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作品名:劣化の偽人(ホラー度★) 競作(小説)

オチがバレバレなので罪悪感が二重にあります。二重? それはきっと貴方をも襲うのでは。

天然記念狼 2011年09月29日 (木) 17時02分(32)
 
作品名:劣化の偽人

 私の一日は、愛用のパソコンを立ち上げてメールをチェックする所から始まる。さすがに古いパソコンなので、液晶も少しずつ劣化している。液晶というのは、その液晶の一個一個が壊れる事があり、例えばデジタル時計だと、数字を構成する縦棒とか横棒が抜けたりする事があるが、それがパソコンで起こると、そこだけ黒くなったり白くなったりする。それはまるでゴミのように視覚を邪魔する。それが劣化だ。
 その日もあたらしい劣化があった。液晶のある一角が点々状に劣化したのだが。ちょっとびっくりしたのは、それが文字列に見えたからだ。しかも、それは私が昔思いついたフレーズでずっと大切にしていたものだ。そう認識した一瞬はぎょっとしたが、次の瞬間に文字列を見ると、たんなるドット状のノイズでたまたま私の目に文字列に見えただけのことである事がわかった。適当なノイズが何かのパターンに見える事は人間の錯覚として良くある事で、とくにドット状のパターンで、なおかつ頭の隅っこに残っている言葉だと、こういう錯覚の確率は高くなる。
 その劣化に見慣れたある日、またも液晶の別の一角が劣化して、これまた別のフレーズに見えた。前回の事があるから、そこまで驚く事はなく、昔のフレーズを思い出したに過ぎない。その後も、こういう事が何度か繰り返し、初めての日から3ヶ月も経った頃には、異なるフレーズに見える点状劣化はディスクトップの十ヶ所近くに及んだ。ここまで急速に劣化を始めている以上、そろそろパソコンを買い換えなければならない。それが私の反応だった。

 だが、劣化はそういう私を許してくれなかった。というのもパソコンを買い換え、新しいハードディスクに古い奴をバックアップさせた途端、新しいディスクトップにも全く同じ点状パターンの劣化が起こったのだ。電気屋にもって行くとそれは消え、私の部屋で起動したときだけそのパターンが映るのである。何の手も打てないまま新旧どちらのパソコン状にも文字列の断片は増殖していった。それもいずれも私の記憶にある文字列として見る事が出来るのである。
 こうなると、記憶の基になっているフレーズそのものも確認したくなる。そこで古いパソコンに保存されている私の駄文のフォールダーを一つ一つ開けていった。それは大変な作業となった。というのも、私のパソコンには小説になりきれなかった残骸があちこちに埋まっているからだ。短い奴は10バイトそこらで、長くても2キロバイトそこら。そんな欠片が無造作に散らばっている。
 それでも昔は定期的にそれらを眺めて、少しずつアイデアを膨らましたりしたものだ。だが今は違う。何年も見ていないどころか、どこのフォールダーにどんな書きかけが置いてあるかすら覚えていない。多忙という理由もあるが、興味が薄れたと言うのもあるかも知れない。だから、書いた記憶のあるフレーズにたどり着くのに週末が4回程かかった。平日にそんな事をやる暇なんかないからだが、その間に文字列もどきは増殖を続け、しかも前の文字列の上に重なるようにドットが乗っかって、一種のドット絵の様相を示し始めた。

 きっとこのフォールダーのなかのテキストファイルだろう。そう思ってフォールダーをあけると、その中身は壊れて判読不可能だった。一瞬ぎょっとしたが、これもおかしくはない。というのも、これはもっと古いパソコンのハードディスクをコピーしたものだからだ。パソコンのシステムが違っているので読めなくても仕方ない。そんな訳で、私は7年前に廃棄したパソコンを取り出して、そこから漸く正しいフォールダーの正しいテキストファイルにたどり着いた。それは私がネット小説に手を出し始めた頃に思いついた小説案の断片の倉庫だった。これと同じ奴が現在使用中の新旧パソコンにもコピーされている。
 そして、これら断片ファイルの中身と、劣化ドット状の文字列を比較して、改めて愕然とした。まったく同じ文句なのだ。しかも劣化ドットとしてあらわれた文字列は、いずれも正確に10個目ずつのフレーズなのだ。もしかしたらファイルが分解し、それがシグナルとなってディスクトップにノイズを作ったのかもしれない。・・・いや、そんな理屈じゃない、これはきっと私の脳内変換の錯覚だ。

 翌日、私がパソコンを起動すると、私の昔書いて日の目を浴びなかったフレーズのすべてがドット状に散らばって、大きな絵を完成していた・・・それはドット文字の分解をしなければ一つの大きなゾンビ絵だ。でも私には、これが文字列の集合体に見える。10年前に私が思いついたものの、古いパソコンに死んでしまった文字列。そして、それがゾンビのように甦り、私のパソコンでお祭りをしている。
 ・・・いや、それだけではない。文字列をよく見ると、私が完成した筈の文章すら見えるではないか? あわてて作品のおいてあるフォールダーを見ると、案の定、ファイルが壊れて読めなくなっているではないか。ゾンビ達は私が実際に生んだ作品にまで侵食を始めているのだ。
 怪異なのか事故なのかはともかく、これでは仕事にならない。そこで私は彼らを生き返らせることにした。そう、7年前のパソコンの文字列を別の書式に変換し、さらにCD(古いパソコンにはUSB端末すらないのだ)にコピーした上で新しいパソコンに移植(上書き)したのだ。私の非科学的な目論みは成功し、新旧どちらのパソコンからも劣化ノイズは嘘のように消えた。
 これら一連の事態に科学的な説明を付けようとすればつけられる。だが、私はこれを戒めと考えたい。文章だって生き物なのだ。

天然記念狼 2011年09月29日 (木) 17時04分(33)
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