「今回の覚醒者は?」
「M.D.ですね。他はまだ目覚めの予兆が微かに伺える程度です」
「そうか。そういえば、あの後S.I.保持者の様子はどうだ?」
「特にこれといった異常もなく、常態のまま経過していますわ」
「ふむ……わかった。以後も、彼女の状態にはより一層気を配ってくれ。何かあったら、どんな些細なことでも逐一報告をするように」
「けどさ〜、おじいちゃん。何であの力をそんなに気にかけてるの?」
「……」
「……まぁ、別に教えてくれなくても良いけどね。私たち皆、おじいちゃんのこと信じてるし」
「……すまないな」
「いいえ、博士が謝ることはございませんわ。彼女の言った通り、私たちは全員、博士のことを信頼していますもの」
「そうですよ。博士に例えどんな隠し事があったとしても、僕たちはどこまでも博士について行きます」
「……ありがとう。時が満ちれば、いずれ話そう」
「にしても、前々から思ってたんだけどさぁ」
「何です?」
「このS.I.とかM.D.とかって、どういう意味なの?」
「……貴女、そんなことも知らずに今までやってきたの?」
「……あれ? まさかとは思うけど、これって俗に言うJkってやつ?」
「まさに常識そのものですわ! 全く……呆れて物も言えません」
「バ、バカにしやがって〜……でさ、あれってホント何なの?」
「あれはですね、彼らに目覚めた能力の種類を表しているそうですよ。多分、二つの単語の組み合わせで表される能力の、イニシャル2つを取ったものだとは思うのですが……」
「へぇ〜、そ〜なんだ」
「とは言え、それも所詮はただの予想。確率はどこまでいっても確定には達し得ないものだ。そもそも、彼らの能力はそのほとんどが未知のものだからな。分かるのはその波形とイニシャルくらいのもので、どのような能力かまで正確に把握することは、具体的に発現するまで分からない」
「ふむふむ……ってことは、あそこの人たちの覚醒する能力全部に、あの波形とイニシャルがついてるってこと?」
「そういうことになるな」
「ふ〜ん……でも、それっておかしくない?」
「何がです?」
「だって、私たちがまだ出逢ってない未知の能力にも、それぞれに対応する名称が付いてるってことでしょ? なら、私たちよりも前にこの研究をしていた“誰か”がいるってことにならない?」
「……言われてみれば、確かに……。しかし、もしそうだとすれば、僕たち以前の研究チームは相当優秀だったということになりますよね。なんと言ったって、ほぼ全ての能力を発現させ、その名称をデータベースに記録しているんですから」
「いえ、それはないと思いますわ。この研究の責任者の欄には、今も昔も博士の名しか載っていませんもの。私たちの前に、他の研究機関の手に触れたとは思えませんわ」
「あれ? でも、それってこのシステムを作ったのもおじいちゃんってこと?」
「確かに博士は研究責任者だけど、開発に携わってはいないはずですよ。そうですよね?」
「あぁ。このシステムそのものを生み出したのは私じゃない。それどころか、開発には全く関与していないよ」
「全然?」
「あぁ」
「へぇ〜……でもさ、じゃあ何で開発者の人たちは、自分で研究しようとしなかったんだろ?」
「開発と研究はその根本が違いますからね。そもそも、研究というものが1から100ある全ての可能性をしらみ潰しに調べていくことであるなら、開発というものは、1から100ある選択肢の内、己の感性に基づいた一つを選び抜くことの繰り返しであることが多い訳ですから。研究者を努力型とするなら、開発者は主に閃き型です」
「中には、1から100まで可能性全てを試してゆく努力型の開発者もいますけど。こんな人智を超えたシステムを創り出すなんて、間違いなく前者でしょうね」
「そっかぁ。じゃあ、これを創った人って誰なんだろう?」
「確か……開発責任者の欄には、カナ文字で誰かの名前が記されていましたけど……チラッと見ただけですので、良くは覚えてませんね」
「どちらにせよ、そんなこと私たちには関係のないことですわ。さぁ、お喋りはそのくらいにして、二人とも席にお戻りなさい」
『は〜い』
「……」
「……博士? どうかなさいましたか?」
「ん……いや、何でもない。私は少し奥に戻っているから、その間よろしく頼む」
「はい……わかりましたわ」
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