バレンタイン話その3 (12) |
- 日時:2009年02月16日 (月) 18時08分
名前:965
ラストです。>>955,956,958様のネタをご拝借。 無駄に長め
苦い なぜ 菓子があるのか 甘い
「なー、これちょっと食べてみろよ」 ふっと現れたシルバーがそう言って側から渡してきたのは銀紙に包まれた小さな物。 その彼の後ろにはどういう訳だか大量に積んであるチョコの山があった。 「・・・なんだこれは?」 「生チョコ」 チョコか・・・成る程、と納得しながらシャドウはこの一口でいけてしまいそうなくらい小さな包みを見る。 という事は確実に甘い菓子なのだろうか、どうにもそういった類の物が嫌いな彼は思わず嫌そうな顔をして「いや、いい」と断った。
「えぇ、なんで?」 「・・・、甘いのは好きじゃない」 理由も添えられた上で断られてしまい心底残念そうなシルバーを見て、彼は不思議なことに罪悪感を覚えた。 だが嫌いな物は嫌いだから仕方がない。 そう割り切ってしまえばその罪悪感も何処かへと失せていった。
「そっか・・・。・・・・・・いやでもいいから一つ」 断られてたかだか数秒の間に立ち直って再びそれを薦め始める。それでもさっきよりは気持ち控え目に薦めているようだった。 しかし諦めが悪いとでも言うのだろうか、真っ直ぐとでも言うか、シャドウが断るより早くそれを押し付けて寄越した。 結局は強制だった。
「ちょ・・・」 「いいから、一個!美味しいから!・・・な?」 必死なのかは分からないが、そうせがまれてしまったのでついにシャドウは折れてその包みをゆっくり剥いた。 紙の隙間から中身が見えたとき、僅かにチョコの香りが彼の鼻を掠めて消えていった。
どうやら匂いですらも苦手らしい、それを嗅いでしまった瞬間から彼の胸の奥がムカムカし始めた。 ――気持ち悪い そうだ、この甘い匂いが駄目なんだ。 しかし貰っておいてやはり要らない、というのは失礼に値する。
気持ち悪さを堪えて、思い切って口に放り込んだ。
*
「ちょ、なぁ、・・・大丈夫か?」 「・・・・・・」 「ごめん。まさかそこまで駄目だとは思わなくて…」 流石に無理だった。 チョコを胃に落とし込んだ瞬間、吐き気に近いものがこみ上げてきたのだ。 しかしそんな醜態を貰った本人の前で晒したいわけもなく、意地でそいつを腹の底に押し止めてやった。 その有様がこれだった。
この甘ったるい試練を乗り越えたのか失敗したのかは分からないが、シャドウはソファに仰向けに倒れ込んで休んでいた。
一方のシルバーは予期しなかった展開を目の当たりにして、彼にひたすら謝り、気に掛けるしかなかった。 「あの、・・・本当にごめん」 「いや・・・気にするな・・・・」 「気にするなって言われても元はオレが悪いんだし・・・、ああぁごめん・・・」 倒れ込んでいる自分の側で、彼のした事を悔いながら謝るシルバーを横目で見ていると、怒る気分になどならなかった。 というより、彼は毛頭怒るつもりなどなかった。これは自分が無理した結果だ、としっかり分かっていたから。 しかしこうしてずっと謝られていると、そっちの方を怒りたくなりそうだと思ったので彼はある考えを思いついた。
「そうだ、シルバー」 「ん?」 「たしかあっちに手の平くらいの大きさの、白と茶色をした紙箱があったはずだから・・・取ってきてくれ」 彼は結構単純な性格だからそれを利用してしまえば、とシャドウは考えていた。 逆に自分が叱られるような気もするがそれであの空気が変わるなら安いものだ。
言われたとおりの紙箱を取ってきた彼を確認してからシャドウはゆっくりと起き上がってそれを受け取り、彼をその場に止めさせた。 不思議そうにシルバーはその中身を訊ねた。 「なんなんだ?それ」 「・・君の好きなチョコだ。食べてみろ」 そういって中の一つを彼に手渡した。 一見、紙で包んであるからその中身は窺う事は出来ないが、苦い物が好物なシャドウの食べるチョコというとそれはかなり限られてくる。
「あ、ああ・・・?」
例えばビターチョコや
「・・・」
ウイスキーボンボンなど
*
「うっ、・・う・・・、ぅ・・・」 「そこまで苦手だったのか・・・?」 シャドウが治った次はシルバーがダウンしてソファに埋もれていた。 しかもシャドウが予想した「怒る」展開ではなく「涙目」になる展開になってしまった。 確かに謝られる事は無くなったが、今度は立場が逆転してしまった。 こんな筈では・・・、と彼は決まりが悪そうにしていた。
シルバーがこんなに苦いものが苦手だとは思っていなかったから。
「おこっ・・・怒ってるだろ!?オレが、無理に、薦めたから・・・!!」 「いや、違っ・・・」 「だからって、そんな、こんな苦いのを・・・う゛」 怒っているのか泣いているのか、それとも悲しんでいるのか果てにはこの全てか、どれともつかない表情で喋っている彼を見ていると、雰囲気の切り替えとちょっとした仕返しでやったつもりだったのに妙に申し訳ない気分になってくる。
「だから違うと・・・。ん」 「あああ苦いのまだ取れねえ・・・」 「おい、シルバー」 舌に長く居座る苦みに四苦八苦する彼を見ていてシャドウはある事に気がついた。
「まさかまだ口にチョコ入れてるのか?」 「だって、なんか悪いじゃん・・・せっかく・・」 「・・・」 ――それなら口に苦みが居続けるのは当然の話じゃないか。 馬鹿なのか気遣いなのか、これじゃ理由を聞くまでどちらかが判断できない。 半ば呆れた気持ちを孕みながらもシャドウはいいから出せ、と気を使ってちり紙を一枚寄越してやった。
「うう・・・ありがとう・・・」 「しかし君まで無理して食べる事ないだろう?」 「・・・、アンタは食べたから・・」 だったらオレもちゃんと食べないといけないだろ?と尤もらしい事を言っていた。が、シャドウの場合はそうなる事を分かっていたからそれなりの覚悟は出来ていたけれど、シルバーの場合はただの甘いだけのチョコだと思っていた。だから彼よりも有様が酷かった。 ただ、そうして教えてやるのも余計な事だろうと思い、あえてシャドウは口に出さずに閉まっておいた。
それから程なくして苦みが引いてきたのだろうか、次はこんな事を言い出し始めた。 「あぁ・・なんか頭クラクラする」 「あの微量で酔えるのか君は」
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