| [105] テアアカ 創作 |
- 榊 菜都 - 2018年05月04日 (金) 22時59分
テアアカ
『ひまわりの花言葉』
「出掛けよう。」
そう彼が言ったことに、驚きつつも喜んで返事をしたのが今朝の事。 茜は流れていく景色を、心地よい振動と共に眺めていた。 ガタン、ゴトン、と体を揺らす電車の振動は、わくわくとした気分を否応なしに刺激する。 そもそも彼とこうして遠出するということ自体、片手の数で収まってしまうくらい珍しいことなのだ。 しかも彼の方から誘ってもらえるだなんて! その時の嬉しさを思い返して思わず笑みを浮かべると、横に座った彼が微かに笑ったのが分かった。
「そう言えば…、テアさん行きたい場所ってどこなんですか?」
行きたい場所がある。とは言われたが、厳密な場所を聞いていなかったことに気付き、そう尋ねる。
「…着いてからの楽しみにしたいから、まだ秘密だ。」
外に出る際に被るフードの奥から、いつもより少し愉快そうな瞳がのぞく。 そんな姿も珍しくて、ますます嬉しくなって「楽しみです!」と返事を帰した。
…どれくらい電車に揺られていただろうか。 ある駅で彼が立ち上がり、そこが降りる駅だと分かる。 場所は駅からさほど遠くないのかそのまま徒歩で向かうことになった。 周りには建物も少なく、随分と人の少ない場所のようだ。 しかしそのためか、彼がフードを取って顔を見ながら手をつないで歩くことができたのは、思いがけない幸運だと思った。 そうして歩いてしばらく、不意に開けた場所に出た。 急な光に咄嗟に目を閉じて、自分を呼ぶ彼の声におそるおそる目を開ける。
「……! うわぁあ…ッ!!!」
そこには、一面に広がるひまわり畑が広がっていた。
「すごい!すごい!!とっても綺麗ですね!テアさん!」
嬉しそうに笑い、ひまわり畑に駆け寄る彼女の姿を見つめる。 この場所の事を知ったのは単なる偶然だった。 彼女が席を外していた際にテレビで流れたニュースの一幕。ところどころにあるというひまわり畑の情報の中に、程近い場所の名前を見つけた時にこの外出を決めていた。
普段は自分の異常性ゆえに、彼女と外出すること自体が少ない。自分自身、外に出るという行為自体を心のどこかで疎んでいる。 しかし、この場所の事を知った瞬間、彼女とここに来たいと強烈に思ったのだ。 自分のそんな心情に戸惑いながらも、彼女に外出を提案し、こうしてここまで遠出してきたのだった。
(あぁ、でも)
来てよかった、とテアは息を吐く。 外出を提案した時の嬉しそうな顔、道中の高揚した様子、そして今のはしゃぐ姿に安堵する。 自分が彼女に不自由を強いていることは分かっていた。 普通の恋人たちが普通にできるであろうことを、自分は彼女に与えることが難しい。 それでも、難しいだけで不可能ではないのだと思うことができた。 それだけでも、ここに来た意味はあったと思える。
(そしてできることなら、ここのひまわりを花束にして渡したいと思ったんだ。)
「テアさ―――――――ん!!!」
彼女が明るい日差しの下、大地に咲く太陽に囲まれて笑っている。 そうして自分を呼び、手を振る姿に自分も手を振り返す。
そんな当たり前のことが、どうしようもなく幸せだと思った。
ひまわりの花言葉 「あなただけを見つめる」
(999本のひまわりを、君に)

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