シャドゲDEDでシャソニ (60) |
- 日時:2011年05月09日 (月) 04時37分
名前:名無し
※ダークルートでシャソニ、暗い、痛い、無理やり、救いがないため注意※
カオスエメラルドの輝きが失せると、周囲は急に暗くなったように感じた。遠い光源が、未完成に敗れ去った、人類最後の希望であったらしい兵器の輪郭を浮かび上がらせている。さながら、墓標のように。それは完全に沈黙していた。搭乗者ももの言わぬ存在に成り果てて、唯一、それの前に倒れ伏す影だけが肩を上下させている。 7つのカオスエメラルドを全て手にすると、ブラックドゥームはただ一言、よくやったとだけ告げ、エメラルドと共にいずこかへと消えた。エメラルドを手にしてしまえば、急にシャドウに興味が失せたようであり、あるいは、シャドウをあの、もの言わぬ、自ら考えることもしない黒い化け物たちと同じ存在と見なしたかのようだった。だが、どちらでもいい。あれの思惑がどこにあろうと、最早シャドウには何の関係もない。期待されたことは果たし、シャドウの期待も叶った今となっては。ならばもう、何もかも。 暗さが、その色をより濃く見せた。深まった青が、群青を成している。うつ伏せて天を向くそのトゲが、浅い上下を繰り返している。殺さなかった。致命傷も与えていない。生きていてもらわなければ、意味がないのだ。シャドウはこれを選んだのだから。 シャドウが近づく足音に、その肩がかすかに震えた。床の上に投げ出された、元は真っ白だった手袋が戦いの名残で汚れている。その指先が、床を掻いた。まだ立ち上がろうともがくように。シャドウはひそかに、口角を持ち上げた。そうでなければ。 薄暗い中でも、上げられた顔にはまったふたつの緑は強烈だった。持ち去られたはずのエメラルドと同じ光が、まだそこに留まっている。目前でシャドウが膝をつくと、ソニックはその刺し抉るような眼差しで、まっすぐにシャドウを見つめた。満身創痍で、立ち上がることはおろか、ろくに動くこともできないというのに。暗い火のようなものが、背筋を舐め煽っていく。唇が動いた。シャドウの名を呼ぶ。 「もう、よせ」 浅い息の下、あえぐようにソニックが言うのを、シャドウは無視した。喉を掴み、うつ伏せていた身体を無理に起こさせる。息の音でソニックが呻いた。手を離し、その背を床に打ちつけるように投げ出すと、痛みか圧迫感かその両方かで、乾いた声を出す。身を捩るその上に覆い被さっても、シャドウを見つめ返す緑に怯えの色はなかった。奇跡の石と同じ輝き。けれどその希望は、誰も救いはしない。ソニック自身も、そして、シャドウも。 あちこちに傷の残る脆い身体に、そっと触れる。痣の上を指の背が走ると、ソニックはびくりと身をすくませた。彼が与えた傷は、もうシャドウには残っていない。形は似ていても、つくりが違うのだ。そういう生き物で、そういう風にできている。それをまるで、同じもののように扱うなど、端から前提を間違えている。 勘違いしている、としか言いようがない。わかり合えるなどと、本気で思っているのだとすれば。 「……お前は、これで」 ソニックの肌は熱かった。散らばった傷がそれぞれに熱を持って腫れている。舌で触れても熱かった。粒のように小さな**を舌で押し上げると、ソニックの身体が震え、シャドウの頭を押しのけようと手を伸ばしてくる。けれど、自分ひとり立ち上がらせることもできない力で、シャドウをどうこうできるはずもない。指先で**をこねながら、痣の上に吸いついていく。苦痛の色が濃い嬌声がソニックの口から落ち、それがやめろだとかよせだとか言っていたように思う。制止の声に含まれていた感情は、怒気以外はシャドウには判別のつかないものだった。 被毛のない、人間めいてなめらかな腹部に広がる痣を、ぐっと指先で押し込む。噛み殺しきれない痛みに、ソニックが呻いた。眉間をきつく寄せ唇を噛み、浅い呼吸を繰り返している。 「これで満足か、だと?」 薄っすらと開かれた瞼から覗く、ソニックの緑が濡れていた。それがどうしようもなく正気であることを見て、シャドウは安堵する。眦に溜まった涙をそっと指先ですくうと、戸惑いの気配が伝わった。 「これ以上ないほどだ」 濡れた瞳が見開かれる。その中に自分が見つけたいものの気配を探して、シャドウは目を凝らした。そして、まだだ、と思う。まだ足りない。 手の中に握りこんだソニックの中心は半ば熱を持っていたが、それを快楽のサインと見るほど楽観的ではない。痛みでも反射的な生本能でもどちらでも同じで、乱暴に擦り上げたシャドウの手の中でそれはかたさを増した。熱く荒い息が頭上からこぼれ、トゲの上を滑っていく。やめろ、とソニックはうなった。苦痛と怒りと屈辱と、判別しがたい気配が、声の中でノイズを作っている。親指の腹を先端に押し込むと、ソニックの喉と背が引きつった。 「――こんなことして、何になるっていうんだ」 荒ぐ息も絶え絶えにソニックは吐き捨て、まだ強さの衰えない緑でシャドウを睨んだ。シャドウが中心を握る手に力を込めても、ノイズのように入り乱れる感情の中でさえ位置を変えない反駁は、怯むことはない。シャドウは唇の端を持ち上げる。ソニックの問いに答えるには、三秒あれば事足りた。 「君に絶望を」 「い……ッ!」 濡れてすらいない指を、乾いたそこに突き立てる。痛みと衝撃に歪む表情を見ていると、喉奥から笑いがこぼれた。何故かとは、ソニックは問わない。口に出さずとも、彼の中の疑問が膨らむのは見て取れた。中を乱暴に掻き回しながら、自分でさえ答えられない疑念が不意に思考の隅を占める。今のこの、彼への執着は、憎悪か。違うということだけがわかり、他は掴めない。あとわずかのところですり抜けて、薄い靄の中に隠れるようだ。 指を増やし、もどかしいような苛立ちのままにソニックの中を蹂躙する。どこか切れたのか、かすかに鉄のにおいがした。噛み殺した苦痛、食いしばった歯の間から漏れる息、それに混じる、自分自身の獣のような息遣い。触れる身体と内壁の熱さ、昂ぶっていく感情と身体。やがて苛立ちは薄れ、昂揚とないまぜになった奇妙な安らぎに身を浸していると、先に掴めなかった答えが、靄の向こうから浮かび上がってくるような気がした。 「――五十年前」 引き抜いた指にソニックは身体を震わせ、わずかに安堵したように強張りを解いた。身体が意識を離したがっているのか、目の光にややかすみが見える。鼻先を突き合わせるほど近くまで、シャドウはソニックとの距離を詰めた。水鏡のような緑に映る、自分の目が昏い。 「君は彼女を救ってくれなかった」 ソニックは何か言おうとして、けれど掠れた吐息しか出せずに咳き込んだ。構わずに、張りつめた自身を押し当てる。 彼には理解できない。それでいい。遅すぎた救いに、何の意味もない。五十年前、彼女が崩れ落ちた瞬間に、すでにシャドウの世界は終わっている。終わった世界に、続きなどないのだ。ソニックが何も知らずに差し出した手も、その上に乗っていた救いも、シャドウには必要がない。 それでも、わかり合えるなどという勘違いを続け、それを真実にしたいならば。 「君も世界の終わりを見るべきだ。そうしてはじめて」 僕の望みが見える。 貫かれたソニックが引きつった悲鳴を上げるのが心地よかった。もはやシャドウを映していない瞳を濡らす涙を何度も舐めとり、ただのけだものに成り下がったかのように腰を打ちつけ、その奥を貪る。欲しいものがあるとすれば、彼の絶望だけだ。あの時にシャドウが抱えた苦痛、無力感、そして慟哭。底がないかのように湧き上がる君の希望を、全てへし折り潰して植えつけたい。何度も、何度でも繰り返し。 そして終わった世界の底を、僕と生きるんだ。
意識を失ったソニックに折り重なり、抱きしめる。耳を押し当てた胸から、か細い鼓動が伝わるのに憩う。これほどに穏やかな気分は久しぶりだった。投げ出された手に手を重ね、そっと握りしめる。 そして再びその緑が開かれる時、宿る感情を夢想してシャドウは目を閉じた。
|
|