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作品名:ゾンビ学起稿(ホラー度★★) 自由(小説)

虚構が現実になった時、果たしてそれは絶望か、僥倖か。

evergreen 2011年09月29日 (木) 22時12分(37)
 
作品名:ゾンビ学起稿

 俺は三階まで行くのに、非常階段を使った。
 とは言っても、これは単に目的地との距離が近いという理由からだ。
 大学構内は、騒音や人の声で溢れていた。それは日常的なものと解釈すれば、強ち間違いな表現ではない。
 しかしこの歳にもなると、多少の昇降で息が切れてくる。こんな調子で、これからの人生やっていけるのかと大げさな心配をしながら、ドアをノックする。
 コン、コン、コン、コン―俺に課せられた回数は四回だ。
 「ジョンか?」中から恐らくベンと思われる確認の返事が聞こえ、俺はそうだと唸るように答えた。最もそれは、ほとんどが階段のせいだ。
 ドアを開けてくれたのはアリシアだった。
 「遅かったじゃない」
 「いやいや、すまんな」
 中に入り施錠すると、他のメンバーは既に到着済みだった。全く、意図せずともまた今日も俺が最後だったわけか。
 メンバーはそれぞれ暗黙の領域を持っていて、自席とその周辺を好き好きにカスタマイズしていた。例えばアリシアで言えば爬虫類の置物や剥製、ベンはモデルガン、タナカは一目では判別しづらい機械類と言った具合だ。それらを飾ったり転がしていたり―いや、それはあくまで客観的な感想に過ぎない。
 ベンは実用的な用途はほぼないベネリM3を丁寧に磨き上げながら、周囲にぬいぐるみが散乱する席に座った俺に一瞥をくれた。すかさず俺も、口元を僅かに歪ませてそれに答える。
 「何してた?」
 「いや、ちょっくら道が混んでてな」
 「いつも最後なんだから困ったものね」
 アリシアが湯気の立つコーヒーを俺に差し出してくれたので、ありがたく啜る。相変わらず、彼女の淹れるコーヒーは絶品だ。
 一服着いた俺は、全員に向かって言った。
 「よし、これから『対ゾンビ広域検討会議』を始める!」

 ここ、「ゾンビ映画研究会」は、存外歴史のある部で早くも創立10年目を迎える。
 日々の活動は、専ら部室に備え付けられたテレビでゾンビ映画を垂れ流しつつ、適当に品評したり雑談したりといった具合でだらだら過ごすといったものだ。
 何故そのような怠けた態度でいられるかというと、この部は創立以来新入部員がおらず、かれこれ6年余り廃墟と化していたところを、俺が入部して復興させたからに他ならない。あくまで俺から言わせてもらえば、こいつらはハイエナみたいなやつらってことだ。
 最も、こいつらのことは嫌いじゃない。ゾンビ映画もゾンビも俺と同じぐらい好きだし知識もある。これまでにこいつらと過ごす時間が、一日の中で一番輝いていた日が何日もあったことは否定しない。恥ずかしいからそんなことは絶対口に出さないけども。
 そんな感じでもうすぐ1年が経とうとしていた先月に、タナカがネットで見つけたある記事によって、部内の方向性は多少変わった。即ちそれは、ブラジルにてアリの脳に寄生しゾンビ化させる昆虫奇生菌―学名:Ophiocordycepscamponoti-balzani―の発見というものだ。                
俺たちは色めき立った。
「こりゃあ…いわゆるゾンビパウダーなんかとは訳が違うぞ……!」
「確かに、今までにもカタツムリや蟷螂に寄生してその行動を操る生物はいたけど…これはなんだか、ゾクッとくるわね」
俺は情報提供者に質問をした。
「タナカ、他には何か書いてなかったか?」
 タナカは左手で妖しげな機械を愛でながらPCから顔を上げた。
 「特に…でも、未確認の奇生菌が他にもいるだろうという記述はあった」
 「だろうな…まあその時は俺のMP28が火を噴くわけだが」
 マガジンを取り出し、満足そうに装填のふりをするベンを鼻で笑いつつも、俺はこれはもしかすると近い将来人間へ寄生する菌類が発見され、猛威を揮うようになるのではないかという懼れと嘱望を感じていた。
 その日以来、不定期にメンバーの誰かが思い出したかのようにこの話題に触れては、各々のゾンビとの触れあいについて思いの丈を吐き出すといった活動が追加された。今まで全くなかったわけではないが、これまでは現実味がいまいち欠けていたためその分盛り上がりも少なかったので、このような燃料はまさに燻っていた俺たちのゾンビが蔓延る終末世界への渇望を燃え上がらせるには格好のものだったのだ。
 
 「ちょっと、ジョン!聞いてる?」
 「えっ!あっ……すまん」
 アリシアの声で意識を帰還させる。コーヒーカップを宙に持ち上げたまま、俺はこれまでのことを何故だか述懐してしまっていたようだ。
 「で、何の話?」
 「『ゾンビ野郎をどうやってぶち殺すか』だ」
 にたにたしながらベンが答える。全くこいつはクレイジーな奴だ。
 「まあ基本的には脳天をどうにかすることが一番だよな」
 「眉間に一発ぶち込めば勝ちだ」
 ベンは空虚な方向にベレッタを横に構え、撃つ真似をした。
 「全く…あのねえ、ここは日本なんだから銃に期待はできないわよ」
 「いや、そうはいっても警察署とか駐屯地とか銃砲店とか行けば銃の一丁や二丁…」
 「そんなところには生存者がいる可能性が高いのだから、まず私たちのほうがゾンビと間違えられて撃たれるかもしれないし、第一銃って簡単には扱えないの、貴方が一番良く分かってるでしょう?」
 大きなため息をひとつアリシアは吐いた。
 アリシアの言うとおりここは日本だ。では何故俺たちの名前が洋風なのか?それは単なる世迷言のようなものに過ぎない。もっと簡単に言えばせめて雰囲気だけでもと思って、ゾンビと言えば西洋人ということで、その名前という括りで渾名の付け合いをしたからである。アリシアはブロンドのような髪色に高身長という容姿と、極めて冷静かつ論理的にゾンビについて語るところが大人びているように思えるから、ベンは真っ黒に日焼けして坊主頭だから、タナカは……ああこいつは見た目が「タナカ」だからだった。そして俺はゾンビ映画に良く出てきがちな白人のリーダーのような顔立ちをしているからだそうだ。渾名というのは、大抵取るに足らない印象で決まるものだから、大して気にはしていない。
 「武器ならやはり、シャベルが効果的かつ汎用的だと考えられる」
 唐突にタナカが意見を出してきた。今日も相変わらず七三分けが綺麗に決まっているが、眼鏡のレンズが虹色の輝きを放っている。珍しいこともあるものだ。
 「シャベルか……」俺は想像してみた。ホームセンターや資材置き場なんかに雑然と存在するシャベルで、ゾンビどもの脳天を破壊もしくは首を切断するところを。なるほど確かに、ゾンビ映画でシャベルはマイナーではあるが、現実世界での使い勝手や入手のしやすさなどは一級品なのかもしれない。
 「いいんじゃないか。やっぱりこの日本ではそういった打撃武器が一番理想的だよな」
 「そうね。どうしても銃が頭にちらつくけど、それは実際難しいし、かといってナイフや鉈なども、刃毀れや破損の可能性が高そうだから、メインでは使いづらいわね。そうなると、ここは武器の枠に囚われない柔軟な発想が必要よね」アリシアは腕組をしながら俺の意見に賛同してくれた。良い女だぜ全く。
 「ちっ…しかしよお、全員が全員シャベルでいいっていうのか?普通マシンガン、ショットガン、ライフルとかで攻撃の役割分担するもんじゃねえの?」
 ベンは銃が否定されたことに不満らしいが、俺とアリシアの説得は諦めたようでタナカに突っかかっていった。
 「もちろん、チーム全体の戦闘力やバランスを考えれば、必ずしも良いとは言えない」タナカのその発言に、ベンは悦びを隠し切れない表情を浮かべる。「しかし、日本の銃浸透率や入手率の現状、そしてゾンビ以外の怪物の出現率が検討不能な面を考慮すると、なまじ遠距離武器を求めるべきではない。とりあえず最悪でも自分の命が守れ、かつ武器の補給に手間がかかりにくいことを最優先したほうがよい。銃は、弾薬の面でも大きな問題がある」
 きっぱりと、タナカはベンを否定した。ベンは口を開けたまま、放心の一途になってしまった。
 ここまで否定されると同情しないでもないが、少なくとも俺たちの中では銃については期待をしないという方向で落ち着きそうだ。
 「それで、実際の立ち回りについてだけど」
 アリシアが艶美な髪をかきあげながら言う。
 「ああ…基本的には、物資と篭城を兼ね備えられるスーパーやショッピングモール、それが無理ならとりあえず適当な建物に向かうという策があるが…」
 俺は部屋にひとつしかない窓を閉めながら自分の考えを晒した。雨が降ってきたし、そのせいなのかどうにも鼻持ちならない臭いがするからだ。
 「その篭城という発想はあまりに安直過ぎる」小さな舌打ちをひとつして、タナカはPCを閉じた。
 「なぜだ?当面の食料や環境保全には適しているとは思うが…」
 「第一に、スーパーやショッピングモールは物資こそあれ、その分生存者並びにそれに引き付けられたゾンビが押し寄せやすい。第二に、食料はいずれ腐敗する。その時にどのように処分するのか?どのような方法でも、多少なりとも危険が付きまとう。そして最後、物資を全て消費した後、どうやってそこから脱出するのか?ゾンビどもの自然消滅を期待するのはハイリスクだ」
 タナカの言うことは正論だった。確かに、回らない頭でとりあえず逃げ込んだ建物に起死回生の秘策が思い付けるような物資があるとは言い切れないので、そうなればまさに緩慢な死を迎えるだけの存在となってしまう。それでは結局意味がない。
 「それなら、ずっと移動し続けるのがいいってこと?」
 「短絡的に言えばそうだ。理想論を言えば、食料や他の物資は行く先々で補給しつつ、移動を繰り返したほうが良い」
 「しかしどこか目的地決めたほうがいいんじゃねえか?闇雲に動いてもそれはそれでモチベーション保つのしんどいと思うぞ」
 「ベンの言うことは一理ある。俺も移動を繰り返すのは……」
 タナカは無言で、鞄から地図を取り出した。
 「君達の言うことは分かる。ではどこを目的地とするべきか?」
 全員が立ち上がり、タナカが広げた地図を睥睨した。3万分の1の縮尺で記されたそれには、馴染みのある地名が点在している。
 「目的地にするとしたら……ここらへんとかどうかしら?」
 アリシアが指差したのは、内海に浮かぶ島だった。恐らく人がいないもしくは少ないことから、その分ゾンビとの戦いを避けられると踏んでの提案だろう。
 「いいんじゃないか」俺はあっさりと同意の言葉を口にした。
 「いや」二人が同時に発言し、君からという顔でタナカが促した。
 「それだと、ゾンビどもをぶっ殺せねえじゃねえかよ!そんな場所でぬくぬくと生活したところで何の楽しみがあるっつーんだ!」
 「お前、さっきと言ってること違うじゃないか……移動を繰り返さないほうがいいんだろ?」
 「いやそれはそうだが、あくまで目的地はゾンビがいる陸地に限ってと思っての発言だったわけだ。適度に奴らがいねえと、生活にハリがでないぜ」
 レミントンM1100を振り回しながらベンは喚いた。どこまでクレイジーな奴なんだと俺は肩を落とす。
 「タナカの意見は?」アリシアが聞く。
 「私のはもちろん、こんな酔狂なものではない」ベンに対する冷めた目線がかえって清清しい。
 「離島では、確かにそこが元々無人島の場合はそこを拠点とすることで、当面の身の安全は確保できるだろう。物資については、時折本州へ戻る必要が何れ出てくるので、その時だけ気をつけなければならないが。しかし、離島は逃げ場が少ない。辿りついた離島が、傍目には安全に見え、上陸した途端実際はゾンビまみれだったらどうするのか?逃げ場が少ない分、奴らにやられる可能性も高い」
 確かそんなエンディングの映画があったな……。あくまであれは作られた強襲だが、だからといって無下にはできない。
「さっきからお前、リスクばかり言ってるけどなあ、それならどうすんだよ!わかりにくいわ!」
 さっきから否定ばかりされている男が噛み付いた。
 「戦闘狂にも分かるように言えば、とりあえず私としてはここを目指すべきだと思う」
 そう言ってタナカが指差したところは、あろうことか今俺たちがいるこの町だった。
 「ちょっと待てよ」たまらず俺は口を挟む「意味がわからない」
 「説明不足だった」
 タナカは鞄から先ほどと似たような紙を数枚取り出し、その中の一枚を新たに机に広げた。
 それは、下水道の地図だった。
 「こんなもの一体どこで……」彼女の疑問は最もだった。
 「市役所の下水道課に行けば造作もない」
 俺は何となく把握できたので、直接聞いてみた。
 「つまり、下水道に逃げ込むということか?」
 「大まかに言えばそうだ。まず地上にてできる限り食料と物資を回収し、適当なマンホールから下水道に侵入する。恐らく一定区間内に詰め所のような場所があるはずだから、地図を参考にしながらそこを探し、一旦そこに身を置くというのが私の策なのだが君たちはどうだろうか?」
 「その、食料と物資というのは具体的には?」
 「俺はスコッチとタバコさえあれば問題ないぜ」
 言っているそばから、ベンはタバコに火を付けた。すかさずアリシアがやめなさいと言うも、もういいじゃねえかと言って美味そうに煙を吐き出す。
 ああ、俺も一本…いやしかし、マナーはマナーだ。いつの時でも、最低限の人間性と社会性ぐらいは保持しておきたいというのが俺の信条ではある。一応だが。
 「食料については、およそ10日分確保できれば上等だが、そう思惑通りに行くとは思えない。よって保存が効きそうなものを『持てるだけ』持つことを念頭に置いておけば間違いないだろう」
 「まあそうなるか……」俺は頷きながら同意した。
 「物資は…大体地震なんかの災害時に必要とされる非常用袋に入っているようなものを候補としておけばいいかしら?」
 「大まかにはそれでいいはずだ。その中でも懐中電灯とマスクは何としても確保したい」
 「下水道は暗いし不潔だからな……」
 俺の想像に呼応するかのように、向かいの電線に止まっていたカラスが大きく一声鳴いた。普段なら気にも留めないであろう一声に、俺は嫌な予感を感じた。
 「まとめよう。武器はシャベルを第一候補とした鈍器類、立ち回りは地上で必要なものを回収した後、下水道に潜ると言った感じだな」
 「ただし問題点がある」タナカは漸く自身の眼鏡の汚れに気づいたのか、丹念に拭いていた。
 「なんだ?」
 「マンホールは開けなければならないので、その工具を集める必要がある」
 「言われてみれば…」
 「おい!ここにバールならあるぜ!」
 ベンが戸棚を開け、これみよがしに高々と持ち上げた。何でそんなものが戸棚にあるんだ……
 「僥倖だ。しかし全てのマンホールがそのバールで開けられるとは限らない」
 「そうなの?」
 「形状が特殊であったり、殊更巨大なものの中にはオープナーが必要なこともあるらしい。また大抵のマンホールは老朽化しているため、マイナスドライバーやハンマーを用いらなければならない可能性が高い」
 「ハンマーはあったぞ!」
 ベンは机の上にそれを置いた。多少小ぶりだが、問題はなさそうだ。
 「じゃあ、後はマイナスドライバーだけね」
 「ちょっと思ったんだが」俺は不意の疑問を抱き、ゆかいな仲間たちに問いかけた。「服装はこんな感じでいいのか?あいつらに少し噛まれても大丈夫なもののほうがいいような気がするんだが…」
 全員の服装は概ね一般的な服装で、対ゾンビに適しているかというと不透明に見える。特にアリシアは肩から下と素足が剥き出しなので、人間もゾンビもそそられる格好と言えばそうなるが、そいつは絶対に言えないな。
 「難しい質問だ」
 「そもそもよお、間違いなく接触感染というふうには断言できないんじゃないかよ?」
 「うーん……ゾンビ映画では多用される方法ではあるがなあ……」
 「映画は映画、現実は現実よ」
 アリシアは努めて冷静に言った。
 「ゾンビ化の原因がウイルスや細菌であれば、接触感染または空気感染と考えるのが妥当だろう。しかし寄生虫であった場合、十中八九それは経口感染によるものと考えるのが自然だ」
 「ということは寄生虫ならゾンビどもに攻撃されても感染しないってことか?」
 「恐らく。ただし体液が体内に入った場合はその限りではないが」
 俺の脳裏に、先月読んだあの記事が浮かぶ。新種もしくは突然変異で、人間に寄生するとも限らない昆虫奇生菌の存在……
「しかし寄生虫だとしたら、経路がよくわからないのだが……」
「例えば空路で入ってきた食料に付着していて、それが何らかのミスにより流通してしまったり、何者かに水道水に混入され人々が知らずに摂取してしまったりしていたら、例え小規模でもパンデミックが起きても不思議ではない。ただ個人的には、どういった原因でゾンビが発生したのかを考えるよりも、生き残ることを優先すべきであると思う」
「科学者や政治家でもない私たちでゾンビ化の原因を突き止めるなんてほぼ不可能だから、私もタナカと同意見だわ」
 「確かにな。感染についても、やはり攻撃されないことが一番だろう。感染せずとも、攻撃されれば運が悪いと失血死なんてのも有り得るし」
 「そのためにもできるだけ露出を控えた服装がいいのね」アリシアは自分の腕を擦っていた。
 「服は適当なものを探そう。今の時期はちょっとばかし暑いかもしれんが、とりあえず上着だけでも長袖のがいいな」
 「そうね」
 「タナカあ、下水道に潜るまではまずはスーパーかどっかに行くのか?」
 今日一番のまともな質問に、タナカは淡々と答える。
 「そうだな。食料の確保が先決だ。幸い大学の裏手にあったはずだから、ひとまずそこを目指すのが良い」
 「スーパーなら懐中電灯やマスクもあるだろうしな」
 その時、俺は微かな前兆を感じた。非常階段が使用されている音だ。古い金属が揺れる音が低くバラバラに響いてくる。
 他のみんなもその音に気付いたようだ。各々に緊張のベールが纏われてきているのを、俺は確認できた。
 「おい……」
 「わかってるわ」
 アリシアは自分の席から、一番のお気に入りだと公言していたインドガビアルの剥製を拾い上げる。ベンは64式7.62mm狙撃銃を肩に担ぎ、タナカはアニメかなんかに出てきそうな電磁砲のようなものを両手に持った。
 俺はと言えばこの前ゲーセンで苦心して取った巨大なツキノワグマのぬいぐるみを抱えた。こいつを置いていくわけにはいかない。しばらくは、俺の身を守ってくれ。
 「なんだあ?おまえらそんな得物でいいのかよ!」
 「シャベルが手に入るまでの我慢って言えば、この子に失礼かしらね」
 「私のは先々でバッテリーさえ補充できたら、十分すぎるほどの得物だ」
 「俺もでかいし何とか……」
 与太話はノックの音にかき消される。ドン、ドドドン、ドンドドッドドドン。こんな不規則なノックの義務がある部員は居ない。
 ほどなくして、音と共にドアの曇りガラスにべったりと付着した血糊と人影が、終末世界への序曲を奏でる。遂に俺たちは、この世界に身を投じることとなったのだ。
そして俺たちからは、滔々と芽吹いた悦楽と恐怖が煮沸され、芳醇な香りを漂わせてきていた。

evergreen 2011年09月29日 (木) 22時15分(38)
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