暖かな陽射しが降り注ぐ、心地よい平日の午後。 空はほど良く晴れていて、青空に浮かぶ小さな雲が、気持ち良さそうに西から東へと流れてゆく。 既にうるさい蝉の声は消え、代わりに周囲を満たすのは、小鳥たちのさえずりによる麗美なコーラスだ。 生暖かく湿っていた肌触りの悪い風も、涼しげで爽やかなそよ風へと変化を遂げていた。 広場の周囲を埋め尽くす、かつては深緑色のみで彩られていた沢山の木々も、徐々にその葉を落とし始めている。 それらの事象全てが、灼熱の如き猛暑の終わりと、入れ違いに近づきつつある秋の訪れを告げていた。 「……ふぁ〜」 そんな広場の中央、なだらかな丘陵状となった草原の上に、ごろんと寝転がる一人の女性。 頭の後ろで組んだ腕を枕代わりに、瞳を閉じて、眠たそうにあくびをしている。 その顔付きはとても端正で、目を閉じ、口元を微かに綻ばせているにもかかわらず、どことなくキツそうな感を受けた。 頬に貼られた絆創膏が、何となく痛々しい。 身体は全体的にほっそりとしていて、なかなかにスレンダーな体型だ。 女性にしては、かなり背も高く見える。 腕や足は余り日に焼けておらず、透き通る程とまではいかなくとも、世の一般女性が羨望を抱くであろうくらいの白さは保っていた。 制服に身を包んでいるにもかかわらず、何故かその上には紺色の大きなコートを羽織っているのが、どことなく気にかかる。 そして何より、彼女という存在を一層印象付けているのは、その青く緩やかな長髪だ。 腰の下ほどまで伸びたその髪は、地に座れば容易に大地と接してしまうだろう。 髪を彩るその青は、深海の如き濃厚な青ではなく、澄みきった青空の青だった。 空色と表現してもいいかもしれない。 そう、ちょうど今日のような。 「だんだんと、過ごしやすくなってきたわね〜」 誰に言うという訳でもなく、彼女はのほほんと呟いた。 まだ、些か少女っぽさの残った、いたいけな感じの声だった。 枕代わりにしていた腕を片方だけ持ち上げ、自然と目尻に浮かんだ涙を拭き取る。 「み〜ちゃ〜ん♪」 と、不意に、このような明るい午後のワンシーンにおいても、まだ多少の場違いささえ感じられるほどに明朗とした声が、どこかから聞こえてきたような気がした。
――……気のせいってことにしておくか。
何となくダルいので、とりあえずスルーしてみる。 だが、その程度でやり過ごせるなら、彼女とて苦労はしない。 「見〜つけたっ♪」
――ボスッ。
歓喜の声と共に、体にのしかかる柔らかな重み。 ……毎度毎度のことではあるけれど、どうやらいつまでもシカトを決め込んではいられなさそうだ。
――……はぁ。
心の中で一つ溜め息。 「何よぉ……人がせっかく初秋の安穏とした一時を満喫してるっていうのに……」 人の許可なく体の上に覆い被さる無礼者に、彼女―明神水亜(あけがみみあ)は、口を尖らせながら声を掛けた。 「何言ってるのよ〜。ついこの間まで、“あぁ、もう夏も終わってしまうのね……”とか言ってた癖に」 水亜の体の上からどこうともせず、欠片たりとて似てもいない口真似をするのは、無礼者こと彼女の同僚の高礼絢音(こうらいあやね)だ。 背丈は、一般女性の平均より少し小さいくらいだろうか。 人なつっこい丸い瞳とあどけない少女のような顔立ち、それに後頭部で結わえた薄い緑色の髪が、何とも特徴的だ。 そのスタイルは、スレンダーな水亜とは対照的、且つ幼さの残る顔付きからは意外なくらい、出すところはしっかりと出した、なかなかのナイスバディ。 「あの時はあの時。今は今よ」
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