「状況はどうだ?」
「何も問題ありません。先刻より常態のまま経過しています」
「つまり、進展なしということか。調停者との連絡は?」
「継続してコンタクト可能ですわ」
「まぁ、あの子元々無口だから、連絡取れてもあんまし喋ってくれないんだけどね〜」
「また要らぬことを……貴女みたいに五月蝿いのより、何倍もマシというものです」
「五月蝿いとは酷いわね。どうせなら賑やかって言ってくれない?」
「賑やかというのは、周りを楽しませるような雰囲気のことを言うのです。貴女のそれは騒がしいだけで、何っにも楽しくありませんもの。それを、五月蝿いと言わずなんと言えと?」
「ほほぉ……言ってくれるじゃないの、このナイチチまな板女が……」
「……なんですって?」
「あら、もう一回言って欲しいの? ツルペタナイムネ女」
「ふん、貴女みたいに胸ばっか栄養行ったちゃらんぽらんな女と比べれば、そっちの方が何倍もマシでしてよ」
「ふっ……ムネナシの僻みは聞くに堪えないわね。遠吠えの虚しさに、思わず涙が出てくるわ」
「あら、知らないんですの? 世の男性は、LサイズよりS〜Mサイズを好むのですよ?」
「分かってないわね〜。そんなの、貴女みたいな可哀想な女のために作られた、建前に決まっているでしょう」
「じゃあ、実際に聞いてみましょうか?」
「望むところよ」
――キッ!
「……え゛?」
『どっち!?』
「え、あ、あの……えぇっと……」
……ま、あっちが常態なら、こっちもこれが常態といったところか。 どっちもどっち、賑やかで騒がしい娘たちだ。 さてさて、あの二人は彼に任せて、私は状況の確認といくか。 ……ん? なんだ、このリストアップされている数人は? ……あぁ、そうか。そういえば、今日はあの月が昇る日だったな。 ということは、これらの面々は、あの月を己の月神に選んだということか。 いや、ただ単に選んだと言うと、些か語弊を招く。 敢えて言うなら、潜在的意識の内に選んだと言うべきか。 さて、彼らは一体、どんな力に目覚めるのやら……。
「胸はやっぱりおっきい方が好きよね? ほら、あんな貧相なまな板女に、遠慮することないのよ?」
「巨乳の時代なんてとうに終わってんのよ、この時代錯誤のお天気娘。でかいばっかりで役に立たない牝牛に、情けをかける必要はないんですのよ?」
「え、あ、いや……僕は……その……」
「その……何?」
「えっと……僕は、そのぉ……胸より、足とかの方が……」
『っ!!?』
「……」
「……」
『……ふん』
「……何よ、鼻で笑ってくれちゃって。このボンレスハム」
「……それはこっちの台詞ですわ。この短足大根女」
「かちーん! 誰が短足大根だってのよ! このスラッとしたカモシカの如き脚線美が目に入らないの!?」
「な〜にがカモシカよ。な〜にが脚線美よ。足短すぎて、脚線そのものすら見えませんわね〜」
「ふん、そんな丸太みたいな足して、良く言えたもんね。あんた、ゴリラの遺伝子でも引いてんじゃない?」
「その言葉、そっくりそのまま貴女に返して差し上げますわ。私ほど理知的な人間に、ゴリラみたいな野生的遺伝子は無縁でしてよ。貴女にはお似合いでしょうけれど」
「……何よ、やる気? この寸胴」
「大根」
「ボンレスハム」
「短足」
「まな板」
「牛」
「え、えっと……喧嘩はそのくらいに……」
『あんたは黙ってなさい!』
「は、はいぃ……」
「……はぁ」
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