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タイトル:橙蟇蛙 短編

07年夏に書いたシスプリSS。

Sひかり 2009年01月08日 (木) 00時46分(20)
 
題名:

「あれ〜?どこに転がったんだろう」

少年は薄暗い洞窟の中、ほぼ手探りで何かを探していた

「全く……ん?何だあれ?」

少年が前を見ると暗い洞窟の奥に光が見えた
その光に吸い寄せられるように奥へと進んでいってしまった

その時、

「わわっ!じ…地震!?うわあああっ!!」

突然の揺れと共に外壁が崩れ落ちた
少年はそのまま気を失ってしまった






「ん…あ、あれ?」

「……目が覚めたようだね」

目を覚ますと少女の声がした
そこにはワインレッドの髪を後ろで束ねた少女が立っていた

「…きみ…は?」
「薬が効いてきたはずだよ…」

周りを見回すと雨音の響く薄暗い部屋に置かれたベッドの上にいた

「確か、確か洞窟で落としたペンダントを探してたら地震が…」
「これの事かな?」
「あ、それだよ!」

少年は少女が差し出したペンダントを受け取った

「土砂崩れの様子を見に行ったら、倒れていた君とペンダントを見つけたんだよ」
「ありがとう…それで君は?」


「私の名は…千影」

軽く戸惑いながらの問いかけにゆっくりとそう答えた


「千影か……あ、痛っ」
「無理に起き上がらないほうがいいよ、もうしばらく横になっていた方がいい…」

そう言うと少女は振り向いて部屋を後にした



しばらくして、少年も部屋を出た

「やぁ…痛みも治まったかな」
「うん、おかげさまで」

部屋を出るとそこは数部屋ほどの薄暗い内装をした小さな家だった
その小屋には至る所に寒色系の装飾品やオブジェらしき物体が目に付いた

「ちょっと待っててくれないか、もう少しで終わるから」

そう言いながら少女は鳥かごや水槽の中の生物にえさをあげていた

「いいよ、気にしないで……あれ?」

少年がそれを不思議そうに見ているとある水槽に目が止まった

「オレンジ色の…カエル?」

そこには体全体が橙色のカエルが数匹ほど入れられていた

「ああ、それはオレンジヒキガエルだよ
熱帯に生息している種なんだけど、母が知り合いから譲り受けたんだ」
「へぇ〜、初めて見たよ」
「さてと、そろそろ食事にしよう。口に合うかどうか分からないけど」
「いいの?ご馳走になって…」
「遠慮しなくていいよ、どうせしばらく帰れないだろうから」

そう言われた瞬間、自分の置かれた状況を再認識した

「あ、やっぱり出られないかな」
「軽く見ただけだけど内部からは無理だろうね、外部から来るのを気長に待つしかないよ」
「……そうなんだ、その場所ってどこに?」
「崩れたばかりだし雨も降っているから危ないよ、何日かして地盤が乾いたら案内するよ」

窓を見ると雨はガラス戸を軽く叩くほど威力を増していた

「わかった…」

そうつぶやくと少年は千影の後に付いて行った




数日後
雨雲があけた翌日に少年が家を出ると、
そこには小屋全体を囲む林と崖と遠くに見える海が風景のほとんどを占めていた

「これじゃあ…、救助を待つしかないね」

少年は崩れた岩溜まりをみてため息混じりに語った

「そうだね、とても人の力じゃどうしようもないよ…」

少女がそう返すと、少年は思い切ってこう切り返した

「そう言えばここはいったいどこなの?
電話線も繋がってないしテレビもないなんて」
「ここは見ての通りほぼ未開の地だよ、
白黒テレビどころかラジオもろくに電波は届かない」
「じゃあ何で君はこんなところに住んでるの?」

その質問に少女はゆっくり答えた

「親が残した研究用の家がだからね…
私はその研究を完成させようと思っているんだ」
「研究……」
「私は戻るよ、大丈夫だと思うけど気をつけたほうがいいよ、兄くん」

少女が振り返りながら言うと

「…兄くん?」
「話を聞いてみると私より年上みたいだ…不満があるならやめるけど」
「いや…別に不満はないけど」
「そうか…私は先に戻るけど念のため気をつけてね」

少年は千影が戻った後もその場に立ち尽くしていた

「兄くん、か…」

少年は首から提げたペンダントを見つめた


すると

『まだ起きないの?』

「…え?」

聞きなれた声を耳にして振り向いた
しかし、
「…千影の声じゃないし、誰?」

どこを見渡しても他には誰もいなかった



「ここには私と兄くんしかいないはずだよ」
「そうだよね、じゃああれは誰の声だったんだろう」

少年は首をかしげながらスープをすすった

「あ、このスープ結構美味しいね」
「そうかな?私が作ったものだから少し不安だったんだけど…」
「さっき林の木に実がなってたけど、アレ?」
「まあそんな所だよ、この辺りには自生している野菜や果物が結構あるんだ。
元々、結構味がいいんだけどね」

千影は軽く謙遜したが

「千影って料理美味いんだね」
「そ、そうかな…」

千影は軽く微笑んだ

「………ありがとう」




『いったい…誰なんだろう?』


「はっ?!」

少年は真夜中に布団の上で眠りについていたが
またも謎の声が聞こえて目が覚めた

「…夢?」

「どうしたんだい?兄くん…」

隣のベッドで眠っていた千影が問いかけた

「いや…、なんでもないよ」

少年は辺りを見回したがやはり何もわからなかった





「う〜ん……」

少年は窓際で物思いにふけっていた

「どうしたんだい、兄くん」
「千影、ハッキリ聞いていいかい?」
「………何だい、兄くん」

千影は一瞬ハッとしたがすぐに聞き返した

「僕は…ずっとここにいていいのかな」
「兄くん……」

少年は千影の肩をそっとつかみつぶやいた
その場に静寂に包まれた

その時、

「…わっ!また地震?!」

突如、大きな揺れがおこった
数十秒の間、揺れと轟音がとどろいた

「うわっ!」

少年は千影の肩をつかんだままその場に倒れこんだ

「あ、兄くん…!」



しばらくして揺れと轟音がおさまった

「なんとか、やんだみたいだね」
「兄くん……その…」
「え?あっ…」

気が付くと少年は千影を抱いた状態で倒れこんでいた

「ご、ごめん!」
「謝らなくて…いいよ…」

少年はあわてて千影を起こし手を離した

「それにしてもさっきの音は…」
「あ、兄くん…アレを」
「え?」

千影が窓の外を指差した
そこには以前崩れた岩溜まりが再び崩れて穴を開けていた

「さっきの地震で、上の岩も一緒に崩れたようだね…」
「…出られる……かな?
その穴の奥にはかすかに外の景色が写っていた

「出られるかもね…」

千影が寂しそうに言った

「どうしたの?」
「いや、なんでもないよ…」

千影のその様子に少年は思い切って口走った

「一緒に行こうよ」
「一緒に…?」
「うん、助けてもらったお礼がしたいし、
また戻れば通えるからさ」

少年は嬉しそうに話すが

「兄くん一人で……行ってくれるかな」
「何で?」

千影はうつむきながら話した

「私には生き物たちの世話があるし…」
「だったら、一緒に連れて行こうよ」

少年が食い下がろうとするが千影の表情は変わらなかった

「やはり兄くんの来るべきところじゃなかったんだ…」
「そんなことないよ、ほら…!」
「あ、ちょっ…兄くん?!」

少年は思い切って千影の手を引っ張り家を出た

「行こうよ、千影!」
「ダメだよ、兄くんだけが戻るといい…」

少年はその返事を聞かず手をつかんだまま崩れた洞窟の前まで走った

「強引だな、兄くんは」
「行こう、千影」
「しょうがないな…こうするしかないようだね」
「千影?……うわっ!」

千影は瞳を潤ませながら少年を洞窟の中に突き飛ばした

「千影?!……何を…」

「さようなら……兄くん…」

千影は足早に洞窟から去った

「千影っ…!なんだ?脚が…」

少年は立ち上がろうとすると、
脚にものすごく重く感覚が走った

「くそっ、千影!千影…!」


『目を覚ましたかい?』

謎の声がまたも響いた

「え?何を言ってるんだ……?!」

少年は必死にもがきながら千影を追いかけようとした

『君は助かったんだよ…』
『しっかりするんだ!』

「いったい…何が……どうなって……」



だんだんとその声は大きくなり
少年の意識は次第に薄れていった




「…はっ!」

少年はふとわれに返った

「お、目が覚めたんだね」
「良かった、ずっと気を失っていたから」

気が付くとそこはどこでも見るような白い壁紙に包まれた部屋が見えた

「……ここは?」
「病院だよ、君は地震の土砂崩れに巻き込まれて気絶していたんだ」

傍には白衣を着た女性と警察官らしき男がいた

「運良く、洞窟が崩れた衝撃と煙で外に投げ出されたんだ。
かすり傷程度で済んだようだ」
「とりあえず、もうすぐ食事の時間だからね。お腹すいたでしょう」

どうやら女性は看護士のようだった

「あの、洞窟の先に住んでいた子は…」

少年は思い切って聞いてみた

「先?あの洞窟はだいぶ前にふさがって行き止まりらしいけど」
「行き止まり…?そんなはずは」

思わぬ答えに少年が唖然とすると

「おや?その首元についている跡は何だ?」

警察官の男が少年の首元にある赤い線を指差した
「ああ、これはペンダントの…あれ?ない」

少年の体にはどこにもペンダントがついていなかった

「多分落ちたんじゃないかな?
今日から撤去作業が始まったから見つけたら連絡するよ」

「はい…」

少年がうつむいた時、ノック音の後に部屋のドアが開いた

「君、あの洞窟について知っているのかい?」
「警部補殿、ご苦労様です!」

入ってきた初老の男性に警察官が軽く敬礼した

「警部補さん?知っているんですか」
「ああ、知ってはいるが、あそこは…」




翌日
少年は病院内の待合室にいた

「あら、学生さんだったっけ?勉強熱心ね」
「あ、どうも」

通りすがりの看護婦に話しかけられ軽く挨拶した
少年は本棚に置かれていた辞典や図鑑を何冊も読み漁っていた

「まさかと思うけど、ひょっとしたら」

少年が雑誌をめくりながら眺めていると

「あ!……これは、いやまさか」

少年は目の止まったページの記述に動揺していた

「でも、あの内部といいひょっとして…」

「どうしたんだい?」

少年の担当医が声を掛けてきた

「あ…」
「さっきも言ったけど、念のため精密検査をするから」
「その必要はありません」

少年はそうつぶやいてその場を後にした
「え?あ、君!」



その夜
雨が降りしきる中、崩れた洞窟の前に少年が立っていた

「千影……」

すると後ろの方から声がした

「お〜い!そこはまだ撤去作業中だから危ないよ!」
「紐の中に入っちゃダメだ」
「邪魔しないでください!」

少年はそう叫んで入り口に張られた紐をくぐり洞窟の中へと入ろうとした

「やめなさい!」

叫び声に聞く耳を持たずそのまま洞窟の奥へと走っていった

「千影…!千影…!」

少年が走っていくと、そこには岩に包まれた壁しかなかった

「千影?」

少年はその場に呆然と立ち尽くした

「危ないぞ!戻ってきなさい!」
「そこは立ち入り禁止だ!」

洞窟の入り口で叫び声がした


「千影!聞こえているんだろ!
僕を入れてくれ!」

少年は硬い岩肌を叩き出した

「僕には千影が必要なんだ!
元の生活より千影といる方が大事なんだ!」

少年は痛みに耐えながらも手や足で岩肌を叩き続けた

「お願いだ!出てきてくれ!」
「崩れるかもしれないんだ!戻りなさい!」

どんなに叩いても聞こえるのは鈍い音と叫び声だけだった

「千影……そうだ!」

少年はあることを思いつき叩くのをやめた

「…あれ?どうしたんだ」


少年は息を思い切り吸い上げた後ゆっくりと口を開いた




「千影、もがいた時に落とした僕のペンダントがどこにも落ちていないんだ。
持っているなら返してくれないか……。小さい頃に貰った大事な物なんだ」



少年がそう発言すると



「兄くん……」



千影の声と共に空中に小さな穴が開きペンダントが出てきた

「今だ!」

少年はペンダントを思いっきり引き抜き穴に腕を突っ込んだ

「兄くん?!」
「千影…!」
「……なっ?!」

少年は強引に穴を押し広げ中に突っ込んだ

「千影…………!」

すると、空から大きな音と光が響いた

「雷だ!」
「伏せろっ!」

その刹那、洞窟に雷光が直撃し、
数日前に続いてみたび岩が吹き飛び崩れ落ちた

「…大変だ」
「すぐに応援を呼ぼう!」









「千影………」

少年はペンダントをつかんだまま倒れていた

「…!千影は?!」

少年が顔を上げると


「……おかえり、兄くん」

千影が目の前で瞳に涙を浮かべながら立っていた

「ただいま……」
「良かったのかい…私は…」

千影がそっとつぶやくと

「それ以上言わないで!」

少年は千影をそのまま抱きしめた

「あっ……兄くん!」

少年は困惑する千影にささやいた

「わかってるよ…
ここは、僕の住んでいた時代じゃないんだよね…」
「兄くん…」
「電話線とか白黒テレビとか変だと思ったんだ、
僕の時代では携帯電話とかカラーテレビが当たり前なのに…」
「そうだったんだ…」

千影はいつの間にか抱きしめている少年に身を任せてきた

「時代が進んだんだろうけど、
飯食っても夜寝てても何か物足りなかったよ」
「……」
「受験とか出世とかそんな事どうでもよくなった。
僕は千影と一緒ならどんな状況でも生きていけるよ」

千影はすでに涙で濡れた顔をゆっくりと上げた

「兄くん…本当にいいんだね…」
「うん、ずっとずっと…二人っきりでいよう」


「千影……」
「兄くん……」

少年と千影はお互いの唇をそっと近づけていった






数日後
少年と千影は家の整理をしていた

「本当かい?兄くん」
「うん、警部補さんの話だと、ここは来年山火事になるんだってさ」
「でも、引っ越したら歴史を変えることにならないかな…」
「大丈夫だよ、ダムにする予定だったから、
人が住んでいた形跡は見つからなかったって言ってたし」
「そうなんだ…」

少年はある水槽を持ち上げた

「このオレンジのカエルも絶滅したらしいからね。
図鑑にもろくに載ってないから探したよ」
「そうなんだね…、時代はやっぱり変わってるんだ」

千影がつぶやきながら作業を続けると

「千影こそいいの?
ここはお父さんの大事な研究所なんでしょ?」
「ああ、その事なら…もう必要ないんだ」
「必要ない?」

千影は一息ついて言った

「あの洞窟には時間軸の乱れが見つかったんだ。
だから父はここで時間移動について研究するつもりだったんだよ」
「時間軸の乱れ…」
「土砂崩れや雷の衝撃がシンクロして開いたようだけど、
兄くんが強引に時間軸をこじ開けたから洞窟が崩れて出来なくなったんだ」
「あ、あれのせいか…」

少年が口を開けてぼやいた

「だから新しい時間軸の異常ポイントを見つけない限り帰る事は出来ないよ…」
「その必要はないよ、今から千影と新天地に向かうんだから」

千影の発言に少年は有無を言わさず返した

「……そうだね」

千影は軽く微笑んだ





「千影…とりあえず、どこに行こうか?」



「どこでもいいよ………兄くんと一緒なら」


そう語る千影の顔は笑っていた

二人の頭上には満点の青空が広がっていた



Sひかり 2009年01月08日 (木) 00時47分(21)


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