草木としっとりとした土の自然のやさしさと生命力に満ちあふれた匂いが、柔らかな春のそよ風に運ばれ、

深緑の木々に覆われた宿舎を包み込み、このドルケ孤児院に柔らかでのどかな風景と時間を提供していた。

「うらあああああ！！」そんなのどかな風景を破る声が辺り一面に響き渡った。

木刀を持った少年が少女に向かって突進していく。黒髪で黒の中に光があるような輝いた目をしている少年、年の頃は

十五、六歳程だろうか、年齢にしては良く鍛えられた身体をしている。

「相変わらず品性の欠片もないわねぇ、オーサ」

呆れ顔で答えるも、健康そうに日焼けした小麦色の手に木刀と構えその琥珀色の瞳にオーサを見据え初撃に備える。

「らあ！」とかけ声とともに振り下ろされた木刀を受けずに、燃えるような真紅の長髪をたなびかせ避ける。

避けられた木刀はそのまま地面に叩きつけられ、大地をへこませ、辺りを土の匂いが包んだ。

「あたらなきゃ意味ないわよ、こんな風にね。」無防備になったオーサの頭に木刀が振り下ろされる。

直撃したかに見えた木刀はなんとか彼の左腕で受け止められていた。「ぐっ、つぅ」左腕を駆け巡る痛みに顔をゆがめ

ながらも

なんとか木刀を振り反撃する。が、とどかない。

「いつも通り、バカ力と頑丈さだけが取り柄ね」見下した冷めた口調でそう評価する。

「それが俺の能力だから、なっ！」声とともに突きを繰り出すが胸の前をかすめるだけだった、が言葉による攻撃を忘

れない。「あ〜あ、おまえにまともな、お山があったらあたったのによ。メイル。」とかすめた彼女の平原に目をやっ

た。

ブチり！・・・・・・何かが切れる音がした。

ふと見ると、目の前には全身を細かく震わせ、真紅の髪を実の炎のようにゆらゆらと揺らめかせている先程まで冷静

だった女性がそこにいた。

彼女の心に憤怒の炎が燃え拡がっていく！

「今日も痛い目みたいらしいわねぇ！」右手の木刀を前に突き出し、左手を腰に当て、彼女の平原を張ってさけんだ。

琥珀色だった目が紅玉のような光を帯びている。その真紅の髪と共に周りの風景が揺れ始めた。

「迷える蜃気楼」言葉と共に、彼女の姿がぼやけ、薄れるとともに、オーサの周りを五人のメイルが取り囲んだ。