| クソドラマ |
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[19]
「 そうだとしたら、その悔悟の痛みは然程ではない。取り越し苦労の安堵が何倍にも勝るだろうと思い、それを秘かに願った。 」
[18]「 別に入口があるのか。私は生け垣の、鉄柵の向こうから、人々を見つめることに夢中になりすぎて、回り込むことを忘れているだけだとしたら? 」
[17]「 だとすれば、やはりそれは何故なのだ。何故私を劃るのだ。本当は私以外の何かを遠ざけるために設えたものだが、私も運悪く一緒にされているのだろうか。 」
[16]「 それともやはり、私自身は城壁など作ってはおらず、ただ私と他所の人との間に、彼らの設けたそれがあるのかもしれない。 」
[15]「 誰かが私にこれを作ることを命令したのかもしれない。一体誰が?何のために? 」
[14]「 私は何時からこの壁が、私と他の人達との間にできてしまったかを考えてみた。とするのは、これは初めからずっとあったものとは思われないからである。なんなら、自分から、私の砦を築くようにして建設したものではないかという気さえした。 」
[13]「 甘酸っぱくて、ほろりと崩れるこの小さな実は、食べるのは精々、村の子どもたちと獣たちである。まだ5月の冷たさの残る中、柔らかな葉を開いて、新緑の景色の一人に参加している。 」
[12]「 キイチゴの木が道端に生えている。キイチゴの中でも、雑草のようなやつがあって、実際、こんな風にタンポポなんかと混じって生えていることが多い。ブドウや桃の様にはこれを有り難がる人は居ない。大抵は土埃を被って人々に忘れられている。 」
[11]「 そう考える根拠は全然無いのだけれど。 」
[10]「 もしかしたら私達が生まれてくる時に、一度破った筈のものかもしれない。 」
[9]「 この壁が溶けて無くなることを願っている。これは氷なのか?はたまた砂糖なのか。温かさがこれを溶かすのか、はたまた、水を掛ければ溶けるだろうか。いや、煉瓦かもしれないし、鉄かもしれない。意外にガラスかもしれない。勇気と敢然さを持って蹴破れば、容易く割れてくれるだろうか、辺りに散らばる破片と共に。 」
[8]「 それに対して、どうしてだろう、人との間には、手で触れて感ぜられる垂直の壁があるようにすら感じるのだ。それは眼前に迫っていて、遠く私を隔てている。 」
[7]「 私もおかしいと思う。ただ少なくとも、手探りをしていく中で、何か硬い殻に触れた時のような違いは、彼らとの間に感じないのだ。 」
[6]「 垣根などあるのだろうか。私と彼らとで何が違うのだろう。そんなことを言えばきっと笑われる。『そりゃあお前、違うに決まっているじゃないか。見た目から何から…それともお前、毛むくじゃらで、いや、鰓呼吸でヒレがあって泳ぐのかね?』 」
[5]「 餌にありついた瞬間に、あらゆる生き物が、栗鼠であれ、鳥であれ、蜥蜴であれ、ほっとしたように、周囲への警戒を弱める瞬間が、なにか人間とそれ以外との垣根を忘れさせてくれる気がしていた。 」
[4]「 彼らは鳴きもしないし、喜びの表情も浮かべないが、それなのに、一心不乱に餌に飛びつく様がどうしようもなく愛おしかった。 」
[3]「 子供の頃、蟻に甘いものをくれてやるのが好きだった。 」
[2]「 食べるとは真に大事である。人間色々な考えや、趣味などというものはあるが、空腹の恐ろしさと、食事の喜びというのは、断じてどんな悪人であれ善人であれ違いはないのである。 」
[1]「 かつてこの地ではろくに作物が育たなかったという。それで各地には豊穣の神様が沢山祀られていて、当時の苦労を忍ばせている。 」