色とぼやける脳に、頭を左右へと振ることによって目覚めを強要する。
数秒後には、視界にも思考にも鮮明さが蘇り、異常をきたしていた身体は正常さを取り戻した。
何気なく周囲を見回す……が、見えるのは砂利に草花、そして生い茂る木々たちのみ。
何者の気配も感じない。
……何だったんだ、今のは。
《……時は満ちた》
「っ!?」
な、何だ、今の声は!?
改めて、四方へと視線を送る。
しかし、目に映る景色の中に動くものはない。
《永き悠久の如き時間を経て、遂に我の待ち望んだ刻が訪れた》
重々しく響く荘厳な声。
そして、ようやく気付く。
その声が、自身の内側から聞こえてきていることに。
「な、何を言って……お前、何者だ!?」
《傲るなよ、若造。我が名を知る権利など、貴様にはない》
「……言ってくれるな。だがそれを言うなら、お前にも俺の中に入ってくる権利などない」
《勘違いするな。我は他者に権利を乞い、譲り受ける弱者ではない。我は万物の支配者だ》
「万物の支配者か……唯一神にでもなったつもりか?」
《貴様の発言は一々不愉快だな。癪に障る。たった今よりこの体は我が物だ。消え失せろ》
「ぐっ……!?」
再び襲い来る目眩。
今度はそれに、全身を苛む痺れにも似た激痛と、脳を直接締め付けられているかのような頭痛が合わさる。
立っていることさえ出来ず、崩れ落ちるようにしてその場に膝を付いた。
倒れないよう、腕を地面に突き立てるだけで精一杯だ。
世界が歪み、歪曲した世界はやがて輪郭と共に色彩を失い始める。
「がはっ……!」
喉の奥から込み上げる嘔吐感に負け、口から何かを吐き出す。
一瞬、胃の中に残っていた内容物かと思ったが、鼻を突く生臭い匂いと、口内に広がる鈍い鉄錆びのような味が、色を失いつつある俺に、吐血したという事実を教えてくれた。
《抗うな。見苦しいぞ、愚者が》
「くっ……誰が、愚者だ……! この体は……俺のモノだ! お前なぞに……くれてやるものか……っ!」
《ほう……泥人形の末裔にしては、見上げた精神力だな。人にしておくには惜しい》
「ふざけろ……どこの誰とも知らない奴に……いいように操られてなるものか……!」
《……くっくっく、はーっははははは!》
「何が……おかしい……?」
《良いぞ、人間。人並み外れたその肉体と精神力。それでこそ、我が器にふさわしい》
「誰が……お前なんぞに……!」
《勇ましいな。だが、いつまでもつかな?》
「くっ……この程度で……屈すると思うなよ……」
震える足で立ち上がる。
……よし、大分慣れてきた。
最初は、それこそ吐血するほどだったが、今はかなり落ち着いた。
頭痛や全身の痛みはまだ消えないが、それももはや激痛と言うほどのものじゃない。
セピア色のぼやけた視界も、いつも通り、はっきりとした輪郭と鮮明な色彩を認識できる。
「……」
……だが、さすがに平気とは言えない。
こんな痛みを抱え続けながら、ずっと気を張り続けろなどと、無茶もいいところ。
肉体は平気でも、先に精神の方がイカれてしまう。
さて、どうしたものか……。
……どうするもこうするもないな。
何でこんなことになってしまったのかは分からないが、このままではいずれ、遅かれ早かれこの体は奴のモノだ。
一刻も早くんで、この世界を後にするしかない。
もし俺がいなくなっても、蒼焔たちとて目的は知っている。
後のことは、自分たちで何とかしてくれるだろう。
なら、問題はどうやってぬかだな。
首吊りやらリストカットといった一般的な自殺法じゃ、意識が朦朧となった所で体を奪われるだろうから、時間をかけてぬ方法はダメだ。
この体を奪われないようにするには、即か、それでなくとも肉体に何らかの致命傷を与えるしかない。
一番簡単なのは、心臓を一突きにするか、崖のような高所から岩場に身を投げることだが、あいにくそんな武器の類いは持っていないし、崖なんてものはこの世界にそもそもない。
これは、誰か第三者に頼むしか……いや、頼むなら夢奏か。
蒼焔やグリッジに俺を殺せと頼んだところで、躊躇うのは目に見えてる。
グリッジはまだしも、蒼焔はまず間違いなく、情に流されて下手を打つだろう。
それなら、夢奏に頼んだ方が良い。
彼女なら何の迷いもなく、涼しげな顔のまま、俺の首を平然とはね飛ばしてくれるだろう。
よし、そうと決まれば……。
「……」
……くそっ。
痛みのせいで意識が集中できない。
時間はかかるが、歩いて彼女の元まで行くしかないか。

――ザッ。

背後から聞こえてきた、何者かの足音。
脳天に響く頭痛をおしながら、なるだけ普段通りの表情を努めて、後ろを振り返る。
「お前は……」
そこには、先日拳を交えたあの女が、不敵な笑みを浮かべて立っていた。
「よぉ。また会ったな」

月夜 2010年08月13日 (金) 20時58分(143)
題名:新世界10(第十一章)

「なんだ、またお前か」
「なんだとは随分だな。せっかく会いにきてやったってのによ」
ちらと、視線を奴の足元に下げる。
他の地面と違い、そこだけが赤く染まっていた。
再び視線を上げる。
奴の口の端に、掠れて残っている血の痕。
決定的なのは、この鼻を突く生臭い匂い。
間違いない。
あの赤は、奴の血。
それも、吐血による出血だ。
通常、口から血を吐くとなれば、内臓からの出血。
それもあの量から考えるに、かなりの重病だろう。
外面は気丈を保ち、平静を装ってはいるが、何かしら心身に支障をきたしているのは、もはや紛うことなき事実。
突然聞こえてきた大きな呻き声に誘われて、まさかこんな光景に出会すことになるとはな。
「おい」
「……なんだ?」
「見逃して欲しいか?」
「……は?」
俺のその問いかけに、奴はすっとんきょうな声を上げた。
「聞こえなかったか? 見逃して欲しいかと言ったんだ」
再度、先の言葉を強調して繰り返す。
「……何を言ってるんだ、お前」
だが、案の定と言うべきか、奴はその問いに首を縦には振らず、訝しげに眉をひそめるのみだった。
まぁ、そうだろうな。
もし俺があの立場だったとしても、敵からこのような憐れみを受けて、すごすご引き下がりはしない。
だからと言って、今の弱ったこいつをぶちのめしたところで、何の満足感も得られはしない。
みしろ、一度は敗北を喫した相手の手負いを仕留めるなどと、俺のプライドが許さねぇ。
こいつには、全快の状態でリベンジかまさねぇとな。
「あぁ、じゃあ言い方を変えてやるよ。ここは見なかったことにしてやるから、さっさと消えな」
「……阿呆か、お前」
「……あ゛?」
阿呆?
そりゃ、誰のことだ?
まさかとは思うが、この俺に向かって言ったんじゃねぇよな?
「見逃すという言葉は、強者が取るに足らぬ弱者に向けて吐きかけるものだ。お前にそんな力があるとは思えんな」
「ほぉ〜。その体たらくで、なかなか言ってくれるじゃねぇか」
「この体たらくでも、お前程度をねじ伏せるぐらい訳もない」
「……んだと?」
「何なら……試してみるか?」
そう言って、奴が軽く身構える。
こいつ、何考えてやがる?
まさか、本気で俺に勝てるつもりでいるのか?
その体で?
「……上等だ。んで後悔するなよ?」
……面白い。
その傷を負った体でどこまで出来るのか、見せてもらおうじゃねぇか。
拳を握り、臨戦体勢を整える。
「……銃は抜かないのか?」
「けっ、お前みたいな手負い且つ非武装の相手に、銃なんか使うかよ。こっちで寝かせてやる」
握り締めた拳を、奴に向けて突き出す。
「ふっ……いつまでそう勇んでいられるかな……!」
《……来る!》

――ダッ!

大地を蹴りつける足が、その反発力でもって奴の体に速度を与える。
急速に縮まる距離。
数瞬の後にはもう、俺の体は奴の射程範囲内だった。
突き出される拳を、いつかと同じように受け止める。
手のひらを叩く、小気味の良い乾いた音。
しかしその衝撃は、以前の時とは比べる程もなかった。
奴の拳ごと手を握り締め、こちらへと引き寄せつつ、空いている方の腕でその頬を殴り飛ばす。
「……」

――ゴッ!

鈍い殴打の音を伴って吹き飛んだ奴の体が、砂煙を巻き上げながら地面を転がる。
「くっ……」
短い苦悶の声を溢しつつ、ふらつく足で立ち上がる。
「……」
その姿を見ながら、俺は思う。
おかしい。
手加減をしたわけではないが、あの程度の打撃を、奴がああも容易く食らうとは思えない。
現にさっき、あいつは俺の放つ拳の軌道を、横目で追っていた。
追っておきながら、防ごうとも避けようともせず、みすみすその拳を顔面に受けた理由はなんだ?
「ふっ……くっくっく……」
「……何がおかしい?」
「いや、お前が俺の予想通りに動いてくれたもので、ついな」
「何言ってやがる? むざむざ俺に殴られにきておいて予想通りとか、お前マゾか?」
「何だ、まだ気付いていないのか? 意外に鈍感なんだな、お前」
「っんだと……!?」
口の端に付いた血を拭いながら、奴が右手に握っているものを俺へと見せつける。
いつも携帯している、俺の短刀だ。
反射的に後ろ腰へと手を回す。
そこに、普段感じるはずの手触りはなかった。
「なるほど。さっき俺の拳を避けようともしなかったのは、このためか。だが、それでどうする? そんなものを奪ったところで、今のお前に勝ち目があるとでも思ってんのか?」
「見当違いだな。これを奪った時点で、もうこの戦いは俺の勝ちなんだよ」
「あん? どういう意味……」
と、俺の言葉を待たずして、奴は短刀を逆手に握り直し、それを高々と振り上げた。
その刃が向けられる先は、己自身。
「なっ!?」
こ、こいつ、何考えてやがる!?
慌てて懐に手を伸ばす。
……が、銃を取り出す頃にはもう、奴は何の躊躇いもなく腕を降り下ろしていた。
くそっ!
ダメだ、間に合わない!
銃口を奴の手に向け、引き金に指をかける。
「……」
そこまで構えた体勢のまま、俺は硬直していた。
その視線の先には、降り下ろした刃の先端を、心臓の直ぐ手前で止めている奴の姿が。
うつ向きがちに伏せられているせいで、その顔色を伺うことこそできなかったものの、様子がおかしいということだけは直ぐに理解できた。
「……」
一体どうしたってんだ?
ついさっき見せたあの動き。
あれは、に躊躇いを抱いている者の動作ではない。
ぬのが怖い人間に、あれほど力強く、己自身に向けて刃を降り下ろせるはずがない。
それは裏を返せば、寸止めできるような、生易しい勢いではなかったということ。
にもかかわらず、奴は刃が肉を貫くより前に、短刀の動きを止めている。
一体、どういうことだ?
「……くっくっく」
そんなことに思考を巡らす俺をよそに、奴が含み笑いを溢しながら顔を上げた。
「なかなか面白い余興だったぞ、人間」
「っ!?」
違う!
これは、あいつじゃない!
「てめぇ……ナニモンだ?」
「貴様如きに名乗る名はない。立場をわきまえるがいい」
「てめぇこそ、礼儀ってもんを知れよ。初対面の相手に対し名を名乗るのは、最低限の礼儀だぜ」
「礼儀とはまた面白いことを言う。お前は虫ケラを見つけた時に名を名乗るのか? 名乗らないだろう。名乗るより先に、もう踏み潰しているからだ」
「ほぉ……ってぇことは、何だ? てめぇにとって俺は、そこら辺の虫ケラと同類だと?」
「そういうことだ。よって――」
そいつが手の中で短刀を回し、逆手から順手へと持ち変える。
「――踏み潰すぞ、虫ケラ」

――ドスッ。

《えっ……?》
不意に、腹部に感じた衝撃。
最初は、何かがぶつかったのか程度にしか感じなかった。
……しかし、少しの時を経て、状況は一変する。
「ぐっ……!?」
腹部を襲う激痛。
それは、痛覚を通じて全身へと運ばれる。
鋭いその痛みの元へと視線を落としてみれば、そこには先ほど奴に奪われたはずの短刀が、肉を裂いて深々と突き刺さっていた。
バカな……っ!
あの野郎、一体いつ、こいつを投げやがった……!?

――ザッ。

直ぐ近くから聞こえてきた、砂を踏む音。
「くっ……!」
条件反射的に後方へと飛び退く……が、それで状況が改善されたりはしない。
更に一歩、拳を引きながら、俺が退いた分だけ、大きく踏み込むだけ。
ダメだ。
避けられない。
ふと、心に芽生える諦めの感情。
それは、即ちへと帰決する――

――ドン!

――はずだった。
《っ!?》
刹那の内に喪失する五体の感覚。
まるで、俺という存在が、内に抑え込まれているかのような、言葉にし難い感じ。
これが、ぬってことなのか?
一瞬、そんなことを考える。
しかし、それにしては実感がわかない。
……いや、確か前にも、似たようなことが……。
《なっ……!?》
次の瞬間、俺の体が、俺の制御下を離れて動き出した。
「……!!」
《モト!?》
奴の放つ拳に合わせて、モトが両の手のひらを重ね合わせる。
バカな!
奴の力の程は、以前やり合った時にわかってる!
あれほどの踏み込みを利用した打撃、この傷を負った体で受け止められやしないぞ!
《大丈夫……!》
体重を乗せた正拳が、重ね合わせた手のひらを打つ。
打たれた手のひらを起点に、全身を激痛が駆け巡る。
……かと思われた。

――パァン!

しかし、その実周囲に響いたのは、空気が爆ぜたかのような乾いた破砕音。
骨の砕ける音も、激痛もない。
その代わりにあったのは、凄まじい勢いで背面方向へと吹き飛ばされゆく、気味の悪い浮遊感だった。
何一つ抗うことさえ出来ぬまま、ただただ空中を弾丸の如く弾け飛ぶ。
その感覚は、背中を強く打ち付けた衝撃を最後に終わりを迎えた。
為す術なく、そのまま地面に倒れ込む。
「っ……」
《モト! 大丈夫か!?》
《う……うぅ……》
《しっかりしろ! 待ってろ、今何とかして……っ……!?》
何……だ……?
意識が……遠退い……て……。
《蒼……竜……》
モト……伽……藍……。

月夜 2010年08月13日 (金) 20時59分(144)
題名:新世界10(第十二章)

ルナン「……っとまぁ、そういう訳だから、これからよろしく〜」

メカ「あぁ、よろしく」

マヤ「よろしくな。にしても、随分と明るいキャラなんだな、ルナンは」

ルナン「? 明るくちゃダメ?」

マヤ「いや、そんなことないよ。ただ、他の連中の神憑に、ルナンみたいに底抜けに明るい奴がいなかったからな。なんとなく珍しかっただけさ」

ルナン「何事も明るく楽しく面白くがモットーだもん。暗く沈んでたって、良いことなんて何もないよ」

艦隊「おー、気が合うな〜。そうだよな。やっぱり何でも、面白可笑しくやっていかなきゃ、楽しくないよな」

月夜「うんうん、全くもってその通りだよね。日々を精一杯楽しく過ごさなきゃ、人生損だよね〜」

春紫苑「お前は生まれた時点で人生損してるがな」

月夜「何さ、生まれた時点って! 人生始まる前からマイナススタートとか、そんなの聞いたことないよ!」

春紫苑「生まれなきゃ0で済んだところを、わざわざマイナスにしてるんだ。損以外の何物でもないだろう」

月夜「何を〜!?」

ルナン「……ねぇねぇ、春ちゃん」

春紫苑「……何だ?」

ルナン「春ちゃんって、月夜のことが好きなの?」

春紫苑「んぐっ!? ゲホッ! ゴホッ!」

朱蒼「あら、良く分かったわね」

春紫苑「そんなわけあるか!」

ルナン「そりゃ分かるよ。あれでしょ? 好きな子ほど虐めたくなるっていう、サディスティックな趣味でしょ?」

春紫苑「違う!」

朱蒼「あら、違うの? だったら貴方、ただ嫌味なだけの嫌な奴になっちゃうわよ?」

マヤ「そうだな。だが、好きな娘に対してつい意地悪なことをしてしまうというんなら、可愛らしい奴ってことでまだ救いはあるぞ?」

春紫苑「そんなものはいらん!」

月夜「春ちゃんってば〜。そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃ〜ん」

春紫苑「ええい! 引っ付くな! 鬱陶しい!」

グリッジ「はっはっは。若さは貴重じゃのう。若い頃を思い出すわい」

蒼焔「若い頃って……グリ爺、あんなキャラじゃなかっただろ」

グリッジ「何を言う。昔はニヒルでクールな二枚目としてならしたもんじゃ」

鏡架「ニヒルでクール……ですか……」

蒼焔「おちゃらけ能天気な三枚目の間違いじゃないのか?」

グリッジ「わかっとらんの〜。ワシのこのダンディズム溢れる現在の姿から、若かりし頃のミステリアスな雰囲気を想像できんとは、イマジネーション力が足りんぞ」

艦隊「お、今の俺じゃん、それ」

春紫苑「寝言は寝てから言え」

春「いや、存在がミステリアスという意味じゃ、ある意味その通りだろう」

艦隊「ふっ、そう褒めるなよ」

鏡架「……いや、それ、褒められてませんって」

――ドォン!

『っ!?』

月夜「な、何、今の……」

メカ「音源はあの方角だな」

春「……マヤ」

マヤ「……あぁ。俺が様子を見てこよう。皆はここで待機だ」

メカ「一人じゃ危険だろう。俺も一緒に行こう」

ルナン「あ、ルナンも! ルナンもついてく!」

マヤ「ダメだ。ルナンはここで、皆と一緒にお留守番」

ルナン「えー。別にいいじゃん、ついて行ったってさ〜」

春「お前はここに残っていろ。様子を見に行くだけなんだ。偵察に三人も四人も割いたところで、メリットはない」

朱蒼「そうよ。ここは彼らに任せて、私たちは大人しくしていましょう」

ルナン「何よー。別にいいじゃん、一緒についてくぐらい。ルナンだって、こう見えて力は結構あるんだから、足手まといとかには……」

春「……ルナン」

ルナン「……」

春「お前は、俺たちとここで待機だ……分かったな?」

ルナン「……は〜い」

マヤ「よし。それじゃ行ってくる」

メカ「なるだけ直ぐに戻ってくるよ」

鏡架「お二方とも、お気をつけて……」

月夜「怪我とかしないでね……」

マヤ「心配するな」

メカ「それじゃ、行くぞ」

マヤ「あぁ」

――ダッ。



マヤ「……確か、この辺りから……」

メカ「……!? おい、マヤ!」

マヤ「どうした?」

メカ「あれを見ろ」

マヤ「あれって……っ!?」

蒼竜「はぁ……はぁ……」

マヤ「蒼竜!? 大丈夫か!?」

蒼竜「はぁ……はぁ……」

メカ「……意識がないみたいだな。しかしこの出血は……」

マヤ「マズイな。手遅れになる前に、急いで連れて帰ろう」

メカ「あぁ」

伽藍「蒼竜さ……あっ……」

マヤ「伽藍ちゃん……?」

伽藍「あ、あの……蒼竜さんは……」

メカ「んではいない……が、早く処置をしないと、手遅れになるかもしれん」

伽藍「そんな……お願い! 蒼竜さんを……蒼竜さんを、助けて……!」

マヤ「当然だ。さぁ、伽藍ちゃんも、俺たちと一緒に来るんだ」

伽藍「えっ……で、でも……」

マヤ「この際だ。こいつに何を言い付けられているのかは知らないが、一人こんな所で、ただ突っ立っている訳にもいかないだろう?」

伽藍「それは……」

メカ「迷ってる暇はないぞ。こいつをなせたくはないだろう?」

伽藍「っ!?」

マヤ「一緒に来るんだ。良いね?」

伽藍「う、うん……」

マヤ「良い子だ。さ、急ぐぞ」

メカ「あぁ」

蒼竜「はぁ……はぁ……」

伽藍「……蒼竜さん……」

月夜 2010年08月13日 (金) 20時59分(145)
題名:新世界10(第十三章)


体に覆い被さる、折れた枝や木の葉、そして幹の細い倒木たち。
背に感じるのは、固い土と刺々しい砂利の感触。
背がズキズキと疼く。
先ほどの、背中から木に激突した時の衝撃が、まだ背中に痛みを残しているのだろう。
まったく。
これだから、人の身の感覚神経は煩わしい。
「……」
地に横たわったまま、しばらくの間天を仰ぐ。
木々に茂る葉は青々しく、風に吹かれてゆらゆらと揺れる様は、無性に揺りかごを連想させる。
それらの隙間から、部分的に覗ける天は青く、そこに漂う雲の白が相まって、青と白の清々しいコントラストを天上に描いていた。
燦々と照る太陽の光が、雲間から射し込み目に眩しい。
この世界は美しい。
自然に彩られたここは、本来あるべき純粋な美しさを、損なうことなく今に残している。
人の世の汚ならしい世界とは、比ぶるべくもない。
しかし、いくら美しくあろうと、所詮は虚幻。
人間の管轄下に敷かれた、擬似的な世界でしかない。
そこでしか存在できない我が命も、今は命と呼ぶのもおこがましい程に儚い。
だが、それも今だけの話。
いずれ、我は再び現世に舞い戻る。
そして、我が愚息の過ちを正し、再度神話の世界を蘇らせるのだ。
「……」

――ガラッ。

体の上の邪魔な木の枝や倒木を押し退け、その場に立ち上がり、汚れを払いながら考える。
今、為すべきことは何か。
邪魔者の排除。
交渉物共の確保及び拘束。
だが、交渉物の内片方は、目覚めの予兆こそあるものの、完全な覚醒にはまだ遠い。
邪魔者を排除しようにも、一人であやつら全員を敵に回すのは、さすがに我と言えど骨が折れる。
……こいつの配下の連中を利用するか。
「クックックッ……」
さぁ、心して待つがいい、愚かな人間共よ。
貴様らの頭上に神が君臨する、その日をな……。

月夜 2010年08月13日 (金) 21時00分(146)
題名:新世界10(第十四章)

ティラ「……」

蒼竜「はっ……はぁ……」

伽藍「……」

ティラ「……ふぅ」

伽藍「……あの……蒼竜さんは……」

ティラ「傷は塞ぎましたから、もう心配いりません」

伽藍「本当に……?」

ティラ「はい。大丈夫ですよ」

伽藍「……良かった」

朱蒼「とは言っても、結構な量の血液を失ってるだろうから、一概に大丈夫とは言い難いわね」

伽藍「えっ……」

朱蒼「こういう時、普通なら輸血で事なきを得るものだけど……」

伽藍「そ、そんな……蒼竜さん……助からないの……?」

朱蒼「どれくらい血を失ったのか分からない以上、何とも言えないわ。まぁ、止血は完璧だから、今すぐどうこうってことはないでしょうけど」

伽藍「で、でも……」

蒼竜「はぁ……はぁ……」

伽藍「……蒼竜さん……こんなに……苦しそう……」

朱蒼「呼吸が荒いのは、血液を多量に失って血圧が下がったせいよ。むしろ、大量出血して息が乱れていない方が、よっぽど危ないわ」

月夜《……ねぇ、ティラ》

ティラ《ん? どうしました、月夜》

月夜《血を沢山流すと、何で息が荒くなるの?》

ティラ《血中のヘモグロビンが少なくなって、普段の呼吸では体内に酸素が行き渡らなくなってしまったから、その分を取り込む酸素の量で補ってるんですよ》

月夜《ふむふむ。なるほどなるほど》

ティラ《……後で、またゆっくり教えてあげますね》

月夜《……お願いします》

伽藍「蒼竜さん……」

マヤ「そんなに心配しなくても大丈夫。こいつのことだ、直ぐに目を覚ますさ」

伽藍「……」

春紫苑「……まぁ、当面の危機は去り、これ以上出来ることはないんだ。今は、彼女の身を案じる以外に、やるべきことがあるんじゃないのか?」

メカ「まぁ、そうだな」

艦隊「? やるべきこと?」

グリッジ「彼女がこんな目に合った、その理由じゃよ」

鏡架「そうですね……誰かと戦ったのは間違いなさそうですけど……」

ギスラウ「こんな綺麗な姉さんに傷を付けるだなんて、とんだクソ野郎だぜ、そいつ」

メカ「しかしこの女、見掛けによらずかなり戦闘慣れしてるからな。こいつにこれほどの深手を負わせるとなると、相手はよほど腕の立つ奴だったんだろう」

ルナン「そうなの? でも、いくら言ったって所詮は人間の、しかも女でしょ? 相手がもし神憑だったら、それこそ戦いにもならないよ」

ティラ「そうでしょうか? 神憑にも戦闘向きかそうでないかという相性があります。彼女がよほど出来るというのなら、神憑が相手だったからといって、遅れを取るとは限りませんよ」

ルナン「そうかなぁ……って、あれ? あんた、もしかしてティラ?」

ティラ「え? あ、はい、そうですけど……」

ルナン「久しぶりだね〜。ルナンのこと、覚えてる?」

ティラ「え、えぇ……一応は……」

ルナン「そう。一応は覚えてるんだ。じゃあ、やっちゃってもいいよね」

――ヒュッ。

ティラ「へ……?」

――パシイィン!

ティラ「……」

ルナン「……」

一同『……』

ティラ「……えっ?」

月夜《……え? 今、何で頬叩かれたの?》

ティラ《……さぁ?》

ルナン「この泥棒猫!」

ティラ「は、はい……?」

ルナン「エナのこと、一番最初に好きになったのはルナンなのに、横から奪い取るようなマネしないでよね!」

ティラ「え? えっ……?」

春「はぁ……」

ルナン「何よ、貧相な体つきにパッとしない容姿と性格で、調子に乗ってんじゃないわよ!」

ティラ「なっ……だ、誰が貧相な体つきですか! 貴女だって、人のこと言えるような体格をしてなかったでしょう!」

ルナン「でも、今はあんたの100倍魅力的なボディだよ。胸もしっかりあるし」

ティラ「それはあくまでも白月さんの体であって、貴女の体じゃありません!」

ルナン「憑く方も憑かれる方も、相手を選ぶんだよ。ティラは、今回も貧乳チビロリじゃん」

月夜《っ!?》

ティラ「誰が……!?」

月夜《な、ななな……》

ティラ《え……あ、ちょ、つ、月……》

――ドン!

月夜「どぅあぁれが貧乳チビロリよ! 好き勝手言ってんじゃないわよ、このガキんちょが!」

ルナン「うぉ、器の方が出てきた。ちょっと! あんたに用はないの! 早くティラと交代してよ!」

月夜「あ゛ぁ!? あんたが用事なくても、こっちは言いたいことだらけなのよ! あんだけ馬鹿にされて、黙ってると思ってんの!?」

艦隊「わあぉ……月夜がブチキレたぜ……」

朱蒼「初めてね、この子がこんなに怒鳴り散らすのは」

ティラ《つ、月夜……ちょっと落ち着いて……》

月夜「ティラは黙ってて!」

鏡架「怒りのあまり、心の声がそのまま声になっちゃってますね……」

春紫苑「……意外と、気にしてたんだな」

マヤ「一応言っておくが、月夜の前では黙っておいた方が良いぞ。もし下手に口にしたら、例え相手がお前でも、ぷっつんするかもしれないぜ?」

春紫苑「……肝に銘じておく」

月夜「人のこと貧乳チビロリ呼ばわりしてるけど、あんたはどうなのよ!」

ルナン「あんた、その目は飾り? 目の前にある、この豊満なナイスバディが見えないとでも?」

月夜「だから、それは白月の体だって言ってんでしょ! 第一、自分のことを名前で呼んでる時点で、もうガキ丸出しよ!」

ルナン「そんなのルナンの勝手でしょ! それに、一人称が自分の名前っていうの、可愛いって巷で評判なんだから!」

月夜「どこの情報よ! 巷にそんなロリペドばっか溢れてる訳ないでしょ!」

ルナン「はぁ!? あんただって、十分そんなロリペド野郎の射程内じゃない!」

月夜「おあいにく様! 私、こう見えても20前の大学生なんで、そんな異常性愛対象じゃないの!」

ルナン「そんなこと言ったら、ルナンなんてもう何百歳か分からないもんね〜」

月夜「何百歳って……ババアじゃん」

ルナン「ババア言うな! このチビ!」

月夜「何よ、年増!」

ルナン「幼児体型!」

月夜「合法ロリ!」

ルナン「貧乳まな板!」

メカ「……何だか泥沼化してきたな」

蒼焔「……もう、ただの悪口の叩き合いですね」

朱蒼「ま、結論どっちもお子ちゃまってことね」

グリッジ「はっはっは。ワシからして見れば、ここにいる全員、皆お子ちゃまよ」

蒼焔「そりゃ、グリ爺からしたらそうだろうよ……」

ルナン「あぁ、もうめんどくさいな! 一発ぶん殴って気絶させたら、嫌が応にもティラが出てくるだろうし……」

月夜「何よ、やる気?」

ルナン「うん。ま、安心しなよ。一発で気持ち良くオトしてあげるから、さっ!」

――ブン!

月夜「っ!?」

ギスラウ「危ねぇ! 月夜!」

――ガスッ!

ギスラウ「ぐはっ!!」

――ドシャア!

月夜「ギ、ギッちゃん!」

ギスラウ「う、うぅ……」

月夜「ギッちゃん! ギッちゃん、大丈夫!?」

ギスラウ「つ、月夜……俺は……もうダメだ……」

月夜「そ、そんな……ギッちゃん、諦めちゃダメよ!」

ギスラウ「月夜……最後に一言、言っておくぜ……」

月夜「……何……?」

ギスラウ「俺は……」

月夜「……」

ギスラウ「……俺は、歳上の女性も好みだったが、ロリロリな月夜、誰より好きだった――」

月夜「死ねっ!」

――ドグシャッ!

ギスラウ「ぶべらふぁっ!?」

――ドサッ。

マヤ「……真性のアホだな、あいつ」

鏡架「……口は災いの元って、もう彼の為にあるような言葉ですね」

月夜「あーっ、もう! イライラするっ! あんたが誰だか良く知らないけど、そっちがその気なら、こっちだって考えがあるんだからね!」

ルナン「何? 人間の分際でやるっての? 上等じゃん。ボッコボコにしてやんよ」

月夜 2010年08月13日 (金) 21時01分(147)
題名:新世界10(第十五章)

春「……マヤ、メカ」

マヤ「はいはい」

メカ「……了解」

マヤ「ちょいちょい、ルナン」

ルナン「んぁ? 何か……」

――ドン。

ルナン「あっ……」

――パタッ。

メカ「月夜、月夜」

月夜「あ゛? 何のよ……」

――ドン。

月夜「うっ……」

――パタッ。

白月「いたた……やれやれ、やっと戻れたわ」

ティラ「ふぅ……すいません、ご迷惑をお掛けしました」

白月「えっ? あ、いや、それはこちらも同じというか……皆さんにも、お見苦しい姿を見せてしまって、どうもすみませんでした」

グリッジ「いやいや、面白いものを見せてもらったわい」

艦隊「まぁ、その代償として約一羽が瀕に陥ったけどな」

朱蒼「どうせ今からのシリアスな会話には入ってこれないだろうし、ちょうど良いんじゃない?」

鏡架「あ、あはは……」

鏡架《相変わらず、扱い酷いなぁ……》

伽藍「……」

メカ「さて、伽藍ちゃん。一体何があったのか、教えてくれるかい?」

伽藍「……」

マヤ「伽藍ちゃん、君はいつも彼女と一緒に居るんだろう? もし何か知っているんなら、俺たちに話してくれないか?」

伽藍「……」

鏡架「あの……知らないのなら、知らないでも良いんですよ? だから、話していただけませんか? 誰も怒ったりしませんから……」

伽藍「……」

春紫苑「何を聞いてもだんまりか……」

白月「困ったわね……」

伽藍「……」

艦隊「ここは、我らが姉さんの出番だな」

朱蒼「やれやれ……ねぇ、伽藍ちゃん」

伽藍「……」

朱蒼「伽藍ちゃんは、蒼竜さんのことが好きなのよね?」

伽藍「……」

――コクッ。

朱蒼「蒼竜さんの、どういうところが好きなの?」

伽藍「……全部……」

朱蒼「そう。伽藍ちゃんみたいな子に、全部が好きって言ってもらえるだなんて、とっても良い人なのね、彼女」

伽藍「……」

――コクッ。

朱蒼「だけどね、伽藍ちゃん。今、私たちが伽藍ちゃんから話を聞きたいのは、彼女を助けたいからでもあるの」

伽藍「……」

朱蒼「今、伽藍ちゃんが知ってることを話してくれたら、それがヒントになって、彼女をその敵から守れるかもしれない。だけど、もし伽藍ちゃんが何も話してくれなかったら……」

伽藍「っ!?」

朱蒼「……話してくれるわよね、伽藍ちゃん」

伽藍「……」

――コクッ。

春「それじゃあ先ず、相手は誰だったんだ?」

伽藍「……男の人……」

マヤ「男……それ、一人だけだったかい?」

伽藍「……」

――コクッ。

蒼焔「……っ!?」

蒼焔《一人の……男だって……!?》

グリッジ「……」

春紫苑「その男は、何か不思議な力を使っていたりしたか?」

伽藍「……」

――フルフル。

鏡架「ということは、相手は神憑の覚醒していない、普通の人ということでしょうか?」

メカ「どうかな。さっきのあの音はお前も聞いただろう? あれほどの轟音を巻き起こす勢いで、人間の体を吹き飛ばすなんて離れ業、普通の人間に出来るとは思えないが」

ティラ「そんなことより、そもそも彼女は、何でその男の人と戦うことになったのでしょう?」

白月「確かに……こんな世界で誰かに会ったとして、話し掛けたくなりこそすれど、戦いたくなんてなるはずありませんものね」

グリッジ「何で争うようなことになったのか、そのきっかけを教えてくれんかのぅ?」

伽藍「……」

春「……まぁ、そんな争いのきっかけなんてものは、今はどうでもいい。大事なことは、そいつがどのような能力、及び力を持ってるかということだ」

マヤ「とはいえ、特殊な能力を有しているのかどうかはおろか、神憑が覚醒してるのかどうかも分からないんじゃなぁ……」

メカ「だが、彼女のあの有り様から察するに、相手が好戦的な輩であることはまず間違いないだろう」

春紫苑「警戒するに越したことはないだろうな」

蒼焔「……グリ爺」

グリッジ「……分かっとる」

春「……」

月夜 2010年08月13日 (金) 21時01分(148)
題名:新世界10(第十六章)


「……」
眠ったフリを決め込んだまま、うっすらと目を開けて、辺りの様子を伺う。
細い倒木を枕代わりに身を横たえ、瞳を閉じる蒼空。
そして、そんな彼の直ぐ傍には、大きな岩に背を預け、同じように目を瞑っている紗女の姿があった。
蒼空の方は、眠っていると考えてまず間違いないだろう。
だけど、あの厄介者のメイドは、一見寝ているように見えても油断ならない。
もしかしたらあれは狸寝入りで、私が何かしらボロを出す瞬間を待っているとも限らない。
「……」
しばらく迷った後、私は静かに立ち上がり、音を立てないよう慎重にその場を後にした。
二人の居る場所とは反対の方向に歩みを進め、木々の群生する小さな林の中へと足を踏み入れる。
少し歩いた所で立ち止まり、再び周囲に気を配る。
……人の気配はなく、誰かの視線を感じることもない。
どうやら、最も危惧していた状況は回避できたようだ。
しかし、いつまでもそう呑気に構えてはいられない。
蒼空はともかく、紗女は完全に私のことを疑っている。
強行手段に及ばないということは、まだ確証を得てはいないのだろうけど……どちらにせよ、悠長なことは言ってられない。
出来る限り迅速且つ確実に、あの女を始末しないと……。
「……」
辺りに向ける警戒を怠ることなく、いつも着けている髪飾りに手を伸ばす。
琴の形をした髪飾りで、私のお気に入りだ。
取り外したそれを地に置き、指につけた治りかけの傷痕から無理やり血を滲み出させ、琴の髪飾りの上に一滴、血を垂らした。
刹那、虫のように蠢きながら、凄まじい勢いで巨大化する髪飾りの琴。
それは数秒もしない内に、本物の琴と何ら変わらぬ大きさへと変化を遂げた。
最初こそなんだか気持ちが悪かったものの、今となってはもはや見慣れた光景。
何も感じることはない。
「さて……」
琴の手前に膝をつく。
何気なく空を見上げてみれば、そこに浮かぶのは晧晧たる紅い月。
私の一番好きな、紅月の夜。
だから、今夜はきっと上手く殺れる。
「……今日こそ、しっかり殺さなくちゃね」
自身に言い聞かせるように呟く。
夜空を仰いでいた視線を琴へと下ろし、私はそっとその弦に指を添えた。

月夜 2010年08月13日 (金) 21時02分(149)
題名:新世界10(あとがき)








デデデンデデデンデンデデデン。

お気の毒ですが「ぼうけんのしょ1」は消えてしまいました


デデデンデデデンデンデデデン。

お気の毒ですが「ぼうけんのしょ2」は(以下略


デデデンデデデンデンデデデン。

お気の毒ですが(ry








……(´・ω・`)








(´;ω;`)ブワッ









っていう夢を見ました


久しぶりでしたよ、えぇ、あんなに背筋が凍る思いをしたのは。
ラスダン前まで来ていたにもかかわらず、再びレベル1でローレシアから始めなければならないこの苦痛。
スライムやらカラスやらナメクジと、またしても戯れなければならないあのやるせなさ。
何が一番嫌かって、そんなのあの呪いの音楽に決まってるじゃないか。

デデデンデデデンデンデデデン

わざわざデータが消えた時用に、あんな音楽を作ったスクウェアの人は天才だと思うけど、さすがに殺意を抱かざるを得ない(♯^ω^)









こんなところで皆さんのトラウマをほじくり返してる暇があるなら、さっさとあとがき終われって感じですよね、さーせん(´・ω・`)

さて、今回で遂に新世界も第十回。
神憑も大分覚醒して、そろそろ一話丸々登場しないキャラも出てきそうな悪寒。
……ってまぁ、今回既にそうなっちゃってるんですけどね(・ω・;)

物語としては、三鎚に起きた異変と、白月の神憑が目覚めたことが、展開部として真っ先に挙げられる内容でしょうか。
令定者側より送り込まれた人間であるはずの彼に、一体何が起きたのか。
……まぁ、あんまり話すと何かボロが出ちゃいそうなんで、この先は乞うご期待というけとで一つ(´・ω・`)

さてさて、今回で神憑覚醒者も増えてきたので、あとがきその2で簡単なキャラ紹介をしましょうか。
まぁ、今回は神憑ばっかりのキャラ紹介になっちゃうんだけどね(´・ω・`)

それでは、今回もこの辺りで失礼させていただきます。
今作に対する感想やらアドバイスやらございましたら「小説感想アンケート板」または「小説感想掲示板」、「月夜に吠えろ」までどうぞ、いつでも書き込んだり投稿したりしてやってくださいな(´・ω・`)ノ

それではまた、次の作品でお会いしませう。

ここまでは、浴衣を最初に発明した日本人は神ということを、最近改めて理解した私、月夜がお送りしました。















和装のお姉さんは、日本が生み出した国宝だと思うんだ(´・ω・`)

月夜 2010年08月13日 (金) 21時03分(150)
題名:新世界10(あとがきその2)

バゼル

マヤの神憑。
忌み名は“剛砕の破壊者”
その能力は、ありとあらゆる物質の固定、硬質化。
触れることのできる物体であれば、何でも固体として扱うことができる。
水を氷にすることなく固体化することや、空気を固体化することも可能。
自身の腕の周囲を漂う空気を硬質化し、殴るという行為の破壊力を極限まで高めていることが、その名の由来である。
尊厳に満ちた性格と声の質から、気難しく取っ付きにくいイメージを持たれがちだが、その実義の心に重きを置き、恩を忘れず忠義を尽くす、どちらかと言えば大将より最高の副将向き。
ただ、彼を従えるほどの力を持つ者などそうはおらず、実際に彼が誰かに仕えた試しはほとんどない。
好戦的ではないが、歯向かう者に対して容赦はない。


アナンタ
鏡架の神憑。
忌み名は“緋姫の惨殺者”
指先の延長線上に不可視の刃を形作る能力。
その切れ味は凄まじく、劇中でも彼女が言っていたように、鉄程度なら難なく切り裂く。
あどけない口調に短絡的な性格と、中身は子どもっぽいが、その本質は極めて異常。
ただ殺人嗜好的なだけでなく、己の死に対してさえ興奮するその性癖は、もはや常人の理解の及ぶところではない。
敵味方関係なく、殺したい者を殺したい時に殺すという思考回路で、以前の世界では、その力でティラを殺している。


モト
蒼竜の神憑。
忌み名は“枯渇の拒絶者”
その能力は、外からの干渉を拒絶するというもの。
自身へとむけられる衝撃を拒絶し、そのまま相手へと弾き返す。
ただ、三鎚(?)と相対した時には、その負傷に加え、まだ覚醒して間もないこともあり、衝撃を返しきれずに自身も吹き飛ばされてしまった。
激しい人見知りと失語症を患っていることもあり、あまり他者に心を開かず、自身を傷つけられることを恐れるあまり、他者を傷つけ、殺めてしまったこともある。
だが、心を開いた相手に対しては優しく、子どもっぽい一面を見せることも。


ルナン
白月の神憑。
忌み名は“極夜の啓示者”
極夜とは白夜の反意語で、一日中太陽の昇らない日のことを示しており、この世界を揶揄している。
彼女の力は、この世界の存続を司るもので、もし彼女の存在が消失すれば、世界は誕生と同時に崩壊を迎える。
しかし、それは神憑として存在していれば良いだけであり、ただ殺されただけではその力は消えない。
底抜けに明るいが、同時にかなり嫉妬深い。
あの雰囲気の中、いきなりティラの頬を張り飛ばしたりすることからも分かるように、自分勝手で空気も読まない。
ついでにおバカ。

月夜 2010年08月13日 (金) 21時04分(151)


Number
Pass

ThinkPadを買おう!
レンタカーの回送ドライバー
【広告】楽天市場にて お買い物マラソン5月9日開催予定
無料で掲示板を作ろう   情報の外部送信について
このページを通報する 管理人へ連絡
SYSTEM BY せっかく掲示板