[120] 【BIS天使×男悪魔】身勝手な君・前 |
- いづる - 2009年12月01日 (火) 23時44分
乾いた空気が肌を撫ぜる。迫力に満ちた怒号が聞こえる。 ギルド戦の殺伐とした空気が、悪魔は好きだ。
整った顔にニヤッと笑みを浮かべた。敵の群れに飛び込んでいく。ギルメンの止める声がしたが、そんなのは知ったことか。
アラクノをオンに。鞭をしならせる。初々しい敵のアーチャーが反射で矢を放ち、それにほくそ笑んだその時―――
「コル!」
……冗談だろ。 背後で叫ぶ声がした。振り返ると本隊から随分離れていた。
待てよ、こんなタイミングで。
口を開いた瞬間にはもう矢は放たれ、悪魔は仲間の元へと呼び戻されていた。悪魔の肩を矢が掠る。
頼む!
発動するな、とこのときばかりは神にも祈った。 しかし、自信家の悪魔が普段頼みの綱にするスキルである。高めたスキルレベルは、やはり彼を裏切らなかった。
「きゃーっ!」 「おい」 「ちょっと!」
そこかしこで悲鳴と罵声が上がり、非難の目が一斉に集中する。 羞恥と屈辱でカッと頬が煮え立ち、悪魔はわなわなと身を震わせた。
だって上手くいくはずだったし別に悪気があったわけじゃなしそもそもあんなタイミングでコルするから。
悪魔は憮然として黙り込み、味方は混乱し、そして相手の天使はこの機を見逃してくれるほど優しくは無かった。
降り注ぐ氷雨の中で、悪魔はギルド戦終了の声を聞いた。
* *
「………」
その日の反省会は最高に険悪な雰囲気だった。 誰もが今日の結果を不満に思っていることは明白で、そして敗因がどこにあったと考えているかは目線で分かった。
「………あの」
重苦しい沈黙を破って声を上げたのは、ピンクのドレスの姫だ。
「副さん最初に言ってましたよね、”ここは知識多いから気をつけて”って」
副マスの忠告をきかなかった事が我慢ならないといった様子で姫は続けた。 ああ、そう言えばこの姫はその副マスと懇意なのだ。
「…だから、何」
どうでもいい。 そんな風に返した瞬間、姫の顔が怒りで赤く染まった。
「聞いてなかったんッ…!」
噛み付きかけた姫が急に言葉を詰まらせた。 ぐっと言葉を堪えたままどこか別の何かへ意識を傾けるような仕草。落ち着いた副マスの目と怒りに燃える姫の目線が交わり、やがて姫の方が目を逸らす。怒りの矛先を失ったように。
空気が再びしらけたそのタイミングで、それまで黙っていたビショップが腰を上げた。 ギルドマスターだ。視線が集まる。 穏やかな人柄で知られるビショップは、この状況においてもやはり温厚な笑みを浮かべた。
「まだ慣れてないみたいだし、仕方ないよ。悪魔さんには、僕の方から後でまた話しておくから」
ね、と静かに念押しされて、そこから更に言い募れるギルメンはこのギルドにいない。 ギルマスがそう言うなら、と空気の流れが変わった。
「それに、今日は僕のコルのタイミングも悪かったし。ごめんね」
このリーダーシップ。良い人だ、と言われるこのビショップが悪魔は何故だか苦手で。 ふくれっ面で目を逸らす。あーあ、早く反省会終わらないかな。そればかり考えていた。
* *
まばらに人が散っていき、最後に残ったあの姫と一瞬にらみ合う。おかんむりの少女は、なだめるように肩を叩かれながら副マスと出て行く。機嫌を直しに、これから二人でポタ出しに行くらしい。
けっ、どーせ俺の文句言い合うんだろ。
友達の少ない悪魔がやや僻んだ感想を抱いたとき、
「さて」
落ち着いた、あの穏やかな声が背中で聞こえた。
--------------------------- お、お久しぶりです。いづるです。 某SNSの赤石サークルを覗きつつ、 「縛る」だの「エロいディスペ」だのの表現に即発され BIS萌え不足も手伝って戻ってきてしまいました。
続きますー!
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