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[96] テアカ話
神酒 - 2018年04月16日 (月) 17時21分

彼を救えるのならば私は何だってやってみせる

そう思い始め、行動を起こしたはいいが時間は待ってくれないまま10年の月日が経ってしまった。

彼は目覚めない。

彼に手をかけようかと思った時もあった。

結果は見ての通り、できなかった。
出会った時からずっと私を守ろうとしてくれた彼に手をかけるなんて、できなかった。

現代の医学では彼を救えない。
藁にもすがる思いで今まで散々巻き込まれた怪奇現象を調べつつ、魔術とやらにも手を出した。

その内、自分を魔術師と名乗る男に会った。
私は驚いた。彼に、テアさんにそっくりだったのだ。

魔術師に色々聞けば聞く程、彼にそっくりだった。
生き写しかと思ったくらいだ。

しかし、いくら魔術師が彼にそっくりでも私の知る彼はベッドで眠り続けている。
魔術師も私とは初対面で彼のことは分からない、知らないと言った。

だけどこれも何かの縁だろうと思い、魔術師に彼を救う方法を尋ねた。

覚悟はしていた。

何もかも捨てることになる、と言われた。

覚悟はできた。

「構いません、私は、彼と共に生きていたいのです」

彼にそっくりな魔術師は私の言葉に深く頷いた。

あの時の歌を、私は忘れはしないだろう。


子供の頃に夢見ていた魔法使いはとてもキラキラしていた。
しかし、実際に魔術師になってみたらそんなにキラキラしたものではなかった。
子供の頃の自分が知ったら悲しむんだろうな、なんて思いながら。

それから少し、いや、大分、経ったのだろうか。
時間の感覚がない。

師匠が、亡くなった。


そういえば


私は何を思って、何を願って、


魔術師になったのだろう?

そんな事を考えながら今日も誰かもわからない誰かの墓を掘る。
今日は師匠の墓も掘らなくては、と考えていた。

『もしも魔法が使えたならば』


大丈夫、今度は私が守るから。




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