[60] 武道Xシフ その1 |
- zaki - 2009年01月20日 (火) 00時08分
悴んだ指先で、甘くはじくように触れた膚はピクリと敏感に反応する。小さく息をのんで恨みがましく僕を見つめる、その表情は眠れる嗜虐心を揺り起こす。
「ゃめ…て、くだ…さ」
乱れた白いYシャツを更に乱すようにゆっくりまくり上げると 銀の鎖のついた鍵がじゃらりと揺れた 「冷たっ…」
その鍵を手のひらで握り込むと慌てたように起き上がる。仕事一筋で浮いた色話ひとつ無い膚が怒りで戦慄く。
「鍵に…さわるなッ…」
目の前に金属片を掲げる
「この、鍵でさぁ…何人の男の心の鍵、開けてきたの? 兄 さ ん」
見開かれた目の絶望は甘い毒で。
「それとも、お前が此処でアイツの鍵を飲み込んだの?」
つぷりと小さな音を立てて中指を差し込むと、歪めた白い表情(カオ)から涙が零れた。
「ひィッ…ぁ!ぁあうッ…ゃ」
ストイックな横顔に疾しい紅色をさして唇から漏れる息遣いは自分にとってまるで媚薬のようで。
同じ顔をしているのに。武道家な自分とシーフの兄。
俺たち双子は、6歳のとき、アルパスの盗賊団の鍵職人グンヤに拾われた。
ブリッジヘッドシーフ組合は、洞窟を探検し危険要素を廃除するという意味でこの国でみとめられている唯一のシーフ組合で、彼らは危険な洞窟調査やスラム街の治安維持に勤めている。
手先が器用だった兄は、このギルドで鍵職人の見習いとなった。
俺は、そんな兄を尻目に喧嘩ばかりする毎日を送っていた。
『俺は兄貴みたいな泥棒なんかに、なりたくねぇんだッ』
12歳の時、俺は、生まれもっての喧嘩好きがたたって鉱山町ハノブで主催された格闘大会にでて、そこで現在師匠と出会いそのまま弟子入りした
15年ぶりに会った兄は、盗賊団専属の鍵型職人の親方となっていた。首に十字架のついた美しいフォルムの鎖をかけて。
兄は金属装飾技術にも長けており、アウグスタ大聖堂で一番大きな飾鐘を作った。その出来映えに若い兄を民衆は褒め称えた。 ハノブでも喧嘩ばかりして生きてきた俺とはまったく違う…ストイックな空気を纏い、彼は隣にひとりの僧侶を隣に添わせてちいさく挨拶をして、少女のようにはにかんだ。
町を歩けば同じ顔の俺に民衆は手を合わせた。俺は兄貴じゃないのに。
新聞に、兄の記事が載っていた。武道家になるとアルパスを飛び出していった弟に一目遭いたくて新聞のインタビューに応じたと書いてあった。
だから…俺は兄に逢おうと思ったし、逢って安心させてやろうと思った。
そうして行った大聖堂の裏手にある兄の家…鍵職人の癖に鍵は開けっ放しで。昔から何処かずぼらなところがある兄だったと、懐かしい気持ちになり、その奥の部屋に行こうとした時、俺はみてしまった。
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