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音速針鼠で801スレ専用小説置き場

シャソニ(甘暗) (26)
日時:2009年04月15日 (水) 01時08分
名前:名無し

 明かりを落とした暗い部屋は、ふたり分の呼気がよく染んだ。さして広くはない部屋の中、飾り気もなく一色だけの壁紙は夜に沈んだまま、かすかな音を反響させることもなく吸い取っていく。ここのところずっと続いていた、息を詰めて過ごす夜とは異なる穏やかさが、この部屋の夜には留まっていた。任務終了後に帰投し、自室のドアを開けてから約6時間経って、シャドウは初めて帰宅を強く意識する。
 狂乱にも似た熱が去って、触れた背中は睡眠中の、一定の体温で落ち着いていた。十分に温かいだろうそれも、シャドウの平熱と比べればやや低い。初めてシャドウの手が手袋越しではなく、直に触れた時、ソニックは大仰な仕草で驚きを示し、その後に口角を持ち上げて「そう興奮するなよ」とからかうことも忘れなかった。これが平熱だとシャドウが返しても、本当に余裕がなくなるまでソニックの口元から笑みは消えなかったのを思い出す。
 シャドウの身体はつまり、一個の永久機関のようなものだ。外的な要因がなくともこの中で生成と循環と消滅を繰り返し、完結している。体温が高いのはその循環と代謝の表れだ。ソニックはこんな仕組みなど知らないだろうし、別に知ってもらわずとも良かった。彼に触れる時興奮するのは、実際そう間違ってはいない。
 静かだ。普段の減らず口を閉じて寝入っているソニックと、シャドウ自身の呼吸だけが染みる部屋は、何か四角い箱型をした生き物のようだった。背中のトゲの間に耳をつけ、ソニックの穏やかな鼓動を聞いていると、尚更その感は増した。うつ伏せて眠るその身体に、シャドウが覆い被さるようにしていても、ソニックは重そうな反応さえ返さない。両手で掴んだ枕に顔を埋め、深い寝息を立てるばかりだ。文字通り精も根も尽き果てた様子で、時折、鼻と耳の先だけがぴくぴく動く。
 シャドウ自身はこうしてソニックの鼓動に耳を傾けながら、浅くとろりとしたまどろみの中を行きつ戻りつすることを繰り返していた。ふたりして動作を投げ出してから、他に何もしていないのでシーツは乱れっぱなしだ。何の始末もつけずに呑気なものだ、と詰る思考さえどこか、麻痺を伴って甘くやわらかい。同じ夜というくくりのはずなのに、些細な物音に警戒を投げ、ひりひりと焼けつくような緊張の中で過ごした昨夜までとあまりに違い過ぎる。しかしただ穏やかなだけのこの夜が、嫌いではなかった。
 嫌いではないから、時折、困る。
 更に鼓動に近付こうとするように耳を押し付けると、背中を覆う毛並みが頬をくすぐった。決してやわらかいわけではないが、汗の乾いた毛筋はさらりとしていて心地良い。そのまま背中のトゲの根元をさすったり先へ向けて指を滑らせたりしていると、ソニックはむずがるように頭を動かした。枕から離れた右手が、大儀そうにひらひら揺れる。
「んん〜? シャドウ……?」
 ソニックの声は殆ど潰れて、どうしようもなく寝惚けていた。シャドウが少し含み笑うだけで震動が伝わるのか、トゲごと背中が逃げを打つ。軽く押さえつけると、また動かなくなった。
「Give me a break, もう無理だぜ」
「僕が無理強いしたような言い草はやめてくれ」
 いつものことで、先にその気になったのはソニックの方だ。押し倒す勢いでほどこされるキスに、シャドウは応えたに過ぎない。今度は、目だけでこちらを振り返ったソニックが喉声で笑った。
「でも、お前も十分楽しんだだろ?」
 否定はせず、背中右側のトゲに口付ける。そのままやわく食むように撫でれば、ソニックは小さく吐息をこぼした。望みどおりこれ以上進むつもりはないが、こんなに簡単に火がつくようではソニックも大変だろう。大変なことになった原因の半分は自分にあると自覚はしている。ただ、シャドウは強いて突き放して考えた。
 ふらつく右手がシャドウを探しているようだったので、顔を寄せて応えてやる。頭のトゲに添えられた手に引き寄せられ、唇に唇を重ねた。合わせを舐められたので薄く口を開くと、外へ誘い出そうとするようにすぐさまソニックの舌が絡んできた。
 遊ぶように外で絡め合う。外気に触れる部分を互いの舌の温度で埋め、時折、誘われるままソニックの口内に押し入り、逆に誘いこんでは歯先に彼の舌を引っかけた。どちらの喉にも送られることのなかった唾液が顎を伝うのを、被毛に浸みる前に舐めとる。ソニックが吐息を呑んで、喉を震わせた。
「――もうしないんじゃなかったのか?」
 息継ぎに少し距離を取った拍子に尋ねる。上がる息の下、てのひらを当てたソニックの素肌の胸はシャドウの高い体温と馴染み、境が曖昧なぐらいになっていた。シャドウが口角を上げると、鏡に映し込んだようにソニックもにやりと笑う。
「そっちがどうしてもツライって言うなら、考えてやらないでもないぜ」
 誰が、とシャドウが口にし終える前に、ソニックの唇が噛みついてきた。けれど最初の勢いもすぐ消え、今度は重ね擦り合わせ、ついばむだけに終始する。今はこれで十分なのは、シャドウも同じだ。帰宅して、当たり前のように部屋に入り込んでいたソニックを見つけ、食事もそこそこに押し倒されるようにして彼を抱き始めてから、こうして互いに落ち着くまで、ずっと身体を重ねていた。飽食の気配はなくとも、足りないぐらいでちょうどいい。
 唇を離す。ソニックが改めて寝返りを打ち、向き合う姿勢になった。伸ばされる両腕をそのままにして、抱き寄せられる。体温の問題ではなく、温かいと思った。彼の鼓動と被毛の下の皮膚、更にその下を流れる血の巡りを感じる。生きている。
 いつか、うしなわねばならない体温で、去っていく夜だ。
 こうして唐突に“先”を思うことは、これが初めてではない。戦場にいるよりずっと、今のような穏やかな時にこそ、空白に忍び込まれ考えずにおれなくなる。余裕があるせいだ。
 喪失が今この時のように穏やかである保障など、どこにもない。できるのは、穏やかであるよう願うこととそう努めることだけだ。ソニックの性質から言えば、ある日突然、彼の姿が視界から奪われてもおかしくはない。彼は冒険を愛している。その裏の、影のように切り離せない危険をも。
 シャドウはこの部屋から彼がうしなわれた光景を想像してみようとして、いつも失敗する。マリアが奪われた瞬間と重ねてみても、失敗する。ふたりの喪失はそれぞれが違う意味を持つためだ。ソニックの喪失はきっと、シャドウに大きな穴をもうひとつ空ける。永遠に塞がれることのない、マリアが空けた大穴の隣かどこかに。そしてシャドウはふたりの墓穴を身の内に抱え、生きていくのだろう。生きていかなければならない。
「……君が僕の前から、永遠に消えねばならない時」
 また眠りかけていたらしいソニックは、曖昧な生返事をした。瞼の下から覗く緑の瞳が、宵闇には濃く暗い。彼がこの部屋からうしなわれる日。ふたり分の呼気を吸って生きているかのような部屋は、なずにはおれないだろう。ここから命が消える。ひとりでは足りない。

「百年待っていてくれと、言ってくれないか」

 寝霞んでいたソニックの目が、俄かに覚めたようにはっきりとした。次いで、鼻先に力を寄せるようにくしゃりと表情が渋面を作る。
「黙れ」
 何が琴線に触れたのか、とにかく、ソニックが怒ったことは確かだった。これほど怒りをあらわにする彼は滅多に見ない。思わず投げつけたというような赤い声をシャドウが受け取りかねていると、ソニックは怒りを奥に収めて、バツの悪そうな様子になった。
「お前とそんな話、したくない」
 ソニックの口から彼の声で漏れるにはあまりにも心もとなく、けれど有無を言わせぬ調子だった。だが、と反駁しかけたシャドウの口を、ソニックの口が塞ぐ。割り入ってきた舌は、全ての言葉を捻じ伏せようとするように乱暴だった。ソニックの手が、シャドウの身体を弄る。余裕のない動きは、湿ったマッチを必に擦るのにも似ていた。
 ソニックが思うほど、シャドウの面積は広くはない。抱えられる墓穴はふたつまで、同じく、用意できる墓穴のスペースもふたつまでだ。後はない。続くことはない、彼がきっと望んでいるようには。これは諦観ではなく、確信だった。本当は、墓穴はひとつ限りのはずだったのだから。
 呑み込まされた言葉の続きを、心の内で唱える。もしも君が、百年待っていてくれと言ってくれるなら、僕は。
 約束の百年が巡るまで、永劫にも生きられるだろう。百年経っても君を見つけられなかったなら、これは約束の百年ではないのだと次の百年を待つことができる。何度も、何度でも。今はただ君だけが、僕を生かすことができる。永遠をも超えさせる。
 君の言葉だけが、僕を救う。

 (27)
日時:2009年04月16日 (木) 14時43分
名前:ななし

切な萌えたよ!GJ!
マリアがいなくなってこんなに情緒不安定なのに、更にソニックがいなくなったシャドウのこと考えたら泣けた

 (28)
日時:2009年04月18日 (土) 01時31分
名前:名無し

いきなりコレとか自分KYすぎやしないかい、と心臓バクバクでしたがニラニラしてもらえたっぽくて安心しました。温かい反応ありがとです! シャソニが好きだ!

 (53)
日時:2009年05月17日 (日) 02時08分
名前:風と木の

シャドウの想いに切な萌え泣いた…
先のことを考えてしまうシャドウが切ない。
そこはかとなく色気が漂う雰囲気もすごく素敵でした



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