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[88] カイアル話
神酒 - 2018年03月02日 (金) 22時01分

※スーサイデッドメアリンクネタバレ注意※
林檎ちゃん視点です。リプレイ風小説なので林檎ちゃんの台詞が若干改変されていますのでご了承下さい。(ギャグみたいになっちゃった所とか)

*11月6日*

いつもと同じように、目を覚ます。

否、いつも通りとは言い難いかもしれない。

酷い夢を見た気がした。体がびっしょりと、汗でぬれている。

酷い酷い、悪夢を見た気がした。

そんな悪夢から目覚めて、あなたはほっとしていた。

断片的にだが、夢の内容を思い出すことが出来る。

 夢の中で、どこか高いところにいた。夕焼けが、空を焼いている。

 そこで、酷く戸惑ってあなたの方に手を伸ばす、誰かの姿を見た気がした。ひどく、不気味な夢だったような気がする。

「………」

変な夢を見るのは希ではない。
遥か昔、簡単に言ってしまえば前世での記憶だろうか?
時々自分がドラゴンの姿をしている夢を見ていた。
自分のよく知る人物と協力してとある屋敷を探索したり、化物を倒したり、宝石を貰ったりする何となく心地良い夢。

しかし、今日見た夢はそんな心地の良い夢ではなく、胸が締め付けられるような悪夢だった。

「もうこんな時間、起きなきゃ」

悪夢に魘され、目覚めの悪い朝だったが時間は待ってくれない。
大学へ向かおうと支度を始めた。

今日は11月6日の、月曜日。週の始まりの日。

支度をしている間、テレビをつけっぱなしにしていた。

『先日発表された………。

  あと一週間………されましたが……』

 『あまり信憑性はないでしょう。次の……』

時間があまりなかったということもあり、ニュースが流れるテレビを消して急ぎ足で家を出た。

大学へついたものの、同級生は誰も今朝のニュースについては話していなかった。

いつも通り大学で過ごし、買い物を済ませて家へと向かった。

家に入った瞬間、何か嫌な予感を感じて、背筋にぞわりと寒気が走った。

「……!?」

急いで後ろを振り返ったがそこには誰もいなかった。
気のせいか、とも思ったが念の為チェーンをかけておいた。
都会に来たばかりの頃を思い出した。何年経っても一人は慣れないな、と自分に呆れながら。

部屋が静かだと何だか落ち着かないのでテレビをつけた。
その間に夕飯や風呂を済ませ、もう寝てしまおうと思ってテレビを消した時だった。

メールの着信音が聞こえた。

「こんな時間に誰でしょう……」

メールには一文のみ。

『今から電話していい?』

と日外 改一狼からのものだった。

日外 改一狼――カイとは幼馴染であり、時々食事に行ったり遊びに行ったりする仲でもあった。
そして、時々見る前世の夢に出てくる人物はカイに瓜二つだった。
運命的なものを感じたが本人にそれを言って引かれてしまうのが怖くて未だにその事を言えないでいた。

『いいですよ〜遅くまでできないかもですけど…』

カイに返信した数分後、電話がかかってきた。

「もしもし?」

「もしもし、…夜遅くにごめんな」

「こんな時間に珍しいですね、カイさん。どうかしたんですか?」

「今朝のニュースが気になって、…ニュース見たか?」

今朝のニュースを寝坊せずに見ておけばよかったと少し後悔したが後悔したところで肝心の内容は分からないので正直に理由を話した。

「あー……そういえばやってましたね、今朝はちょっとドタバタしてて内容はよく聞き取れなかったんですけど……」

「俺も支度しながら見た、最近テレビで世界滅亡の予言が噂されてるみたいなんだ」

「今朝のニュースも確かそんな変な話をしていたよ、カルト教団の教祖が今週の日曜日に世界が滅亡するとか、どうとか…」

珍しいな、と思った。
てっきりそんな信憑性がなさそうな話題にカイが触れるなんて、と。

「今週の日曜日に世界が滅亡…もし本当だったら怖いですね……あと6日後……」

カイの声色はいつもの淡々とした感じもあるがそこには少しだけ不安も感じ取れた。

そもそもこんな時間にわざわざ冗談言ってくるタイプではない。
茶化さないで真剣に話を聞こうと思った。

「そうだな…、何だか引っかかるんだよ普段ならこんな事気にもしないのにな」

「悪い、夜も遅いしそろそろ切るよ。電話に出てくれてありがとう」

「おやす……」

そこまで言って一方的に電話を切られた。
いつものことなのでそのまま『おやすみなさい』とメールを送った。
すぐに『おやすみ』と返信が来た。

今日は一日嫌な事ばっかりだったけど眠る前にカイの声が聞けてよかったなぁなんて思いながらそのままその日は眠りに落ちた。


[89] カイアル話 その2
神酒 - 2018年03月02日 (金) 22時33分

*11月7日*

朝起きると、また背中がじっとりと冷や汗で濡れている。

また悪夢を見たのだろう。詳細は覚えていない。

夢の中でぼんやりと誰かを呼ぶ自分の切羽詰まった声と何かの音色が聞こえた気がする。
背筋に嫌な汗が伝った。

「またあの夢……」

2日続けて同じような夢を、しかも悪夢を見るのはとても気分の良いものではない。
気にするだけ嫌な気分になるだけだと思い、そそくさと支度して大学へと向かう。

授業が終わり、帰ろうかと考えていてふと、昨日カイが言っていた世界滅亡の話を思い出して、その事を大学での友人達に聞いてみた。


「視聴率があって人気の番組なんだよアレ」
「一ヶ月も前にオカルト番組でやってたよな?また改めてテレビでやるなんて面白くねぇな」

それを聞いて一つだけ心当たりがあった。
ちょうど一ヶ月前から妙に異常気象や海外での急な火山の噴火などのニュースばかりが流れるようになった事。

帰宅途中の帰路でカイへ自分なりに調べてみたと先ほどの内容を完結にまとめてメールで送った。
メールを送ってから検索ページのウェブニュースが更新されたらしく、通知が来た。

『世界滅亡まであと6日になりました』

『日本ではもう11月も半ばなのにも関わらず、気温が30℃を超える日もあります』

『これは世界滅亡の前触れなのでしょうか』

今まさにそのメールをした瞬間にそんなニュースを見てしまって、背筋が粟立つような感覚を覚えた。

そのまま家へ帰り、夕飯も風呂も済ませて悪夢を見ない事を祈りながら寝ようとした時に電話がかかってきた。

相手はカイだった。

「メール見た、世界滅亡のニュース凄いな」

「さすがに周りもざわつきはじめましたね……」

「まだまだ薄着でいけるな」

「冬はあまり好きじゃないからありがた……いやでもやっぱりこの気温は異常です!」

「11月でここまで暑いと雪が恋しくなる」

「…異常気象すぎて明日が雪でもおかしくはないですね、これ」

「でも、花怜が嫌いな冬はこのまま来なくていいな
 ああ、そうだ。今週の土曜日はあいてる?」

「ずっと夏ってのも何だか寂しい感じがしますけどね……っと、土曜ですね……はい、空いてますよ!」

「行きたいところがあるんだ、付いてきてくれるか?」

「いいですよ!」

「じゃあ土曜日の9時、近くの駅で待ってる
 おやすみ」

「わかりました、じゃあまた土曜日に!おやすみなさい」

今日はちゃんとおやすみなさいを言えた、と少し嬉しい気持ちになりながらも時間を見て慌てて就寝する事になった。


[90] カイアル話 その3
神酒 - 2018年03月02日 (金) 23時04分

*11月8日*

朝起きると、酷く不気味な夢を見たような、背筋がじっとりと湿った感覚を覚える。
また、悪夢を見たのだろうか。ずきりずきりと、嫌な感じに頭が痛む。

あれはどこだろうか、ビル街などが見渡せる場所の夕暮れの中で。
泣き叫びながら、自分は誰かに手を伸ばしていたような気がする。

「……はぁ」

今日もあの悪夢だ。
しかも今日は頭痛もセットと来た。
ため息をつきながら支度を始める。

今日は11月8日の水曜日。週の中日だ。
家を出る前にみたテレビの番組では、世界滅亡までのカウントダウンがやっていた。

『今日の朝の一口哲学講座です。――五分前仮――の…』

頭痛がひどくて聞こえなかった。

大学についた。
友人達が何か話していた。

「世界五分前仮説が――」
「哲学的な……」
「――ラッセンの言葉」

断片的に聞こえてくるワードをなんとなく検索サイトで調べてみた。

●世界五分前仮説について
 世界五分前仮説とは、バートランド・ラッセルによって提唱されたものである。
『哲学における懐疑主義的な思考実験のひとつ。 世界が五分前にそっくりそのままの形で、存在しなかったはずの人々が、 “過去を覚えている”という状態を植え付けられた状態で突然出現したのではないか という仮説。
この仮説において”5分前の記憶がある”ということは反論にはならない。』


どこかで聞いたことがある。
しかし自分とは無縁だろうと思ってあまり真剣に考えたことはなかった。

誰かが持ち込んだのか隣の席に新聞が置いてあった。
何か世界滅亡についてのニュースがないかと無意識の内に探していた。

『日本ではめったに起こらない暴動事件が二週間前に起こった。 また、地震なども増えている。
世界滅亡の予言が発表されてから少し大きな地震が起こった回数は、 例年に比べて異常なほどに多い』

ニュースでこんな事流れていたのか少し疑問に思った。
先ほどの仮説のことと、新聞記事をメールでまとめてカイに送る事にした。

『さすが』

数分後、カイから一文だけ送られてきた。
見てくれたのならそれでいいと思い、携帯を鞄にしまってそのまま授業を受けた。

そのまま何事もなく、帰宅して色々済ませた後に電話がかかってきた。
相手はカイだった。最近毎日のように話せて嬉しいなと思いながら電話にでた。

「もしもし」

「今日、野良猫に引っ掻かれた」

「えっ!?大丈夫ですか?」

「排水口にハマって抜けなくなっていたから助けたのに…
 どうして意思疎通ができないんだ…」

「猫は気まぐれですからねぇ……ちゅーるさえあれば引っかかれませんよ、うん!」

「今度からちゅーる持ち歩く」

「これでカイさんも猫と仲良くできますよ!」

「やった」


「…そうだ、もし本当に世界が終わるとしたらどうする?」

「……そうですね、おいしいカレーでも作って家族や友達と一緒に食べながら1日を過ごしたいですね」

「俺は、一番高い場所から世界が終わるのを見てみたい…な。高い場所でカレー食べながらも楽しそうだ」

カイは少し楽しげに笑った後に「おやすみ」と言った。

「おやすみなさい」

電話を切る直前に、『全ての悲劇は死によって終わり、か……』というカイの声が聞こえた。
しかし、頭痛の事もあって体調もよくなかったのでそのまま事切れるように寝てしまった。


[91] カイアル話 その4
神酒 - 2018年03月02日 (金) 23時24分

*11月9日*

目を覚ます。

また嫌な夢を見て、目を覚ましたのだ。

ばくばくと心臓が痛い程に鳴っている。その鼓動を、何処かで聞いたことがある。

悪い、夢だ。あんなのは、悪い夢なのだ、と言い聞かせることだろう。

観覧車のようなところの中にいたような気がする。
夕焼けの空、外は赤々と明るくて、ビルの窓が夕日を反射していて。
泣きながら、自分は――カイを、抱きしめていた。

どこかで、フルートの音が聞こえた気がする。

どこか不気味な、夢だった。

飛び起きた。

「カイ、さん……?」

カイだった。
あの悪夢に出てきていた、手を伸ばして先にいた誰かの姿は――

今日は11月9日の木曜日。世界の滅亡まで、あと少しになってしまった。

物凄く不安になりながらも支度を済ませ、いつも通り大学へ向かうと教授と廊下で出くわした。

「おう、花怜、おはよう」

「おはようございます、先生」

「明日から日曜日まで学校は休みになるぞ」

「えっ、休み!?何かあったんですか?」

「世界滅亡の予言のせいで、ストライキや暴動事件の危険があるらしい。今日は早めに家に帰るんだぞ」

「は、はぁ……」

嫌でも世界が滅亡することを実感せざるを得ない事を聞かされてしまった。
とりあえず休みは明日からで今日は普通に授業が行われるのでそのまま席について授業を受けた。

帰宅途中に昨晩、カイが最後に言った言葉をなんとなく調べてみた。

●バイロンの名言

『イギリスの詩人、ジョージ・ゴーント・バイロン。代表的な名言は、

『すべての悲劇というものは死によって終わり、 すべての人生劇は結婚をもって終わる。』

『きみのためにたとえ世界を失うことがあろうとも、世界のためにきみを失いたくはない。』
などがある。』

嫌な予感しかしない。


今日また電話がかかってきたらこの事を話そうか話さまいか迷いながら道を歩いていると誰もいない道に差し掛かる。
まだ夕方なのにもかかわらず、いつもは人通りが多い道に誰もいなかった。

世界滅亡の予言、のせいだろうかと思いながらも家へと急ぐ。
不気味だ、早くこの場から立ち去りたい。

「……すみません、少しよろしいですか?」

声をかけられたと同時に感じるのはじっとりとした視線。
ここ何日かで感じていた視線と同じような種類の視線と同じ。

振り返った視線の先には黒髪赤目の人物が立っていた。

「悩みがありそうなので声をかけたのですが。よかったら占っていきませんか?」

そういって、タロットカードを出す。

立ち去りたかった、早く。
でもその人物の言葉に惹かれるように答えてしまった。

「……じゃあちょっとだけお願いします」

男は、タロットカードをシャッフルしながら一方的に話し出す。

「怖いですよね、世界の滅亡なんて」

「まあ、予言したといえと言ったのは私なんですけど」

占い師の男は、にんまりと笑いながら一枚のカードを差し出した。

「愚者の逆位置、ですねえ。孤独、閉鎖的、孤立……と言ったところでしょうか」

「お気をつけて。文字通り、悪い意味ですよ」

「ああ、そうそう。このカードには「秘密」という意味もあるんですよ?」

「あなたの身近な人も、何か秘密を抱えてるかもしれませんね」

そういって、男は立ち上がった。

そのままにっこりと笑って頬を撫でられた。

動くことが出来ない。

「もし気になるのであれば、「神の鼓手」について調べてみたらいかがですか?」

そういって、男は去って行った。

そこでやっと呼吸をすることが出来た。

息まで無意識に止めていたようだ。

いつの間にか帰路は酷く暗く、夜のとばりが落ちていた。


その日はカイからの電話はなかった。

[92] カイアル話 その5
神酒 - 2018年03月02日 (金) 23時26分

*11月10日*

朝起きると、頬を何かが伝っていた。
また夢を見たのだろうか。
酷く嫌な夢を、見たのだ。
否、嫌な夢ではない。
酷く、悲しい、夢を見た。

夕暮れの観覧車で、カイを強く抱きしめていた。

変えられない運命の夢。

そんな、さいごのゆめを見たことをふと思い出す。

あれは自分たちの未来の姿なのかもしれないと思ってしまった。

「………」

今日は学校も休みである。

大型の図書館などはきちんとやっているようで、行くことはできるだろう。

今日は11月10日の金曜日。明後日で、世界は終わるかもしれない。

やる事は一つだ。
昨日の占い師が言っていた事を調べるしかない。

市内の大型の図書館に向かえば、人はおらず、閑散としていることがわかる。

図書館の司書さんだけがぼんやりと本の整理をしていることだろう。
閉架書庫の「神の鼓手」の本を探そうと司書に聞くとすぐにそれを取ってきてくれた。


●「神の鼓手について」

 酷く古い本だ。閉架書庫に入っていたのもうなずけるだろう。

 中盤に気になる記述を見つける。

『太古の昔、この世界を作った神は長い眠りにつかれた。

 この神が目覚めるとき、世界は滅ぶ。

 そして、この神を目覚めさせないために、ひとつのものが造られた。

 「スカール」というものである。

 これは創造の、盲目白痴の神のまわりで太鼓を打ち鳴らす演奏者であり、

 神を目覚めさせないために手が痛くなっても、疲れても、子守唄を奏で続ける。

 全ての世界が神により破壊しつくされない為に、スカールは太鼓を打ち鳴らす。

 スカールがその寿命を終えるとき、また新たなスカールが選び出されるだろう。

 スカールがその役目を拒むのであれば、世界は永遠の眠りにつく。』


読み終えて本を閉じようとした時に一枚のメモが落ちてきた。

『選択肢は、提示されたものだけとは限らない』

なぜかなんとなく、それを持ち帰らなくてはいけないと感じ、そのままメモをポケットへと入れた。
そしてそのまま家へと向かった。

テレビをつけると世界滅亡のニュースがやっていた。
異常気象や海面上昇、各地で起こる暴動事件について。

アナウンサーの声が聞こえる。

『世界の滅亡を予言したカルト教団は、「神の鼓手」という本を教典としていたようです』

『世界の滅亡まで、あと二日です』

嫌な気分になりながら、テレビを消した。

寝たら悪夢を見るかもしれない、だけどそれが本当に未来での出来事ならば

私は目を逸らしてはいけない、あの悪夢から。

そんな事を思いながらベッドに入るとメールが届いた通知音が鳴る。

『明日、寝過ごすなよ。9時、最寄の駅前で。』

カイからだった。

『大丈夫です!アラームセットしておきますから!』

その日はそのまま眠りについた。

[93] カイアル話 その6
神酒 - 2018年03月03日 (土) 00時25分

*11月11日*
朝、起きる。
いつもの悪夢を、今日は見なかった。

どうして見なかったのだろう、と思いながら時計を見ると、待ち合わせの時間の15分前だった。

安堵や不安やら色々抱えながらも遅刻してしまうと考え、カイに『ごめんなさい、少し遅れます!』とメールだけして急いで支度をして家を出る。

今日は11月11日の土曜日。明日、世界は終わるかもしれない

10分遅刻して待ち合わせ場所に到着した。

「おはよ」

「お、おはようございます!」

頭を何度も下げて謝罪をするがカイは遅刻した事には何も言わずにチケットを二枚差し出してくる。

映画のチケットだった。

「あー、・・・映画嫌いだった?」

とちょっと勝手に決めた事にカイは申し訳なくしていた。
遠回しにデートのお誘いをしていたようだ。

連日の嫌な気分が少し和らいだ気がする。

「好きですよ!ただカイさんも映画とか観るんだなぁって……」

意外だった。今まで二人で映画を観に行った事はなかったから余計に。

そんなことを話しつつ、映画館へと向かう事にした。

最近流行りの映画だが、映画館自体は営業しているものの、人はほとんどいない。
暗い映画館の中でぽつりとふたりだけ席に座って映画を観ることになった。

「誰もいませんね、貸切状態……」

「流行っている映画だから、人がいるかと思っていたけどな・・・」

上映される前に買ったポップコーンやチュロスを食べながら映画を観た。

映画の登場人物が『世界のためにきみを失いたくはない』と言ったとき、カイが何かを悔いるように強く自分の手を握ったことに気が付く。

何だか少し恥ずかしくなってそれを見て見ぬ振りをして映画を観続けた。

そのまま映画はエンドロールが流れ始める。
部屋が明るくなった頃にカイが声かけてきた。

「結構食べたな、・・・腹いっぱい?」

「まだいけますよ!何か食べに行きます?」

「よし、じゃあ行こう!」

手を引かれてそのまま映画館を出て、昼食を食べに向かった。


「ピザうまい」

「お子様カレー昔から好きだったんです!おいしい!」

あまり人がいないことをいい事に子供の頃好きだったお子様ランチを頼んでみた。

「花怜だったらいつまでもお子様カレー食ってても違和感ないな」

カイの言葉に反論しようとしたがあまりにもカイが穏やかな表情でいうので反論する事を忘れてしまった。

「そうだ、この後・・・遊園地いかないか?」

そんな複雑な思いを抱いていると、カイが遊園地に行こうと提案してきた。

「……多分人もいなさそうですし、いいですね!」

この時、カイは机の下で小さくガッツポーズをしていたのをちらっと見てしまったのだが本人の為を思って言わないことにした。

その後、市内にある遊園地である「ゆうぐれ遊園地」へ向かうこととなる。


遊園地もいつもよりずっと、人気がない。

しかし誰もいないというわけではなく、見渡せば少ないながらも客の姿はあるだろう。

いちおう、遊園地として営業はしているようだ。スタッフの姿などもある。

「やっぱり人少ないですね…」

「俺、遊園地初めてきたよ」

「いつもは混んでますしね、一人で来ても面白くないですし」

「ジェットコースター乗ってみたい」

「いいですね!乗りましょ!」

実はジェットコースターは苦手なのだが遊園地に初めて来たのならなるべく要望に応えてあげたいと思い、そのままジェットコースターへと向かった。

***

「……垂直に落ちるなんて聞いてません」

「飛んでる気分になったな、大丈夫か?」

「大丈夫です…何とか……次行きましょうか!」

「無理はするなよ」

久しぶりに乗ったジェットコースターがやっぱり怖くて少し泣いていたらカイがりんごジュースをそっと渡してきた。

そのジュースに夢中になっていたらいつの間にか水上ジェットコースターに乗せられていた事に気づく。

***

「ジュースに免じて許しますけど…けど……!」

「わ、悪かったよ・・・観覧車乗るか?」

もう高い所は嫌か、なんて言うもんだからちょっと意地悪な意味を含めて言った。

「観覧車なら落ちない……うん、行きましょ!」

そのままカイの手を引っ張って観覧車へと向かった。


どんどんと観覧車が昇って行けば、街が一望できるようになる。

夕日の明かりの中で、どこか人通りの少ない街だ。

いつもよりもずっと、静かに見える。

そんな中、カイが口を開いた。

「明日、本当に世界滅亡するのかな」

「もし本当に滅亡するなら、最後にこうやって花怜とデートできてよかった」

幸せそうに目を細められた。

「私も楽しかったですよ、世界が滅亡するなんて嘘か本当かはわからないですけど……カイさんとのデート、楽しかったです」

「俺ばかりはしゃいでごめんな、今度は花怜が好きな場所回ろう」

「コーヒーカップとか、メリーゴーランドとか連れ回しますからね!ジェットコースターは……一回だけなら!」

観覧車がてっぺんについたとき、カイはふと思い出したようにポケットをあさる。

そして小さな包みをふたつ取り出すと、私にそれを渡してきた。

「プレゼント
 明日、世界が滅亡しないようにお守り、・・・なんて」

「?ありがとうございます……」

突然のことに驚きを隠せないまま、その包みを開けてみた。

包みに入っていたのは、何の変哲もないブレスレットだった。

この遊園地で人気のお土産であり、夕焼けの色の石がシルバーのプレートに数個、はまっているものだ。

「綺麗ですね……!大事にしますね、これ」

お揃いですね、なんて二人で話しながら観覧車を降りてそのまま帰る事になった。

カイは家の前まで送り届けてくれた。

「また、月曜日に」

「今日はありがとうございました、そうですね……また月曜日に」

確信した。

否、

確信してしまった。

『彼は嘘をついている』





[94] カイアル話 その7
神酒 - 2018年03月03日 (土) 00時58分

*11月12日*

朝、異常なほどの静けさの中であなたは目覚める。

世界の滅亡が予言された日なのに、嫌に静かだった。

からだを起こせば、かさり、と音がして自分の寝間着のポケットから何かが出てくる。

――昨日、図書館で見つけたメモだ。

あの本に挟まっていたものである。

何時の間にポケットにいれたのだろう、と思っていると、新しく一行、文字がかいてあることがわかった。

『あの子の秘密を知りたいならば、あの子の家に。すべて間に合わなくなる前に』

今日は11月12日の金曜日。世界が、終わる日だ。

気がついたらカイの家へと向かっていた。

明らかにいつもと様子が違うことがわかる。

家には人の気配がなく、玄関の鍵は開いている。

中に入れば、部屋の中は荒れているような様子もない。

しかし、気が動転していて何も見つけられなかった。
記憶を手繰り寄せて今向かうべき場所を――

遊園地だ。


遊園地に着く頃には、もう日は落ちかけていた。


入り口には誰もいない。

休業してしまったのか、それとも従業員も世界滅亡に備えて帰ってしまったのかはわからない。

入り口を強引にくぐり抜けて、遊園地の中に入っていく。


観覧車の方に向かうカイの姿が目に入った。
観覧車は、どうしてか、昨日と同じようにのんびりと動いている。

「カイさん!!」

呼び止めても彼は止まらない、乗り込むカイを止めようと咄嗟に腕を掴もうとしたとき、誤って一緒に観覧車に乗り込んでしまった。

「・・・は?」

どうしてここにいるんだ、とでも言いたそうに少し吃驚した顔で見られた。

「家開けっぱなしでしたよ!不用心です!」

なんて声をかけたらいいのかわからなくて今はどうでもいいような言葉が出てしまう。

「どうせ帰らないからいいんだ」

そう言う彼の手に握られていたのはナイフだった。

「帰らない?一体どういう……」

見てしまった。
ナイフを。

自殺しようとしている、彼は。

「カイさん、それ」

ナイフを指差すがカイはそれを無視して話す。

「どうして君がここにいるんだ」

「それはこっちの台詞です!嘘かもしれないのに、明日があるかもしれないのに何でナイフなんか持ってるんですか!?」

ナイフを奪い取ろうとするが動くと観覧車も揺れて上手く奪い取ることができない。

「違う、世界は本当に終わるんだよ」

「…いや、終わるのは俺だけでいいんだ」

「世界のために君を失いたくない」

何を言っているのかわからない。

だけど何か、何か言わなくては
きっとあの悪夢のようになる、悪夢が現実になる。

「……私が何を言っても、カイさんは死ぬ気ですか?」

必死につなぎ止めたつもりの言葉だったのに、すぐにそれは無と化した。

「俺は世界の為に死ぬわけじゃない、大丈夫だ。・・・また会えるよ」

だめだ、このままじゃ。
このままじゃ、あの悪夢の通りじゃないか
予知夢なんかにさせない。

「どうせ明日世界が終わるなら一緒に、一緒に連れていってください せめてここで、楽しかった思い出と一緒に」

死ぬのは怖い。でもここで彼だけに死なれるのはもっと怖い。
私が私でいられる保証がない。

「死ぬことが怖くないのか?」

「世界と、俺と心中しても君は、・・・花怜はいいのか」

「怖いですけど……また会えるって言葉を信じてますから」

カイのまた会えるという言葉で悪夢の前に見ていた夢を思い出した。
そうだ、彼とは前世で出会っている。
ならばここで二人で一緒に終わらせたら、またどこかで会うことができるのではないか、と。


「・・・俺は花怜を泣かせてばかりだな」

「いいんだ、俺は最後に林檎にあえてよかった」

名前を、呼ばれた。

カイはそのままナイフを自身の首へと向けた。

「ごめん、君が悲しむことは誰よりも知っているんだ」

そんな言葉を聞いてしまったら、無理矢理にでも泣き止むしかなかった。

「…明日世界が本当に終わるなら!置いて行かないでください!一人で死ぬのは怖いです!でも一緒なら!」

ナイフを持ってない手を必死に掴んだ。
ここで引き下がってはいけない。

「ここで一人置き去りにされる方が、怖いです……!」

「・・・死ぬよりもか?」

「私、一人じゃジェットコースター乗れなかったんです。でも二人なら大丈夫、って思ったんです
だからそれと同じです、ここで一人残されて一人で世界が終わるのをみながら死ぬなんて想像しただけで怖いです」

なんて説得力がない言葉なんだろうと呆れ、笑いながら言った。

「………」

「大丈夫です、一人なら怖いことも二人ならきっと怖くないです」

あぁ、神様。
どうかあの夢を、悪夢の続きを見させないで。


観覧車が、てっぺんへと登った。

そこで、一旦観覧車が停止する。


彼は申し訳なさそうに顔を歪ませながら私を抱きしめた。
あのナイフも今は足元に転がっている。

「君のために世界を失っても、世界のために君のことを失いたくはなかった」

「君の犠牲で成り立つ世界なんていらないんだ」

そう告げられるとさらに強く抱きしめられた。

「ごめん、こんな方法しかとれなくて」

声を押し殺して泣いた。
また泣いている泣き虫な自分に気づかれたくない。

「…でも、なんだか満足だな」

カイの片手が私の目を覆い隠す。
見られてないならもういいか。

赤々とした夕日で焼かれそうだった目が、暗闇の安らぎに委ねられる。

「大好きだよ。世界が終わっても、そばにいたい」

そんな声が、聞こえたかもしれない。

最期の瞬間まで、お互いをつよく抱きしめあった。


世界の終わりというものは等しく、どうしようもなく静かに終わる。

私は、自分の存在が無に帰していくのを感じる。

最期、うっすらと、カイの手の隙間から見えた世界は。

赤々とした夕日に照らされて、ぼろぼろと、崩れ落ちていく世界だった。


その崩落に、飲み込まれる。

しずかな、しずかな、世界の終わりで。

つよく自分を抱きしめる、相手の腕を感じながら。


1週間と5分前に造られた世界とともに、心中する。


どこかで、声がした。

「素晴らしい!素晴らしい精神性ですねえ」

「自分と大切な他人のためなら世界の全てを犠牲にする愛!」

「これを身勝手と言わずなんといいましょうか」

「まぁ、良いでしょう。あなたたちの勇気と、その身勝手さに免じて、今回は見逃してあげますよ」

「……別の誰かは犠牲になるのですがね」

そう嘲り笑う声が、暗闇の中で聞こえた。

それは、占い師と名乗った男の声に似ていた。



目を覚ます。

今日は月曜日。11月13日の、月曜日だ。

なんだか、怖い夢を見た気がする。

世界を終わらせるような、身勝手な夢だった気がする。


いつも通りに目を覚まし、ご飯を食べ、登校するために外に出ると、そこにはカイの姿があった。


「おはよ」

「約束、守れたみたいだ」

そう言って笑いながら手を差し出すカイの手には、あの夢の中で買ったブレスレットが光っていた。


自分の腕にも、ブレスレットがはまっている。
あれは、夢ではなかったのだ。


確かに自分は、どこかの世界を滅ぼしたのだ。
そんな、罪の証が、手首に光っていた。


しかし、その罪は。
目の前の人間を、世界よりも大切だと思った、愛の証なのだろう。

生きているという罪よりもなお重い、身勝手で傲慢で、されど美しい人間特有の、愛という罪の証が。

私と彼の、腕にあった。


今日も私の世界は、生きている。

テレビのニュースで、誰かが不可解な死を遂げたというニュースが流れていた。


私の代わりに。

目の前の、大切な人の代わりに。

それでも、私とカイは、生きている。

私の世界の滅亡は、まだ当分、先らしい。


おわり




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