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新世界作品置き場

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タイトル:新世界7 SF

――令停者側から送られる四人の刺客。彼らは各々の手段を用い、月夜たちに接触を試みる。だが、そんな刺客に紛れて、珍妙不可思議な生き物も突如乱入!? シリアス方面に向きつつもコミカル要素を棄てきれない新世界第七段!

月夜 2010年07月09日 (金) 13時57分(85)
 
題名:新世界7(第一章)

「……終わったか?」

「はい、博士」

「無事、転送完了いたしましたわ……」

「浮かない顔だな。まだ慣れないか?」

「当然ですわ。こんなこと……間接的に人を殺めているも同然ですもの……」

「……まぁ、言い方悪いけど、その通りっちゃその通りだよね」

「博士のことは尊敬していますし、これが必要なことだというのも理解しています……ですが、これだけは……」

「……潔癖症ですね。そんなことだと、世の中苦しいことばかりですよ」

「……貴方に言われなくとも、それくらいわかってますわ」

「ま、キレイなままいれるのは子供の時だけってことだね。誰だって、いずれは何かしら汚れた部分を抱えるようになる……それが大人になるってことよ」

「そう……かもしれんな」

「理屈はそうだと、頭では理解していても、心までそうはいかない。……人間ってのは、つくづく不便な生き物ですよね」

「……まぁ、中には頭も心もちゃらんぽらんで、何にも考えてなさそうな奴もいますけど」

「ふ〜ん。でも、もしそんな生き方ができるなら、きっと毎日幸せだろうな〜」

「あら。でしたら、私の直ぐ近くに、とても幸せそうな人がいますわね」

「へ〜。本当にそんな人いるんだ。羨ましい限りだね〜」

「私は全っ然羨ましくなんてありませんけどね」

「そうなの? ……もしかして、その人のこと嫌いなの?」

「え……あ、いえ、べ、別に嫌いというわけでは……」

「だったら、そんな全然〜なんて言って、冷たく当たらなくてもいいじゃない。どうせあんたのことだから、面と向かってもそういう態度なんでしょ?」

「そ、そう……なのかしら?」

「きっとそうだよ。ちゃんと好きなら好きなりに、優しく接してあげないと」

「なっ!? だ、誰が貴女みたいなバカを好きになんて……!」

「? いや、私じゃなくて、あんたのそのお友達の話なんだけど」

「っ!? そ、そんなことは私の勝手ですわ! 失礼します!」

――バタン!

「……変な奴〜」

「……前々から思ってはいましたが、相当鈍いですね、彼女」

「まぁ、昔からあんな調子だからな。気にするな」

「へ? 何か言った?」

『いや、別に』

「? 二人して変なの〜」

「変なのはお前だ」

「はえ? おじいちゃん、それどういう意味?」

「言葉通りの意味だ。さぁ、二人ともそろそろ仕事に戻れ」

「はい、わかりました」

「?」

月夜 2010年07月09日 (金) 14時02分(86)
題名:新世界7(第二章)

???「さて、と。……とりあえず、全員いるか?」

???「はい、兄上」

???「私も、大丈夫です」

???「……ん?」

???「いかがなさいました? 三鎚さん」

三鎚「いや、グリッジの姿が見えないなと……」

???「あぁ、それでしたら……」

グリッジ「……」

???「この通り、私の下で無事ですわ」

三鎚「……これを無事と言うのか」

???「夢奏、これはどういうことだ?」

夢奏「いえ、転送の際、下手に落ちたら痛いだろうなと思いましたので、こうしてクッション代わりにさせていただいただけですよ」

???「……相変わらず最低だな、お前」

夢奏「あら? そんなことをおっしゃるのでしたら、次からは貴方を下敷きにさせてもらいますわ、蒼焔さん」

蒼焔「断る。ちゃんと自分で着地しろ」

夢奏「酷い……こんなひ弱な乙女に対して、そんな言い草はあんまりです……」

蒼焔「誰がひ弱な乙女だ。そういう奴は、自分で自分のことをひ弱な乙女なんて言わないよ」

三鎚「ケンカをするのは勝手だが、まず何より先にするべきことがあるんじゃないか?」

グリッジ「ん……むぅ……?」

夢奏「あら、すっかり忘れてましたわ。失礼いたしました、グリ爺」

グリッジ「おぉ、夢ちゃんか。おはよう」

夢奏「はい、おはようございます」

グリッジ「……何だか、体の節々が痛いんじゃが……?」

夢奏「あら、グリ爺ってば、覚えてませんの? 転送先に着いた時、私が怪我をしないようにと、私のことを庇ってくれたんじゃないですか」

グリッジ「はて? そうだったかの?」

夢奏「まぁ! 私に罪悪感を感じさせないよう、忘れた振りをなさるだなんて……さすがはグリ爺、とても紳士的ですわ」

グリッジ「そうか? なんだかこそばいのう、がっはっはっは」

蒼焔「……なんだ、この会話」

三鎚「……突っ込むな。突っ込んだら負けだぞ、蒼焔」

グリッジ「おぉ、三鎚に蒼焔か。二人とも無事なようじゃな」

蒼焔「一番無事じゃなさそうな人に心配されてもなぁ……」

グリッジ「何を言うか。あの程度の衝撃、この鍛え上げたマッソーボディの前にはさざ波同然じゃよ」

夢奏「あぁ、なんと逞しい肉体美……素敵ですわ、グリ爺」

グリッジ「かっかっか、そうじゃろうとも、そうじゃろうとも」

蒼焔「……はぁ」

三鎚「……ま、全員無事みたいで何よりだ。それじゃ、これからのことについて、話し合うとするか」

月夜 2010年07月09日 (金) 14時04分(88)
題名:新世界7(第三章)

マヤ「……」

春「こんな夜更けに、一人でどうした?」

マヤ「お前か……いや、ちょっとな」

春「元居た世界のことを、思い出したりでもしてたのか?」

マヤ「まぁ、そんなところだ」

春「そうか」

マヤ「お前は無いのか? そういうこと」

春「俺か? そうだな、俺は……」


『あ〜、早く明日にならないかなぁ。……うん! 今から待ちきれないよ!』

『ねぇねぇ、これどう!? これ! 似合って……あ、ちょ、待ってよ! 待ってってば!』

『あれ……なんだろ……眠く、なって、きちゃったや……ん……おや……す……み……』


春「……」

マヤ「……どうした?」

春「いや、どうもしないよ。俺は、特に思い出したりはしないかな」

春《……第一、これは俺の記憶じゃないしな》

マヤ「そうか……」

春「今は、どうやってこの世界を生き延びるか。それ以外のことに気を割いている余裕はない」

マヤ「……まぁ、な」

春「……だが、自然と思い出せる何か、どうしても忘れられない何かがあるのは、決して悪いことじゃない。人間というのは、他の肉体的、本能的動物と違って、精神的、理性的な生き物だ。本当に追い詰められた時、そういった強い想いがあるのとないのとでは、大きな違いが出る」

マヤ「……それが、悪い思い出でもか?」

春「思い出に善も悪もないよ。過ぎた過去で、その時確かに胸に抱いたものこそが思い出なんだ。例えそれがどんなに誤った過去であっても、人が抱いた想いに善悪なんて存在しないのさ」

マヤ「それが嫉妬や憤怒、後悔といった類いのものでもか?」

春「人というのは、元々そういう負の想念の方が記憶に残りやすいんだ。ならば、思い出なんてものは本来辛いものが多くて然るべきだろう。大切なのは、それをいかに昇華し、自分の力に出来るかということだ」

???「なんとも哲学的な話ですね」

マヤ「月夜……いや、ティラ……だったか?」

ティラ「はい。私の名前なんかを覚えていただき、光栄です」

春「男同士の親密な会話を盗み聞きとは、感心しないな」

ティラ「それは失礼しました。良ければ、その親密な会話とやらに、私も加えてはいただけませんか?」

マヤ「俺は構わんが……」

春「好きにすればいいさ」

ティラ「えぇ、そうさせてもらいます」

春「……」

ティラ「……」

マヤ「そ、そういえば、ティラには何か、忘れたくても忘れられない思い出ってあるのか?」

ティラ「私ですか? そうですねぇ……」

春「……」

ティラ「……ふふっ」

春「……?」

マヤ「どうした? 急に笑い出したりなんかして」

ティラ「いえ、ちょっと、ね。思い出し笑いというやつですよ」

マヤ「へ〜。どんな話だ?」

ティラ「大分昔の話ですよ。私とエ……春さんが、最初に会った時のね」

春「……何かあったか?」

ティラ「忘れちゃったんですか? まぁ、嫌な過去は忘れるに限るとは、よく言ったものですけど」

春「何……?」

マヤ「何だか面白そうだな。聞かせろよ」

ティラ「えぇ、良いですよ。当時は、まだ春さんもこの世界についての知識が豊富なわけではなく、本当に普通の人間と大差なかった時でしたね。それでも、常に冷静沈着で毅然とした態度を崩さないのは、今とあまり変わりませんけど」

マヤ「へ〜。お前って、ずっと昔からそんなのだったんだな」

春「そんなの一言で俺を表すな。人の性格などというものは、そうそう容易く変わるものじゃないし、変えれるものでもない」

ティラ「あれは、私たちがここに落とされて数日が経って、少なからず落ち着いてきた頃でしたね。春さんが、周りの様子を見てくると言って立ち上がったので、私も一緒について行った時のことです」

マヤ「ふんふん」

ティラ「鬱蒼と生い茂る森の中を歩いていると、不意に足下に何か妙な気配を感じて、立ち止まったんです」

春「……っ! お前、それは……!」

ティラ「おっと」

――ガシッ!

春「なっ!?」

ティラ「人が話してるとこに横やりを入れようとは、あまり礼儀正しいとは言えませんね。今は、大人しく耳を傾けててください」

春「離せ! 力の無駄遣いをするんじゃない!」

マヤ「へ〜。ティラって、土でそんなことができるんだな」

ティラ「土だけじゃありませんよ。他にも色々と操れるものは沢山ありますから」

マヤ「便利だな〜」

春「感心してる場合か! 早くなんとかしてくれ!」

マヤ「俺は礼を重んじる人間なんでね。人の話は最後まで静かに聞くタイプなんだ」

ティラ「さすがはマヤさん。わかってらっしゃいますね。で、さっきの話の続きなんですが、足下に気配を感じた春さんが、反射的に足下を見てみると、そこにはなんと……」

マヤ「なんと……?」

ティラ「無数の百足がびっしりと」

マヤ「うおぉ……それはまた、なんとも気持ちの悪い……」

ティラ「それを見た瞬間、いつも冷静な彼が、うわあああぁぁって絶叫しながら、あろうことか、直ぐ近くにいた私に抱きついてきたんですよ」

春「勝手に誇張するな! そんな悲鳴は上げてない!」

ティラ「私の口真似が似てないのは差し置いても、悲鳴を上げて私に抱き付いてきたのは本当のことでしょう?」

春「そ、それは……」

ティラ「踏みつけて靴の裏にこびりついた大量の死骸も、気持ち悪くて触れなかった貴方の為に、結局私が洗ってあげたりもしたじゃないですか」

マヤ「……へぇ〜。そんなことがあったのかぁ」

春「ぐ……」

マヤ「何事にも冷静で、弱点なんかないみたいな素振りしておきながら、意外と可愛いとこあるんだな」

春「う、うるさいな……ティラ! もういいだろ! いい加減離せ!」

ティラ「あぁ、そうでしたね。はい、どうぞ」

――ガラッ。

春「お前という奴は……よくもまぁ、あんなふざけたことを……!」

ティラ「本当のことでしょう?」

春「うるさい! その口縫い付けてくれる!」

ティラ「きゃー♪」

マヤ「くっ……あっははははは!」

春「……何が面白い」

ティラ「そりゃあ、貴方の慌てっぷりが、見てて楽しいからなんじゃないですか?」

春「……」

ティラ「いふぁい。いふぁいれふ、はふはん」

春「お前も、いつまでも馬鹿みたいに笑ってるんじゃない」

マヤ「ははははっ、いや、気を悪くしないでくれ。でも、安心したよ」

春「安心?」

マヤ「さっき、ティラがいきなり現れた時、お前あからさまに不機嫌そうな顔したろ? 俺が話題を振るまで、二人とも黙ったままだったし……」

春「……」

ティラ「……」

マヤ「昔から知り合ってる者同士の間に、お互いに対する嫌悪感があったら嫌だからな。そんな訳だから、意外と仲が良さそうで安心したっていうか……まぁ、そんな感じだ」

春「嫌悪感……か。そんな態度を示していたつもりはなかったが……お前にはそう見えたってことか」

マヤ「あぁ。少なくとも、親しみを感じはしなかったな」

春「……色々あったからな」

ティラ「……そうですね。ですが、それも所詮今は昔。過ぎたことです」

春「そうだな。過去の遺恨や後悔を、今に引きずった所で、何も良いことはない」

マヤ「……なぁ」

春「何だ?」

マヤ「……お前たちの言う昔に、一体何があったんだ?」

ティラ「それは……」

春「……」

マヤ「……俺の知っている限り、俺たち以外に後もう四人、この世界に迷い込んだ奴らがいる。その内の一人が、こんなことを言っていたんだ」


紗女【いつまでそのお仲間ごっこが続くのか、知りませんけどね】


マヤ「あいつの言葉の意味、俺にはさっぱりわからないが……お前たちには、何か思い当たる節があるんじゃないのか?」

ティラ「……」

春「……逃れ得ぬ運命というやつだ」

マヤ「運命?」

春「……あぁ。だが、それはあくまでも当時の俺たちにとってだ。今、指をくわえてそのような運命に服従するつもりはない。そんなもの、必ず打ち砕いてやる。必ず……!」

ティラ「エナ……」

マヤ「……」

春「……変な話になったな。もう遅い。そろそろ寝よう」

ティラ「……そうですね」

マヤ「そうだな。それじゃあ、おやすみ、お二人さん」

春「あぁ」

ティラ「おやすみなさい」

――ザッザッザッ……。

春「……」

ティラ「……エナ」

春「……何度も言わせるな。俺はエナなどという名ではない」

ティラ「……そう、でしたね」

春「お前もいい加減眠れ。長々と起きてると、翌日、月夜の体に疲労が残る」

ティラ「でも……」

春「俺もすぐに寝る。だから、少しだけ一人にしてくれないか?」

ティラ「……わかりました。では、おやすみなさい」

春「あぁ、おやすみ」

ティラ「……」

春「……」

春《……先は見えない。明瞭な解決策は疎か、試す価値のある対応策さえもうない。このままでは、今までと同じ轍を踏むことになるのは必定……だが……!》

――ギュッ!

ティラ「……エナ」

月夜 2010年07月09日 (金) 14時05分(89)
題名:新世界7(第四章)

三鎚「今、俺たち以外で、この世界にいる人間は13人。こいつらは全員まとまっているわけではなく、9人の大所帯一つと、2人組が二つという内訳だ」

蒼焔「例のS.I.保持者は、9人のグループの方にいるんでしたよね?」

三鎚「あぁ。だが、まだ覚醒しきってはいないらしいがな。目覚めてる奴らは、13人中4人。天恵、追放、監視、そして破壊だ」

グリッジ「なんじゃ、えらく少ないのう」

夢奏「そうですね。覚醒もしてないただの人間共なんて、相手にもなりませんわ」

三鎚「油断は禁物だぞ。覚醒者4人中3人は、一夜にして同時に力に目覚めたという話だ」

蒼焔「しかし、いくら強大な力を手に入れたところで、その使い方が分からねば宝の持ち腐れに過ぎません。覚醒したばかりの者が、そんな力を自由に使いこなせるとは思えませんが……」

三鎚「忘れたのか? 連中は俺たちと違い、この世界に順応した上で自然に発現した神憑。なら、奴らには、その力を元来より固有する神格が宿っているはずだ」

夢奏「そういう考え方でいけば、彼らは私たちより力の使い方に長けているでしょうね」

グリッジ「じゃが、ワシらとて己自身の力についての研究を怠っていたわけではない。そうそう遅れを取ることはなかろうて」

三鎚「だが、この人数差を埋めることはできない。幸い、現段階での勢力比率なら、お互い五分と五分だ。S.I.保持者の覚醒を促す為にも、今の内に邪魔な連中を排除しておくべきだろう」

蒼焔「そうは言っても、S.I.保持者は大所帯の方にいるはず。そう易々と排除することはできないのでは?」

三鎚「もっともだ。しかし、全員が全員、常に固まっているというわけでもないだろう。それに、覚醒した能力の内、純粋に戦闘用と言えるのは破壊だけだ。天恵や追放も戦闘に際し有用ではあるだろうが、使い勝手には難が残るだろう」

夢奏「ということは、群れからはぐれた子羊を、順次一匹ずつ狩っていくと、そういう訳ですか?」

グリッジ「あまり気乗りしないのう……」

三鎚「しかし、それが一番効率的な手段であるなら、致し方ないだろう」

夢奏「でしたら、その役目は皆さんにお任せしましょう」

蒼焔「任せるって……じゃあ、お前はどうするんだ?」

夢奏「私は二人組の方に行かせてもらいます。あの子……確か、蒼空とかいいましたか? 見たところ、ちょっと好みだったので」

グリッジ「おぉ、遂に夢ちゃんも恋に目覚めたか?」

夢奏「えぇ、そうかもしれませんね。あの端正の整った顔が苦痛に歪む時、彼どんな良い声で哭いてくれるのか、今から待ちきれません」

グリッジ「恋い焦がれるというやつか。良いのう、青春じゃのう」

蒼焔「……そんなドス黒い青春があってたまるか」

夢奏「そんなわけですから、私はそちらを担当いたします。よろしいですか?」

三鎚「あぁ、好きにすればいい。一緒にいた女の方はどうするつもりだ?」

夢奏「女には特に興味ないので、彼女には私の玩具として踊ってもらった後、速やかにご退場願いたいと思います」

蒼焔《相変わらず、涼しい顔してさらっとえげつないこと言うなぁ》

三鎚「まぁ、目的が達せられるなら、お前の趣味嗜好云々に口を挟む気はない。あの二人は任せるぞ」

夢奏「えぇ、お任せくださいな。時間をかけて、ゆっくりなぶり殺しにしてみせます」

蒼焔「なら、俺はもう片方の二人組を……」

三鎚「いや、そっちは俺が行こう」

蒼焔「兄上が……ですか?」

グリッジ「ほう。お主が直々にとは珍しいな。何か気になることでもあるのか?」

三鎚「少し言いたいことがあってね」

夢奏「言いたいこと?」

三鎚「なに、こっちの話だ。まぁ、そういう訳だから、蒼焔、グリッジ、例の大所帯の方は、お前たちの担当だ」

グリッジ「結局ワシは闇討ち側か……気が進まんのう」

蒼焔「正直、あまり気持ちの良いものではないですけど……兄上がやれと命ずるなら、その命に従順に従うのみです」

夢奏「あら。でしたら、そちらも私がやりましょうか? 私、こう見えて狩りも得意なんですよ?」

蒼焔「お前が得意なのは、狩りよりむしろその後の拷問だろう」

夢奏「あれは得意なんじゃなく、趣味の一環ですよ。まぁ、好きこそ物の上手なれとは、良く言ったものですけど」

蒼焔「周りが不快極まりないから却下だ。こっちは俺たちがやるから、お前は二人の方に集中しろ」

夢奏「むぅ……仕方ありません……」

三鎚「悪いな、汚い役回りを押し付けて」

グリッジ「別に構わんよ。どうせ老い先短い老いぼれの身じゃ。それに、今更悪行の一つや二つ増えたところで、もう手遅れじゃてな。かっかっか」

蒼焔「私もです。兄上が殺れというなら、神魔を問わず屠ってみせます」

三鎚「ははっ、そいつは頼もしいな」

グリッジ「では、そろそろ行動開始といくかの」

三鎚「その前に……念のため聞いておくが、全員例の物は身に付けてるな?」

蒼焔「もちろんです」

夢奏「えぇ、この通り」

グリッジ「むしろ、外すことがないくらいじゃ」

三鎚「よし。それじゃ、こいつはここに埋めておく。集合はいつも通り、毎朝早朝にしよう。事前に連絡をいれるから、何か不具合があれば言ってくれ」

蒼焔「はい」

夢奏「わかりました」

グリッジ「了解じゃ」

三鎚「よし。なら、今から行動開始だ。各々散ってくれ」

夢奏「えぇ。あの子が、一体私にどんな顔を見せてくれるのか……ふふっ、今から楽しみですわ」

蒼焔「……グリ爺、俺たちも行こう」

グリッジ「そうじゃの。ワシの足を引っ張るんじゃないぞ、坊や」

蒼焔「誰が坊やだ! 子供扱いするな!」

三鎚「……やれやれ」

月夜 2010年07月09日 (金) 14時06分(90)
題名:新世界7(第五章)

蒼空「ぐっ……おい、紗女……」

紗女「すぃ〜……ふぃ〜……」

蒼空「い、いい加減起きろ……重い……」

紗女「えへ〜……クレ〜プおいひぃ〜……」

蒼空「……」

――パッ。

――ドン!

紗女「ふひゅ〜……クレ〜プ〜……」

蒼空「……突然地面に叩き付けられてもまだ寝続けるとは……もはや呆れを通り越して感心するな」

紗女「えへへ〜……もっとぉ……」

――ジャリッ。

紗女「!? 不味っ!? 何このジャリジャリしたクレープ!?」

蒼空「お前が食ったのはただの土だ」

紗女「あ、坊っちゃん。ご機嫌麗しゅう」

蒼空「俺はまるで麗しくないぞ」

紗女「それはお気の毒に。ほら、クレープ分けてあげますから、機嫌を直して……って、あれ? 私のクレープたちは?」

蒼空「……お前はまだ夢の中にいるのか?」

紗女「あ〜、なんだ夢か〜。そうですよね、良く考えたら、坊っちゃんが屋台でクレープ売ってるはずありませんもんね」

蒼空「……お前、どんな夢を見てたんだよ」

紗女「まぁまぁ、細かいことは別に良いじゃないですか」

蒼空「歩きながら急に寝出し、仕えるべきはずの主に負荷をかけるというメイドにあるまじき行為が、細かいことだと?」

紗女「あ、あはは……っ!?」

蒼空「まったく、大体お前は……えっ?」

紗女「……坊っちゃん、私の後ろに」

蒼空「……あ、あぁ」

紗女「……貴方がどこの誰で、何を目的としているのか等に興味はありません。ですが、害を為すつもりなら容赦はしませんよ?」

――……。

紗女「ご安心なさい。このまま立ち去るというなら、敢えて追いはしません。しかし、この警告をもってしてなおとどまると言うなら、それなりの覚悟をしていただくことになりますが?」

――……。

紗女「……これが最後です。去って生きるか、とどまって死ぬか……今すぐ選びなさい!」

――……ガサッ。

???「う、うぅ……」

紗女「……少女?」

???「誰か……み、水を……」

蒼空「だ、大丈夫ですか!?」

紗女「あっ、坊っちゃん!? 私の側から……」

蒼空「そんなことを言ってる場合か!? 彼女、こんなに苦しんでるだろう! 水ですね!? ほら、飲んで下さい!」

???「あ、ありがとう……ございます……」

紗女「……」

月夜 2010年07月09日 (金) 14時06分(91)
題名:新世界7(第六章)

蒼竜「ふ〜、食った食った。恐竜の肉って、どれもこれも案外イケるもんだな」

伽藍「……ごちそうさま」

蒼竜「なんだ、もういいのか? 伽藍は今が育ち盛りなんだから、しっかり食べないと」

伽藍「……う、うん……」

蒼竜「? もしかして、口に合わなかったか?」

伽藍「ううん……美味しかった……けど……」

蒼竜「けど、なんだ?」

伽藍「……ちょっと……固くて」

蒼竜「あ〜、確かに、伽藍の歯じゃ噛みきるには少し固すぎたかもな。よし、次からは多めに叩いて柔らかく仕上げてやるよ」

伽藍「ありがとう……」

――ザッ。

蒼竜「どうした?」

伽藍「少し……お手洗いに……」

蒼竜「あぁ、わかった。早く戻ってこいよ」

伽藍「……うん」

――ザッザッザッ……。

伽藍「……」

――……ガサッ。

伽藍「っ!?」

三鎚「そう驚いてくれるな」

伽藍「……」

三鎚「久しぶり……と言っておこうか」

伽藍「……」

三鎚「だんまり、か。相変わらず無口だな、お前は」

伽藍「……何の用?」

三鎚「第一声がそれか。随分と冷たいんだな」

伽藍「……皆を……殺しにきたの?」

三鎚「殺すとは人聞きの悪い。あれは、奴らをあちら側に戻してやるための手段だ。別に、自分で戻れるというならそれはそれで構わないが」

伽藍「……」

三鎚「心配しなくても、今日のところはお前に会いにきただけだ」

伽藍「……」

三鎚「信用してないって目だな。よく考えてもみろ。まだS.I.保持者の神憑は眠ったままだ。熟れていない果実どころか、実もなってないんだ。狩りようがないだろう」

伽藍「……」

三鎚「……とはいえ、厄介な奴らには、そろそろ退去してもらうことになるだろうがな。そういえば、お前が今一緒にいるあの女。あいつの能力も、特に必要性はないようだったな」

伽藍「っ!?」

三鎚「まだ目覚めてもいないようだから、今なら消すのも容易い……」

伽藍「ダメッ!!」

三鎚「ん?」

伽藍「嫌っ! そんなの、絶対に許さない!! お前なんかに……お前なんかに、蒼竜さんを殺させるもんかっ!!」

三鎚「……ほう」

伽藍「はっ……はぁ……」

三鎚「やはり……な」

伽藍「……え?」

三鎚「お前が、S.I.保持者のいる大所帯の方ではなく、あの女と二人で行動しているのは、お前が抱いている個人的な好意からか」

伽藍「なっ……」

三鎚「別に、お前が誰に好意を持とうとお前の勝手だ。しかし、それが故に己の役目すら満足に全うできないとなると、黙ってはいられないな」

伽藍「……」

三鎚「お前は調停者であると同時に、監視の役目も負っているんだ。この世界にただ居るだけで、役目を果たした気になっているんじゃない」

伽藍「……るさい……」

三鎚「……何?」

伽藍「……うるさい……」

三鎚「俺は至極当然のことを言っているだけだが?」

伽藍「何が分かる……お前のような奴に……私の何が分かる……」

三鎚「分かりたくもない。かような感情は、俺たちには不要なものだ」

伽藍「お前たちなんかと……一緒にするな……!」

三鎚「……ふん。まぁ、その辺りはお前の勝手だ。だが、自分がここに居る意味と理由を、しっかりと認識しておくんだな。……さもなくば、お前も消えることになるぞ」

伽藍「……」

三鎚「忠告はしたぞ。後は自分自身で決めることだ。じゃあな」

???「なんだ、もう帰るのか?」

三鎚「……!」

伽藍「蒼竜……さん……」

蒼竜「ゆっくりしていけよ。もてなしはしてやるぜ? ……俺流にな」

月夜 2010年07月09日 (金) 14時07分(92)
題名:新世界7(第七章)

月夜「ん〜っ……と。いや〜、今日も良い天気だね〜。良きかな良きかな」

白月「あら、珍しいわね。あんたが自発的に起きてくるなんて」

月夜「ふっはっは。どうだー、恐れ入ったかー」

春紫苑「それが普通だ」

春「お前も、今朝は普通な目覚め方をしたみたいだな」

春紫苑「……まるで、僕が毎日不可思議な目覚め方をしているかのようだな」

朱蒼「寝返りだけで数十メートルも転がる人が何を……ふぐっ?」

春紫苑「……そのことは二度と口にするな」

朱蒼「はいはい」

鏡架「ふぁ〜……皆さん、おはようございますぅ……」

マヤ「あぁ、おはよう……って、なんだなんだ、口で言ってることと目元が一致してないぞ?」

メカ「寝不足か?」

鏡架「はい……寝る場所が悪かったのか、夜中に何度も目が覚めてしまって……」

メカ「なんだ、それなら一言俺に言ってくれれば、直ぐに平らな地面を用意してやったのに」

マヤ「……相変わらず、おかしなくらいに万能だな、お前」

白月「……あれ? そういえば、もう一人のバカはどうしたのかしら?」

春「あぁ、あいつなら、まだ向こうで寝てるぞ」

艦隊「すか〜……くか〜……」

マヤ「なんだ、まだ寝てるのか、あのバカは」

春紫苑「まったく、あのバカは……」

鏡架「……本人が寝てる間に、酷い言い様ですね」

朱蒼「別にいいんじゃない? だって実際バカなんだし。それに……」

月夜「あはは、皆してバカバカって酷いな〜。艦隊も可哀想に」

鏡架「……」

朱蒼「ね。同じくらいかそれ以上にバカな子もいるんだから」

月夜「……ん? 二人ともこっち見て、どしたの?」

朱蒼「いつも明るくてポジティブな月夜ちゃんは、元気で良いわねって言ってたのよ。ねぇ?」

鏡架「え? あ、え、えぇ……」

月夜「そう? いや〜、やっぱ元気なのが一番だよね〜。私ってば、それだけが取り柄だし」

鏡架「そ、そうですね……」

鏡架《……不憫な……》

春「令定者側からも直接的なアプローチがあった今、あまり呑気に構えてもいられないんだが……」

マヤ「とりあえず、こいつには起きてもらわないとな」

月夜「あ、それじゃ、艦隊を起こす役目は私が引き受けた〜♪」

メカ「なんだ、えらく楽しそうじゃないか」

月夜「ふふ〜ん。一回、やってみたいことがあってね〜」

鏡架「やってみたいことって……あ、ちょっと……」

白月「放っておいていいんじゃない? バカの面倒はバカが見ればいいのよ」

朱蒼「とはいっても、あれだけ助走を取ってやることなんて、大体予想はつくけどね」

春紫苑「……はぁ」

月夜「よ〜し……!」

――ダッ!

月夜「フライ〜ング……」

――ダダダッ!

月夜「ボディ〜……」

――バッ!

月夜「プレース!!」

――ドォン!!

艦隊「ぶふぉっ!?」

メカ「おーおー、派手に行ったな〜」

春「目覚まし効果はアラームの比じゃないな」

艦隊「つ、月夜……お、おま……」

月夜「おっはよー。どう? 目ぇ覚めた?」

艦隊「い、いや……覚めたっつーか……一瞬、何かこの世ならざる景色が見えた気が……」

月夜「なに? まだ寝ぼけてんの? もう一発いっとく?」

艦隊「ふざけんな! あんなん何度も食らったら、本格的に逝ってまうわ!」

マヤ「良いじゃないか。こんな可愛い女の子に、文字通り体を使って起こしてもらえるんだ。幸せなもんだろ」

白月「……なんかいやらしい表現ですね」

マヤ「別に間違っちゃいないだろ?」

朱蒼「いやらしく聞こえたってことは、そう考えた貴女の思考回路がいやらしいってことよ」

白月「なっ!? そ、そんなこと……じ、じゃあ、貴女はあのセリフを聞いても、何も感じなかったんですか!?」

朱蒼「あら、感じるだなんてやらしいわね。欲求不満なのかしら?」

白月「っ! も、もういいです! この話はここまでにしましょう!」

朱蒼「貴女もウブいわね。それじゃあ、大人の女への道のりはまだまだよ。ねぇ、鏡架さん?」

鏡架「え、えぇっと……あ、あはは……」

白月「よ、余計なお世話ですっ!」

――チッ!

月夜「チコちゃんもおはよー」

艦隊「雀に挨拶はいいから、先ずそこをどいてくれ」

春「ずっとそのままでもいいんじゃないか?」

春紫苑「その通りだな。バカはバカ同士、そうやって戯れているのがお似合いだ」

月夜&艦隊『誰がバカだ!』

春紫苑「そら、知能指数と同じように、息もぴったりじゃないか」

月夜「なんですって〜!」

朱蒼「まぁまぁ、抑えて抑えて」

月夜「でもぉ……」

朱蒼「彼、月夜ちゃんが自分以外の男とじゃれてるのが気に入らなくて、嫉妬してるだけなのよ。だから、許してあげなさいな」

春紫苑「なっ……お前、何ふざけたことを!!」

月夜「へ〜……そうだったんだ〜……ふ〜ん」

春紫苑「そんな訳があるか! 寝言は寝てから言え!」

朱蒼「ほら、すごい勢いで否定してるでしょ? つまり、図星ってわけよ」

艦隊「なるほど。これが世に名高いツンデレってやつ……ぐへぁっ!?」

――パタッ。

春紫苑「……貴様は二度と口を開くな」

メカ「これまた見事なまでに、頭部にクリティカルヒットだな」

朱蒼「これは、しばらく目覚めそうもないわね」

春「……やれやれ、またこのパターンか」

月夜「春ちゃんってば、相変わらず照れ隠しが過ぎるんだから〜。そんなに恥ずかしがらなくてもいいの……に……?」

春紫苑「……」

月夜「……」

春紫苑「……お前も寝るか?」

月夜「すいませんでした」

メカ「……本当、やれやれだな」

マヤ「どうするんだ?」

春「どうするもなにも……さっきも言った通りだよ。いざというときにこんなことになってたら、命がいくつあっても足りない」

メカ「なら、どこかから水でも汲んできて、こいつの顔にぶっかけるか?」

春「……そうだな。そうするか」

マヤ「それじゃ、俺が……」

春「いや、ここはメカに行ってもらおう。マヤはこの場に待機だ」

マヤ「……了解」

メカ「じゃ、行ってくるぞ」

マヤ「気をつけてな」

メカ「オーケー」

春「……」

月夜 2010年07月09日 (金) 14時09分(93)
題名:新世界7(第八章)

グリッジ「なんじゃか、えらく楽しそうな連中じゃのう」

蒼焔「あぁ」

グリッジ「こんな連中を、隙をついて闇討ちせねばならんとは、心が痛むのう」

蒼焔「あぁ」

グリッジ「……のう、蒼焔や?」

蒼焔「あぁ」

グリッジ「ワシってば、ナイスミドル」

蒼焔「自分の歳を考えてからものを言ってくれ」

グリッジ「なんじゃ、聞こえとったのか。それなら返事をしてくれても良いじゃろうに」

蒼焔「あんたの言葉に一々反応してたら、監視なんてマネできるわけないだろ」

グリッジ「冷たい奴だのう……。少しは敬老の意思というものを持って欲しいものじゃな」

蒼焔「なら、もっと年寄りらしく大人しくしててくれ」

グリッジ「……」

蒼焔「……」

グリッジ「……」

蒼焔「……」

グリッジ「……」

蒼焔「……」

グリッジ「……くか〜……」

蒼焔「……」

グリッジ「すか〜……ぐこ〜……」

蒼焔「……」

グリッジ「ぐかかか〜……ぐごごご〜……」

蒼焔「……やかましい」

――ゴン。

グリッジ「……乱暴じゃのう」

蒼焔「他人の気を引くために狸寝入りするようなじいさんを、丁重に扱う義理はないな」

グリッジ「……見抜かれておったか」

蒼焔「バレバレだ。いい歳してそんな構ってもらえない子供みたいなことをするんじゃない」

グリッジ「……酷い言い種じゃのう」

蒼焔「だが事実だろう……ん?」

グリッジ「……一人、別行動を始めたようじゃな」

蒼焔「あぁ。あいつは確か、まだ何の力にも目覚めていないはずだ」

グリッジ「……やるか?」

蒼焔「言わずもがな、だ」

グリッジ「……良いじゃろう」

蒼焔「よし……ん?」

――バサバサッ。

蒼焔「なん……だ……っ!?」

――バサバサバサッ。

グリッジ「どうしたんじゃ? 蒼焔……!?」

――ギャース!

蒼焔「う、うわああああぁぁっ!!?」

月夜 2010年07月09日 (金) 14時09分(94)
題名:新世界7(第九章)

春「……気付いてるか?」

マヤ「あぁ。見られてるな」

春「どうやら、いつもの奴ではないようだ」

マヤ「だな。あいつらなら、こんな嫌みったらしい覗き方はしないぜ。……で、どうするんだ?」

春「相手の出方を伺おう。一人で行かせたメカの方へ動けば、その時は遠慮なく叩く」

マヤ「釣りってわけか。だが、そういうことなら俺が行っても同じだったんじゃないか?」

春「いや、お前が覚醒していることは、連中も知っているだろう。ならば、お前に対しての行動は慎重になる可能性が高い」

マヤ「なるほどね。まぁ、あいつのことだから、一人でも大丈夫だと思うが……」

春「油断はするな。次、あちらがどういった行動を取るか、それによってこちらの取るべき対応は決まる」

マヤ「とはいえ、あいつらが本気で俺たちを消そうとしてるなら、次の行動くらい簡単に予想がつく……」

蒼焔「う、うわああああぁぁっ!!?」

『っ!?』

白月「な、なによ、今の……」

春紫苑「……悲鳴だったな」

鏡架「ってことは、誰かが……」

朱蒼「あっちの方から聞こえてきたわね……」

月夜「っ……!」

――ダッ!

春「あっ! おい、一人で勝手に動くな!」

マヤ「ちっ……! あいつは俺に任せろ! 春! 春紫苑! こっちは頼んだぞ!」

春「頼む……!」

春紫苑「わかった」

――ダダダッ!

月夜《悲鳴……確かこの辺から……》

蒼焔「や、やめろっ! くそっ!」

月夜「こっちね!」

――ダッ!

月夜《……見えた!》

月夜「大丈夫!? 何があった……」

蒼焔「あぁっ! まとわりつくな! 鬱陶しいから離れろ!」

――ギャース!

月夜「……あれ?」

グリッジ「お、お客さんか。はじめまして、可愛らしいお嬢さん」

月夜「あ、えと……は、はじめまして……」

グリッジ「ワシの名はグリッジ。空前稀に見るナイスミドルじゃ。で、そこで悶えとるのが蒼焔」

月夜「あ、ご丁寧にどうも。私は月夜っていいます。なにとぞよしなに……」

グリッジ「ほう。礼儀正しい娘っ子じゃのう。うんうん、礼を重んじるのは良いことじゃ」

蒼焔「なにほのぼの挨拶なんかしてるんだ! 早くこいつを何とかしてくれ!」

月夜「……って言ってるけど……」

グリッジ「放っておけ放っておけ。敬老思想のない無礼な若者に、天誅が下っただけじゃ」

蒼焔「ふざけんな、このジジイ!」

グリッジ「もう少々痛い目を見た方が良さそうじゃのう」

マヤ「月夜!」

月夜「あ、マヤさん……」

マヤ「このバカ! 一人で勝手に飛び出すなんて、なに考えて……?」

蒼焔「このっ! くっ……!」

――ギャギャース!

マヤ「……なんだ、これは?」

月夜「さぁ……私にもさっぱり」

グリッジ「おぉ、今度は保護者の登場かの? お初にお目にかかる、ワシはナイスミドルのグリッジという者じゃ」

マヤ「え? あ、あぁ……俺はマヤだ」

グリッジ「ふむ。良いガタイをしておるのう。相当鍛えておると見るが?」

マヤ「長年、工事現場で働いてきたからな。体格にはある程度自信はあるよ。そう言う貴方こそ、歳を思わせない良い体つきをしているようだが?」

グリッジ「幾年もの年月を過ごしてきた年長者が、若者の介護下になるなど屈辱というのがワシの考え方でな。常日頃から鍛練は欠かしておらん。今、この時こそが常に最盛期じゃ」

マヤ「なるほど。その考えには同意だね。何だか貴方とは気が合いそうだ」

グリッジ「奇遇じゃな。ワシもそう思っておったところじゃ。がっはっは」

月夜「……ねぇ、和やかに話してるとこ悪いんだけど、いつまで放置しとくの? これ」

蒼焔「ぐぅっ……くっ……!」

グリッジ「月夜ちゃん、こいつは甘やかすとろくなことにならんのじゃ。反省も兼ねて、自力で何とかするが良かろう」

蒼焔「ふざ……けるなぁっ!!」

――ベシィッ!

――ギョワッ!

月夜「あ、ひっぺがした」

グリッジ「なんじゃ、思ったより早かったのう」

蒼焔「おいジジイ! 何で今まで黙って見てたんだ!」

グリッジ「感心しない態度じゃのう。そんなだから、助けてやろうという気持ちにならんのだ」

蒼焔「この……!」

月夜「こらっ!」

蒼焔「っ!?」

月夜「おじいちゃんに対して、そんな言葉遣いしちゃダメでしょ! 自分より歳上の人は敬えって習わなかったの!?」

蒼焔「あ……え、えっと……」

グリッジ「はっはっは。月夜ちゃんの言う通りじゃのう。なぁ、マヤや」

マヤ「ま、その通りだな」

蒼焔「……ちっ」

月夜「にしても、この生き物なんだろ?」

マヤ「さぁ……見たところ、翼竜って感じではあるが……」

グリッジ「にしては小さすぎるような気もするがのう。極小プテラノドンってところか?」

月夜「パッと見、可愛らしくて人を襲うようには見えないんだけどな〜」

蒼焔「あ、おい、不用意に近付くと危ない……」

???「うぅ……って〜なぁ、ったく……お? ようよう、可愛い姉ちゃんじゃねぇか。俺様に何か用かい?」

蒼焔「……え゛?」

月夜「今のって……」

マヤ「まさか……」

グリッジ「……喋ったのう」

???「何だい! 何か文句でもあんのか!? 人間の言葉は人間しか使っちゃいけねぇなんて法律はねぇだろ!」

マヤ「いや……まぁ、そうだけど……」

???「そんなことより、そこの姉ちゃん!」

月夜「え、わ、私?」

???「そう、私だ! 名前、なんてゆーんだい?」

月夜「つ、月夜だけど……」

???「月夜……いいねぇ! 姉ちゃんにぴったりの可愛らしい名前じゃねぇか!」

月夜「そ、そう……かな?」

???「この俺様が言うんだから、間違いないね! ……あぁ、月夜のその美しさなら、比べられる月が可哀想なくらいかもしれねぇな」

月夜「マ、マヤさ〜ん……」

マヤ「俺に助けを求められても……」

???「あ! 自分も名乗らねぇ内に、レディに名を聞いちまうとは……すまねぇな、月夜。俺としたことが、礼を失しちまったぜ……許してくれ」

月夜「いや……別に怒ってもないけど……」

???「何と……他人の無礼も快く許すなんて……はっ! 月夜、まさか貴女が女神か!?」

月夜「……あ〜、私は女神なんかじゃないけど……」

月夜《ティラって、私たちからしてみれば女神みたいな存在なのかも……》

???「いや! 貴女こそが女神だ! 今、俺が決めたぜ!」

月夜「あ、あはは……」

グリッジ「凄まじいまでに積極的じゃのう」

マヤ「ここまでのやつは、多分人間の中にもいないだろうな」

???「申し遅れた。俺様の名はギスラウってんだ。姉ちゃんの名に比べたら矮小極まりない名だが、心の片隅にでも留めておいてくれや」

蒼焔「ギスラウ……なんとも呼びにくい名だな」

ギスラウ「っんだとてめぇ! おい、この俺様の名前に何か文句でも……」

月夜「ん〜……確かに、ちょっと呼びにくいかも……」

ギスラウ「なんとでも好きなように呼んでください!」

蒼焔「……」

月夜「じゃ〜ね〜……ギッちゃん!」

ギスラウ「ギ、ギッちゃん……」

月夜「……あれ? 気に入らなかった?」

ギスラウ「とんでもねぇ! 貴女のネーミングセンスに、間違いなんて微塵もあるはずがない! 俺様は今日からギッちゃんだぜ!」

月夜「それじゃ、よろしくね、ギッちゃん」

ギスラウ「おう! まぁ、他の連中も一応よろしくな」

蒼焔「……生意気な生き物だな」

グリッジ「……ワシもそう思っとったところじゃ」

マヤ「……奇遇だな」

月夜「……ん? どうかしたの?」

『……いや、別に』

月夜「……?」

月夜 2010年07月09日 (金) 14時10分(95)
題名:新世界7(第十章)

「……」
「……」
周囲を満たす無言の時。
吹く風による木々のざわめき以外、そこに一切の音はない。
鳥の声や、虫の鳴き声、小川のせせらぎ等その一切が無。
まるで、この場だけ世界から切り離されているかの如く、殺意に張り詰めた異様な空間が、そこには形成されていた。
そんな中、鋭い眼差しで互いを見据え合う二人の人物。
細く先鋭な目付きで銃を構える蒼竜と、その銃口を見つめながら、上着のポケットに手を入れたままその場にただ立ち尽くす三鎚。
黙したままの両者には、態度の違いこそあれ、互いに向け合う敵意にほとんど差はなかった。
「……お前、一つ聞いてもいいか?」
その静寂を最初に破ったのは、蒼竜だった。
「何だ?」
「まさかとは思うが、俺相手にエモノ無しでやり合おうなんてふざけたことは、言わねぇよな?」
銃口を向けたまま問う。
「……ふっ。エモノというのは、必要に応じて使うものだ。お前程度を相手に、道具の力を借りる必要があるのか?」
しかし、向けられた銃口に怯えを見せることもなく、三鎚はまるで嘲るように口の端を歪めた。
「……くくっ……あっはははは!!」
その言葉を聞き、何を思ったか、蒼竜は急に空を仰ぎながら大声で笑い出した。
「……」
怒りを露わにするでもなく、その不敵な態度に警戒を示すでもなく、ただ可笑しそうに笑う。
だが、それが治まる頃、その表情に笑みはなかった。
「……言ってくれるじゃねぇか。そんな戯けたことを言うんだ、もちろん楽しませてくれるんだろうな?」
「そっちこそ、そこまで言って、楽しむ前に死ぬなんてことにはならないでくれよ?」
売り言葉に買い言葉。
ここまで言って、今更戦闘を回避する術などあろうはずもない。
「上等だ……!」

――ガァン!

轟く銃声と共に、双方時を同じくして動き出す。
いや、正確には、三鎚の方が僅かに早く動いていた。
蒼竜が引き金を引くタイミングに合わせて、素早くその場から身を避けていた。
並の人間なら、今の初撃で間違いなく死んでいただろう。
そのことが、三鎚が普通の人間とは一線を画した存在であることを証明している。
とはいえ、こちらは銃ありに対し、相手は素手。
もし本当に素手のまま向かってこようと言うのなら、この距離だ。
一旦身を隠し、機を伺っての奇襲となるだろう。
しかし、実際に三鎚が取った行動は、そう考えていた蒼竜の予想を裏切るものだった。

――ダッ!

体勢を落とし、一気に蒼竜の方へと距離を詰めてきたのだ。
だが、彼女の心に慌てや動揺の類いは生じない。
その動きを直視し、冷静且つ迅速に状況を判断する。

――予想以上に速いな……銃は邪魔か。

手にしていた銃をその場に投げ出し、流れるように滑らかな動作で、ベルトの部分から刃渡り20センチ強のナイフを取り出す。
その行動が完了する頃には、既に三鎚の姿は蒼竜のすぐ眼前。
迫り来る正拳を、空いている方の手で受け止める。

――くっ……!

だが、それは蒼竜の予測を遥かに上回る、重く疾い拳。
正面から受けるには、いささか辛い。
咄嗟に、自身の腕ごとその拳を横に払い、衝撃を和らげる。
その勢いのまま、手に持ったナイフでその首を薙ぎ払いにかかった。
軽くその場から一歩退き、三鎚が白刃の描く軌道より身を避ける。
と同時に、蒼竜の脇腹目がけて襲いかかる左足による蹴り。
避けるには体勢が悪く、かといって受け止めるには右腕が間に合わない。

――それなら……!

敢えて距離を取ろうとはせず、蒼竜は逆に三鎚との距離を詰めつつ、右腕の肘を前へと突き出し、胸部へと肘打ちを放つ。
「っ……」
一瞬、驚いたように目を見開いた三鎚だったが、それはほんの僅か。
このまま左足による蹴りを強行したところで、効果はないと見るや否や、蒼竜の肘打ちに対し自ら腕を絡め、その勢いに腰の捻りを加え、半ば力任せに投げ飛ばそうとする。

――ちっ……!

投げられながらも右足を軸に必死に体勢を保ち、転倒するという最悪の事態だけは避ける。
絡めた肘はそのままに、右手から左手へとナイフを持ち換え、腹部を刺しにかかるが、それをみすみす許すほど生易しい相手ではない。
左手がナイフを握るとほぼ同時に、三鎚の空いている方の手が、蒼竜の左手首に固く噛みついていた。
互いに両手を封じられ、密着した拮抗状態。
力が均衡しているからこそのこの硬直、下手に動けば逆に隙を見せてしまいかねない。
故に、どちらからも不用意に動こうとはしない。
「……あんなナメた口利くだけあって、結構やるじゃねぇか」
「お前も意外にやるものだな。神憑も覚醒していないただの人間と、少々侮っていたかもしれないな」
「神憑……?」
「お前たちの中に力と共に宿る神格のことだ」
「あぁ、あいつらが言ってた不可思議な力と別人格のことか。あいにく、俺はそんなものに興味はなくてね」
口の端を歪め、蒼竜は嘲るように答えた。
自分の中に自分以外の誰かが居るなどと、興味もなければ信じてもいない。
もしそれが事実だったとしても、自分は自分。
それ以外の存在になどなり得ない。
「貴様の興味云々に関係なく、それは徐々に目覚め始めている。心の耳を澄ませば、聞こえてくるはずだ。その声がな」
「ふざけた事を……」
そう言って、眉間にシワを寄せる……ちょうどその時だった。

《……見……いで……!》

「えっ……?」
不意に脳裏をよぎった、聞き覚えのない声。
途切れ途切れでほとんど聞き取れなかったが、多分幼い少女の声だ。
それは弱々しく儚く、軽く風に吹かれただけで消し飛んでしまいそうな、危うさを感じずにはいられなかった。

――今のは、一体……。

「……何を呆けている?」
「っ!?」
次にその瞳が焦点を取り戻した時には既に、横脇腹に鈍い衝撃が走っていた。
「かはっ……」
込み上がる苦痛に、思わず渇いた呻き声が漏れる。
強制的に停止させられた呼吸に、耐え難い息苦しさを覚えるが、今は痛みにうずくまっていられる場合ではない。
ともすれば崩れそうになる己の意識に鞭を打ち、絡めた腕をほどきながら思い切り相手の体を突き飛ばした。
距離を取ると同時に、手に持ったナイフを、半ば後ろ手に投げつける。
その時、既に蒼竜の視界に三鎚の姿はなく、その視線が見つめる先は大地のある一点のみ。
そこに転がる黒い塊――先ほど自ら手離した銃へと手を伸ばし、掴むと同時に背後を振り返る。
「……!」
その視界に映ったのは、伽藍の体を盾と為し、その首筋に手を添える三鎚の姿だった。
「……」
無言のまま、ただただか弱い眼差しで蒼竜を見つめる伽藍。
その瞳が、蒼竜の心の中に激情を呼び起こす。
「てめぇ……汚いマネしてくれやがるじゃねぇか……!」
「ありとあらゆる事象において、常に求めるべき最終形は最良の結果だけだ。そのための過程に意味などない」
「カスがっ……!?」
そちらへと歩みを進めようとして、突然全身に違和感を感じた。
勝手に膝が折れ、地面へと倒れ行く体。
反射的に手を付き、無防備に倒れる前になんとか体を固定する。
……が、ろくに体が動かない。
再び立ち上がることはもちろん、顔を上げることすらかなわない。
かといって、特に痛みなどがあるわけではない。
自分の体が、自分のものではなくなる感覚……これが、連中の言っていたことか。

《来ないで……見ないで……》

深層心理より沸き上がる、先と同じ少女の声。
あぁ、またか。
お前は一体誰なんだ?

《私に……近寄らないで……》

何でお前はそんなに心細そうに泣くんだ?
一体、何に怯えているんだ?

《私に……関わらないで……》

勝手に入り込んできておきながら、関わらないでときたか。
自分勝手にも程があるぞ、お前。

《……》

やれやれ、今度はだんまりか。
俺の周りには、どうやら口数少ない奴しか集まらないみたいだな。

《……ごめんなさい……》

謝るんじゃねぇよ。
お前が誰かは知らねぇが、一つだけ教えてやるよ。

《……》

閉ざしたままの心を理解してくれるほど、人は優しくもないし万能でもない。
何かを誰かに伝えたいなら、心を開くことだ。

《……》

「っ……!」
途端、軽い目眩を伴って意識が現実へと舞い戻る。
まるで動かなかった体も、今は自分の制御下にあるのを確かに感じられた。
「うっ……」
だが、激しい立ち眩みと吐き気のせいで、ろくに立ち上がることもできず、その場にうずくまることしかできない。
「……」
そんな中、優しく背中を撫でられる感覚に、重々しく視線を持ち上げる。
「……伽藍」
その視界に飛び込んできたのは、揺れる瞳でこちらを見つめる、伽藍の不安げな表情だった。
「……大丈夫?」
「あぁ……大丈夫だ……」
実際は、とてもじゃないが大丈夫と言える状態ではなかったが、心配そうに眉を潜める伽藍に向かって、弱音を吐くわけにはいかなかった。
「……奴は……?」
「……」
蒼竜のその問いかけに対し、伽藍は小さく首を横に振った。
首を横にひねり、意識を失う前まで三鎚が立っていた場所へと視線を移す。
そこには誰一人と立っておらず、密生する木々があるのみ。
逃げた……いや、見逃されたか。
「……くそっ!」

――ガッ!

声を荒げ、固く握り締めた拳で、大地を思い切り叩く。
指から手を伝い、腕へと回った衝撃に痛みと痺れを感じた。
だが、そんな感覚神経を走るどのような刺激よりも、目の前の敵に見逃してもらったという事実が、蒼竜にとっては何より屈辱的だった。

――野郎……この借りは、必ず返してやる……!

心の中で誓いを立てる。
となれば、これ以上こんなところで膝をついてなどいられはしない。
「……伽藍、ありがとう。もう平気だ」
背を撫でる伽藍の小さな手を優しく払い、蒼竜はふらつきながらも自分の足で立ち上がった。
手に持っていた愛銃を懐にしまいこむ。
「ここは視界が悪くて危ない。戻るぞ」
「……うん」
依然として不安の色を湛えたままの伽藍を引き連れ、蒼竜は表面上は冷静に、だが腸が煮えくり返るような激怒を胸の奥底に抱えながら、その場を後にした。

月夜 2010年07月09日 (金) 14時11分(96)
題名:新世界7(第十一章)

夢奏「ふぅ……ご親切に、どうもありがとうございました。おかげで助かりましたわ」

蒼空「困った時はお互いさまってやつですよ。大事に至っていなくて何よりです。もう大丈夫ですか?」

夢奏「えぇ。本当にありがとうございました。……あっ、私としたことが、名乗るのを忘れておりましたわ。私、夢奏と言います。夢を奏でると書いて、夢奏とお読み下さい」

蒼空「夢奏さん……ですか。良い名前ですね」

夢奏「そうですか? ありがとうございます」

蒼空「僕は蒼空。彼女は紗女です」

紗女「紗女です。よろしくお願いいたします」

夢奏「蒼空さんに、紗女さんですね。こちらこそ、よろしくお願いいたします」

紗女「話は変わりますが、貴女はどうやってここに?」

夢奏「それなんですが……実は、良く覚えていなくて……」

蒼空「気がついたら、いつの間にかこんなところに居たと?」

夢奏「はい……信じてもらえないかもしれませんが、ここがどこなのかさえ、全然分からないんです……」

蒼空「紗女……これって」

紗女「えぇ。私たちと同じですね」

夢奏「同じって……まさか、お二人も私と同じように?」

蒼空「はい。実は、僕たちもある時突然、いきなりこの世界に飛ばされたんです」

紗女「私たちの場合、寝て起きたらもうこちら側でしたね。夢奏さん、貴女、こっちに来る直前の記憶はありますか?」

夢奏「いえ……私も、寝て起きたらもう辺り一面見知らぬ景色で……寝る直前までの記憶なら、ちゃんとあるのですけど」

蒼空「そうですか……」

夢奏「お力になれなくて、すいません……」

蒼空「夢奏さんが気に病むことじゃありませんよ。貴女だって、唐突にこんな不可解な世界に迷い込まされた、謂わば被害者なんですから」

夢奏「そう言っていただけると助かります。ありがとうございます、蒼空さん」

蒼空「ありがとうだなんてそんな……」

夢奏「でも、私のことはわざわざさん付けでお呼びにならずとも結構ですよ? どうぞ夢奏と、呼び捨てで呼んで下さい」

蒼空「え、でも……」

夢奏「さぁ、遠慮なさらずに」

蒼空「じ、じゃあ……む、夢奏……」

夢奏「はい、蒼空さん」

蒼空「……あ、僕が呼び捨てにしてるのに、何で夢奏はさん付けなんだよ? 僕のことも蒼空と呼び捨てでいいよ」

夢奏「えっ……で、ですが……私、殿方を呼び捨てになんて、今の今まで一度もありませんし……」

蒼空「良いじゃないか。本人が良いって言ってるんだから、遠慮はなしだよ。ほら」

夢奏「……えっと……あ、蒼空……くん」

蒼空「君付けもなし」

夢奏「うぅ……あ、蒼空……」

蒼空「うん」

夢奏「……」

蒼空「……な、何だか妙に恥ずかしいな」

夢奏「……そ、そうですね」

紗女「おーおー、赤くなっちゃってまぁ。坊っちゃんも、遂に恋に目覚めちゃいましたか?」

蒼空「なっ、何を言うんだ!?」

紗女「夢奏さん。坊っちゃんが自分のことを呼び捨てで良いなんて言うこと、滅多にないんですよ? 良かったですね〜」

蒼空「さ、紗女っ!!」

紗女「きゃー、怖い怖い」

蒼空「こらっ! 待てっ!」

夢奏「ふふっ……」

月夜 2010年07月09日 (金) 14時11分(97)
題名:新世界7(第十二章)

ギスラウ「……っと、まぁそういう訳だから、よろしく頼むぜ」

鏡架「えっと……」

春紫苑「……誰か、こいつが言ったことを訳してくれないか? ちゃんとした日本語で」

白月「そうですね。今の話を聞く限り、そこのバカを崇拝するかのような不可解な言葉の羅列ばかりで、何も伝わらなかったわ」

マヤ「ま、早い話が、あの悲鳴はギスラウに絡まれてた蒼焔のもので、聞くところによると、蒼焔とこちらのグリッジという老人も、俺たちと同じくこの世界に迷い込んできたみたいだから、俺たちと一緒に行動したらどうかと提案したところ、その案を快諾してくれたため、今に至るといったところだ」

朱蒼「なるほど。さっきの意味不明な演説風の説明の10分の1以下の長さで、分かりやすい説明だったわ」

ギスラウ「おい、姉さん! そりゃ何か!? 俺の説明に不満があるってことかい!?」

朱蒼「だって、事実意味が分からなかったもの。貴方が熱っぽく方ってたのは、主に月夜ちゃんのことについてばかりだったじゃない」

ギスラウ「おう! それのどこが悪い!」

朱蒼「そういうのは、ただの主張って言うのよ。説明っていうのは、事の過程を第三者にも理解できるよう、伝えるためにあるものなの。分かる?」

ギスラウ「……はは〜ん。 さては姉さん、俺様が月夜のことばっかり言ってるから、嫉妬してるんだな?」

朱蒼「いいえ」

ギスラウ「ふっ、隠さなくたっていいぜ? だが悪いな。俺の心の中は彼女だけで既に満員なんだ。けど心配はいらねぇ。姉さんほどの女なら、新しい恋なんていかようにも見つかるぜ。俺が保証してやる」

艦隊「……よくもまぁ、そんなセリフがぽんぽん出てくるもんだな」

朱蒼「貴方、バカなの?」

ギスラウ「な、なんだとてめぇっ!」

朱蒼「……へぇ。そんな口きくんだ? この私に対して?」

ギスラウ「……だ、だったらなんだってんだよ?」

朱蒼「みんな〜、今日の晩御飯、プテラ鍋なんてどう?」

ギスラウ「っ!?」

マヤ「お〜、いいんじゃないか?」

春紫苑「進んで食いたくはないが、反対する要素はないな」

メカ「量的には若干悲しいものがあるだろうが、どうせ味は悪いだろうし、別に構わないか」

朱蒼「……ってことよ。こっちにきて早速で悪いわね、ギッちゃん」

ギスラウ「……は、ははは、ね、姉さんってば、冗談がキツいぜ……」

朱蒼「……」

ギスラウ「……」

朱蒼「……クスッ」

ギスラウ「っ!? ち、調子乗ってすみませんでした! まだ死にたくないです!」

朱蒼「だったら、これからはどういう態度を取るべきか……分かるわね?」

ギスラウ「イエス! マム!」

グリッジ「ほぅ。鳥のくせになかなか美しい敬礼をするな。意外に見込みがあるのかもしれんのう」

蒼焔「……どこの軍隊だ、ここは」

艦隊「あ、そういや、新しいお二人さんに対して、こっちの自己紹介がまだだったな。グリッジさんに蒼焔だったか? 俺は艦隊。特技はムードメイクだ」

鏡架「それ、特技って言わないんじゃ……」

白月「もう好きに言わせてあげましょう。突っ込むのも面倒だし」

朱蒼「私は朱蒼。元の世界では看護婦をやってたわ。よろしく」

鏡架「私は鏡架と申します。元いた世界では、今年で大学を卒業して、母の下で経営学を学ぼうとしているところでした。どうぞ、よろしくお願いいたします」

春紫苑「僕は春紫苑だ。……特に言うべきことはない」

白月「相変わらず無愛想ね、貴方」

春紫苑「そんなことは僕の勝手だ。さぁ、次はお前の番だぞ」

白月「はいはい。私は白月。大学院で医学を専攻していて、こっちにくるまでは研究一色の毎日を過ごしていました。よろしくお願いします」

メカ「俺のことはメカと呼んでくれ。こう見えても実は機械なんだが、まぁ普通の人間と同じように対応してくれればオーケーだ。よろしく頼む」

月夜「私は……って、もう言わなくてもいいよね」

マヤ「俺も、今更自己紹介はいらないだろう。最後はお前だな」

春「……」

マヤ「……春?」

春「……ん? なんだ?」

メカ「なんだじゃないよ。自己紹介、お前の番だぞ」

春「あ、あぁ、わかった。俺は春だ。元の世界では、プログラマーの端くれをやっていた。よろしく頼むよ」

月夜「春さんがボーッとしてるなんて、珍しいこともあるもんだね〜」

白月「そうね。これが貴女だったら珍しくもなんともないけど」

月夜「なんですと〜!?」

朱蒼「どーどー、落ち着きなさいって」

グリッジ「がっはっは。女子は元気が一番じゃ。ワシはグリッジ。今年で75じゃが、若い者よりまだまだ若々しい自信があるぞ」

艦隊「おー、すっげー筋肉ー」

メカ「確かに、自慢するだけのことはあるな」

朱蒼「私なんか、職業柄痩せ細った年寄りっぽい年寄りしか見てないから、余計逞しく見えるわ」

グリッジ「そうじゃろう、そうじゃろう」

蒼焔「……」

グリッジ「……どうした? 最後はお前だぞ、蒼焔」

蒼焔「……わ、わかってる。蒼焔だ。えっと、その……よ、よろしく」

朱蒼「あらあら、そんなに赤くなっちゃって。可愛い子ね」

蒼焔「!? さ、触るな!」

――バシッ!

朱蒼「……嫌われちゃったわ」

蒼焔「……」

グリッジ「すまんのう。結構人見知りの激しい奴でな。特に女性に対してはまるっきり免疫がなくて、ワシとしても困ってるんじゃが……まぁ、時間が経てば馴染むじゃろうて」

朱蒼「そう……ごめんなさいね、急に触れたりなんかして」

蒼焔「いや……その、こちらこそ、すいませんでした……」

朱蒼「それじゃ、はい」

――スッ。

蒼焔「あ……」

朱蒼「握手もダメ?」

蒼焔「いえ、そんなことは……」

朱蒼「……」

蒼焔「……」

――ギュッ。

朱蒼「ふふっ。これからよろしくね、蒼焔」

蒼焔「……こ、こちらこそ、よろしくお願いします……」

グリッジ「ふっ……」

月夜「流石は朱蒼さん……優しいお姉さんオーラ全開過ぎる……私も、いつかあんな大人の女性に」

春紫苑「無理だな」

白月「無理ね」

月夜「ちょ、せめて最後まで言わさせてよ!」

白月「到底叶わない夢を追うのは止めときなさい。貴女にあの包容力は生涯会得できないわ」

月夜「そんなの分からないじゃん! 私だって、将来朱蒼さんみたいな看護婦になってるかも……」

艦隊「それはないな」

メカ「あぁ、ないな」

月夜「ちょっと! なんで皆して全否定なのさ!」

春紫苑「お前みたいなそそっかしい奴に、看護される方の身にもなってみろ。僕なら絶対に御免だ」

朱蒼「でも、月夜ちゃんみたいな子、私の同僚にもいるわよ」

月夜「ほら! 私みたいな看護婦だっているんじゃん!」

白月「その人、ちゃんと看護婦としての仕事、出来てるんですか?」

朱蒼「そうねぇ……点滴台で廊下をスケートして、派手に転倒して頭ぶつけて意識失ったり、夜、家に帰るのが面倒だからって、患者さん用のシャワーやら空きベッドを使って勝手に寝泊まりしてたりしてるけど、一応看護婦みたいね」

月夜「……」

白月「良かったわね。一応看護婦みたいよ」

鏡架「……看護婦って呼んでいいんですか、それ」

蒼焔「どう考えても、やってることは質の悪い子供なんだが……」

艦隊「大きな子供ってか。大きい分だけ、ただの悪ガキより始末におけないな」

グリッジ「安心せい、月夜ちゃん。ワシはおしとやか〜な看護婦さんより、それくらい元気な看護婦さんの方が好みじゃよ」

月夜「グ、グリ爺……」

蒼焔「到底看護なんか必要としなさそうなくせして、よく言うよ」

マヤ「ははっ、まったくだ」

春「……」

メカ「……?」

月夜 2010年07月09日 (金) 14時12分(98)
題名:新世界7(あとがきその1)

























最っ低にローってやつだ!!

(テンション的な意味で)






(´・ω・`)







はい、月夜です。
相変わらず堕落しきった毎日を過ごしてます。

起きる。

寝ながら登校。

寝ながら授業。

(寝ながらバイt(ry)

寝ながら帰宅。

寝ながら食事。

寝ながら風呂。

寝ながらニコニコ。

いつの間にか朝じゃねぇか!(゜Д゜)


これが私の毎日だ!

そんな私に物申したい輩は、かかってくるがいい!

















謝る準備は出来ている!!









退く! 媚びる! 省み(ry






゜。゜(つД`)ノ゜。゜



さて、聖帝ならぬ堕帝こと私のどこかおかしな(パクり)名言はさておき、反省会へ。
皆さん長らくお待たせして申し訳ありませんでした。(待ってない? それを言っちゃあお終いだぜべいべー(´・ω・`))


今回は、新しく敵キャラ四人に不可解な生き物一匹を新たに登場させてみました。
それを決めるにあたって、色んな人から多数のメールをいただき、感謝感謝です。
トータル12通……だったかな?
まぁそのメールの案を、全て採用するわけにはいかなかったので、色んなとこから抜粋して組み合わせたりしながら、こんな形にまとめてみました。
次のあとがきで、各キャラの紹介と、その設定を考えてくれた方々に関して解説したいと思います。

……え?
約一名扱い酷い?
心配するな、許可はとってあr(嘘乙


ま、まぁ、事前に報告はしてあるので、多分大丈夫でしょ、うん(´・ω・`)

それじゃ、今回はこの辺で失礼させていただきますか。
この作品に対する感想、批判、苦情、ゴルァ等は下の「小説感想アンケート板」または「小説感想掲示板」、「月夜に吠えろ」までどうぞ〜。


ではでは、もう少しだけお付き合い願いたいと思いますm(_ _)m

月夜 2010年07月09日 (金) 14時13分(99)
題名:新世界7(あとがきその2)

異次元怪獣ギスラウ

火を吐き、言葉を喋る極小プテラノドンこと、ギッちゃん。
粗野な口調で言葉遣いは質の悪いチンピラそのもの。
月夜に惚れ込む辺り、少々危ない嗜好の持ち主なのかもしれない。
なんで人の言葉を喋れるのか等は気にしたら負け。


夢奏 来夢&名無し

琴を武器として扱う淑やかな和服少女。
一見物静かで優しそうに見えるが、冒頭でのグリッジに対する態度を見る限り、腹に一物抱えている感は拭えない。
可愛い物好きだが、かなりサドっ気があり、どんな可愛い物も愛でるより壊すことに快感を覚える危ない子。


三鎚 白月

燕尾服を身に纏った青年。
四人の中ではリーダー格であり、常に余裕感溢れる態度を崩さない。
戦闘技術に秀でており、その力は蒼竜を唸らせるほどという相当の実力者。
何やら伽藍とは面識があったようだが……?


蒼焔 蒼焔&ブン

三鎚と同じく、燕尾服に身を包んだ、まだ若干幼さの残る少年。
三鎚のことを兄上と呼んで敬っているが、特に血縁関係があるわけではない。
かなりの人見知りで、初対面の人とまともに話すことは疎か、目を合わせることさえ恥じらうほど。


グリッジ 鞍糸

筋骨隆々たる老人。
その性格も見た目通り豪快なもので、多少の問題はいとも容易く笑い飛ばす(誤魔化す)。
何よりの自慢は、齢75を迎えてなお逞しさを失わない肉体。
だが、ところ構わずその肉体美を人に見せつけようとするので、よく側にいる蒼焔がとばっちりを受けては、その都度頭を悩ませている。



能力等に関しては、皆さんの意見を参考にしつつちょちょいと私が勝手に改変したりしてます(´・ω・`)
まぁ、バランスブレイカーなチート能力は(多分)ないんで、なんとかなるんじゃないかなーと思ってます。

ではここで改めて、この度の敵キャラ案募集に際し、皆さんたくさんのお便り本当にありがとうございました〜♪
敵キャラに関してはまだ彼ら以外にも出す予定ですので、何か思いついたり、こんなキャラ出して欲しい等ございましたら、遠慮なくガンガンメール送ってくださいなー(`≧ω≦)b



それでは、また会う日まで、しばし失礼(´・ω・`)ノシ



ここまでは、スーツを着る度、己の身の程を知らぬ格好に怖気が走る私、月夜がお送りしました。















正装なぞしてんじゃねぇ!!

月夜 2010年07月09日 (金) 14時14分(100)


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