沙「アイツが双樹の一目ぼれ相手か?」
双「沙羅ちゃん・・・もぅ・・・」
双樹は顔を赤らめながら反論した。
沙「じゃあ私は下で待っているから・・」
双「うん、すぐ戻るからね」
双樹は沙羅と分かれて病室へ向かった
今日、沙羅と双樹は町外れのある療養所に来ていた。 双樹が珍しく行きたいと言い出したからだ。
その目的とは・・・・
僕「あ、双樹ちゃん・・・」
双「大丈夫?お見舞いに来たよ」
彼はここの療養所の入院患者だ。 半年ほど前まではずっと一人だったけれど、 最近は双樹がたまに見舞いに来ている。
双「体は・・・・大丈夫なの?」
僕「うん・・・一応、療養って言う形だから」
彼はこの療養所に1年ほど入院している。
双「勉強中だった・・・?悪かったかな・・」
僕「そんなこと無いよ・・・親が勉強だのうるさかったから・・・ただの暇つぶしだし」
元々、体が弱かったため中学卒業と同時に この療養所に来たという。
双「それじゃあ、また今度来るね・・」
僕「うん、またね・・・」
しばらく談笑した後、双樹は病室を出て行った。
沙「それにしても、このところ毎週行っているな・・・」
双「いいじゃない、あの人いつも一人なんだから」
沙「まあ、双樹が良いと言うなら・・・別に構わないけれど」
半年前、 親戚のお見舞いで双樹は彼と知り合った。 話しているうちに打ち解けたか、 よく見舞いに行くようになったらしい。
沙「さて、家に帰るぞ双樹」
二人はグルファクシの背に乗った。
双「あの人、お父さんもお母さんも忙しくて来てくれないんだって・・・・」
沙「そうなのか・・・」
双「最初、ロビーで私と会ったとき凄く驚いていたんだ・・」
沙「驚いていた・・・?」
双「よくわかんないけど・・・あの人優しいしそれに・・・」
双樹は言葉を詰まらせていた。
沙「いやいい、皆まで言わなくても・・・」
一週間後
沙「相変わらず遅いな・・・」
先週と同じように沙羅はロビーで双樹を待っていた
その時
ファンファン・・・・
沙「パトカーのサイレン?」
ジリリリリリリ・・・・!
非常ベルがけたたましく鳴り出した
『緊急事態発生!所内の患者さんは速やかに避難して下さい!』
沙「・・・・まさか、双樹に何か?!」
沙羅は急いで双樹のいる病室へ向かった
沙「・・・・双樹!」
するとそこには・・・
双「沙羅ちゃん・・・・!来ちゃダメ!」
男「・・ん?・・・な、もう一人いたか!」
沙羅が病室の入り口に立つと、 刃物を持った覆面男が襲い掛かってきた
双「・・・・沙羅ちゃん!」
沙「・・・ぐ・・・双樹を話せ!」
男「うるさい!お前もおとなしくしろ!」
沙羅は男に捕まり病室に連れ込まれた
警官「犯人に告ぐ!おとなしく人質を解放しなさい!」
男は警官の要求に応えなかった
沙「なるほど・・・・お前の部屋にいきなり入ってきたというわけか」
僕「うん・・・急に刃物を突きつけてきて・・・ 逃げる余裕も無くて・・・」
双「それで・・・そこに沙羅ちゃんが・・・」
沙羅と双樹は彼とともに病室に軟禁された状態だ。
男は手に包丁を持ち窓から、 入り口を包囲する警官隊を見ていた
男「いいか、俺が欲しいのは金とかじゃねえ! 今から言う2人の人間をここに連れて来い!そいつらの名前は・・・」
沙「・・・人を呼ぶのか?どういうつもりだ・・」
すると・・・ 男が放った言葉に彼は反応した
男「の2人だ!・・・今日中につれて来いよ!」
僕「え・・・・その二人って・・・」
双「知ってるの・・・?」
そして覆面男はふりむき・・・ 覆面を取りながら言った
男「まさか・・・ アイツにそっくりな女が二人もいるとはな・・・」
僕「あ・・・・!」
双「・・・え?!その顔・・・!」
3人は男の顔を見て驚いた
警官A「何?!犯人と被害者の両親が来てくれないだと!」
警官B「はい、忙しいとか動転しているようで・・・」
警官A「全く、最近の親は子どもを何だと思っているんだ」
彼「・・・やっぱり・・・兄さんだったんだ・・」
男はかぶっていた覆面をかぶりなおした
双「・・・・え・・・・なんで?」
動転していたのは双樹だけだった
沙「落ち着け、双樹・・・・」
彼「大体・・・声とかで分かってたけどさ・・・」
男「ふん・・・・・まあ何でこんなことしたかは分かるな・・・」
彼「うん・・・・でも効果はどうかな・・・」
二人は冷静に話していた
沙「すまないけど・・・説明してもらってもいいかな?」
男「・・・ああ、話の通り似てるな、 わかった・・・説明しよう」
覆面の男は淡々と語った
この男が最初に呼んだ2人の人物は両親だった
仕事等が多忙なわけでもないにも拘らず、 見舞いにも来ない。 暴力を奮うわけでもないが、 進学や生活面で厳しい親に理解を求めるには、 こうするしかなかったと言うのだ
双「そう言えば、お父さんもお母さんも一度も見なかったね・・・」
沙「なるほど・・・大きな問題もなく改善することは出来ないからな・・・」
双「でも・・・・・・だからってお父さんやお母さんを心配させちゃ・・」
その言葉に・・・二人は顔を合わせて言った
男「見た目だけじゃ・・・・無かったな」
彼「うん・・・・似てる・・・」
双「・・・・・え?何が・・・?」
男「・・・実は・・・」
男が何かを言いかけた、その時
警官C「犯人に告ぐ!落ち着いて聞いてくれ!」
男「む・・・ちょっと待ってくれ」
警官C「残念だが、お前の頼んでいた両親は来ないそうだ・・・、 しかし人質は解放しなさい・・・」
男「そうか・・・わかった、 だがもう少し待て・・・!」
そう言うと覆面の男はこちらを振り返った
男「双樹とか言ったな・・・ ウチの妹に・・・・そっくりだ・・・」
双「・・・・・・・え?!」
彼「うん・・・・最初は驚いたよ・・・・」
沙「そう言う・・・事だったのか・・・」
そして覆面の男は持っていた包丁を持ち上げた
男「アイツは・・・ いつも優しかったな・・・・・」
彼「・・・・うん・・・・・あいつがいたから・・・だけど」
双「それで・・・その妹さんは・・」
双樹が言いかけると・・・覆面の男は包丁を自らに向けた
双「え・・・・?!何をするつもり・・・?!」
彼「・・・・兄さん?!」
男「どうやら・・・、 ウチの親は俺らの事なんてどうでもいいようだな」
双「だからって・・・」
彼「確かに・・・、 小さい頃からアイツしかいなかったけど・・・」
男「すまないな・・・ 今からやり直すことも出来ないし・・・、 先に会いに行くぜ・・・」
双「・・・だからって・・・」
そして覆面の男は窓の外の警官隊のほうへ振り向いた
男「よく聞け! 今から5分後に人質を解放する、 だが・・・俺を捕まえることは出来ないぜ」
覆面の男は包丁を自分の腹へ向けた
警官D「な・・・バカな真似はやめろ!」
男「迷惑かけたな・・それじゃああばよ・・!」
彼「・・・・兄さん!」
刃が・・・・腹部を貫いた・・・
しかし・・・
双「・・・・・・え?!」
血を流して倒れたのは・・・包丁を持った男ではなかった・・・
男「・・・・・な、お、・・・お前」
彼「兄さん・・・・間に合ったみたい・・・だね」
沙「・・・かばって・・・・刺さったのか・・・」
男「おい!すぐに医者をよこせ!」
警官D「わかった!・・・誰でもいいから現場へ向かってください!」
避難していた医者や看護士が療養所に入っていった
双「しっかり・・・すぐお医者さんが来てくれるから!」
男は双樹に抱きかかえられた・・
彼「・・・双樹・・・・ちゃん・・・」
沙「無理はするな、傷に悪いから・・・」
男は双樹の顔に腕を差し出した
双「・・・・・あ・・・・これ・・・」
男の手首には・・・赤い切り傷が何本も引いてあった
彼「最初に会ったとき・・ 大好きだった妹がまさか・・・と思って驚いたよ」
沙「・・・その傷・・・・自分でやったものだな」
彼「暴力とか単身赴任とかあったわけじゃないけど、 成績が悪いとか少しでも抜けたことをすると怒られて・・・そのたびに怖かった」
沙「多分、その後両親はまったく分かってなかったんだな・・・」
覆面の男が走って部屋に戻ってきた
男「担架に乗れ!そこの処置室で先生が待っているから!」
双「・・・ほら、早くしないと・・・!」
しかし、男は双樹の腕の中から降りようとしなかった
彼「双樹ちゃん・・・最後にいいかな・・・・」
双「・・・・え?」
そして・・・男は息を切らせて叫んだ・・・
彼「・・・・ごめん・・・・でも、 後は・・・頼んだよ・・・・」
沙「・・・・・・・・お前・・・」
彼「さよなら・・・・グフッ・・・」
血を吐きながら・・・ 双樹の顔にかけられていた腕が下りた
男「おい・・・しっかりしろ!」
沙羅が傷だらけの手首にそっと触れた
沙「・・・・・・ダメだ・・・・もう・・」
沙羅が首を振った・・・
双「そんな・・・そんな・・・ 何で?ずっと、一緒に生きていくって・・・いくって・・・・!」
沙「双樹・・・・」
双「起きて・・・・!お願い、起きて!・・・」
双樹は泣きながら・・ いつまでも叫び続けた・・・・・
一ヵ月後
双樹と沙羅は療養所の近くの海岸にいた
沙「アイツの兄は・・・少年院に入ったらしいな」
双「うん・・・・・」
沙「双樹に似てるって言う妹さんが事故してから、 リストカットや非行に走り出したとか・・・」
双「私・・・悪いこと聞いたかな・・・」
双樹がうつむきながら胸に抱えた風呂敷を見つめた
沙「知らなかったから気にするな・・・ それより早く済ませよう・・・・」
双「・・・・うん」
双樹は・・・海岸の傍の人工岩の前に立ちふたを開けた
双「色々ありがとう・・・ 私・・・何も出来なかったけど・・・」
双樹は涙をためながら男の遺骨を墓に納めた
沙「泣くな・・・あいつのためにも・・・」
双「大丈夫だよ・・・私は・・・」
双樹は墓を閉めながら自分の腹部を押さえてつぶやいた
双「ここに・・・もう一人の貴方がいるから・・・・・」
双樹の発言に沙羅は一瞬動揺した
沙「・・・まあ、アイツならいいか」
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