[77] それが人の心理と言うもので |
- 日時:2020年03月29日 (日) 11時08分
名前:加賀谷 竜徒
財政赤字───と言う程に逼迫している訳ではないが、かと言ってガーデンの資産は潤沢と言う訳ではない。 一騎当千の傭兵を養成する場所でありつつ、一般的な教育機関としての役割を備え、其処に習う少年少女の家でもあるガーデンは、様々な面で金銭的負担が要される。 魔女戦争以前は、良くも悪くも金にがめついマスターがいたので、賄う所が賄えるように運営が回っていたようだが、現在のガーデンは各校ともに少々難が起きている。
ガルバディア軍のミサイル攻撃によって壊滅状態となったトラビアガーデンは勿論、魔女率いるガルバディア群の要塞として一時奪われていたガルバディアガーデンは、それぞれの立て直しに長い時間と労力が必要とされるのが目に見えていた。 “伝説のSeeD”を擁する事となったバラムガーデンは、そう言った点では幸運にも───少なくはない被害はある事は見過ごせる事ではないが───健全な形で在り続けている。 しかし、経営を担うマスターであったノーグを喪った穴は、決して小さくはなかった。
“月の涙”の影響により、世界中の魔物の生態系が崩れ、比例して獰猛さを増した魔物達の退治を求める声は、毎日毎夜、バラムガーデンへと『討伐依頼』と言う形で寄せられる。 それ自体は、ガーデンを経営・維持して行くに辺り、嬉しい事と言わざるを得ない。 何せ依頼と言うのはガーデンにとって大事な収入源であり、今後も存続して行く為には必要不可欠なものなのだ。 “魔女戦争”と言う大きな闘争を終えても、ガーデンは失う訳には行かない。 其処で暮らす、其処でしか自分の居場所を持つ事が出来ない、子供は勿論、大人の為にも。
しかし、その依頼を熟していればガーデンが維持できると言う、単純な話でもない。 世界に三校が設立されたガーデン機関は、それぞれが独自に運営されてはいたものの、現状でもその状態を維持するのは難しい。 特に壊滅状態となったトラビアガーデンは、まだ復興の始まりも始まりと言う段階で、あらゆる面で足りないものばかりであった。 ガルバディアガーデンは、ぽつぽつと生徒や職員が戻ってきているそうだが、元通りの教育機関として再出発するには、長い時間がかかるだろう。 ガルバディア政府から、ガルバディアガーデンのみならず、ガーデン機関そのものに支援をする声もあると言うが、過去の衝突がある事や、ガルバディア政府の不穏さを鑑みると、諸手では受け取れないのも事実。 こうした二校の立て直しの為、バラムガーデンはその懐から様々な分野にかかる費用を立て替える姿勢を取っており、これがバラムガーデンの財政状況に負荷を与えていた。
こうした事情を抱えている為、バラムガーデンは質素倹約を基本としている。 元々、マスターノーグが全く生徒の前に出て来る事をせず、生徒と接しているのは学園長であるシドだけであった事や、全体の校風もあり、日々の生活で贅沢を欲しがる声はそう多くはない。 だが、依頼が来て任務に出るとなれば、少々の余裕を求める声は、ちらほらと上がっていた。 例えば任務地に行く路に使える公共交通にかかる費用であるとか、摩耗した装備品を補う為の費用であるとか、利用するホテルのグレードであるとか、支給される食糧の質だとか。 蓄積される疲労を如何に減らし、万全の状態で任務に臨むには、どれも欠けてはならない事だ。 バラムガーデンの運営を直に担う事となってしまった、スコールを初めとしたSeeD首脳陣も、自分達にとっても同様の話なので、それは理解している。 だが、だからと言って、気軽にランクの高いものを準備できる程、余裕がある訳でもない。 自身も現場任務へ行く傍ら、此処はもう少し金をかけた方が良い、その為には此方を削るか、彼方を割くか───と頭を巡らせて、優先順位を定めて行くしかなかった。
こうした大きな会社の類を経営運営するに辺り、最も金がかかるのは、人件費だと言われる。 “人件費”と一言で言っても、その内訳は様々なもので溢れており、任務への移動費、宿泊費、経費落ちとされる食事代、装備品の調達費用、そして任務成功の暁の給与と、大まかに上げてもそれだけのものが含まれている。 これらをどうやって節約し、且つ質を落とさず、派遣員のモチベーションを下げないかと言う問題は、一朝一夕で解決できるものではなかった。
現在の所、バラムガーデンの節約術は、公共施設の利用数を出来るだけ減らす事に向いている。 任務地が近い者同士で同じホテルを取り、部屋を一つにして、宿泊費用を安くする。 移動も出来るだけ同じタイミングにさせて団体チケットを使って電車賃を抑えたり、車や揚陸艇の燃料費を抑えている。 その団体移動の中に、個人で行う任務を回した者も入れていた。 単独行動が出来る筈の任務なのに、その前後を他の予定で縛られる事に不満の声もあるが、贅沢をしたいなら差分を給料から天引くとなれば、大体のものが黙る。 任務の為にかかる必要経費と言うのは、個人の懐で気安く賄える数字でもないのだ。 とは言え、仕事環境が労働意欲に反映されるのも事実であるので、出来るだけバランスが取れるように、ガーデンの現首脳陣は頭を悩ませている。
任務による移動の経費を削る為、団体移動を強いられるのは、指揮官に就いているスコールも同じだった。 派遣先を同じくした、他任務のSeeD達に混じり、電車や船で移動する。 忙殺される日々を送っている為、腐らせている状態の貯金を使って少し豪奢な真似をしても良いのかも知れないが、それはそれで後から面倒な文句が付いて来そうで辞めている。 だから、移動だけではなく、宿泊に関してもスコールは他のSeeD達と同じ条件で過ごす事が多い。 指揮官と言う立場に在る為、スコール自身が他者の目の在る場所で気が抜けない事や、同室を取って平然と過ごせる者が限られる事もあるので、一人部屋を宛がわれる事も少なくはないが、使うホテルのグレードは他のSeeD達と同様のものとなっていた。 そして一人部屋ではない場合、其処に入る事になる同室者は、大抵彼の事をよく知る幼馴染メンバーになるのである。
ドールに派遣されたスコールの今回の任務は、式典の警備だった。 春が目の前に見える気候となるこの時期、ドールは頻繁に某かの式典か催し物を行っている。 都市規模で行われる式典には、各国の要人も来賓として訪れる為、警備強化が必要なので、毎年ガーデンに要請依頼が寄越されるのだ。 賑々しいパレードが行われる傍らに、正装であるSeeD服に身を包んだ若者達が並ぶ。 華やかな場面にも見合うように仕立てられたSeeD服は、パレードの雰囲気を壊す事なくマッチングしていた。 特に人目に付き易い、花形となる位置には、指揮官であり“伝説のSeeD”であるスコールがその場所の警備を担う事で、パレードの観客達には一層の興奮を誘ったようだ。 それがSeeDの派遣を街に提案した依頼主にはお気に召したようで、次回の催し物の時にも、是非ともスコールを含めたSeeDに警備を依頼したい、と言っていた。
警備任務は大きなトラブルもなく、恙なく終わった。 スコールの所に寄せられた事件報告は、酔っ払いが道端で大の字になって大声で喚いているとか、飲食店に性質の悪い客がいたとか、それ位のものだ。 デリングシティやティンバーのように、テロリストかレジスタンスを名乗る輩が出て来ない分、平和なものだと思ってしまう位だった。
それでも、数時間に渡るパレードを警備し、その後も式典のプログラムが全て終了するまで、スコール達の仕事は続く。 ガルバディアとは別の意味で、キナ臭い事や不穏な事が見え隠れするのがドールと言う国だ。 最後まで何も起きないと言う保証はないから、スコール達は気を引き締めて任務に当たった。
夕方、ドール市長の挨拶を持って、今日の式典は終了した。 その後も街のお祭りムードは続いており、出店が自前の灯りを灯して夜店になった頃に、SeeDの仕事は終わった。 終われば傭兵としての仮面が脱げ、まだ年若い少年少女の貌が露わになる。 夜店巡りに向かう部下を、スコールは止めなかった。 当然の事ではあるが、問題を起こさない事、明日の帰還出立の時間に遅れない事を釘差して、後は自由だ。 張り詰めた糸が切れた少年少女達は、各々の癒しを求めて、街やホテルへと散らばって行った。
スコールは真っ直ぐにホテルへと帰っていた。 元々お祭りムード満点の式典自体が彼の好むものではなかったし、お堅い形のプログラムが終わった後は、本当にバラムの夜祭と同じような雰囲気が広がっていた。 そんな場所に長居したがる性格ではないので、さっさとホテルに戻って休むに限る。 朝から着用し続けたSeeD服の襟を緩めたくて、帰る足が少し早くなった自覚はあった。
ドールのホテルは、グレードの幅が広く、その内容も少々極端な所があった。 バラムであれば、最上層にあるスイートルームは当然ながら高く、サービスも色をつけているが、低グレードとそれ程大きく差がある訳でもない。 バラムの場合、高グレードの部屋と言うのは、景色が良いだとか、部屋の内装が凝っていると言う所に差が出ている。 ガルバディアはホテルの立地条件が値段に大きく影響している他、地区毎に富裕層・中階級・低所得層と言った具合に分かれていた。 サービスについては、ホテルそのものの質で分けられると言って良いだろう。 富裕層を目的としたホテルなら、値段の違いは部屋の広さや内装の豪華さ、中階級なら部屋の広さ、低所得層ならとにかく安い事を目当てにした客が来るので、サービスについては聊か不明瞭な所も多く、内部の設備についても余り良い話は聞かない。 これらに対してドールはと言うと、一つのホテルの中で、上から下まで網が大きい。 上層は富裕層に、中層は一般層に、下層は素泊まりだけと言った具合だ。 低グレードの中でも更に安い値段のホテル・部屋を選ぶと、水が出ない、湯が出ない、電気が落ちる、雨漏りがする、と言った話が実しやかに流れている。 全てがそうだと言う訳ではなかったが、そう言う所も事実として存在していた。
任務による宿泊にかかる費用は、出来るだけ抑えたいものだが、かと言って余りに酷い環境を用意する事は出来ない。 今回スコールが泊まるホテルは、可もなく不可もなく、上手い具合に中級、と言った所だった。 ルームサービスの類はなく、食事は二階に入っているレストランが使える宿泊プランがあるそうだが、今回のスコール達に其処に行っている暇はなかったので、その分割安にされている。 部屋にある備品は、小型の冷蔵庫が一つ、鍵付き金庫が部屋の利用者数分、年式の古い駆動音が大きな空調機械。 風呂はなく、四方1メートル程度の広さのシャワールームが付いていた。 式典警備の仕事である為、それなりの大人数である事や、式典目当ての観光客も多い事もあって、選べるホテルは限られていたのだが、大ハズレを引かなかっただけ十分だ。
用意され宛がわれた部屋の鍵を外し、その扉を開けながら、スコールはSeeD服の詰襟を緩めた。 形の所為もあるのだろうが、身に着ける場面が場面である事が多いだけに、着用すると否応なく身が引き締まる思いがする制服。 スコールの場合、指揮官と言う立場もあって、余り人前で着崩す事は出来なかった。 人目の一切が気にならない場所に来て、やっとスコールは“SeeDの指揮官”の仮面を脱げるのだ。
「…ふう……」
零れた吐息と一緒に、肩の力も抜けて行く。 このままベッドに倒れ込みたい気分だったが、その前にシャワーを浴びたい。 任務中に然したるトラブルはなかったが、日中、春の陽気の陽射しにより齎された恩恵が、SeeD服を着込んだ体には辛かった。 服の中でじっとりと冷えた汗を流しておいた方が、きっと気持ち良い眠りを得られるだろう。
そう言えば、食事はどうしよう。 警備をしている間、携帯していた栄養補助食品を胃に突っ込んだだけで、後は何も食べていない。 時間から見て夜食と言う頃合いだが、せめてもう少し何か入れておいた方が良いだろうか、と考えていると、
「おう。終わったのか」
聞こえた声にスコールが顔を上げると、小さな丸テーブルの前で椅子を陣取っているサイファーがいた。
如何にも腰が重い様子で、頬杖をついて此方を眺めるサイファーは、今回の警備任務の人員には入っていない。 彼は全くの別件だ。 ドール近郊で新種の魔物が確認された為、その生態調査及び危険種と判断されたら即時討伐───それがサイファーの任務だった。 任務地と依頼のタイミングが上手い具合にスコールの警備任務と重なった為、キスティスが彼の分も移動手段と宿泊地も手配したのだ。 お陰で、今回のスコールは、一人部屋占拠の運には与れなかった。
「そっちの首尾はどうなんだ」
スコールがジャケットの前を開けながら問うと、サイファーはテーブルに置いていた一枚の紙をひらりと差し出す。 脱ぐ手を止めてそれを取ると、内容は報告書の草案のようだった。
「該当ターゲット……ガルキマセラ?月の魔物か」 「ああ。エスタの周りにしかいなかった筈だが、こっちまで出張って来るようになったようだな。この辺りの連中が見た事がないし、新種だと言ったのはその所為だ。魔物の割には知能があるし、船舶にでも密航した可能性もある」 「数は?」 「確認したもので十三体。そいつらは片付けて、作りかけの巣も燃やした」
サイファーの説明の通りの事が、草案には綴られている。 走り書きのそれを綺麗にテンプレートに纏めて提出すれば、彼の仕事は終わりだ。
魔女戦争の終結以降、世界に生息している動植物の生態系は、変化の始まりを見せていた。 “月の涙”により飛来した魔物は、当初はそのポイントであったエスタ大陸を棲家としていたが、あの地の生存競争は元々過酷であった。 海抜が高く海の恩恵は遠く、河川も殆どない為、緑が育たず、荒涼とした景色が何処までも続く。 農耕の発展を望むには難題が多く、故に彼の国の人々は、人工的な力を発展させるようになったのだろう。 人間は都市を作り、其処で生活に必要なものを賄うようにと知恵を搾って行ったが、動物や魔物は互いを食い合う弱肉強食の社会を続けている。 そうして自然淘汰されて行く生態系は、生き残るもの程、凶暴で貪欲なものとなっていた。 其処に新たに投入された生命もまた、月と言う厳しい環境で生き延びていた事から、競争は激化の一途を辿っていた。 そんな中で比較的身体能力に劣る面がある生物は、代わりに発達させた知能を使い、生息域を変えると言う手段を試み始めていた。 ガルキマセラがドール近郊に現れたのは、そう言う流れの一つなのだろう。
(仕事が増えそうだな……)
“月の涙”の事後処理の一つである、関連する魔物の討伐依頼は、エスタから頻繁に寄越されている。 金払いが良いので断る理由もなく、事の発端とも言える事件を起こしたサイファーに都度任務を回せば、“戦犯”の肩書がついて回る彼の更生ポイントとして利用できる。 度々エスタと言う遠方へ派遣される事を、サイファーは時々愚痴混じりにぼやいているが、立場上、彼に拒否権はない。 とは言え、全ての討伐任務をサイファーに回せる訳もなく、日を追うごとに増えている似た類の依頼は、その危険度の性質もあって、宛がえる人員に限りがあり、スコールのスケジュールを塗り潰す要因の一つともなっていた。
依頼が多いのは良い事だ。 それがなくては、ガーデンの収入がなくなってしまう。 しかし、人手不足は一朝一夕では解決しない。 なんとかして打開策を練りたい所だが、安易に人員を増やす───SeeD就任の壁を低くしてしまうと、質が落ちてしまう。 傭兵と言う稼業の危険性を思うと、安直な真似は許されない。 そう考える結果、現在の人員をギリギリで回す事しか出来ないのだった。
ふう、と漏れたスコールの吐息は、溜息だ。 帰ってから考える事が増えた、と蒼の瞳が判り易く面倒臭いと言う顔をしている。 が、スコールはふと、直ぐ傍から圧のようなものを感じて、其方を見た。
「……なんだよ」
圧の正体はサイファーだ。 頬杖を突いた格好で椅子に座ったまま、碧眼がじっと此方を見詰めている。 瞳の奥に見覚えのある獰猛さが潜んでいて、スコールは首の後ろがちりちりとするのを感じた。 その感覚に対抗するようにか、或いは特定の相手に対する反射反応か、スコールがサイファーを睨み返していると、「いや、」とサイファーは微かに口角を上げて言った。
「いつもお堅い格好だとばかり思ってたんだが、こうして見ると、そう悪くもねえなと思ってよ」 「何が?」 「その格好」
言ってサイファーが指差すのは、詰襟を緩めたSeeD服。 スコールはぱちりと瞬き一つして、ジャケットの前を摘まんで広げる。
普段、SeeD服を着ているスコールを見て、『指揮官サマ』『英雄サマ』等と厭味ったらしく言ってくるのは、目の前の男だ。 式典の場でも見合うようにと言うデザインに対し、新米SeeDが指揮官等と言う大層な役職を得てしまった事も含んで、箔付けするにはそれ位大袈裟な方が似合うだろうとか。 サイファーの好みとも遠い事もあって、余り彼の良い琴線には触れないものだとばかり思っていたのだが、今日は何か違う発見でもあったのか。
「……着たいのか?」 「別に」
そう言えばこいつも一応候補生だった、と思い出して、憧れでもあるのかと言うニュアンスを含めて訊ねると、サイファーはばっさりと切り捨てた。 そう言う意味での興味はない、と言う事か。 では何故突然そんな事を言い出したのかと思っていると、サイファーは続ける。
「お前が着てるのか良いんだよ。上から下までかっちり着込んで、お堅くとまって見えるのが良い」 「なんだ、それ。意味不明だ」 「判んねえか?お前、ムッツリの癖に」 「は?」
にやにやと笑いながら言ったサイファーの言葉に、スコールの声のトーンが下がる。 眉間に深い皺を刻んで睨むスコールに、サイファーは「おっかねえな」と心にもない事を言いながら、
「ガードが固いと燃えるだろ」 「意味が判らない」 「色々崩したくなる、脱がせたくなるって話だ」
その言葉を聞いて、───ああ、とスコールも合点が行った。 厳重に守られるもの、封に閉じ込められている物ほど、開けたいと言う心理を煽る。 それが宝箱であれ、遺跡の封印であれ、人の好奇心を刺激する物に鳴り得る事は、歴史が証明していた。 そして人から人に対してもそれは同じ事で、頑なな態度を取る者に対し、それを切り崩す事に執着を持つ者もいる。
含みを持ったサイファーの笑みを、スコールは冷めた目で見下ろしていた。 その冴えた蒼の眼差しが、サイファーの支配欲を刺激する。 それが判り易く体に反映されている事に、スコールも気付いた。
「……欲求不満なのか、あんた」
問うスコールに、サイファーは答えなかった。 にんまりと片眉を上げて、細められた双眸がスコールを見る。 頭の天辺から足の爪先まで、値踏みするように舐めて行く視線に、スコールは露骨も露骨過ぎて呆れて来た。 しかし同時に、その露骨な目に晒される事で、満更でもない気分になる自分もいる。
「……シャワー浴びて来る」
そう言ってスコールは、くるりと方向転換する。 今シャワーを浴びた所で、後でもう一回入る事になるのだろうが、それでも先に一風呂浴びたかった。
扉一枚越しのシャワールームを目指して、スコールはドアノブに手を伸ばす。 が、その手が目当てのものを掴む前に、後ろから伸びて来た腕がスコールの体を捕まえた。
「!おい、ちょっと」 「脱ぐなよ、勿体ねえ」
抗議するスコールの声を無視して、サイファーは耳元でそう言った。 吐息をかけながら言うサイファーの意図するものを感じ取って、ぞくんとしたものがスコールの背中に走る。 が、それに素直に興じる訳には行かないと、スコールはじたばたと暴れて背後のおんぶお化けを追い払おうと試みた。
「離せ、バカ!何考えてるんだ」 「何ってそりゃあナニだろ」 「バカ!!」
判ってはいたが、隠しもせずに答えるサイファーに、スコールは声を荒げるが、
「余りでかい声出すと、聞こえるぜ。このホテルの壁、薄いんだからよ」 「あんたが余計な事をしなきゃ良い話だろ!」
怒るスコールの声など何処吹く風で、サイファーの手がSeeD服の裾の下へと潜り込む。 ウェストを占めるベルトの下に、指が少々強引に入って来るのを感じて、スコールは窮屈さに眉根を寄せた。 インナー越しの臍周りを掌で撫でられると、その奥からじわじわとしたものが滲んでくるような気がして、思わず唇を噛む。
緩めていた胸元からも、サイファーの大きな手が侵入すると、スコールは赤い顔で背後の男を睨んだ。 これ以上するなら、と実力行使も辞さない顔で睨むスコールだったが、サイファーの手が胸の膨らみを見付けて摘まむと、「んぅっ…!」と甘い声が漏れてしまう。
「う…ん……っ、や……っ」
サイファーの手はワイシャツの中まで潜り込んで来て、インナー越しにスコールの薄い胸を揉みしだく。 固いブーツの踵が床を鳴らし、逃げを打ちながら抗議の声を上げているが、サイファーは効き留めなかった。 首の後ろに吸い付いて、ちゅう、と強く啜ってやれば、赤い華が咲く。
「っあんた、そんな所……っ!」 「見えねえよ。この格好なら、だけどな」
詰襟を立ててきっちりと着込んでいれば、項に咲いた色を見付かる事はないだろう。 そう言う位置に、サイファーは痕を残した。 それを判っているだろうと気付いているから、スコールは益々憎たらしくて堪らない。
「警備任務は終わったんだ。明日はもう、普通の格好で……っ」 「ああ。そうだっけか」 「絶対、あんた…っ、判ってて……っ」 「さあな」
胸を弄り、腰を撫でるサイファーの反応に、絶対に判ってやってる、とスコールは思う。 きっと明日の朝までに消えてはくれないだろう痕に、どうやって誤魔化せば、と考えようとするが、
「ふ…ん……っ」 「勃って来たか?」
胸を弄っていた手が、インナーを押し上げる膨らみを見付けた。 指先でツンツンと突いて感触を確かめた後、爪先で引っ掻くように弄ぶ。
「サイ、ファー……あ…っ、ん……っ!」 「ん?」 「…し、皺に、なる……っ」 「構わねえよ」
平然と言ってくれるサイファーに、俺が構うんだ、とスコールは言いたかった。 しかし、胸を弄る手が、腰を撫でる手が、明らかに欲を匂わせる動きをしていて、唇からは熱の混じった吐息ばかりが漏れてしまう。
腰を撫でていた手が、するすると降りていく。 ややオーバーサイズ気味のパンツのウェストは、しっかりとベルトで締めているので、侵入される隙間はない。 だが、サイファーはそれには構わず、服の上から中心部に触れた。 表面を摩るように撫でるサイファーの手が、厚手のパンツ越しに感じられて、スコールの鼻息が荒くなる。
「ん、ん……やめ、ろ…サイファー……っ」
頭を振って拒否を示すスコールだが、その声は弱々しいものだった。 サイファーが耳朶を甘く噛むと、ヒクン、と肩が竦んで縮こまる。
ジィ、と言う音がして、中心部の守りが緩くなった事をスコールは感じ取った。 フロントジッパーが下まで降りると、開いた其処からサイファーの手が侵入する。 布一枚の防御が突破されただけで、スコールは無性に心許なく、恥ずかしい気持ちになった。 そんなスコールの胸中を、赤くなった耳を見ながら知りながら、サイファーはスコールの雄を下着の上から柔らかく握る。
「ふぅ……っ!」
ビクンッ、とスコールの腰が跳ねた。 縋るものを求めた手が、目の前にあるシャワールームのドアに凭れ掛かる。 サイファーはそんなスコールの背中に覆い被さるように密着して、スコールの胸と雄を揉みしだいた。
「う、う…、んん……っ!」
殆ど着崩していない、隙間の入り口から侵入されての愛撫は、動きの自由が利かない。 その分、指先や掌がほんの少し力を込めるだけの感触が伝わって来る。
「サイファー…、あっ、ん……っ!」 「なんだ」 「…も…、離せ……っ!する、なら……脱ぐから……っ」 「勿体ねえって言っただろ」 「ふく……っ!」
耳元で囁いて、はく、とサイファーがスコールの耳を食む。 ビクッと体を震わせて、スコールはせめて声は出すまいと唇を噤んだ。
サイファーの指がスコールの胸の粒を捉えて、人差し指の腹でぐりぐりと押し潰す。 ああ、と吐息に混じって悩ましげが声が漏れた。 身を捩ってサイファーの手から逃げようとするスコールだが、覆い被さる男に抱きすくめられるような格好になっている所為で、全く敵わない。
「はっ、んっ…、ふぅ……っ!」 「こっちも気分が乗って来たな」 「あ、あ……!や、め……!」
こっち、と言ってサイファーは、スコールの雄をゆるゆると扱き出した。 下着の上からの刺激でも、スコールにとっては堪らない。 ボクサーパンツの中でじっとりと汗を掻いた物が、むくむくと膨らんで行くのが判った。
ドアに縋り寄り掛かって、与えられる刺激に耐えるスコールを、サイファーは細めた双眸でじっと観察していた。 式典と言う場の警備の為、義務着用されたSeeD服は、サイファーにとっても特に目新しいものでもない。 その服の役割、着用が求められる場面と言うものや、詰襟で喉元まで隠しているデザインもあって、少々堅苦しいものに見えるのも事実だった。 それを着たスコールが、如何にも“指揮官”と言う仮面を被って、その役割を果たすべく行動している所も、見慣れたものだ。
そんな服を着たまま、スコールの躰が熱を持っている。 サイファーの触れる手に翻弄され、体を捩り、細い腰を揺らして逃げを打つ。 前の守りが多少は緩んでいても、あからさまに着崩された訳ではないと言う事が、サイファーの興奮を刺激していた。
サイファーの指が胸の蕾を挟み、コリコリと転がして遊ぶ。 下腹部に侵入した手は、雄の根本を指の付け根で挟むように捕まえて、押し挟んだり擦ったりと、手法を変えて苛める。
「ん、んっ…、んく……っ!」
サイファーの指の間で、スコールの雄が膨らみを大きくしていく。 先端から染み出したものが、下着にじわじわと吸い込まれていくのが判った。
「や…だ…、サイファー……あっ……!」
ドアに額を押し付けるようにして、スコールは訴えた。 しかし苛める手は、緩む所か益々調子に乗って、スコールを追い込んで行く。
手袋を嵌めた指が、ぐりぐりとスコールの**を押し潰す。 乳輪ごと刺激するような動きを見せるそれに、スコールの胸の奥でどくどくと心音が逸る。 それを誤魔化すようにSeeD服の胸元を掴むけれど、それに大した意味も効果もない。 服の中に入り込んだ侵入者は、スコールのそんな仕草も面白がって、耳元でくつくつと笑う音が聞こえた。
「は…、う……っ、んぅ……っ!」
下着の中で窮屈そうに立ち上がった中心部を、サイファーの手が包み込んだ。 竿を優しく揉んだ後、上下に扱いて更なる分泌を促す。 スコールは震える肩を縮こまらせ、ふっ、ふっ、と鼻息で荒い呼吸をしながら、迫って来る感覚に耐えようとしていたが、
「う、う……んんん……っ」 「そろそろか」 「や…あ……っ!」
スコールの体のことは、本人以上に、サイファーがよく知っている。 下着を押し上げる先端に、爪先を宛がって、くりゅんっ、と鈴口を穿るように苛めてやれば、簡単に上り詰める。
「ふぅうんっ!」
スコールは片手で口を押えながら、ビクンッビクンッと体を震わせた。 絶頂と言うには甘く浅いものだったが、腰に残る痺れが極まった事を否応なく突き付けて来る。
堪える格好のままで果てを迎えた所為で、スコールの体を支配する痺れは、長い尾を引いた。 ビク、ビク、と余韻に跳ねる体を制御する事が出来ない。 膝から力が抜けて、頽れそうになっているのを、背後から抱きすくめる男の腕で支えられていた。
ドアに縋る形で、スコールの躰がずるずると滑り下りていく。 シャワールームの前で座り込んだスコールは、赤い顔で口を半開きにし、艶のある瞳を彷徨わせている。 そんな貌をしているのに、彼の服装は上から下までカッチリと整えられたままだ。 ジャケットの前が僅かに開き、中心部の守りが緩んでいる事も、一見しただけでは判らない程度になっている。 そのアンバランスさが、見下ろす男の熱を煽った。
サイファーはスコールの体を抱き上げると、真っ直ぐベッドへ向かう。 二つ並んだベッドの一つには、サイファーの荷物が放られていた。 空いている方へとスコールを横たえると、スコールは体を蝕む熱に魘されて、悩ましげに体を捩って見せる。 夢現のように、ぼうとした蒼灰色の瞳が、何かを探すように宙を彷徨った。 その瞳が見下ろす男のシルエットを捉えると、
「……サイ、ファー……」
甘露を孕んだ声が、男の名前を呼ぶ。
ぎし、とベッドが音を立てた。 誘う声に乗ったサイファーは、スコールの頬に触れて、その手をゆっくりと降ろして行く。 しっかりと着込んだ上着はそのまま、長く垂れたジャケットの裾を捲る。 ベルトのバックルに手がかかり、カチャカチャと言う音が鳴っているのを、スコールは捲られたジャケット裾の陰から見ていた。 サイファーの手元は裾が陰になって見えておらず、その所為で今サイファーの手がどんな動きをしているのかと、悪戯にスコールの想像力を掻き立ててしまう。
ベルトが外れると、サイファーはスコールのズボンを引っ張り下ろした。 膝下まで降ろした所で、ブーツインした足元がどうにもならない事に気付く。 やや強引にズボンと一緒に脱がしてしまうと、スコールの下半身は、黒のクルーソックスとボクサーパンツのみになった。 ジャケットの長い裾がスコールの大事な部分を隠しつつ、すらりと伸びた白い脚の先で、黒のソックスだけが残されているのが酷く映える。 最後にボクサーパンツを下ろし、太腿に引っ掛かる所で止めてやった。
「良い眺めだ」 「……バカ」
満足そうに宣うサイファーに、スコールは赤らんだ顔で睨みながら言った。 そんなスコールの足を開かせながら、サイファーは露わになったスコールの太腿に顔を近付ける。
「ンな事言っといて、お前の此処、もう濡れてるじゃねえか」 「誰の所為だと……っ」 「お前がやらしい所為だろ?」 「んっ……!」
ぬる、としたものがスコールの太腿を這う。 サイファーの舌だ。 艶めかしいものが這い回る感触で、スコールの背中にぞわぞわとした感覚が奔る。
スコールの敏感な反応を愉しみながら、サイファーはちらりとスコールの様子を覗き見た。 赤い顔を手繰り寄せた枕に半分埋めて、ふう、ふう、と荒い呼吸をしているスコール。 SeeD服の肩掛けに飾られた細いチェーンが、ちゃりちゃりと小さく音を立てていた。 SeeD服のジャケットの裾は、スコールの下腹部から少し下まで垂れている長さだ。 それがちらちらと捲れて、スコールの中心部を気紛れに覗かせる。 其処から見え隠れするスコールの雄は、てらてらとした滑りを帯びて、頭を半分ほど持ち上げる格好になっていた。
太腿を這うサイファーの舌が、徐々に際どい所へと近付いている事を、スコールは感じ取っていた。 抵抗するように靴下を履いた足がシーツを滑る。 膝を立てて男の侵入を拒もうとするが、サイファーはその膝の裏を捕まえて、スコールの脚を大きく開かせてしまった。 あ、と恥ずかしさで声を漏らすスコールに構わず、サイファーはヒクヒクと震えているスコールの一物に食い付いた。
「ああぁ……っ!」
スコールが悩ましい声を上げて、天井を仰ぐ。 ねっとりと、生暖かく湿ったものが、スコールの雄をじゅるりと音を立てて嘗め回す。
「は、あぁっ…!サイファ…、や、あ……っ」
逃げを打って体を上へとずらして行こうとするスコールだが、背後にあるのは壁だけだ。 直ぐにスコールは逃げ場を失くし、追って来たサイファーに雄をぢゅるりと啜られて、ビクビクと躰を震わせるしかなくなる。
「んっ、んんぅ……っ!そんな、に…あっ、強く……くぅんっ」
浅くはあるが一度登り詰めた体だ。 サイファーの遠慮のない愛撫に、再び体の熱が燃え上がるのに時間はかからなかった。 サイファーの口の中で、スコールはあっという間に膨らんで行き、先端からとろとろと蜜液が泣き出してしまう。
サイファーが舌を動かす度に、艶めかしその肉の表面で撫でられたスコールの躰が、ビクンと顕著な反応を示す。 天井を仰ぎ、はっ、はっ、と短い呼気を繰り返しながら、スコールはサイファーが与える快感に耐えようとしていた。 しかし強張った身体の感覚神経はより鋭敏になり、サイファーの指が気まぐれに足の付け根の皺を辿るだけで、ヒクンと膝が弾む。
「あ、あ……あぁ……っ!は、あん……っ!」
サイファーに中心部をたっぷりと舐られて、スコールの下肢は艶めかしい糸をまとわりつかせるようになった。 サイファーの指がその糸を辿り集めて、指先が十分濡れた事を確認すると、今夜はまだ一度も刺激を与えられていない秘所へと触れる。
「あっ……!」
ビクンッ、とスコールの腰が判り易く跳ねた。 サイファーがちらと相手の顔を見てやれば、そこはー──、と言う顔が此方を見下ろしている。 ふるふると頭を振るスコールは、嫌だと訴えてはいるけれど、その瞳には隠しきれない劣情と期待の色があった。
指先で縁を摩ると、もどかしさにか、スコールの膝がふるふると震えながら、サイファーの身体に寄せられる。 挟むように寄って来た両膝は、其処から先の刺激を強請っているように見えた。 淫靡な香りを振りまく下肢の動きに誘われるまま、サイファーの指がスコールの中へと侵入する。
「あぁん……っ!」
つぷ……っ、と侵入した異物に、スコールは抵抗しなかった。 入口がヒクンと反射的に締まりを見せたけれど、直ぐに拡がってサイファーを受け入れる。 柔らかな弾力と共に絡み付いて来る動きを感じながら、サイファーはゆっくりと指を奥へと進めて行った。
「あぁ…ん……あ、……んん……っ」
スコールは子猫のように背中を縮こまらせ、ふるふると体を震わせながら、サイファーの指を飲み込んで行く。 悶えて自分の体を抱き締めるように腕を回すから、SeeD服の固い布地が擦れる音が、静かな部屋にはやけに大きく聞こえた。 サイファーはその様子を上目遣いで眺めながら、蕩けた顔と着崩されない服の相反した景色に、悪くない、と目を細める。
指を根本まですっかり咥え込んで、動きを停める。 それでスコールも、収まるものが収まった事を感じ取ったのか、はふ……と安堵するような吐息が漏れた。 その後、サイファーが咥えていたスコールの雄をぬるりと唾液を纏わせながら解放すると、「はぁ…ん……っ」と甘露を含んだ声が漏れる。
「ふ…ぅ……あ……っ」 「具合は良さそうだな」 「……ん、くぅ……」
サイファーの言葉に、スコールは形らしい返事をしない。 赤らんだ顔を逸らすだけだったが、嫌がってはいないので十分だとサイファーは受け取った。
奥まで埋めた指を、ゆっくりと後ろへ引いて行く。 壁が擦られる感触がして、スコールの腰が甘い痺れに襲われる。
「ふぁ…あっ、あっ……!」
スコールは自身の右手を口元に宛がいながら、甘い声を上げていた。 指をもう一度奥へと入れていくと、口を噤んで声を殺す。 が、甘い吐息がどうしても零れてしまい、スコールはそれを服袖を噛んで抑えようとした。 着ているのがいつもの自分の私服ではなく、SeeD服だと言う事は、もう頭の隅程度にしか残っていないのだろう。 汚れるだとか皺になるとか、だから脱ぐから待てと言っていた事も忘れて、スコールは唾液で袖口に染みを作っていた。
「ん、ん……うん……っ」
眉根を寄せ、赤らんだ顔をふるふると左右に振るスコール。 その顔をもっと見ようと、サイファーは体を伸ばして、スコールの上に馬乗りの形で覆い被さった。 挿入したままの指を動かし、くちくちと中を苛めてやれば、
「んっ、あっ、あっ…!や、あ……っ!」
見られている事に気付いて、スコールはまた頭を振っていやいやをする。 詰襟の隙間から覗く首が、真っ赤になっている。 サイファーは其処に顔を寄せて、顎の下、首の堺になる所に唇を押し付けた。 ちゅう、と一つ強く擦ってやれば、スコールはビクッと震えて喉を逸らす。 同時に秘孔がきゅうっと強く閉じて、サイファーの指を締め付けた。
「や、だ…サイファー……んっ、そこ…」 「良いだろ」 「だ、め……見える…ぅ……っ」
明日は帰るだけだから、いつものファー付きのジャケットを着るつもりなのだ。 項だって見えるだろうに、首回りの前の方なんて、絶対に隠せない。 虫刺されで誤魔化せるだろうかと思っている矢先に、またサイファーが吸い付いて来て、首筋に二つ目の花が咲く。
「サイファーっ、ああ……っ!」
抗議の声を上げようとして、秘孔を掻き回す指に阻まれた。 くちゅくちゅと音を立てて秘奥の壁を擦られて、頭の中が真っ白になってしまう。
「だめ、あっ、あっ、んんっ…!」 「お前の“ダメ”ってのは“良い”だからな」 「違、う……んっ、勝手な事、言うなぁ……っ!」
一言もそんな事は言っていない、とスコールが否定しても、サイファーはお構いなしだ。 今度は耳の直ぐ下にキスをされて、かかる鼻息で耳の中まで犯されているような気分になる。
「ふ、う……ふっ、ふぁ…っ、あぁっ!」
耳元の感覚に意識を奪われていたスコールだったが、秘孔をぐっと突き入れられて、思わず高い声を上げてしまう。 背にした壁が薄い事を思い出し、しまった、と口を噤むが遅い。 碧の瞳が、今更だろうと言いたげな目で見下ろしている事に気付いて、悔しさで眉間に皺が寄った。
指は的確にスコールの弱点を捉え、同じ場所を何度も擦って苛めて来る。 ビクンッ、ビクンッ、と何度も跳ねる躰の反応が抑えられなくて、苛める男を益々楽しませた。
「あっ、あっ、あっ……!サイ、や…っ、あぁ…っ!」 「イイ、だろ?」 「バカ、ぁ、ああっ…!」
罵る事で否定するスコールだが、サイファーには通じない。 スコールが今どんな気持ちなのか、どんな状態なのか、指先一つで彼は知る事が出来る。 絡み付く肉、締め付ける力の強さ、絶えず求めるように吸い付いて来る内壁の感触。 上の口だけが素直ではないのだと知っているから、サイファーはその唇を塞いで、上下の中を掻き回すように舐めしゃぶる。
「んっ、んっ、んんぅっ!ふ、う、う……っ!」 「っは……ん、ふ、」 「んぁ、ん……はふっ、ふむぅ……っ!」
貪るように咥内を弄られて、スコールは舌の根が痺れるのを感じていた。 それから逃げる術を知らないスコールは、応えるようにサイファーの舌に己の舌を絡めるしかない。 腕はサイファーの肩を捕まえて、密着するように体を寄せる。 そうしてぴったりと密着しても、いつものように肌の温もりを感じられない事に気付いて、そう言えばこいつも脱いでいないんだ、とサイファーが全く着崩していない事に気付いた。
ホテルに帰って来た時間が、案外離れてはいなかったのだろうか。 それとも疲れで着替えるのも面倒臭かったのか、サイファーはトレードマークのコートすら脱いでいない。 スコールはサイファーに下肢を裸に剥かれたが、上着はそのままだし、ジャケットのウェストラインを作るベルトすらも外されていない。 襟元だけが少し緩んではいるものの、脱がされる程に開かれてはいなかった。 なんだか酷く性急に事に及んでいるような気がして、スコールはなんとも言えない恥ずかしさに見舞われる。 半面、覆い被さる男が余裕なく迫って来たようにも見えて、それはそれで悪くはないような気もした。
───そんな事を考えていると、気付かれたのだろうか。 少なくとも、スコールの心が少し上の空になっている事に、目敏い男はしっかりと見抜いたらしい。 秘孔に埋められた指が、ぐちゅんっ、と中を大きく掻き回して、スコールは思わず悲鳴を上げる。
「あぁんっ!」
キスの隙間に襲って来た快感に、スコールは高い声で喘いだ。 今の声は絶対に聞こえた、と隣室への罪悪感と羞恥心で真っ赤になるが、サイファーは構わず同じ場所をぐりぐりと苛めて来る。
「あ、ああ、あぁっ!そ、そこ、やっ、痺れ……あっぁ!」 「お前が俺を放っとくのが悪い」 「や、んっ、そんな事……っあ、あぁんっ」
別に放って置いた訳じゃ、考えてたのはあんたの事でー──等とスコールが言える筈もなく、口を噤んでしまえば、仕置きのように奥を掻き回されて喘ぎ声に取って代わられる。
「あっ、はっ、ふくぅん……っ!」 「中がヒクついてるな。そろそろ来るか?」 「ふっ、ふぅっ……!あぁあ……っ!」
指先で弱点をぐりぐりと押し上げるように苛められて、スコールは背中を逸らしてビクッビクッと四肢を戦慄かせた。 ジャケットの裾の隙間から顔を出した雄が、痛いほどに大きく膨らんでいる。 それに触れれば直ぐに果ててしまうのを知りながら、サイファーは其方には触らず、後ろにばかり刺激を与えてやった。
「んぁ、ああ、あっ!や、サイファー…っ、来る、んんぅっ」
競り上がる衝動に勝てず、スコールは涙を浮かべながらサイファーに限界を訴えた。 サイファーはそんなスコールの口端にキスを落として、唇の形を舌でなぞる。 んぐ、とスコールが唇を噤んで、サイファーのその愛撫を受け入れていると、きゅぅんと切なく締まる秘奥から、ずるりと指が抜けていた。
「あああぁ……っ!」
後少しなのに、と言う所で逃げていく刺激に、スコールはいやいやと首を振る。 中途半端な所で放られてしまうのが、一番苦痛で堪らないのだと言う事を、スコールの体は嫌と言う程覚え込まされていた。 教えた男もそれを判っているだろうに、どうして、と蒼灰色が見上げれば、悪い顔をした男と目が合う。
鼻息を荒くして、サイファーは自身の下肢を緩めた。 上から下までいつもの格好を着込んだまま、ベルトを外し、フロントジッパーを下げて、其処だけ開ける。 下着も脱がずに取り出した雄は、血管を浮かせる程に固く張り詰めていた。 スコールを追い詰めながら、自身も興奮により高められたそれは、どくんどくんと脈を打ってまるで生き物のようだ。
サイファーはスコールの脚を揃えて持ち上げ、左肩に乗せた。 太腿に引っ掛かっているボクサーパンツが邪魔に思えたが、視覚刺激的には良いのでそのままだ。 スコールは動き辛いだろうが、サイファーは問題ない。 そのままスコールの体を折り畳むように覆い被さって、ヒクヒクと物干しそうにしている穴口に雄を宛がう。
「あ……、サ、イ…ファー……」 「良いな?」
確認と言うよりも、それは合図だった。 行くぞ、と言う意味を持って告げられたその言葉に、スコールが小さく頷く。 直ぐに太い頭が狭い入口を拡げて、ずぷぷ……と奥へと侵入して行く。
「あ、あ……!サイファー…の……っ、入、って……!」 「く……ふぅ……っ」
きゅうきゅうと絶えず絡み付き締め付けてくる肉壁を味わいながら、サイファーは息を詰まらせてスコールの中に押し入った。 中で脈を打つ感触がスコールに伝わって、互いの熱が混じり合って拡がって行く。
二人の股間がぴったりと密着する程、深くまで繋がり合って、サイファーはようやく息を吐いた。 スコールはと言うと、逆に息を詰めて、胎内で蠢くものの感触に耐えている。 目の前にあるサイファーのコートを握り締めて、はふ、はふ、と身体の余計な強張りだけは解こうと、いじらしい努力を見せていた。
「スコール」 「ふ…っ、ふぅ……ん……?」 「動くぞ」 「ん……っ」
耳元で囁かれたサイファーの言葉に、スコールはぎゅっと目を閉じて、意を決するように小さく頷いた。 サイファーが腰を引くと、ずるぅりと雄が肉を擦りながら抜けて行く。 担ぎ上げられたスコールの脚が、ビクッビクンッと跳ねた。
緩やかに始まった律動が、徐々に激しさを増していく。 奥を優しくノックするように突き上げる所から始まり、少しずつ強く激しくなるのを、スコールは体中に走る快感から感じていた。
「あっ、あっ、んっ、あっ…!はっ、はぁ…っ!」
奥を突かれる度、声帯が勝手に動いて、甘い声が出てしまう。 此処はガーデンの寮室でもなければ、良いホテルでもないのだから、壁が薄いと判っているのに、抑える事が出来ない。 隣の部屋はSeeDではなかっただろうか、襲撃防止にと連番で部屋を取る事はしていない筈だが、空室の具合にも因る。 一応、キスティスから各自の部屋番号については連絡を貰っていた筈だが、思い出す事が出来ない。 思い出そうとすると、スコールの気がそぞろになっているのが判るのか、ずちゅっ!と奥を強く突き上げられて、思考が容易く飛んでいく。
「はっ、あっ、あぁっ!んん…あっ、くぅ、んぁっ!」 「余計な事考えるなよ」 「あっ、あっ、別に…ああっ、余計な、事、なんて……ひんっ!」 「だったら良いけどよ」 「ふっ、ふぅっ、ううんっ!あっ、んっ…、はっ、あぁ……っ!」
サイファーは大きく腰を使い始めた。 秘孔の入り口から最奥まで、一片足りと逃すまいと、太い雄で肉壁を掻き回す。 ぐちゅっ、ぐちゅっ、と卑猥な音が聞こえて、スコールは真っ赤にした顔をサイファーの胸に埋めた。 しがみ着く格好で顔を隠すスコールに、サイファーはにやりと笑って、覆い被さって抱き締める。 其処まで密着しても、肌と肌が重なり合わないのがもどかしくて、スコールは目の前の男の匂いを、体温を求めるように、サイファーのコートの襟を握り締めて、しっかりと身を寄せる。
「サイ、サイファー、ああぅっ……!んっ、奥に、届く……あぁっ!」
足を揃えて抱えあげられている所為で、スコールの体は腰から下が浮いている状態だった。 尻も持ち上げられる格好になっていて、秘孔が真上を向いている。 お陰でサイファーの雄を受け入れやすい向きになって、サイファーが腰を落とす度に、奥にがつんと強い衝撃と快感の火花が散る。
「あふっ、あっ、ああっ、あぁっ!深い、サイファー、ひぃんっ!」 「はっ、くっ…はぁ、っスコール……!」
耳元で繰り返される、互いの名を呼ぶ声が、二人の熱を煽って行く。 胎内でどくんどくんと脈打つ雄が大きくなって行くのを感じて、スコールは切なくて熱くて堪らない。 早く一番熱いものが欲しい、と肉壁が欲しがって、サイファーに絡み付いて離れようとしなかった。 そんな状態で腰を振らねばならないのだから、サイファーも苦しいのだが、
「ああ、サイファー、そこ、もっと……!んっ、あっ、あぁっ、あぁんっ!」
快感に押し流されて行く恋人の姿は、サイファーの雄性を刺激するばかりで、一向に熱の昂ぶりが止まらない。 全身で自分を求めるスコールに、早く奥まで染めたかった。
二人の躰に挟まれて、ちゃりちゃりと金属の音が鳴る。 SeeD服の肩飾りに連ねられた鎖が、サイファーのコートのジッパーに当たっていた。 スコールがねだるので手を重ね合わせると、スコールが素手なのに対し、サイファーは手袋を嵌めたままだ。 ああもどかしい、取れよ、と言いたげにスコールの手がサイファーの手を握り締める。 そんな事しちゃ取れないだろうと思いつつ、サイファーもそのまま握り返して、秘奥を強く打ち上げた。
「あふぅっ!」
もう隠す気も抑える気もない声が上がる。 隣の部屋に聞こえたな、とサイファーは思ったが、スコールは何も考えられなくなっていた。 それなら遠慮は要らないと、開き直ってサイファーが激しく腰を打ち付ければ、あられもない声が上がる。
「あっ、んぁっ、ああんっ!来る、ああっ、イく……っ!ああぁっ!」
限界を訴えるスコールに、サイファーは唇を塞いで応えた。 喉奥でくぐもった声を上げるスコールの体を、追い込むように激しく突く。 ビクッビクッビクッ、と細い肢体が波打つように痙攣して、
「んっ、んっ!んんぅうううっ!」
塞がれた唇の中で、スコールは甘い悲鳴を上げながら絶頂した。 びゅるるるっ、と吹き出した蜜液が、二人の服を汚して濃い染みを作る。 同時に秘孔が目一杯締まり、サイファーは重ねたスコールの手を強く握り締めながら、スコールの中へと**した。
「─────っっ!」
ビクッ、ビクンッ、と全身を震わせながら、スコールはサイファーの熱を受け止める。 腹の奥、内臓のある所まで、熱の奔流が流れ込んでくるような気がした。
搾り取るような動きを見せる肉壁に促されるまま、サイファーはスコールの中を染めていく。 狭い其処は直に一杯になってしまい、どろりとしたものが隙間から溢れ出した。 奥から逆流して来るそれを出させてしまうのが勿体なくて、サイファーは自身で栓をしたまま、目の前にあるスコールの貌を眺める。
「は…あぁ……っ、あふ……っ」
虚ろな瞳を彷徨わせ、濡れた唇をはくはくと開閉させているスコール。 その口から覗く舌に、サイファーは己の舌を絡ませた。 ひくん、と舌が震えながらも、応えようと拙く動く恋人の舌に吸い付いて、ちゅう、と啜る。
「んふっ…んっ…んふぅ……っ」
甘ったるい吐息を零しながら、スコールはサイファーの愛を受け入れる。 そして、ちゅぽっ、と音を立てて解放すると、蕩けた表情でくたりとベッドに沈んだ。
サイファーがゆっくりと腰を引き、担いでいたスコールの脚を下ろす。 いやらしい形に開いた秘孔口から、粘液のように濃い白濁液が泡を作って溢れ出した。 それが横向きになった尻たぶの丘線を辿りながら伝い落ちていく様を見て、吐き出したばかりのサイファーの熱がまたむくむくと育って行く。
スコールの躰には、未だ甘い痺れが残っている。 火照った身体を冷ましたくて、スコールは寝返りを打って俯せになった。 リネンシーツのさらさらとした感触と、心持ちひんやりとした温度が心地良い。 それをもっと感じたいと、もぞもぞと身動ぎしていると、
「もっと欲しいのか?スコール」
背中にかけられた声に、スコールは目を向けた。 何か言ったか、とぼんやりとした瞳は、自分の有様も、それを見る男の目に自分がどう映っているのかも判っていない。
皺だらけになったSeeD服と、太腿に絡み付いたパンツ。 足元には脱げかけのクルーソックス。 SeeD服の長い裾が中途半端に降りていて、スコールの尻を半分ほど隠しているのだが、スコールがもぞもぞと身動ぎする度に捲れて、秘部が見えたり隠れたり。 中途半端に脱がせたパンツのゴムが太腿に食い込み、小尻の形を綺麗に演出している。 秘口からはこぷりこぷりとサイファーの出したものが溢れ出し、それを留めようとしてか、何度も穴を閉じようとしては失敗している。 その動きが、次の刺激を欲しがっているように見えて仕方ない。 その尻にサイファーが大きな手を置いて、さわさわと撫で触ってやると、ヒクン、と細い腰が震え、
「……サイファー……」 「なんだよ」 「……すけべ」 「お前もだろ」
最初だって本気で嫌がっちゃいなかった癖に。 そう言いながら、むにぃ、と尻たぶを掴むように揉むと、「んっ」とスコールの喉から甘い音。 そのまま肉に柔く食い込んだ指を滑らせて、谷間を辿り、ヒクつく秘孔に触れる。 ゆらりと尻を揺らすスコールは、欲しがっているのか、嫌がっているのか。 どっちにしろ本音の部分は同じ事だと、サイファーはその背に覆い被さって、まだ太い欲望を其処に宛がう。
「はっ、はぅ……っ、んああぁぁ……っ!」
二度目の挿入を、スコールはいとも簡単に受け入れた。 粘つく液体が潤滑油になって、サイファーの侵入を奥へと許す。 そのまま直ぐに律動を始めれば、甘い声がひっきりなしに上がった。
事が終わる頃には、スコールのSeeD服は目も当てられない事になっているだろう。 クリーニングに出すには余りに憚られる状態に、スコールが頭を抱えるのが、サイファーには簡単に想像できた。 臍を曲げて此方に当たり散らしてくるのも予想の範疇だ。 仕方がないのでそれは受けて───流して───やるとして、その分だけ今は愉しませて貰うとしよう。
Fin.
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お題に『助平』とありましたので、どうやってスコールに言わせようか考えた結果。 あとSeeD服の下の方だけ脱がせる(靴下は脱がさない)って大変助平だと思っているので、欲望のままに走りました。 そんな二人のお熱い夜を、隣室で聞き耳立てながら録音したい。
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