Scout Of Lost Memories
メモリー7
真実の一片
「…! この光景は」
ユクシーの発した光の中で、タクロウはとある光景を目にしていた。
その光景というのは、普段夢の中で度々目にしていたのと同じもの。
言うまでも無く、タクロウの記憶そのものだという証明だった。
光が消え、タクロウはその場に佇んでいた。
雰囲気も以前と比べて、何処と無く違っている感じだった。
「タクロウ、どうしたんだ?」
何の反応も示さないタクロウを見て、不安になったカズキ。
呼び掛けてから数秒の間を挟んで、反応を見せた。
「カズキ君…。うん、僕は大丈夫」
”やはり…。貴方はあの時の人間だったのですね”
「…そうみたいだね。だけど、そうなるとまだ解らない事が出てくるんだ。何で僕は、遥かな昔に君と出会った後、変わらない姿で現代に存在しているんだろう?」
「おい、タクロウ。ユクシーの力で、記憶が全部戻ったんじゃなかったのか?」
「…ううん。ユクシーから流れ込んできた記憶は確かに僕のものだけど、はっきりと思い出せたのはごく僅かな量だったんだ。後は切欠さえあれば、少しずつ思い出せてくると思う」
「えーっと、つまり…。どういう事だ?」
「これからこの広大な世界を巡って、僕の記憶の欠片を探す旅が始まるって事だよ」
「おー、成る程」
「それと、ユクシーのお陰でもう一つ思い出したことがあるんだ。ゼバルとの戦いの時、僕が発揮した不思議な力のことだけど」
「ああ、あれの事か」
「あれは、僕だけが元々備え持っていた力の一つで、『存在を抹消されない』という力だったみたいなんだ」
「…つまり?」
「あの時、『フィルのエスパー攻撃』という存在に対して、僕の力が働いたんだよ。きっと」
「普通のポケモンバトルでも、お互いの技同士の激突で打ち消しあうのはよくあるが…。要は、お前は攻撃が打ち消されること自体が無いって事か?」
「うん。とりあえず今の段階で解るのは、これ位だね」
”あまり役に立てなくて、申し訳ありません。ですが、ゼバルとリノアが目覚めた以上、『彼の存在』もまた、覚醒の時を待っていることでしょう”
「彼の存在?」
”ゼバル、リノアの上に立つ存在です。その正体、素性などは一切不明の全く未知の存在。少なくとも、ゼバル達と同様、人ならざる者である事だけは確かです”
「あの2人に、更に上がいるっていうのか!?」
”彼らの目的などは不明ですが、危険な存在である事に違いはありません。もしも彼らがこの世界に害をなそうというのなら、恐らくそれを阻止するのは不可能に近いでしょう”
「そんなに強ぇ奴らなのか!?」
驚きを見せるカズキの発言に対して、ユクシーは首を横に振りつつ話を続ける。
”強い弱いと言う次元の話ではないのです。彼の存在が目覚めたら、それ即ちこの世界の終焉と理解してもらった方が良いでしょう”
「その前に、奴らの事を詳しく知る必要があるって事か? 大昔に一度この世界に現れたんなら、何処かしらに伝承とかが残ってるかもしれねぇよな」
「…そうだね。その過程で僕の記憶が少しずつ戻っていって、あいつらの事を思い出せるかもしれない」
「そうだな。今ここで色々考えてたって何も始まらねえよな。んじゃ、早速出発しようぜ」
「…何処に?」
「え? あ、それは…。ど、何処かだよ(爆)」
「…はぁ」
相変わらずの適当発言に、思わず溜息を零すタクロウなのであった。
その後、彼らはユクシーの力によって湖の畔まで戻ってくることが出来た。
”それでは、今後の道中もお気をつけ下さい。またゼバル達が襲ってこないという保障も無いのですから”
「うん、解ってる。それじゃあ」
最後にユクシーに挨拶を済ませると、2人は湖を後にする。
目的地が定まっていない、2人の長い旅が始まるのだった。
”それにしても、彼らが訪れる前に感じたあのイメージは、一体…”
「役目は、無事に果たしてくれたようね。ユクシー」
”!”
ふと、ユクシーの背後から人の声。
咄嗟に振り向くと、そこには湖の水上に立つ1人の女性の姿。
橙色の髪の毛に、やや尖がった形の耳。
その姿に、ユクシーは動揺した反応を見せる。
”貴女は……、リノア! まさか、貴女が!?”
「流石はユクシー。察しがいいわね」
”何故貴女が、敵対するタクロウを助けるような行動をするのです?”
「それを、貴方に話す意味があるのかしら?」
”…”
「心配はしなくていいわ。今は、彼らに害を為すつもりは無いわ。ゼバルはどうだかしらないけれど。彼は私が見張っていなければ、この前のようにまた勝手な行動を起こしそうだから」
”今は…ですか。では何れ、またあの時と同じことを繰り返すつもりなのですね”
「今はまだ無理よ。だってあの方は完全に目覚めていないんですから」
”『虚無の遣い』バール…。あの者は危険すぎる…。我々からしても、底の知れない力を感じました”
「深く考える必要は無いのです。運命の時が来れば、全ては明らかになるのですから」
”……”
意味深な言葉を残し、その場から忽然と姿を消したリノア。
1人その場に残されたユクシーは、深く考え込んでいくのだった。
続く