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O.L.作品置き場

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タイトル:OL〜正月と何ら変わらぬクリスマス〜 コメディ

――キリストの誕生日? ……だから? 色恋沙汰に無縁な水亜にとって、クリスマスも正月も何ら変わりはない! 美味い酒とつまみが恋人で何が悪い! OLメンバーで、クリスマスに忘年会でワッショイワッショイ! 正月と同じ人選で、展開もほぼ同じという点には、できれば触れないであげてくだしあ (´・ω・`)

月夜 2010年07月09日 (金) 22時09分(71)
 
題名:OL〜正月と何ら変わらぬクリスマス〜(第一章)

聖夜――通称、恋人たちの時間。
辺り一面、どこもかしこもがきらびやかにデコレーションされ、夜だというのにその明るさは昼間並か、それ以上にも感じられる。
今宵、冷たい夜空に浮かぶのは満月。
だが、その光が地に届くことはなく、より強く無機的な電光によってかき消されるのみだった。
それらの中でも特に、数多の電飾でキレイに飾り付けられ、ライトアップされる巨大なツリーは、眩いほどの輝きを放っていた。
普段何気ない時には、ただそこにあるだけの木に過ぎないくせに、今この時に限り、まるで今夜の主役は俺だと言わんばかりに自己主張をしている。
吹きすさぶ風は、季節通りの冷涼さを孕み、吹き抜ける冷たさで人々から熱を奪っていく。
……はずなのだが、そこかしこで寄り添っているカップルたちにとって、それはもはやただの憎らしい凍える風ではなく、好いている人と密着するための都合の良い理由でしかないようにも見える。
周囲どこを見渡しても、容易に見つけることができる、メリークリスマスという文字と、ハートマークの飾りたち。
今日という日、世界は、間違いなく愛し合う二人を等しく祝福していた。
しかし、そのような日にも、もちろん例外、アウトローな連中はいる。
男女のカップルがはびこる中、ちらほらと女同士で集まるグループも、いくつか見受けられる。
中には腕組みをして、それこそカップル以上に仲睦まじい様子の女二人組も見当たる。
しかし、それは特に問題ない。
世間的に見ても、こういう本来男女のカップルの為の記念日に、女同士で戯れることは特に問題があるわけじゃない。
だが、その中に男ばかりの集団が見えると、そうはいかないのが世の常だ。
クリスマスに男同士となると、それだけでどこか痛々しい眼差しを身に浴びることになりかねない。
日本には、古来より男尊女卑という、少々差別めかしい言葉がある。
文字通り、力があり労働や戦の戦力になる男は、女に比べて尊ばれるという意味だ。
しかし、平和ボケした現代の日本の若者にとって、戦などというのは文字として知っているだけの言葉に過ぎない。
むしろ、少子化の進行が激しいこと等々の理由により、男尊女卑という言葉は失われ、逆に女尊男卑にさえなりつつあるくらいだ。
このような男性に対する世間の冷たい眼差しも、その進行に追随して起きているとも言える。

私こと月夜は、このような現代の悪しき逆差別的風潮に対し、この場をもって警鐘を鳴らしたい次第であります!
……少々、私事が入ってしまったようにも感じられますが、その時は何も見なかったことにしてくれると幸いです。

とにかく、このクリスマスという日は、恋人たちの大切な時間なのだ。
「え〜っと、買わなきゃいけないのは、大体こんなものね」
そんな中、何かメモらしきものを見ながら、水亜は一人、迷いなく真っ直ぐに歩いていた。
いつものコートを身に纏い、缶コーヒー片手に目を細め、どこか気だるそうに見える。
「……ちょ、ちょっと……、待ってくださいよ……」
……訂正、彼女は一人ではなかった。
彼女から遅れること十数歩、その背を追って必死にふらつく足を進める、全身荷物まみれの聖の姿がそこにはあった。
「だらしないわね〜。そんなことで、男として情けなくないの?」
仕方なしに立ち止まり、背後を振り返るなり、水亜は開口一番にそう言い放った。
「そんなことって……先輩、俺の今の状況、ちゃんと分かってます?」
「せいぜい数十キロ程度でしょ? ちょっと軽くなった私を背負ってるようなものと思ったら、軽いもんじゃない」
「先輩、絶対もっと重いで……」

――グシャッ!

聖が全てを言い終える前に、中身を飲み干された空き缶が、突如として水亜の手の中でひしゃげた。
ポイッと放り捨てられたそれは、空中にキレイな放物線を描いて、ゴミ箱の中へと吸い込まれていった。
「……」
「……ん? 間抜けな顔して、どうかした?」
あんぐりと口を開けたまま、唖然とする聖に向かって、何もなかったように不思議そうな表情を浮かべる水亜。
「あ、いえ、何でも……」
答えながら、聖はさっきのシーンを思い返した。
握力まかせに、一瞬でグシャグシャにへこんだ空き缶。

――缶コーヒーって、ほとんどがアルミじゃなくスチール製じゃなかったっけ?

もしスチール製だったとしたら、一体どれほどの握力で握り潰されたというのだろう。
そんな力で、握手でもされようものなら……
「……!」
恐怖と形容しても良い寒気が、聖の背筋を走り抜けた。
本能が告げていた。
さっきの話題は、二度としてはならないと。
「ほら、何ぼんやりしてんの。絢音が待ってるし、早く帰るわよ」
「は、はい! 只今!」
「あら、急に返事が良くなったじゃない」
「そ、そうですか? あ、あはは……」
乾いた笑いを浮かべながら、聖は疲弊しきった全身の筋肉に鞭を打ち、小走りで水亜の後についていくのだった。

月夜 2010年07月09日 (金) 22時10分(72)
題名:OL〜正月と何ら変わらぬクリスマス〜(第二章)

「みーちゃんってば遅ーい」
戻ってきた私に最初に降りかかったのは、絢音の不服そうな声だった。
頬を膨らまし、不満感たっぷりの憎らしい顔でこちらを見つめてくる。
「ほほぉ、人をパシらせといて真っ先に出てくる言葉がそれか。大体、文句は私じゃなくて、そこの貧弱男子に言ってよ」
そんな絢音の視線を受け流すかのように、私は親指で自分の背後を指差した。
そこに居たのは、息も絶え絶えに床に座り込む、ぐったりとした聖の姿だった。
全ての荷物をその場に放り出し、壁にもたれかかったままピクリとも動かない。
「あらら。さっちゃん、酷くお疲れみたいね」
「……俺、明日有休取ってもいいですか?」
「何ふざけたこと言ってんの。あんたには仕事がたっぷりとあるでしょ。私の為にコーヒー用意したり、私の為に芋まん買ってきたり」
「後、私の仕事手伝ったり、私におやつご馳走したりとかね〜」
かなり好き勝手を言ってる私だが、絢音も負けてはいない。
むしろ、こいつは好き勝手言ってるという自覚に乏しそうだから、私より質が悪いかもしれないわね。
「それを世間では、一般的にタカりと言うんですよ……」
「ちっちっち。分かってないわね〜、さっちゃん」
目を薄く閉じ、不敵な笑みを浮かべながら口先で人差し指を左右に振る絢音。
「タカりだなんて聞こえの悪い。これは、若輩者が年長者への敬いを態度で示す、所謂奉仕の精神というやつなのだよ」
……私が言うのもなんだが、これはまたなんというとんでも理論。
果たしてこんな強制的奉仕を、奉仕と呼んでいいものか。
「そうそう。人生の先輩に常日頃から敬意を示すのは、社会人として当然のことよ」
……なんて思いながらも、もちろん否定などするはずもない。
私もまた、そのような強制奉仕の恩恵を受けている一人なのだから。
「悪魔だ、この人たち……」
「悪魔とは何よ、悪魔とは」
「そうよそうよ。今日はクリスマスなんだから、どうせ言うなら天使と言ってよね」
「……どっちかっていうと、あんたは小悪魔って感じじゃない」
「そうかな? あははー、ありがとー」
……いや、別に誉めてないから。
「……誉められてないですよ、それ」
満身創痍になりながらも、ツッコミは忘れない。
その精神は賞賛に値するわね。
「まぁ、そんなことは置いといてさ。早く始めよーよー」
そう言って、絢音が部屋の中央にあるテーブルを指差す。
そこには、ガスコンロの上でグツグツと茹だる大きな鍋があった。
そう。
今から私たち三人で、ちょっと早い忘年会をする予定なのだ。
それも、社長室で。
本日はクリスマスということもあり、人もほとんどいない為、何をやってもバレる危険性はほとんどない。
それなら、せっかくだし我が社で一番豪勢なここで忘年会やろうよと提案したのは、他ならぬ絢音だったりする。
最初こそ聖は戦々恐々としていたものの、もし見つかっても軽く謝れば許してくれるから〜なんて楽観的なことを言う絢音に簡単に丸め込まれ、ほぼ強制参加という形だ。
ま、私はどっちでも良かったんだけど……別に、クリスマスになんの予定もなく、一人寂しく家に帰るのが嫌だったからとか、帰宅途中でいちゃつくカップルたちを見たら、つい射殺しそうになっちゃったとか、街頭の売り子が、憎らしいほどに良い笑顔で勧めてくるやたらとでかいクリスマスケーキを、常時携帯してる手榴弾で爆砕したくなったとか、そんな訳じゃないんだから。
……本当に、そんなんじゃないんだから……。
「? みーちゃんどしたの?」
「っ!? な、何でもないわよ? それより聖! あんた、いつまでへばってんのよ。さっさと食材の準備しなさい」
妙な気恥ずかしさから、半ば当たるようにして聖に檄を飛ばす。
「え〜……準備まで俺がするんですか〜……」
言い返す聖の表情は、今日一番の不満さを露わにしていた。
「う……」
思わず言いよどむ。
正直、聖には何だかんだで良く働いてくれた。
午前中に自分の作業を粗方終わらせ、昼からは私と絢音のデスクワークを手伝い、今までは私の代わりに大量の荷物持ち。
どれだけ贔屓目に見ても、とてもじゃないがその頑張りを認めないわけにはいかない。
これ以上、聖一人に何でもかんでもやらせるのは、さすがに可哀想かも……。
「し、仕方ないわね……私も手伝ってあげるわよ」
「えっ……?」
そんな私の言葉に、きょとんとした目でこちらを見つめる聖。
「……」
何気なく後ろを振り返ってみれば、絢音も目を丸くしたまま絶句していた。
「……何よ?」
「いや、先輩が自分から手伝ってくれるだなんて、何だか信じられなくて……」
「うん……みーちゃんが自ら進んで面倒なことをやるだなんて……ハッ、こ、これはまさか……」
「……まさか?」
「みーちゃんの姿を偽った偽者かっ!? 甘いわね! 私とみーちゃんは何年も連れ添った親友! その私を騙そうだなんて、千年早……」

――ボカッ。

「痛っ!? 何すんのよみーちゃーん」
「あんたが失礼なこと言うからでしょ。親友やめるわよ?」
「まったまた〜。私が居なきゃ、みーちゃん寂しくて死んじゃうくせに〜」
「なら、今この場であんたを殺して、私がどうなるか実験してみようか?」
「さーせんっしたー」
……相変わらず謝る気ゼロね、こいつ。
「ったくもう……ほら、さっさと用意するわよ。どうせ野菜適当に洗って、豆腐切ったらおしまいでしょ?」
「え、あ、はい……」
未だに唖然としている聖をよそに、私は食材の入った袋をいくつか持ち上げた。
こいつはこいつで失礼ね。
一体いつまで呆気に取られてんのよ。
「……ほら、ボーッとしてないで、残りの食材持ってついてきなさい。置いていくわよ」
「……あ、ちょ、ちょっと待って下さいよ〜!」
「行ってらっしゃ〜い」
笑顔で手を振る、ナゼだか手伝う気皆無な絢音に見送られ、私たちは再度社長室を後にした。

月夜 2010年07月09日 (金) 22時10分(73)
題名:OL〜正月と何ら変わらぬクリスマス〜(第三章)

「先輩。豆腐切り終わりました?」
「もうちょい待って〜」
「わかりました。それじゃ、俺はその間に肉を軽く下ごしらえしときますね」
「肉の下ごしらえって……鍋に入れるんだから、何もする必要ないんじゃないの?」
「まぁ、別に何もしなくてもいいっちゃいいんですけど、こうやって……」
「ほうほう」
「……筋に対して垂直にいくつか切れ目を入れておくと、大分柔らかくなるんですよ」
「へぇ〜。知らなかった。あんた、料理とか得意なんだ?」
「一人暮らししてたら、自炊もしますからね。結構楽しいもんですよ」
「ふ〜ん。むむっ……これは、やっぱりなかなか……」
「先輩は、あんまり得意じゃなさそうですね」
「なっ!? バ、バカにしないで! 私だって、こう見えても女の子なのよ!?」
「でも、豆腐切ったことないんですよね?」
「っ!?」
な、何故バレた!?
「な、なんでそう思うのよ?」
「そりゃ思いますよ」
聖が溜め息混じりに呆れたような表情を浮かべる。
何?
そんな一目で分かるほど、私変なことしてたの?
「豆腐をパックから出さず、箱ごと切ってる人なんて、初めて見ました」
「……あれ? 違うの?」
「はぁ……ちょっと貸して下さい」
「うん」
言われた通り、包丁を聖に手渡す。
「いいですか? 豆腐ってのは先ずこうやって上の蓋を切って、中の水を出しちゃうんです」
「ふむふむ」
「次に中の豆腐を取り出して、手のひらに乗せるんです。それから縦横に切っていくんですよ」
そう解説しながら、慣れた手つきで豆腐を切り刻んでいく聖。
数秒の後、手のひら大のサイズがあった豆腐は、細かくキレイに分割されていた。
へぇ〜、豆腐ってそうやって切るんだ。
「勉強になるわね〜」
素直に感心する。
「このくらい、料理したことない小学生でもわかりますよ。むしろ……」
そこで一旦言葉を区切り、聖がキッチンの一角へと目線をやる。
そこには、この間違いを訂正されるまでに、私がパックに入れたまま切った豆腐が固められていた。
「俺には、先輩がどうやってこの豆腐をパックごと、それもこんなにキレイに切れたのかの方が、断然気になります」
「そう? まぁ、確かにパック部分から水平に切るのは、ちょっと固くて難しかったけど……それほどでもないと思うわよ」
「普段からどんな切り方してるんですか……とにかく、これで準備は完了ですね」
「そうね。それじゃ運ぶわよ」
「はい」
ボウルに入れた野菜やら皿に盛った肉やら魚やらを手に持ち、キッチンを後にする。
社長室の前に着くなり、手が空いてない私は、足でノックをした。
「絢音〜。扉開けて〜」
「はいは〜い」
その声から遅れること少し、扉が静かに引き開かれる。
「サンキュー。はい、これ野菜と豆腐……って、あれ?」
手に持っていた材料を絢音に手渡しながら、部屋に足を踏み入れた私の視界に、見覚えのある姿が映った。
「どうしたんですか、先輩……?」
急に立ち止まった私に違和感を覚えたのか、後ろから聖が部屋の様子を覗き見る。
そんな私たちに向かって、その人物は軽く手を上げながらこう言った。
「やぁ。先に一杯やらせてもらっているよ」
『社長!?』
私と聖の声が、見事なまでにシンクロした。
「クリスマスに飲む酒も、なかなか良いものだな」
「いや、それはいいんですけど……急にどうしたんですか? 今日はお休みだったはずじゃ……」
「あぁ、本来なら今日は妻と二人で家でゆっくりする予定だったんだが、外出中に何やら昔の旧友とばったり出会したらしくてな。二人でゆっくりはまた明日にということになったんで、急遽参加させてもらったという訳だ」
「別におじいちゃん居ても良いでしょ? 去年の忘年会と同じメンバーだし」
「私は良いけど……」
背後の聖へと視線を流す。
「お、俺ですか!? そんな……決定権も拒否権も、俺にはまるで無いと思うんですけど……」
「さっちゃんは、おじいちゃん居ちゃ嫌?」
「守哉君が私が居ない方が楽しめるというのなら、私は今からでも一人寂しく帰宅するが?」
「そんな滅相もない! 社長さえ良ければ、是非とも一緒に楽しんでいって下さい!」
聖が慌てて否定する。
まぁ、社長に対する平社員の対応としては、極自然ね。
「ささ、準備も整ったことだし、早く座った座った」
絢音に促されるまま席に着く。
「それじゃ、早速乾杯といきましょうか」
足下の袋から、ビールを四本取り出し、各々の目の前へ配っていく。
「ありがとう」
「サンキュー」
「どうもです」
一人一様に礼を述べ、一斉にプルタブを上げる。
プシュッという小気味の良い音が、いくつも重なり合って室内にこだました。
「んじゃ、今年もお疲れ様〜」
「まだ今年は残ってるわよ」
「でも、忘年会なんだから、挨拶はこれで良くない?」
「クリスマスなんだから、別にメリークリスマスでも良いんじゃないですか?」
「俺は美味い酒と飯にありつければ、何だって構わないんだがな」
「あーっ! おじいちゃん、何でもうお鍋に手を付けちゃってるのさ! まだ乾杯してないのに……」
「なら私も……っと」
「だったら俺も……」
「みーちゃんにさっちゃんまで……あーもうっ! じゃあ私もっ!」
結局、乾杯も何もないまま始まっちゃったわね。
まぁ、これはこれで、私たちらしいっちゃらしいかもしれない。
缶の縁に口を付け、一気に傾ける。
口内から喉を通り、食道、胃へと一気に駆け抜ける刺激。
「……っぷはーっ! やっぱ一仕事終わった後のビールってのは格別ね!」
「なーにが一仕事終わった後ですか。朝から晩まで、ほとんど俺任せだったじゃないですか」
「……ほぅ?」
その言葉に、社長の眼光が一瞬鋭く光った。
こ、このこわっぱは……また余計なことを口にしおってからに!
「い、いや、あれですよ。荷物持ちとかを任せたってことですよ。ね、さっちゃん?」
「いいえ、荷物持ちだけじゃなくて、普通の仕事も……」

――ドンッ!

すかさず、思い切りその足を踏みつける。
「っ!!!??」
「ね〜、そうだよね〜、さっちゃ〜ん?」
声にならない苦悶の声を上げる聖に、私はとびっきりの笑顔を向けてやった。
「は、はいぃ……」
目の幅涙を浮かべながら、ぎこちない笑みを浮かべる。
そのぎこちなさの原因は、もちろん私だ。
「……まぁいいだろう。……むっ」
「ん? どったの? おじいちゃん」
「絢音……お前、それはまだ煮えていないぞ」
「いーのいーの、細かいことは。何でも半生くらいがちょうど良いんだよ」
「またお前はそうやって……肉類はしっかり熱を通してからにしなさい」
「あ、ちょ、私のお肉……」
「肉は逃げないんだ。もっとゆっくり食べろ」
「そりゃ、我が家だったらそれで良いけど、今この場にはみーちゃんがいるんだよ? 油断してたら、お肉全部みーちゃんの贅肉になっちゃうじゃない」
「ほほぉ〜。あんた、このスレンダーなナイスバディを前にして、贅肉とは言ってくれるわね」
「確かにみーちゃん細いけど、腰だけじゃなく胸回りまで細いからなぁ……」
「……あんた、私に喧嘩売ってんの?」
「そんなまさかぁ。胸大きすぎると肩凝って大変って、前に言わなかった?」
「相変わらず生意気な奴ね〜……胸なんて飾りよ、飾り! あんなもん、多少小さくたって、寄せて上げてすりゃなんとでもなんのよ」
「そういうブラも、最近結構あるよね〜。でも、私はそういうの着けると、もう胸が苦しくて苦しくて……みーちゃんは着けてて平気なの?」
「くぅっ……」
反射的に目を背ける。
このアマ……えぇ、着けれますよ!
全然着けれますとも!
苦しいどころか、それ着けてようやく人並み程度ですよ!
ぶっちゃけちゃうと、今だって着けてますよ!
……って言うか、あんた絶対そのことに気付いた上で言ってるでしょ!
「……ぬっふっふ〜」
なんと憎たらしい笑顔か。
この場に社長さえ居なきゃ、水亜式ツームストーンパイルドライバーで、そのどたまかち割ってるところだわ。
「あーっ、もうっ!」
勝ち目のない勝負を強行するほど、私は愚かではない。
袋の中からビールを数本取り出し、勢い任せにグイグイと飲み干していく。
いわゆるヤケ酒というやつだ。
「ちょ、ちょっと、先輩……いくらなんでもピッチ早すぎ……」
「黙らっしゃい! あんたはピッチ遅過ぎよ! もっとグイグイいきなさい!」
「えっ、そ、そんな大量には無理……」
「あん? あんた、まさか私が勧める酒は飲めないって言うつもり?」
「そ、そんなことは……」
「そうだよ。せっかくみーちゃんが勧めてくれてるんだから、断っちゃ可哀想じゃない」
「女性からの酒の一つや二つ、軽く飲み下せないようでは、まだまだ君も青いな」
「う、うぅ……」

月夜 2010年07月09日 (金) 22時11分(74)
題名:OL〜正月と何ら変わらぬクリスマス〜(第四章)

私と絢音だけじゃなく、社長にまでああ言われては、さすがに拒絶し辛くなってしまったのだろう。
もうちょっと押せば行きそうね。
「ほらほら、男らしくグイッといきなさい! グイッと!」
「さっちゃんのカッコいいとこ見ってみったい♪ それ一気、一気♪」
「うぅ……あーっ、もうなるようになれっ!」
ようやく自らに踏ん切りを付けたのか、私が差し出すビールの缶数本を、ふんだくるようにして受け取り、勢い任せに胃へと流し込んでいく。
「お〜っ。いいぞさっちゃん! 飲〜め、飲〜め♪」
絢音の飲め飲めコールの中、凄まじい速度でビールを飲み干していく聖。
その速さたるや、私と同等……いや、それ以上かもしれない。
「ほぉ……何だ、やろうと思えばやれるんじゃないか」
社長も、私と同じことを考えていたようだ。
いつもは全然飲まないのに、いざ飲むとなるとなかなかやるじゃない。
「……っぷはーっ!! どうですか、先輩! 見事全部飲んでみせましたよ!」
「なかなかイケるじゃない。追加何本いっとく?」
「何本だっていいですよ! もうドーンときてください、ドーンと!」
「そ、そう? なら、とりあえず二本……」
「もっともっと! そんなんじゃ喉も潤わないですよ! せめて……これくらいないと!」
そう言って、床に置いていた6缶セットの箱を持ち上げた。
「……」
思わず絶句する。
こいつ……正気?
去年の忘年会では、ビール数本で眠りこけてたのに……ちょっと一気に飲ませ過ぎたかしら?
「いいねいいね〜。さっちゃんいっちゃえ〜♪」
「……そういやあんたは、さっきから野次を飛ばしてるだけで、ほとんど飲んでないわよね?」
「何ですってぇ……?」
瞬間、聖の目がビールから絢音へとターゲットを変更する。

――ドン。

そして、その目の前に置かれる大量のビール。
「高礼さんも、飲みましょうよ〜!」
「え……えっと……これはちょっと、量多い……」
「まさか、俺が勧める酒は、飲めないって言うんですか〜?」
「いや、そういう訳じゃないけど……さっちゃん、何か目が据わってない?」
「まぁ、聖がこうなったのも、半分はあんたの煽りのせいだし、仕方ないでしょ」
「で、でもぉ……」
「後輩から勧められる酒を気持ち良く飲んでやるのも、先輩の義務だぞ」
「そ、そんなぁ……おじいちゃんまで……」
「ほらほら〜、高礼さ〜ん」
「う、うぅ……え〜い、行ってやろうじゃないの!」
絢音も覚悟を決めたのか、勢い良くその場に立ち上がると、腰に手を当て、先の聖同様勢いに任せて次から次へとビールを流し込んでいく。
「おーっ、なかなか男らしい飲みっぷりじゃない。聖、あんたも負けてらんないわよ」
「オスッ! 俺も飲ませていただきます!」
絢音と同じように立ち上がり、再びビールを空け始める聖。
……こいつ、こんなに体育会系なキャラだったっけ?
「ふっ、この童が……人生の先輩に、勝てると思ったかー!」
このテンションを見る限り、絢音もなかなかできあがっちゃってるみたいね。
「おぉ、いけいけ〜」
なんてことを思ったが、あえて口にはしない。
今の二人に下手な絡み方をすると、私の方が返り討ちにあいそうな気がする。
そして煽ること十数分。
飲んでは空け、空けては飲んでを繰り返した二人は、大量の空き缶を残し、ほぼ同時に撃沈した。
「あらまぁ。仲良くぶっ潰れちゃって」
崩れ落ちるようにして、ソファーに横たわる両者。
「んにゅ〜……もう終わりか〜……ふにゅぅ……」
「ふひゅ〜……まだまだいけますよ〜……はひゅぅ……」
「寝言で会話するとは、器用な奴らだ」
「まだ夢の中で勝負してるんじゃないんですか?」
私はいつも着ているコートを手に取り、それを聖にそっとかけてやった。
口を開けたままのだらしない寝顔は、何だかいつもより可愛らしく見える気がした。
絢音の方へ視界を移す。
そこには、今私が聖にしていたのと同じことを絢音にしている、社長の姿があった。
彼女の寝顔を見つめる社長の表情は、今までに見た彼のどの顔より、心からの暖かい慈愛で道溢れていた。
見てるだけで、何だかこちらまで優しい気持ちになる。
「……? どうした? こっちをジロジロと見たりなんかして」
私の視線に気付き、こちらへと視線を向ける社長。
普段と別段変わらない、私に対して向けるいつもの眼差し。
「い〜え、何でもないですよ〜?」
「? おかしな奴だな」
何でもない風を装い、私は軽くおちゃらけて見せた。
……わかっている。
彼があの暖かい眼差しを向けるのは、きっと世界で絢音ただ一人だけ。
他の誰にも、その目を向けることはないだろう。
……もちろん、私にも。
「……何だか、羨ましいな」
「ん? 何か言ったか?」
「いえ、何にも言ってないですよ?」
「そうか……それよりも、だ」
そこで一旦言葉を区切ると、社長は私の方を向き直りながら、空のビールを手に取った。
「君のことだ。よもや、こんなもので満足したりは……しないだろう?」
左右に振られる空き缶の中で、数滴しか残っていないビールが跳ね回り、そのくぐもった音でもって中身が空であることを示す。
「さすが社長……わかってらっしゃる」
その意味するところを理解し、私は足下の袋に手を伸ばすと、中から一本の瓶を引っ張り出した。
私が好んで愛飲している日本酒だ。
「社長が普段飲んでるものに比べれば、足下にも及ばないかもしれませんが、これで一杯、飲み直しといきましょう」
「相変わらず日本酒好きだな、君は」
「当ったり前じゃないですか。ワインやらチューハイやらみたいな横文字並べたものより、日本酒の方が断然重鎮……って、これは去年も言いましたっけ?」
予め持ってきていた猪口を二つ、テーブルに置いて、それぞれに日本酒をなみなみと注ぐ。
「そういえば、結局去年も最終的には君と二人だったな」
「ですね。去年同様、この二人は見事に酔い潰れちゃいましたからね」
「だが、以前に比べれば、守哉君も多少は飲めるようになったみたいだな」
「まぁ、ビールばっかりですけどね。ビールなんて水と同じって言えるくらいにはなってくれないと」
「なら、普通に水を飲んでいた方が、コストパフォーマンス的には良いだろうな」
「確かに」
声を上げて、お互いに笑い合う。
「それじゃあ……」
「あぁ」
お互いに猪口を持ち上げ、こぼれないようそっと乾杯。
『メリークリスマス』
チンッという小気味の良い音が、寝静まった真夜中のクリスマスを、慎ましやかに彩った。

月夜 2010年07月09日 (金) 22時13分(75)
題名:OL〜正月と何ら変わらぬクリスマス〜(あとがき)




























クリスマスは終了しました














聖夜?

ざけんな!

心の奥底までドス黒い紫色に染まった私に、そんなものは必要ないわ!

大体なんなんだよ……クリスマスって、キリスト関係だろっ……! 日本には神道ってあるじゃねぇか……! ちくしょう……何でよその神様の記念日に、浮かれなきゃならねぇんだよ……くそ……くそ……っ!




……(´・ω・`)





べ、別に独りで寂しいって訳じゃないんだからねっ!?










そして心なしか、この展開前にも見たことあるよね












゜。゜(`つω∩)゜。゜










はいはい、メリークリスマスメリークリスマス。
皆さんいかがお過ごしでしょうか。
家族で楽しい刻を過ごしていますか?
それとも、隣に想い人が居ますか?
前者の方は、今日という日を心より楽しんでください。
貴方の為なら、私は心からの祝福を、この作品に込めて惜し気もなくお贈りするでしょう。


だが後者の方、テメーはダメだ(`・ω・´)
……え?
もう読んじゃった?

……(´・ω・`)

そんな貴方は、私の為に全力で感想を書きなs(´∀(〇―(゜∀゜♯)





調子こいてすいまえんでした;




さてさて、此度のクリスマス作品、Shark-eyeさんからのリクエストでしたが、いかがでしたでしょうか。
去年書いた正月とほとんど同じノリになっちゃいましたが、楽しければそれでおk。

こまけぇこたぁいいんだよ!

私もこんな風に、楽しい忘年会をやってみたいものです。
まったりと酒を酌み交わしながら、仲の良い友人と語り合う……いいねぇ、憧れだねぇ、うん。

……誰か!
誰か、私の回りで日本酒好きな大和魂溢れる漢はおらぬのか!?

……なかなかいないんですね、これが(´・ω・`)


ま、独り酒は寂しいけど、それはそれで趣深いところもあるんだけどね。



では、今回はこの辺で。
この作品に対する感想は「小説感想アンケート板」または「小説感想掲示板」、「月夜に吠えろ」の方まで書いてくれると、月夜が感謝のあまりフライング焼き土下座をするとかしないとか(´・ω・`)

ここまでは、

「誰だよ、最初にサンタ服を女の子に着せた奴……天才だろ

で有名な、廃人月夜がお送りいたしましたとさ。
















ミニスカサンタは神の産物としか思えないよね(´・ω・`)

月夜 2010年07月09日 (金) 22時14分(76)


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