オーレ地方から北の方角にある、名も無き地方に一つの犯罪が頻発する事で有名な街があった。
ケンカに略奪が絶えず、治安が粗悪なこの街の中で、彼は人ごみに紛れて歩いていた。
「…………」
彼はケンカする者たちを見ていた。
素手で殴り合う奴もいれば、ポケモンをケンカの道具にする奴も奴もいた。
この場所では、それが日常茶飯事だった。
たまに彼もケンカを売られたりした。
しかし、殴りかかる攻撃をかわして適当にあしらったり、ポケモンバトルの場合も返り討ちにしたりと、無傷でその場を切り抜けていた。
彼はラルガタワーの騒動が終わったあとこの街でずっと同じような生活を送っていた。
「(俺は……この先どうすればいいんだ……何をすればいい……?)」
誰も通らないような裏路地で壁にもたれて、ブラッキーを抱きかかえて、頭を撫でてやる。
傍から見るとブラッキー抱えた幼い少年に見える彼。
実際、冷静さと決断力をかねそろえた大人びた彼は、誰にも弱みを見せずに演じ続けていた。
しかし、本当の彼は今のように誰かを頼らないと生きていけない弱さを持っていたのかもしれない。
「ここに居たのか。元スナッチ団のハルキ」
「……っ」
少年……ハルキは誰かに声をかけられた。
横へ振り向いてみると一度見たことがある顔だと思い出して、抱いていたブラッキーを地面へと置いて構えた。
でも、掌をパーにしてその男はハルキを止めた。
「私は戦いに来たのではない」
「それなら、何をしに来た?」
相手の男を睨みつけるハルキ。
「実は君の能力を私は買いたいのだよ」
「……?」
「私はシャドーの人間だったが、実はある地方のある組織に入っているのだよ。シャドーは引き抜きの人材を探すために入っていたのだ」
「……お前は俺のことを仲間にしたいというのか?」
「簡単に言うというとそういうことだ」
「…………」
黙って頷くハルキをブラッキーが心配そうに見つめている。
「1週間後の正午にアイオポート。その場所、その時間に君が来た時、君を私たちの組織に歓迎しよう。いい返事待っているぞ」
そういうと、黙っているハルキを置いて赤い男は去っていったのだった。
第六話 時の笛
「はぁ……」
アゲトビレッジのとある2階の家の窓から突っ伏してため息をついている女の子が居た。
彼女の名前はカレン。オーレ地方では有名になりつつある人物だった。
その要因は一ヶ月前のラルガタワーのシャドー壊滅をはじめ、オーレ地方のスタジアムの大会を優勝したためだった。
ただ、それだけではなく、自身が捕まえたダークポケモンを全てスナッチし終えていた。
「はぁぁ……。ハルキ……どこ行っちゃったのかな……?」
もう一度、ため息をついて一ヶ月前に消えたハルキのことを考えていた。
むしろ、ダークポケモンのリライブやポケモンバトルをしている以外はずっとハルキのことを考えて上の空だった。
「カレン……暇か?」
「ん?」
祖父のローガンに呼ばれたカレンは空に浮かんでいる雲から目を外して、後ろを振り向いた。
「見ての通りよ。最近はやることがないわ。どの大会に出ても、私に匹敵する相手はいないし、買い物だってこの辺で売っている物は全て買っちゃったわ」
カレンはやれやれと首を横に振りながらつまらなさげに言った。
カレンの収入源はコロシアムを優勝する賞金だけではなかった。
ありとあらゆるものをフリーマーケットで売ったり、値切ったりして、お金を節約しつつ多くの物を買っていた。
だから、オーレ地方の店員のほとんどはカレン=ケチと言うイメージが、頭にこびりついているらしい。
「それならバトル山に行って見てはどうじゃ?」
「バトル山ねぇ……」
バトル山とはアゲトビレッジの東にそびえる活火山だ。
トレーナーが修行するにはもってこいの場所である。
しかし、下は溶岩とか、下が見えないたかーい場所とか、落ちたら危険だと思うんですけど(汗)
「一度行ってみてはどうじゃ?あそこならいろいろなトレーナーが修行をしているぞ!わしも若い頃は……」
「うん、行ってみるわ!」
そう言うと、カレンの準備は早かった。
ローガンの昔話を無視して、モンスターボールを腰に六つセットして、スクーターに乗り込んだ。
そして、一直線にバトル山へ向かって行った。
「到着っと♪」
カレンはスクーターを適当な場所に停めておいた。
そして、建物の受付場所に向かった時、たくさんの人たちがざわめいていた。
何やらなんかあったことをカレンは感じ取った。
「どうかしたんですか?」
“あっ!”
“カレンさん!”
“そうだ!カレンちゃんなら何とかできるに違いない!!”
オーレ地方の有名人の登場にいっそうその場はざわついた。
「……一体どうしたの?説明してちょうだい!」
そして、そこにいた人たちはカレンに事情を説明した。
「え!?怪しいトレーナーが1エリアのリーダーのセネティさんを襲っている?」
“そうなんだ。早くセネティさんを助けないといけないんだけど……その男が強いんだ!青い服で白い髪で目つきが鋭い奴なんだが……”
「(え?……まさか……?)」
カレンはある人物が思い浮かんだ。
けれども、頭を振り、その思い浮かんだ人物をかき消した。
「(そんなわけがあるはずない……) 分かりました。私がその男を止めてくるわ!」
“おぉ!お願いします!”
カレンは受付を通り、急いでその男の元へ向かった。
後ろではカレンコールがなっていたと言う。
「ほら、いいかげん出せ!」
「渡せるものか!これは大事な物なんだ!お前みたいな悪そうな奴になんか渡せるか!それにお前がそれを手にする権利はない!!」
「権利ならある。それはお前より強いと言うことだ。それ以外にどんな権利がある?」
「ぐっ……!」
青服で目つきが鋭い男が言うとおり、周りにはあっけなくやられてしまったセネティのポケモン達が散らばっていた。
「だからその笛を渡してもらう!俺はその笛に用があるんだ!」
そうして、ポケモンを出して力づくでもセネティから何かを手に入れようとしたその時だった。
後ろから女の声がした。
「ハルキぃ!」
その男は振り返って彼女を見た。
「…………。お前は…………」
「……!! 私はカレンよ!あんたどういうつもり!?」
「どういうつもりだって?それはこの男があるものを渡してくれないから……」
「私が聞いていることはそんな事じゃないわ!何であんたは“ハルキの変装をしてるのか?”っていうのを聞いているのよ!!」
「……! ちっ!何だ、ばれていたのか。完璧な変装だったのによ!」
「顔が違うわよ!いくら目つきが鋭いといってもそんなに悪人面じゃかったわ!!」
と、カレンは言い切った。
「ちっ!!ギャラドス!ライボルト!」
「ブーバー、メガニウム!!」
ライボルトの『雨乞い』をブーバーの『にほんばれ』で相殺し、ギャラドスの『ハイドロポンプ』をメガニウムの『光の壁』で上手く防御してから、それぞれソーラービーム、火炎放射で一気にケリをつけた。
だが負けずに男もヘルガーとミロカロスを投入してヘルガーのパワーアップした炎でメガニウムを強襲した。
光の壁でどうにかダメージを抑えたが、メガニウムの体力はギリギリだった。
一方、ブーバーは最大攻撃の『大文字』でミロカロスに少しでもダメージを与えようとするが、『ミラーコート』で弾き返され、ブーバーは倒された。
しかし、プラスルに代えて、メガニウムはサポートのついたソーラービームでミラーコートを使う間もなくミロカロスを気絶させた。
その一方で、ヘルガーはメガニウムを倒したが。
「ちっ!トゲチック!」
男はそのポケモンが最後だった。
「このポケモンは!」
カレンはこのポケモンが瞬時にダークポケモンだと感じ取った。
「(どうして、ダークポケモンを?すべてスナッチしたはずなのに!!)」
「ほら行け!トゲチック!」
だが、トゲチックは言うことを聞かなかった。
逆にあろうことか男に向かって攻撃をし始めた。
「ぐっ!『体当たり』か!あっちに向かって攻撃しやがれ!言うことを聞け!」
「……プラスル、ヘルガーにとどめよ!『10万ボルト』!!」
男はもうトゲチックのことに気を取られていて、バトルのほうは忘れていた。
ヘルガーはトレーナーの指示を待っている間にプラスルの攻撃を受けて戦闘不能になった。
一方トゲチックは、『指を振る』を使い、なんと『破壊光線』を繰り出した。
「なにぃ!ぐわぁ!!」
しかし、標的はあくまで男に。
男は爆発とともに空へと舞い上がって遙か彼方へと飛んで行ってしまった。
そしてトゲチックが一匹残された。
「…………」
カレンは相手のトレーナーの不甲斐なさに茫然としたが、気を取り直してトゲチックをスナッチした。
「大丈夫ですか?」
カレンはプラスルを戻してセネティの状態に聞いた。
「あ、うん。大丈夫だよ。やっぱり君は噂どおりに強いね。どうやら君ならこれを渡しても良さそうだな。…………って、あれ??」
セネティは内ポケットから何かを取り出そうとしたが、カレンの後ろに降り立った人を見て身を固めた。
「どうしたんです?」
カレンはふと後ろを振り向いた。するとそこには先ほどの男とまったく同じ格好をした男が立っていた。
「さ、さっきの男!!」
セネティは吹き飛ばされたはずの男がもう戻って来たと思い驚いた。だが、カレンの反応は違った。
「は、ハルキ!」
そうして、カレンはハルキに近づこうとした。
だが、ハルキはポケモンを繰り出し襲い掛かってきた。
カレンの目の前で鋭い爪が振り下ろされ、カレンは身をかためた。
カレンの頬からツーと血が滲み出る。
「え……?何でなの……?どうしたの……ハルキ?」
カレンはいきなり攻撃するハルキに対して怒るのではなく困惑していた。
「俺と戦え」
ハルキはそう一言言った。
そして、またボーマンダで襲い掛かってきた。
「なんでよ!メタグロス!!」
カレンはジャキラ戦でスナッチしたメタグロスを投入した。
メタグロスとボーマンダの戦いは凄まじい物となった。
ドラゴンクローとコメットパンチの打ち合いは互角に続いた。
「ハルキ!今までどこに行っていたのよ!私、ラルガタワーであんたが突然消えてからずっと気にしていたんだから!」
「…………」
「それとさっきの奇襲は何よ!勝負するなら、正々堂々と正面から来なさいよ!」
「ボーマンダ!」
カレンのお喋りは無視して、ハルキはずっとバトルの動きだけを見ていた。
そして、メタグロスの動きがワンパターンなのをつきとめた。
次にくる所を狙い、ボーマンダは火炎放射、破壊光線と連続で攻撃を放ち、メタグロスを攻略した。
「あっ!!」
「喋ってる余裕があるのなら本気で来い」
「ムッ!!」
カレンは今の一言で頭に来た。
「私が話しているって言うのに!何よそのセリフ!!アリアドス!カメール!」
「ようやく本気で来る気になったか?エーフィ、ムウマ」
ハルキはボーマンダを戻して、代わりに2匹を出した。
「アリアドス、エーフィに『シグナルビーム』!カメール、ムウマに『水鉄砲』!!」
「ワンパターンだな」
ハルキは指示を出さなかった。
すると勝手にエーフィは攻撃をかわし、ムウマは攻撃を受けながらもカメールに向かって行った。
「ムウマ、『シャドーボール』!」
カメールは直撃を受けた。
「それなら、アリアドス、『影分身』から『シグナルビーム』!エーフィを撹乱して!」
影分身でエーフィを囲い込み、シグナルビームがエーフィに直撃した。だが、それは消滅してしまう。
「(……!『身代わり』!?) アリアドス、『高速移動』で回避!」
瞬時にエーフィの攻撃を予測したカレンだったが、エーフィは攻撃をしてこなかった。
それよりも、エーフィはアリアドスを凌ぐスピードでアリアドスを翻弄していた。
「何これ!?」
「『サイコキネシス』!」
アリアドスはあっけなく吹っ飛ばされてダウンした。
「エーフィの『自己暗示』でアリアドスの高速移動の能力をコピーしただけだ」
「くっ!プラスル!『手助け』!カメール、『水鉄砲』!」
「ムウマ、『痛み分け』!エーフィ、『サイケ光線』!」
無防備になったプラスルにムウマが触れて体力を交換されてしまった。
ムウマはいつの間にか体力が消耗していて、プラスルの体力がかなり減らされた。
一方、エーフィのサイケ光線とカメールの水鉄砲は互角だった。
いや、徐々にエーフィのほうが押していった。
「あんたのカメールはレベルに達しているのに進化させていないのか?」
「私のカメールはパワーよりもスピードを中心に育てているのよ!」
「スピードが強そうには見えないな」
その間にもカメールは次第に弱っていき、カメールの水鉄砲は弱まっていった。
「(どういうこと?) まさか、ムウマが『呪い』を!?」
「今頃気づいても遅い。エーフィ、最大パワー」
そう、カメールはムウマの呪いを受けていた。
それにカレンは気づかなかった。
そして、エーフィのサイケ光線が直撃しカレンもカメールも吹っ飛んだ。
「ぐっ……」
「この程度か」
「何ですって?」
「まだあんたはポケモンの力を引き出せていない。最近オーレ地方で噂になって強くなったというからバトルをしてみたくなったが……とんだ拍子抜けだったな」
「もう一度言ってみなさいよ!!……イタッ!」
カレンは今の衝撃で軽く腰を打っていた。
「その程度の実力じゃ、ポケモンたちが可哀想だ」
ハルキはあろうことか左手にボールを構えて、カレンのプラスルに投げつけた。
プラスルは体力がギリギリだった為抵抗ができなかった。
「あっ!何するのよ!」
「返してほしかったら、今度俺に会うときまでに強くなって、俺から取り戻すんだな」
「ぐっ……」
ハルキはボーマンダを繰り出して、その場を去っていった。
カレンは唇を噛み締めた。
自分の未熟さのせいで、プラスルが奪われてしまったことを痛感したのだった。
ハルキとのバトルのあと、カレンはバトル山の休憩所にいた。
落ち込むカレンにセネティが近寄る。
「カレンさん」
「あ……なんですか?」
慌てて明るく振舞うカレン。
「さっき渡しそびれたのですが、これを……」
そう言って、セネティは笛を渡した。
「これは?」
「“時の笛”です。使うとセレビィが現れて、ポケモンたちを癒してくれるんです。一回だけですけど」
「そんなに貴重な物もらっていいの?」
「さっきの男みたいに奪いに来る奴に渡すくらいなら、カレンさんに使ってもらったほうがいいです」
「そう……。それならありがたく頂戴するわ!」
カレンはその笛を大事にしまった。
「ところでプラスルが盗られちゃったみたいですけど……」
「平気よ!それよりも私はもっと強くなるわ!あいつに勝てるようにね!」
そうしてカレンは新たな目標を決めたその時だった。PD☆Aに一通のメールが届いた。
カレンは急いでPD☆Aを開いてみた。それはハルキからのメールだった。
いまさら何よ……と思いつつ、そのメールを読んだ。
いい忘れたことがある。
あの俺の偽者が持っていたダークトゲチックが最後のダークポケモンだったようだ。
あのデータを編集して、ラルガタワーでの戦いが終わった後に発覚したダークポケモンだ。
だからおそらくこれ以降オーレ地方でダークポケモンが出ることはないだろう。
しかし、あんたが知っている通り、シャドーの“あの2人”は警察に捕まっていない。だから、やはり楽観はできないがな。
あと、俺は自分が強化したいメンバー以外はスナッチしたポケモンをまったくリライブしていない。
だから、あんたがやってくれ。パスワードを下に示しておいたからパソコンから引き出してくれ。
俺はあんたが俺と再び戦う日を待っている。
byハルキ
「(……ダークポケモンのリライブがまだか……) そうだ!」
カレンはふと何かを思いついた。
そして、即実行するのがカレンだった。
急いでスクーターに乗って、アゲトビレッジへと戻った。
それからポケモンセンターに行って、ハルキのパソコンからダークポケモンたちを引き出した。
やってきたのはアゲトビレッジの聖なる祠だった。
「ここで使えばいいのね……」
両手にあるたくさんのボールを放り投げて、ポケモン達を一気に出した。
普通の人から見れば、なんら異常のないポケモンたちに見えるが、カレンの目はダークポケモンを見極めることが出来る。
彼女の目には、黒いオーラをまとい、狂気に溢れたポケモン達が数十匹ほどいた。
「こんなにたくさんのダークポケモンをいっぺんに出すのは初めて……なんか恐い……。早くリライブしたほうが良さそうね」
そうして、カレンは懐からセネティにもらった時の笛を取り出して、優しく吹いた。
不思議な音が響き渡り、聖なる森が変化し始めた。
やがて、その音が止み、森が元に戻ると、そこに一匹のポケモンが姿を現した。
「ビィー」
「あれが……」
そう、そのポケモンこそ、幻のポケモンといわれるセレビィであった。
セレビィはゆっくりと祠の周りを飛びまわり始めた。
心地のよい音色を響かせて、全てのポケモン達を癒していった。
それと共に、カレンの見えていた黒いオーラが徐々に薄れていくのがはっきりと見えていた。
「すごい……。さすが幻のポケモンっていわれているだけあるわね!」
カレンはセレビィを見た。
しかし、そのセレビィに違和感を感じた。
ただ飛びまわるにしても、少しふらつきがあるように見えた。
それでも、セレビイはすべてのダークポケモンの心を解放させた。
役目を終えたセレビィは姿を消そうとした。
しかし、セレビィはふらふらと力を失い、やがて落ちていった。
「セレビィ!!」
カレンは急いでオオスバメに掴まって、セレビィをキャッチした。
「ひどい傷……いったい何があったって言うの……?」
カレンはとりあえず地面に降りて、セレビィを改めて見た。
体は傷だらけで、体力もほとんどないようだった。
「とりあえず回復させないといけないわね……」
応急処置をしようと、オオスバメにセレビィの見張りを頼んで、自分の部屋へ回復薬を取りに行った。
カレンの部屋はローガンの家の2階にある。カレンは部屋に入ると自分のハンドバックを探した。
彼女は遠出する時、いつもそれに道具を入れて出かけていた。
彼女の部屋は大きなぬいぐるみや絨毯、クッションなど、女の子らしい小物が多数だった。
よって、なかなかハンドバックを探し出すのは時間がかかった。
さらに、部屋がかなり散らかって後で片付けをするハメになったのはまた別の話だが、カレンは急いでセレビィの元へ戻っていった。
「ちょっと染みるけど我慢してね……」
かるく傷薬を吹きかけた。
セレビィは最初痛そうな顔をして抵抗したが、やがて落ち着いていった。
「セレビィ、口を開けて!これを……」
そうして、カレンが今度手にしたのはモモンの実だった。
カレンはじっとセレビィの目を見た。
そして、セレビィもカレンを見つめ返した。
セレビィはカレンが敵意のないものとみて、カレンが手にしたモモンの実を口にした。
セレビィはおいしそうな表情をして、カレンにもう一つおねだりをした。
「よかった。ひどいケガにならなくて……でも一日休まないと駄目ね」
カレンはモモンの実をもう一つセレビィに与えると子守歌を歌った。
それは、カレンが幼い頃、母が歌ってくれた歌でもあった。
あ〜る〜き〜つ〜づ〜けて
ど〜こ〜ま〜で〜ゆ〜くの?
かぜにた〜ずねられて
た〜ち〜どまる……
穏やかな口調で口ずさんでいるとセレビィはいつの間にか眠っていた。
カレンも横になって一緒に眠ったのだった。
「ビィ〜♪」
「う〜ん……?」
翌日カレンは誰かの声によって目を覚ました。
いや、その声は瞬時にしてわかった。セレビィだ。
「あっ!セレビィ!元気になったのね!」
「ビィ!!」
カレンもうれしくなってはしゃいだ。
ふとセレビィは壊れた時の笛の元に近寄り、その残骸を手のひらに包み込んだ。
すると不思議なことに時の笛は元通りになってしまった。
そして、その時の笛をカレンに手渡しした。
「え?私にくれるの?」
「ビィ〜!」
セレビィは頷いた。
そして、それを口に無理やり押し付けた。
「わかったわ!吹いてほしいのね!」
「ビィ〜ビィ〜♪」
2度セレビィは頷いた。
セレビィにせがまれて、カレンは時の笛を吹き始めた。
それは昨日鳴らしたのよりも格別に素晴らしい音色だった。
その音色は自然の営みや癒し全ての要素が盛り込まれて聞く者全てを癒してくれるとカレンは思った。
セレビィはその音色にあわせて飛んでいた。
そんな美しい音色が朝の間に渡ってずっと響き続けていたのだった。
気づくともう太陽が南中に達する頃だった。
時の笛は吹き終えても壊れていなかった。
「ビィ〜ビィ〜♪」
「わかった!また一緒に笛を楽しもうってことね?」
するとカレンの解釈は違うと言う風にセレビィは首を横に振った。
セレビィはファイティングポーズをとって、拳を振り回した。
「もしかして、困ったときはいつでも呼べってこと?」
「ビィ〜!」
今度は当たっていたようだ。
そのやりとりの後、セレビィは再び、時渡りでどこかの時代へ飛んでいってしまった。
「行っちゃったか……」
カレンはセレビィと過ごした余韻を自分の胸の中にしまっているのであった。
壊れない時の笛を見ながら……。
―――同時刻、アイオポート。
「お前がここに来たということは、私たちの仲間に入ると言うことだな?」
「…………」
ハルキは男の問いに答えず、船へと乗り込んだ。
「また会ったな」
「……! お前は……ボルグ?」
船の中に居たのは、ダークポケモン研究所で一度戦ったボルグだった。
「……そうか。二人してシャドーから俺をお前たちの組織に引き抜こうとしていたんだな?」
「違うな」
男はばっさりと言う。
「ボルグも引き抜いた一人だ。奴の科学力はシャドー随一だからな」
「…………」
「私の所属している組織はたまたまシャドーと協力関係にあった。しかし、シャドーが壊滅した今、シャドーで余った人員は引き抜くのが妥当だとは思わないか?」
「……興味ないな」
ハルキはそう言って、甲板の方へ行ってしまった。
「あいつは相変わらずですね。ジャキラ様」
「そのようだ。だが、あいつのスナッチ能力とバトルスキルは必ずロケット団に有益をもたらす。必ずな」
ハルキは黙ってモンスターボールを見つめていた。
それはカレンからスナッチしたプラスルだ。
スナッチ団には俺のほしいものは見つからなかった。
シャドーを倒してもなにも見つからなかった。
俺は一体何を求めているんだ?
ひたすらに強さを求めて戦ってきたけどそれは何のためなんだ?
そして、俺はロケット団に入ろうとしている……
“あの女”が俺を倒してくれればよかったのに……
“あの女”なら俺を止めてくれると信じていたのに……
……やはり俺は自分で自分の居場所を見つけるしかないのか……
船はゆっくりとゆっくりとハルキたちを乗せて、オーレ地方を離れて行ったのだった。
つづく
アトガキ
カレンvsハルキのお話です。
今回の話はカレン&ハルキの両サイドからお送りいたしました。
実を言うと、SSオリジナルの話は大体この第六話で終わりになります。
次の話から、WWSやDOCに関わる話とか出てきますので(ロケット団が出ている時点でもう関わっているけど)そっちの方も読むとわかりやすくなるでしょう。
そして、この話のリメイクされる前のタイトルは“2人のスナッチャー”で現在は“スナッチャーズ”になっています。
その理由は……最後の話でわかるかも?(ェ)
次回は急速展開!?