【広告】楽天市場から 春のお買い物マラソン4月24日開催予定

文語で携帯メール

ホームページへ戻る

返信フォーム
名前:
メールアドレス:
本文:
ホームページ:
削除キー:

cookie:

このレスは下記の投稿への返信になります。内容が異なる場合はブラウザのバックにて戻ってください

タイトル:「稲むらの火」 投稿者:冬将軍

 「これはただ事ではない」とつぶやきながら、五兵衛は家から出てきた。今の地震は、別に烈しいというほどのものではなかった。しかし、長いゆったりとしたゆれ方と、うなるような地鳴りとは、老いた五兵衛に、今まで経験したことのない不気味なものであった。
 五兵衛は、自分の家の庭から、心配げに下の村を見下ろした。村では豊年を祝う宵祭りの支度に心を取られて、さっきの地震には一向に気が付かないもののようである。
 村から海へ移した五兵衛の目は、たちまちそこに吸いつけられてしまった。風とは反対に波が沖へ沖へと動いて、みるみる海岸には、広い砂原や黒い岩底が現れてきた。
「大変だ。津波がやってくるに違いない」と、五兵衛は思った。
このままにしておいたら、四百の命が、村もろとも一のみにやられてしまう。もう一刻も猶予はできない。
「よし」と叫んで、家に駆け込んだ五兵衛は、大きな松明を持って飛び出してきた。そこには取り入れるばかりになっているたくさんの稲束が積んであった。
「もったいないが、これで村中の命が救えるのだ」と、五兵衛は、いきなりその稲むらのひとつに火を移した。風にあおられて、火の手がぱっと上がった。一つ又一つ、五兵衛は夢中で走った。
こうして、自分の田のすべての稲むらに火をつけてしまうと、松明を捨てた。まるで失神したように、彼はそこに突っ立ったまま、沖の方を眺めていた。日はすでに没して、あたりがだんだん薄暗くなってきた。稲むらの火は天をこがした。

 山寺では、この火を見て早鐘をつき出した。「火事だ。庄屋さんの家だ」と、村の若い者は、急いで山手へ駆け出した。続いて、老人も、女も、子供も、若者の後を追うように駆け出した。
 高台から見下ろしている五兵衛の目には、それが蟻の歩みのように、もどかしく思われた。やっと二十人程の若者が、かけ上がってきた。彼等は、すぐ火を消しにかかろうとする。五兵衛は大声で言った。
「うっちゃっておけ。ーー大変だ。村中の人に来てもらうんだ」

 村中の人は、おいおい集まってきた。五兵衛は、後から後から上がってくる老幼男女を一人一人数えた。集まってきた人々は、もえている稲むらと五兵衛の顔とを、代わる代わる見比べた。その時、五兵衛は力いっぱいの声で叫んだ。
「見ろ。やってきたぞ」
たそがれの薄明かりをすかして、五兵衛の指差す方向を一同は見た。遠く海の端に、細い、暗い、一筋の線が見えた。その線は見る見る太くなった。広くなった。非常な速さで押し寄せてきた。
「津波だ」と、誰かが叫んだ。海水が、絶壁のように目の前に迫ったかと思うと、山がのしかかって来たような重さと、百雷の一時に落ちたようなとどろきとをもって、陸にぶつかった。人々は、我を忘れて後ろへ飛びのいた。雲のように山手へ突進してきた水煙の外は何物も見えなかった。人々は、自分などの村の上を荒れ狂って通る白い恐ろしい海を見た。二度三度、村の上を海は進み又退いた。高台では、しばらく何の話し声もなかった。一同は波にえぐりとられてあとかたもなくなった村を、ただあきれて見下ろしていた。稲むらの火は、風にあおられて又もえ上がり、夕やみに包まれたあたりを明るくした。

はじめて我にかえった村人は、この火によって救われたのだと気がつくと、無言のまま五兵衛の前にひざまづいてしまった。』

出所
尋常小学校の国語教科書 昭和12-22年

[47]2011年04月22日 (金) 14時14分
Pass
  投稿者:常陸山
『 平成十一年には、皇后陛下が御誕生日の記者会見で「子供のころ教科書に、確か『稲むらの火』と題し津波の際の避難の様子を描いた物語があり、その後長く記憶に残ったことでしたが、津波であれ、洪水であれ、平常の状態が崩れた時の自然の恐ろしさや、対処の可能性が、学校教育の中で、具体的に教えられた一つの例として思い出されます」と御回答をされてゐたこともある。』

以上、下記のブログより引用させていただきました。

http://www.jinja.co.jp/news/news_005119.html
[48]2011年04月25日 (月) 16時54分
Pass
  投稿者:冬将軍
旧仮名遣いバージョンにて候;


 「これはたヾ事ではない。」とつぶやきながら、五兵衛は家から出て来た。今の地震は、別に烈しいといふ程のものではなかつた。しかし、長いゆつたりとしたゆれ方と、うなるやうな地鳴りとは、老いた五兵衛に、今まで経験したことのない無気味なものであつた。
 五兵衛は、自分の家の庭から、心配げに下の村を見下した。村では豊年を祝ふよひ祭りの支度に心を取られて、さつきの地震には一向気がつかないもののやうである。
 村から海へ移した五兵衛の目は、忽ちそこに吸附けられてしまつた。風とは反対に波が沖へ沖へと動いて、見る見る海岸には、広い砂原や黒い岩底が現れて来た。
 「大変だ。津波がやってくるに違ひない。」と、五兵衛は思つた。
このままにしておいたら、四百の命が、村もろ共一のみにやられてしまふ。もう一刻も猶予は出来ない。
 「よし。」と叫んで、家にかけ込んだ五兵衛は、大きな松明を持つて飛び出して来た。そこには取入れるばかりになつてゐるたくさんの稲束が積んである。
 「もったいないが、これで村中の命が救へるのだ。」と、五兵衛は、いきなり其の稲むらの一つに火を移した。風にあふられて、火の手がぱつと上がつた。一つ又一つ、五兵衛は夢中で走つた。
 かうして、自分の田のすべての稲むらに火をつけてしまふと、松明を捨てた。まるで失神したやうに、彼はそこに突立つたまま、沖の方を眺めてゐた。日はすでに没して、あたりがだんだん薄暗くなつて来た。稲むらの火は天をこがした。
 山寺では、此の火を見て早鐘をつき出した。「火事だ。莊屋さんの家だ。」と、村の若い者は、急いで山手へかけ出した。続いて、老人も、女も、子供も、若者の後を追ふやうにかけ出した。
 高台から見下ろしてゐる五兵衛の目には、それが蟻の歩みのやうに、もどかしく思はれた。やつと二十人程の若者が、かけ上つて来た。彼等は、すぐ火を消しにかからうとする。五兵衛は大声に言つた。
 「うつちやつておけ。大変だ。村中の人に来てもらふんだ。」
 村中の人は、追々集つて来た。五兵衛は、後から後から上つて来る老幼男女を一人一人数えた。集まつて来た人々は、もえている稲むらと五兵衛の顔とを、代わる代わる見くらべた。其の時、五兵衛は力一ぱいの声で叫んだ。
 「見ろ。やつて来たぞ。」
 たそがれの薄明かりをすかして、五兵衛の指さす方を一同は見た。遠く海の端に、細い、暗い、一筋の線が見えた。其の線は見る見る太くなつた。広くなつた。非常な速さで押寄せて来た。
  「津波だ。」と、誰かが叫んだ。 海水が、絶壁のやうに目の前に迫つたと思うと、山がのしかかって来たやうな重さと、百雷の一時に落ちたやうなとどろきとを以て、陸にぶつかつた。人々は、我を忘れて後へ飛びのいた。 雲のやうに山手へ突進して来た水煙の外は、何物も見えなかつた。人々は、自分等の村の上を荒狂つて通る白い恐しい海を見た。二度三度、村の上を海は進み又退いた。 高台では、しばらく何の話し声もなかつた。 一同は波にゑぐり取られてあとかたもなくなつた村を、たヾあきれて見下していた。稲むらの火は、風にあおられて又もえ上り、夕やみに包まれたあたりを明るくした。
 始めて我にかえつた村人は、此の火によつて救われたのだと気がつくと、無言のまゝ五兵衛の前にひざまづいてしまつた。』
[49]2011年04月26日 (火) 15時37分
Pass


Number
Pass

ThinkPadを買おう!
レンタカーの回送ドライバー
【広告】楽天市場から 春のお買い物マラソン4月24日開催予定
無料で掲示板を作ろう   情報の外部送信について
このページを通報する 管理人へ連絡
SYSTEM BY せっかく掲示板