| [1001] インターネット道場―――体験実話特集・平岡初枝先生「子供を見つめて」より（１） |
- 信徒連合 - 2015年11月03日 (火) 08時36分
インターネット道場―――
体験実話特集
平岡初枝先生「子供を見つめて」より（１）
運命をきめるもの
「教育とは学校で習ったものを全部忘れて、その後に残ったもの」これは、有名な教育家ペスタロッチの言葉です。実に穿った言葉です。事実私達が「は」という文字一つ書くにしても、学校で習った「はな」の「は」を思い出して書いているのでもなければ、「はと」の「は」を思い出して書いているのでもありません。「はな」の「は」も「はと」の「は」も忘れてしまって、後に残っている「は」なのです。
同じように、私達の運命をつくるものも、家庭環境から受けたいろいろの影響や、学校環境、社会環境から受けたさまざまな影響も、その具体的な事実が残存するのではなく、それらの総べてが濾過され、それらのすべてが忘れられて、しかも尚その後に残ったものがその個性とからみつき、その個性に傾向を与え、その運命を決定する基盤になるのです。
それでは、その個性とからみつくものは何であるか、その個性に傾向を与えるものは何であるかということになり、ここに私達の究明しなければならない世界があるわけです。
後家のがんばり
＜ある未亡人の話＞
ある日私は六十を越したと思われる一婦人の訪問を受けました。憂いを帯びたこの婦人が、最初に言い出した言葉は、「私は未亡人であります」というのでした。
私は、初めは心の中で、６０を越しての未亡人ならたいしたことではないという気持でいました。しかし、聞いているうちに、未亡人になったのはもう２０年も前のことであること、その時には幼い子供が五人もいたこと、それに財産も無く大層困ったということ、それでも五人の子供だけは何としても一人前にしてやりたい、と歯を食いしばって育てて来たという、健気な婦人だったことが解りました。
未亡人は、言葉をついで、「ところが先生、この五人の子供は、学校にいた時は五人とも皆成績が良く、級長になったり、委員に選ばれたり、そうした点では心配をかけた子は一人も無かったのです。それが、どうしたことか五人とも、学校を出て一人前になってからは、皆運がわるいのです」と涙ぐまれたのです。
＜運の悪い子＞
どんなふうに運が悪いのかと思ったら、「上二人の娘の子は縁あって嫁いだのですが、二人とも不縁になって子供を一人ずつ連れて帰っています。長男は、胸を患って療養所生活をはじめてもう一年近くになるし、次男は、子供の頃に、子のない叔父の後継として貰われて行ったのですが、結婚問題からいざこざを起こし、今は家に帰っています。末の男の子は、或る会社につとめていますが、同僚と喧嘩をしたとか、辞めたい辞めたいと文句ばかり言っています。
学校へ行っていた時は、みんなよくできて、人からもほめられるし、私自身も苦労の中にも楽しみがあったのですが、一人前になってからは、皆がこんなに運が悪いのです。つい昨日、それを近所の奥さんに訴えましたら、『ああ今ちょうど、平岡先生が富山に帰っていられる。行って話を聞いて来なさい』と言われて参りました」ということだったのです。まことに気の毒な話でありますが、未亡人の場合には、こうしたケースが相当多いのではないかと思うのです。
＜学校の成績と運命＞
大体、私は学校の先生を２０年もしていて、最初に気づいたのは、この運ということでした。多くの子供を見ていると、学校の成績が、必ずしも社会に出てからの幸福の順位を現わさないということです。もっとはっきり言えば、学校では成績のよい子だったのに 世の中へ出てからは気の毒なほど運の悪い人もあれば、学校では気の毒なほど、できの悪い子だったのに 案外幸福な生活をしている人もいるということです。
私は、この運ということについては時々考えさせられたものです。成績プラスα……この α の正体を掴むことができたら、人間は自己の人生を支配できるはずだがなあ、とよく考えたものです。
しかし、運というものは、何となく人間には不可抗力の世界にあるもののように思われ、世の教育者たちも深くその点に思いを致すことをしなかったのではないでしょうか。つまり、運というものは宿命的なもので、人力ではどうにもならないもののように、今も多くの人はそう思っているのです。
＜運命をつくる鍵＞
しかし、私は幸いにして生長の家の教えにふれ、精神科学を知り、心の法則がはっきりしてくるとともに、この不可抗力のように思われていた人間の運命も、実は、自分の心の中でつくり出した、人生の絵巻物だったということが、はっきり分ってきたのです。
運命をつくる鍵は、遠い未知の世界、不可抗力の世界にあったのではなく、自分の心の中にあったのだと分ったのです。それはそうでしょう。物質科学の進歩は、人工衛星の打ちあげに成功して、今や宇宙時代だとさえ呼ばれているのに、精神科学では、未だに人間の運命を決定するものが何であるかが分らないなどというはずはないわけです。
これから、私がとりあげる各種の問題の解明は、もっぱら精神科学を基礎にした、心の法則に従って説かせて貰うわけになるのです。そうした観点から、前述の未亡人に対しても、私は次のような助言を与えました。
＜お父さんがいないから＞
「女手１つで苦労に苦労を重ねて育てた子が、学校ではよくできたのに、一人前になってからは、みんな運が悪い。これは、お母さんにとってどんなに切ないことだろうと同情に堪えません。しかし、それというのも、これまで人間の心の動き、すなわち心の法則ということについての勉強が足りなかったためなのです。
はっきりいうと、あなたが歯をくいしばって育てたという、その言葉の中に原因があるようにさえ思えるのです。本来ならば、未亡人が歯を食いしばって五人の子供を立派に育てたということは、まことにも健気な行為であり、世が世なら大臣賞にも知事賞にも値するはずなのに、それを運の悪い子に育つ原因のようにいわれたのでは、あなたにしたら、浮ぶ瀬がないでしょうとは思います。
でも、歯を食いしばって育てたといわれる言葉の中から、あなたが時々子供たちに与えられたであろう言葉や表情がおもいやられて、私は辛いのです。あなたは、子供たちが何か買って欲しいとか、或いは遠足に行きたいとか言ったとき『お父さんもいないのに……』というような言葉をお使いになったことがありませんでしたか？」
未亡人は、素直に答えられた。
「そればっかり言って来ました」
「それなんです！ その言葉、その表情が、子供たちを暗い運命に追いやったのです。
『僕らは不運だ、お父さんがいないのだ』
『私たちは哀れなものだ、お父さんがいないのだ』
あなたの歯を食いしばって言う言葉や表情が、子供たちの心の底に深く深く、不運、不幸を植えつけたのです。精神科学では、この心の底深く植えつけられたものが、その子の運命となって現象界に現われてくるのだということを証明しているのです。
これは、子供たちの運命だけではなく、あなたの運命も同じことです。主人は死んだ。だから私は不幸だ、不運だと、あなたは心の底に深く深くおもいつめていられる。人間は、そう思いつめろと、何を見ても何をきいても面白くなくなって、明るい表情にも、朗らかな心にも、縁遠くなってしまうのです。
その面白くない雰囲気の中に明け暮れる子供の心も、本当に可哀そうなものだとお思いになりませんか。夫はなくなったけれど、子供が五人もいてくれる。級長になったり、委員になったり、何と結構な子供を授けていただいたことであろう、ああ、ありがたい……こんな気持もあっていいではありませんか。
そのような言葉や表情で、親子が睦みあってごらんなさい。そうして、お父さんは霊界で守っていて下さる。学校でいただいてきた成績表を、お父さんの前にそなえて喜んでもらいましょう。
こうした明るい雰囲気を家中にただよわしたら、物はなくとも、金はなくとも、親も子も幸福を感じあえるようになり、心のドン底にうれしい幸福感をもてるようになるのです。
この心の底にうれしいもの、明るいものを掴むことができた時、それが子供の運命を明るいもの、幸福なものへと導いて行くのです」
こんな話をしている間に、未亡人は、しみじみと涙を流して、うなずいて下さいました。
私は、さらに彼女たちの今後の運命を明るくするためには、 現在の生活の中から喜ばしいもの、うれしいものを見出すこと、愛と感謝を表現すること、よい言葉、明るい表情などで、家庭の雰囲気をかえることなどについて具体的に助言しましたが、ここでは、ただ人間の運命というものは、各自の心の底深く沈澱している心のおもいであることを指摘し、わかっていただきたいと思うのです。
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